大切な人

竹田勇人

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第7話 暑い夏の前、熱い君の横

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あの日のちょっと甘酸っぱい屋上での記憶が遠くへ霞むくらい楽しくで充実した日々が続いていた。気がつけば僕の手元には夏休みのしおりが配られている。高校生にもなってこんなものと思うのだが、やっぱり先生としては心配なのだろう。しかし、その内容は繁華街へ行かないとか夜中歩かないとかではない。島の中心の山には入らない。嵐の日に港へ行かない。船市での浪費に気をつける。とかとか…だいぶ特徴的である。それもそのはず、船で本州にでも行かない限り繁華街のないこの島にそんな注意は二の次である。この島で恐ろしいのは人より自然。そもそも、島で1番人の多い場所が公民館のこの街で人がいることはむしろ安心この上ない。そして、そう言いつつも高校生ともなれば結構本州に行く人も多いのである。こういう小さな地域に退屈を覚える時期の人として当然の考えなのかもしれない。学校の外に出るとジリジリと照りつける太陽が異様な存在感を放っていた。僕は上総と室岡と一緒に帰り道を歩いていた。この時期になると海の香りが強くなってくる。僕らはこの匂いがすると夏を感じるのである。
「もうすぐ夏休みだね!」
上総は僕の腕に自分の腕を回して笑いかけた。上総は最近どんどん女の子っぽくなっていて、髪から香る甘い芳香や柔らかくてすべすべの肌を体に密着されると僕としても顔が赤くなってしまうのは当然なのである。
「お前ら相変わらず暑苦しいまでのラブラブ加減だな。」
「当たり前じゃん!だってやっと付き合えたんだもん!ずっと好きだったんだし…//」「お、おい…そういうの…//」
「…自分で言って赤くなるなよ。」
「だってだって、しょうがないよ!」
「お前らさ、夏休みどうすんの?」
「ん~どうしようかな?」
「僕はどっか行きたいかな。本州に出るとか。」
「あっ!それ楽しそう!」
「いいけど、どうすんの?俺らは邪魔しないでおこうか?」
「え…そ、それは…//」
「赤くなるな。」
僕は上総のおでこを軽くデコピンした。
「あぁ!ひどいひどい!デコピンした!」
「上総が変な想像するのが悪い。」
「そんなことないもん!変な想像なんて…//」
「…はぁ。まぁいいや、どうせ行くっつったって海だろ?水着とか、買っておいたほうがいいんじゃねぇの?」
「あ!そうだね!ねぇねぇ、一緒に行こうよ!」
「俺パス。めんどいし、水着あるから。」
「えぇ~じゃあひなちゃん誘おっと。」
1人で盛り上がってる上総を尻目に室岡が僕に話しかける。
「お前の彼女、2人っきりになるつもりはねぇみたいだけど、いいのか?」
「いいんだよ。僕の気持ちより上総の気持ちのほうが大事だし。正直僕も、まだ2人っきりで普通にしていられる自信はないんだ。」
「それは…襲っちまうって話?」
「…まぁ、それもあるかな。」
「…あいつは別に拒まねぇと思うけど?」
「そうかもしれないけど、やっぱりそういうのは…」
「…ま、ゆっくりやれば。どうせ今までだってたっぷりすぎるくらいゆっくりやってきたんだから。」
「うん、そうするよ。やっとというか、今の状態がもう少し楽しめたらいいかな。まだ初々しい感じがさ。」
「まぁでも、変わったんじゃねぇの。お前もしっかりした感じはするし、あいつだって…」
「大貴…」
大貴は少し遠くに寂しそうな視線を向けた。
「とにかく、一応は付き合い始めて初めての夏だろ?何にもなかったじゃしまらねぇから、ちゃんとリードしてやれ。今のお前ならできるだろ。」
「…うん。頑張るよ。ありがとう。僕、ちゃんと室岡が認めるような彼氏になるからさ。」
「…うるせぇ。俺は関係ねぇだろ。早くいかねぇと、あいつフラフラどっかいっちまうぞ。」
僕は室岡に背を向けて上総の背中を追った。室岡は1人で海風の抜ける街道に立っていた。
「やっぱり、あんたいいヤツじゃん。」
室岡の背中に微笑みかける。
「うるせぇ…したくてやったわけじゃねぇよ。」
「でも、勝くんも気がついたみたいね。君の気持ちに。」
「…わざわざ人の傷口に塩を塗りにきたのか?俺はキッカケ作ったんだから。あとはちゃんとサポートしてやれよ。2人揃って奥手なんだから。」
「…そうかな。勝くんはわからないけど。かずちゃんは勝くんのことになるとそうでもないかもよ。今日だって自然に体の距離近づけたくらいだし。」
「相変わらず覗きの趣味は健在か。」
「人のこと言えないでしょ?」
「…知らね。じゃあな」
室岡はひらひらと手を振ると家へ向かって歩き始めた。赤崎はその後ろ姿を眺めながら小さく囁く。
「まぁ、そんなところも…ね。」
赤崎は駈け出すと室岡の背中を叩いた。
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