1 / 24
第一章 誰が駒鳥を隠したか
【001】夜明け色の魔女
しおりを挟む
魔女とは、魔法という奇跡を扱う者である。
聖女とは、奇跡という魔法を扱う者である。
その力は強大で、その力は不可思議だ。
だから愛し子たちは、神から授かったその力を、嘘に用いてはならない。
『――確かにそう。魔女は魔法で嘘を吐いてはいけない。でもね、悪いんだけど……あたし、嘘つきなの』
夜明け色の嘘つき魔女は、そう言って世界に嘘を吐く。
◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■
大きくも小さくもない、どこにでもありそうな農村から伸びる森の小道を進むと、青空が広く見えるぽっかりとひらけた空間に辿り着く。そこには、多種多様な薬草とこの地域で一般的に食べられている野菜の育つ庭があり、中央付近には木と石で組まれた何の変哲もない家が建っていた。
――ガコッ。
そんな何の変哲もない家の、食材であふれた薄暗いパントリーに陣取り、床に置かれた大きな木箱を開けた女がひとり。
女は夕焼けのような赤い髪と、夜から朝に移り変わる間の夜明け色――あえて宝石で例えるのならばアメトリン――の瞳を持っていた。
華奢な身体を覆うのは真っ黒で簡素なワンピースで、それには生成りの麻糸で編まれたクロッシェ・レースがいくつか縫い付けられている。そこに真っ黒な三角帽子を被ったのなら、おとぎ話や児童小説に出てきそうな、年頃の見習い魔女といった雰囲気になるだろう。
「うー……」
肩までのストレートヘアを片手で弄りながら整った顔をしかめ、狭いパントリーの天井に唸り声が届く。
ここが街であるのなら、今は昼の十一回目の鐘がなるであろう頃。高くなる太陽に焦りつつ、来客をもてなすための昼食メニューに頭を悩ませているのだ。
パントリーを出た先のダイニングテーブルの上には、一通の手紙。それは五日前に届いた訪問の伺いで、記された宛名は「魔女カサンドラ」。
最近になって庶民層にも出回り始めた植物紙を用いた手紙は、近隣の町にある役場から届いたものである。
公的な組織に所属していない魔女は、居住する地の管理者から、状況確認の人員が定期的に送られてくる。固く言うのなら監査官だが、実態はただの御機嫌伺いだったり御用聞きだったり。魔女の意思を尊重し、希望に寄り添った快適さを提供することによって、魔女が土地を離れることを抑止する、国主や領主による努力の賜物だ。
そもそも魔女とは、不思議な色の瞳を持ち、常人の持ちえぬ魔法の力をふるう女――稀に男――のことを指す。
奇跡は魔女によって様々で、過去や未来を覗く者がいれば、神の声を聞く者もいる。
ちなみに、宗教組織――周辺国一帯で国教として扱われているため、単に神殿と呼ぶことが多い――に所属する魔女は聖女と呼ばれるが、存在としてはまったく同じものである。
元々、魔法という奇跡の力をふるう女たちのことは全員が聖女と呼ばれていた。しかし百年以上の昔、神殿が所属する聖女を信者に特別視させるため、神殿に関わりのない聖女を魔女と呼ばせることにしたのが始まりだ。
それと同時に、奇跡の独占を目論んだ神殿は在野の魔女を異端に認定し、積極的に信者に迫害させた。後に魔女狩りと呼ばれるようになった悲劇である。
神殿による迫害に激しく抗った先達の魔女たちと、そんな魔女たちの祈りを聴き届けた神により、結果的に魔女の地位が劇的に向上することになったのだった。
愛し子である魔女の意思を尊重するべし、と神は言った。
同時に、魔女は人の秩序に寄り添うべし、と神は言った。
神殿を嫌った魔女たちは、神殿から見た異端の証――魔女と言う呼び名を誇りとした。
だから神殿に所属していれば聖女で、そうでなければ魔女という括りは、魔女狩りの歴史を風化させないためにも残されているのだという。
今の世を生きる、夜明け色の瞳を持つ若き魔女――カサンドラはその恩恵を存分に受け、人心を脅かさないように心がけている。
そういった経緯で定期的に訪れる担当監査官は、今は町で孫と暮らす魔女の師が、この森の家に住んでいた頃からの付き合いである。その当時から監査に来るというよりは、祖母の親戚が遊びに来るような感覚で迎えていた。
そんな身近な感覚の客とはいえ、魔女として迎えるのに雑なものを出すのはプライドが許さない。ひとりの時は作りおきの野菜スープとチーズ、保存の利く堅い黒パンという定番メニューで済ませているからこそ。
だがしかし、前もって白パンを焼いておくのをうっかり忘れてしまっていたので、やわらかいパンを出せないのが現実なのである。村のパン焼き日はちょうど昨日だったというのに、実に惜しいことをした。焼いたばかりの黒パンをサンドイッチに使っても良いかもしれないが――魔女のもてなしとしては物足りない。
「うーん、ピタパンならフライパンですぐに焼けるから、ピタパンサンドにしようかな……そのぶん中身を奮発してー……」
――ガコン。
木箱からいくつかの食料を取り出してからしっかりと蓋を閉め、木箱の四隅に「イス」の魔術文字が青色に淡く光っていることを確認する。ついでに棚からピクルスの瓶を回収し、カサンドラはパントリーを後にした。
発酵をじっくりと待つ時間が無いため、種なしの配合で小麦を捏ね、濡れ布巾を掛けて少し寝かせる。
その間に、外のプランターから香草と野菜を収穫し、水で洗浄しておく。水を切り、摘んできた香草――バジルに付着している水気を布巾で軽く拭いながら、誰に聞かせる予定のない言葉が零れ落ちた。
「せっかくピタサンドにするのなら、辛いソースでケバブサンドぽくしたいのに……そもそもベーコンが具材でケバブもなにもないけど。あー、唐辛子とかトマトとか欲しいー」
この周辺地域で一般的に知られていない植物を懐かしむカサンドラには、日本で二十年生きていた女の記憶がある。
その女の名は「笠渡恵麻」。
恵麻は相談女にひっかかって浮気をした恋人の腹を全力で殴り、その足でバイト先に向かっていたごく普通の大学生だった。
日本で過ごしていた頃の最後の記憶は、自動車の急ブレーキ音で終わっている。つまりは、ハンドル操作を誤った車に轢かれて、そのまま死んだらしい。
不孝をしてしまい、親には申し訳ないと思っている。しかし、その感情に長々と浸り続けるのが難しい程度には、既に短くない時間が過ぎていた。
恵麻の知る限り、この世界に転生したのは十年前。
死んだ女の意識は、当時十歳の少女であった「エマ」の身体にひっかかり、その中で五年ほどを夢現の狭間で過ごした。そして五年前、十五歳になったエマの心はとある事件によって粉々に砕かれ、身体の主導権を恵麻に渡して目覚めぬ眠りについた。
恵麻は、エマの心を壊した状況から逃れるために、エマの名を隠すことにした。同時に、同じ響きを持つ恵麻という名も。
だからそれ以来、恵麻は自らの名もエマの名も心の奥底に沈めたまま、「カサンドラ」として生きている。
聖女とは、奇跡という魔法を扱う者である。
その力は強大で、その力は不可思議だ。
だから愛し子たちは、神から授かったその力を、嘘に用いてはならない。
『――確かにそう。魔女は魔法で嘘を吐いてはいけない。でもね、悪いんだけど……あたし、嘘つきなの』
夜明け色の嘘つき魔女は、そう言って世界に嘘を吐く。
◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■
大きくも小さくもない、どこにでもありそうな農村から伸びる森の小道を進むと、青空が広く見えるぽっかりとひらけた空間に辿り着く。そこには、多種多様な薬草とこの地域で一般的に食べられている野菜の育つ庭があり、中央付近には木と石で組まれた何の変哲もない家が建っていた。
――ガコッ。
そんな何の変哲もない家の、食材であふれた薄暗いパントリーに陣取り、床に置かれた大きな木箱を開けた女がひとり。
女は夕焼けのような赤い髪と、夜から朝に移り変わる間の夜明け色――あえて宝石で例えるのならばアメトリン――の瞳を持っていた。
華奢な身体を覆うのは真っ黒で簡素なワンピースで、それには生成りの麻糸で編まれたクロッシェ・レースがいくつか縫い付けられている。そこに真っ黒な三角帽子を被ったのなら、おとぎ話や児童小説に出てきそうな、年頃の見習い魔女といった雰囲気になるだろう。
「うー……」
肩までのストレートヘアを片手で弄りながら整った顔をしかめ、狭いパントリーの天井に唸り声が届く。
ここが街であるのなら、今は昼の十一回目の鐘がなるであろう頃。高くなる太陽に焦りつつ、来客をもてなすための昼食メニューに頭を悩ませているのだ。
パントリーを出た先のダイニングテーブルの上には、一通の手紙。それは五日前に届いた訪問の伺いで、記された宛名は「魔女カサンドラ」。
最近になって庶民層にも出回り始めた植物紙を用いた手紙は、近隣の町にある役場から届いたものである。
公的な組織に所属していない魔女は、居住する地の管理者から、状況確認の人員が定期的に送られてくる。固く言うのなら監査官だが、実態はただの御機嫌伺いだったり御用聞きだったり。魔女の意思を尊重し、希望に寄り添った快適さを提供することによって、魔女が土地を離れることを抑止する、国主や領主による努力の賜物だ。
そもそも魔女とは、不思議な色の瞳を持ち、常人の持ちえぬ魔法の力をふるう女――稀に男――のことを指す。
奇跡は魔女によって様々で、過去や未来を覗く者がいれば、神の声を聞く者もいる。
ちなみに、宗教組織――周辺国一帯で国教として扱われているため、単に神殿と呼ぶことが多い――に所属する魔女は聖女と呼ばれるが、存在としてはまったく同じものである。
元々、魔法という奇跡の力をふるう女たちのことは全員が聖女と呼ばれていた。しかし百年以上の昔、神殿が所属する聖女を信者に特別視させるため、神殿に関わりのない聖女を魔女と呼ばせることにしたのが始まりだ。
それと同時に、奇跡の独占を目論んだ神殿は在野の魔女を異端に認定し、積極的に信者に迫害させた。後に魔女狩りと呼ばれるようになった悲劇である。
神殿による迫害に激しく抗った先達の魔女たちと、そんな魔女たちの祈りを聴き届けた神により、結果的に魔女の地位が劇的に向上することになったのだった。
愛し子である魔女の意思を尊重するべし、と神は言った。
同時に、魔女は人の秩序に寄り添うべし、と神は言った。
神殿を嫌った魔女たちは、神殿から見た異端の証――魔女と言う呼び名を誇りとした。
だから神殿に所属していれば聖女で、そうでなければ魔女という括りは、魔女狩りの歴史を風化させないためにも残されているのだという。
今の世を生きる、夜明け色の瞳を持つ若き魔女――カサンドラはその恩恵を存分に受け、人心を脅かさないように心がけている。
そういった経緯で定期的に訪れる担当監査官は、今は町で孫と暮らす魔女の師が、この森の家に住んでいた頃からの付き合いである。その当時から監査に来るというよりは、祖母の親戚が遊びに来るような感覚で迎えていた。
そんな身近な感覚の客とはいえ、魔女として迎えるのに雑なものを出すのはプライドが許さない。ひとりの時は作りおきの野菜スープとチーズ、保存の利く堅い黒パンという定番メニューで済ませているからこそ。
だがしかし、前もって白パンを焼いておくのをうっかり忘れてしまっていたので、やわらかいパンを出せないのが現実なのである。村のパン焼き日はちょうど昨日だったというのに、実に惜しいことをした。焼いたばかりの黒パンをサンドイッチに使っても良いかもしれないが――魔女のもてなしとしては物足りない。
「うーん、ピタパンならフライパンですぐに焼けるから、ピタパンサンドにしようかな……そのぶん中身を奮発してー……」
――ガコン。
木箱からいくつかの食料を取り出してからしっかりと蓋を閉め、木箱の四隅に「イス」の魔術文字が青色に淡く光っていることを確認する。ついでに棚からピクルスの瓶を回収し、カサンドラはパントリーを後にした。
発酵をじっくりと待つ時間が無いため、種なしの配合で小麦を捏ね、濡れ布巾を掛けて少し寝かせる。
その間に、外のプランターから香草と野菜を収穫し、水で洗浄しておく。水を切り、摘んできた香草――バジルに付着している水気を布巾で軽く拭いながら、誰に聞かせる予定のない言葉が零れ落ちた。
「せっかくピタサンドにするのなら、辛いソースでケバブサンドぽくしたいのに……そもそもベーコンが具材でケバブもなにもないけど。あー、唐辛子とかトマトとか欲しいー」
この周辺地域で一般的に知られていない植物を懐かしむカサンドラには、日本で二十年生きていた女の記憶がある。
その女の名は「笠渡恵麻」。
恵麻は相談女にひっかかって浮気をした恋人の腹を全力で殴り、その足でバイト先に向かっていたごく普通の大学生だった。
日本で過ごしていた頃の最後の記憶は、自動車の急ブレーキ音で終わっている。つまりは、ハンドル操作を誤った車に轢かれて、そのまま死んだらしい。
不孝をしてしまい、親には申し訳ないと思っている。しかし、その感情に長々と浸り続けるのが難しい程度には、既に短くない時間が過ぎていた。
恵麻の知る限り、この世界に転生したのは十年前。
死んだ女の意識は、当時十歳の少女であった「エマ」の身体にひっかかり、その中で五年ほどを夢現の狭間で過ごした。そして五年前、十五歳になったエマの心はとある事件によって粉々に砕かれ、身体の主導権を恵麻に渡して目覚めぬ眠りについた。
恵麻は、エマの心を壊した状況から逃れるために、エマの名を隠すことにした。同時に、同じ響きを持つ恵麻という名も。
だからそれ以来、恵麻は自らの名もエマの名も心の奥底に沈めたまま、「カサンドラ」として生きている。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)
miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます)
ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。
ここは、どうやら転生後の人生。
私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。
有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。
でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。
“前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。
そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。
ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。
高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。
大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。
という、少々…長いお話です。
鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…?
※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。
※ストーリーの進度は遅めかと思われます。
※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。
公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。
※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中)
※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)
悪役令嬢は死んで生き返ってついでに中身も入れ替えました
蒼黒せい
恋愛
侯爵令嬢ミリアはその性格の悪さと家の権威散らし、散財から学園内では大層嫌われていた。しかし、突如不治の病にかかった彼女は5年という長い年月苦しみ続け、そして治療の甲斐もなく亡くなってしまう。しかし、直後に彼女は息を吹き返す。病を克服して。
だが、その中身は全くの別人であった。かつて『日本人』として生きていた女性は、異世界という新たな世界で二度目の生を謳歌する… ※同名アカウントでなろう・カクヨムにも投稿しています
もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。
勝手にしろと言われたので、勝手にさせていただきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
子爵家の私は自分よりも身分の高い婚約者に、いつもいいように顎でこき使われていた。ある日、突然婚約者に呼び出されて一方的に婚約破棄を告げられてしまう。二人の婚約は家同士が決めたこと。当然受け入れられるはずもないので拒絶すると「婚約破棄は絶対する。後のことなどしるものか。お前の方で勝手にしろ」と言い切られてしまう。
いいでしょう……そこまで言うのなら、勝手にさせていただきます。
ただし、後のことはどうなっても知りませんよ?
* 他サイトでも投稿
* ショートショートです。あっさり終わります
『影の夫人とガラスの花嫁』
柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、
結婚初日から気づいていた。
夫は優しい。
礼儀正しく、決して冷たくはない。
けれど──どこか遠い。
夜会で向けられる微笑みの奥には、
亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。
社交界は囁く。
「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」
「後妻は所詮、影の夫人よ」
その言葉に胸が痛む。
けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。
──これは政略婚。
愛を求めてはいけない、と。
そんなある日、彼女はカルロスの書斎で
“あり得ない手紙”を見つけてしまう。
『愛しいカルロスへ。
私は必ずあなたのもとへ戻るわ。
エリザベラ』
……前妻は、本当に死んだのだろうか?
噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。
揺れ動く心のまま、シャルロットは
“ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。
しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、
カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。
「影なんて、最初からいない。
見ていたのは……ずっと君だけだった」
消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫──
すべての謎が解けたとき、
影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。
切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。
愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる
可愛らしい人
はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」
「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」
「それにあいつはひとりで生きていけるから」
女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。
けれど、
「エレナ嬢」
「なんでしょうか?」
「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」
その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。
「……いいえ」
当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。
「よければ僕と一緒に行きませんか?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる