大切な人

竹田勇人

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第9話 2人の二重奏、2組の四重奏

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お昼頃になり、水着を買った僕と上総は近くのカフェに入っていた。
「勝、今日は、ありがとね。」
「ううん、僕も楽しいよ、ありがとう。」
「…夏休みさ、楽しみだね。」
「そうだなぁ、海もだけど、縁日とかも行きたいな。今年はさ、二人で行かない?神社の縁日。」
「うん!いいね!…お、お祭りデートって…いうのかな。」
「そ、そうだな…お祭りデートだな。」
「…ふふっ、なんか、嬉しいなぁ。勝がデートって言ってくれるの。」
「ど、どういう意味だよ。」
「だって、今までずっとただのお出かけだったじゃん?」
「言い方が変わっただけだろ?」
「それだけでもおっきなことだよ。だって…こ、恋人同士って、ことでしょ?」
「ま、まぁ、そうだな…」
「…何だろうな、だらしないというか…しまりのないというか…お惚気全開な感じがスゲェ。」
「ねぇねぇ、このホットケーキ美味しくない?ほらほら、ちょっと食べてみてよ。」
「あのなぁ…あの二人の様子見に来たんだろ?」
「むぅ…いいでしょ?それだけじゃなくても、ほらほら、食べてみなって。」
比奈華は大貴の口元にフォークで刺したホットケーキを差し出した。
「ば、バカ…恥ずいことすんなよ。」
「もう、ノリ悪いなぁ~二人のマネだよ。」
「そういうこと言ってんじゃねぇだろ。大体、あいつらは付き合ってるけど俺らはそういうんじゃねぇしよ。」
「…そっか。そうだよね、私たちは…」
「お、おい…何だよ…」
一瞬だけ暗い顔をした比奈華はすぐにまた笑顔に戻った。
「何でもない!いいから、食べてみてって。」
比奈華は大げさに気丈に振る舞って大貴の口にホットケーキを押し込んだ。
「んぐっ!お前、無理やり押し込むなって…」
「大貴が食べないからいけないんだよ~」
「ま、まぁ、美味かったから、いいけどよ。」
大貴はほんのすこし顔を赤らめてコーヒーを一口飲んだ。
「見て見て!かずちゃんたち出て行くみたい。」
「おっと、はやく追うぞ!」
「お会計お願いね。」
「はっ!?ちょっ、お前が入りたいって言ったんだろ?おい!」
比奈華は勝手に一人で出て行ってしまった。
「ちっくしょ、調子のいい奴…」
「ありがとうございました~。」
とか言いつつ払った後に請求できない自分が少し恨めしい。
「もう帰るのかな。」
「そうじゃね?定期便の最終も近いし。」
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「で…なんで俺らはこんなとこ歩いてんだよ!」
「あ、あたしだって知らないわよ!二人のこと追っかけてたらこんなとこに来ちゃったんだから!」
周囲には所謂、そういうホテルが立ち並び、少し顔を赤らめたカップルが歩いている。そう、ホテル街…と言われる通りだ。
状況を説明すると、話は数分前に遡る。
「ねぇねぇ!私、裏道知ってるよ!」
「本当!?…それ、本当に平気?」
「あ~!信じてないなぁ?大丈夫だよ!こっちこっち!」
と、僕は上総に手を引かれて裏道に入ってしばらく歩いているうちに上総の顔がどんどん怪しくなり…今に至る。
「え、えーっと…迷った?」
「そそ、そんなことないよ。え、えーとー…そう!ここを曲がれば!」
曲がった小さな路地には猫が一匹、ポリバケツの上で睨んでいる。
「あ、あれぇ~??」
一方その頃、少し離れた大貴達も微妙な空気になっていた。
「ねぇ、まさか…そういうつもりで二人がここに来たってことは…」
「あるわけねぇだろ!あいつヘタレだぞ!それは断じてない!つか、様子を見るに多分、あいつが道知ってるとか言って裏道入って迷ったってとこじゃねぇの?」
「へぇ~、さすが、好きだった人のことはなんでもわかるんだね~?」
「う、うっせ!だ・ま・れ!」
「ね、ねぇ…勝、ここって…」
「と、とにかく。早く抜けよう。」
俺は上総の手をとって大通りのありそうな道に走った。
「ま、勝!?ちょっと待って!」
少し焦ってる上総を無視して走る。すると、2分ほどで大きな通りに戻った。
「よ、よかった…」
「もう、急に走り出すから…びっくりしたよ~。」
「ごめんごめん。」
「一瞬、その気になっちゃったのかと思った。」
「そ、そういうわけじゃ、ないよ。」
実を言うとあのまま一緒に歩いていたら少し危うかった…のは、誰にも内緒である。
「二人とも走って行っちゃった…どうしよう。」
「いや、まさかあいつがそんなに大胆だったとはな…」
「そういうことじゃないと思うけど…」
「真面目に突っ込まなくていい。まぁ、あいつらも行ったし、俺らも出て港行くか。」
「え!?出口わかるの!?」
「そこの路地から大通りが見える。」
「あんたよく見てるね。」
「お前が見てないだけ…あ、お前らか。」
比奈華少し残念なような、ホッとしたような不思議な気持ちでその通りを後にして港に向かった。
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