自分を「悪役令嬢」だと言い出して特待生をいじめ始めた婚約者を持つ王太子のぼやき

雀40

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 些細なことでも情報が欲しいと、隣国の前国王について尋ねるために、シャルベリーンの母親が王城に招かれた。
 しかし、書記官が記録を残す公的な場だというのに、彼女は「お前らのせいだ」と自らの父親が邪悪に染まったことを責め立ててくるのだ。
 
 緊急事態にも関わらず、品無く喚き続ける女性に誰もがうんざりとした表情を隠せず、主張に内容もないのでその場はすぐに散会した。
 あの逆恨みの根深さを考えれば、隣国の前国王が魔王とならなかったら、我が国の公爵夫人が魔王になっていたかもしれない。由々しき事態だ。
 
 王侯貴族とは、貴き奴隷である――私は父からそう教わっている。
 支配するのは秩序のため。誰よりも着飾るのは豊かさを示して標となるため。
 もちろん、そんなものは綺麗事だというのもわかっている。貧民街はどこにでも形成され、税を搾り取りたい貴族は法の隙間をついてくる。いたちごっこだ。
 
 つまり、いくら王が崇高な理念を掲げようとも、我が国とて決して健全ではない。しかし、度重なる内政の失敗によって膨れ上がった民の不満を誤魔化すため、その不満の矛先を他国へ向けるなんてことは論外で……それをやらかしたのが、かつての隣国である。

 隣国の現国王は、前国王に疎まれて早々に臣籍に降り、若くして隠居状態だった前国王の弟だ。彼は側室の子であり、王族らしさを履き違えた傲慢な異母兄姉を反面教師にして育ったらしい。優秀だが争いを好まない堅実な人物である。
 自分は王の座を蹴り落とされたのに、早々に追い落としたはずの優秀な異母弟がその椅子に座っている。前国王の不満の根は、そのあたりだろうか。
 
 とはいえ、憶測でしかない理由を考えたところでどうしようもない。
 王が王であることを忘れた末路は、邪悪の権化たる魔王として討たれる――そんな結末だけが重要なのだ。
 そして、その結末をもたらすために鍵となるのが、光の神子であるエリだ。なんという、やるせない話か。
 
 招集されたエリは、一連の話を凪いだ瞳で聞いていた。

 神は、何故こんな試練を、この華奢な少女に課すというのか。
 エリは、平民として生きてきた娘だ。私やシャルベリーンと違い、自分や家族のことだけを考えていればよかったのだ。だというのに、どうして急に世界なんて大きなものの命運を託されてしまったのか。
 しかし、エリだからこそ光の神子が務まるのだとも納得している。謁見の間に立つエリは、焦ることなく、怒ることなく……喜ぶこともなく、ただ静かに口を結んでいた。その清廉な気配が、エリを神子として相応しく見せてくる。

 光の神子が現れてより着実に進めていた魔王討伐隊の準備はすぐに整い、エリは彼らと共に隣国へ出立した。
 当然のことながら、私やシャルベリーンは同行できない。その代わりというわけでもないが、信頼がおける私の護衛のひとりを捩じ込んだ。さらに、エリの助けになりたいと希望する騎士科の生徒が、数人ほど特例で選出された。
 この道行きで何よりも心配だったのは、エリの心だ。あらゆる教育がエリに詰め込まれ、エリ自身も神より与えられた役割を受け入れているように見えるが……その奥底にある繊細な心が耐えられるだろうか。そんなエリの心を、歳の近い彼らに支えてもらいたい。
 
 邪悪が撒き散らす魔は、生き物を侵して変質させる。人間とて例外ではなく、変質したそれらを媒介に魔が感染していく。そして、変質した生物は凶暴になり周囲を襲う。そんな魔に侵された凶暴なモノが社会に紛れ込み、人心は不安で荒れていく。
 元人間である魔王そのものの相手に加え、怯える民の心が光の神子の存在という希望によってなんとか保たれているという現実がある。救いを求める彼らの行き過ぎた感情によって、エリの心身が害されなければ良いのだが――――。
 
 私とシャルベリーンがエリたちの無事を祈り、吉報を待ち続けること数カ月……やがて、魔王討伐の一報が届く。



 ――光の神子エリが、魔王をその聖なる拳で魔を祓い、正気に戻した……らしい。



「…………………………………………えええ……?」

 私とシャルベリーンはふたりそろって、急使がもたらした報告を飲み込むのに長い時間を必要とした。
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