大切な人

竹田勇人

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第14話 2人と2人、1つと1つ

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昨日目一杯遊んでクタクタになって眠った。昨日の夜は比奈華と大貴の様子が少しおかしい気もしていたけど。
そして、翌朝。大貴と俺は普通に目を覚まして帰りの支度をしていた。
「あの二人のんきだよな。」
「いいんじゃない?きっと疲れたんだよ。」
「ま、そうかもな。」
「どしたの?やたら素直だけど。」
「別に。」
「…それにしても、なんか大貴と二人で話すこと多いな。」
「まぁ、どうもあの二人は自由にどっか行っちまう癖があるからな。」
「そうかもね。昨日も結局端っこまで行かされたし。」
「なんだかんだ言って楽しそうだけどな、前はなんか、失望してたっつか、なんかいっつも寂しそうな感じしてたからな。」
「そうかな、でも、上総と付き合い始めて楽しいって思うことは増えたかな。昨日も端まで行って岩場に登ったら潮が満ちてきちゃって、二人で走って陸まで戻ったりとか…ごめんね、なんかノロケ話みたいで。」
「いや、いつものことだしもう慣れた。そっか…」
「こんなこと俺が言える資格ないかもしれないけど、上総とならどこまででも行ける気がするんだ。上総は俺が行けないようなところにも突き進んでくれる。だから、僕がその背中を守ってあげたい。」
「お前なら、出来るだろ。俺が知ってる限りでお前以上にあいつのことが好きなやつを俺は知らねぇ。だから、自信持て。」
「ありがとう…そろそろ二人起こさないと、朝ごはんだ。」
俺は上総のことを起こしに行った。
「起きてるだろ。」
「ばれた?」
「完全にこっち見てたろ。」
「いや、私の彼氏のかっこいいところを見たくてさ。」
「よく言うよ…まぁ、でも、おまえと付き合えたから、言えたのかもな。」
「え…」
「さ、早く行くぞ。今日はここを出るからな。」
「そうだ。帰りに水族館寄ってく?近くにあるんだって。」
「え~!行く行く!」
「じゃあ、ちょっと早めに出ようか。」
「うん!すぐ準備するね!」
「お前、だんだんあいつの扱い上手くなってんな。」
「まぁ、いっつもいるからね。」
「勝くんはかずちゃんを手のひらで転がそうとしてんだね。」
「うわ、鬼畜だ。」
「おい!変な言い方すんなよ!」
「準備できた。」
「かずちゃん、気をつけないと、勝くんに転がされちゃうよ?」
「ちょっと!?何言ってんの!?」
「ん?どういうこと?」
「上総も本気にしなくていいから…」
「くだらねぇことしてねぇで行こうぜ。」
「ふってきたのお前だよね!?」
そうこうしているうちに準備も終わり、チェックアウトも済ませてロータリーまで来ていた。上総は先を歩き俺が追いかけるように隣に入った。大貴と比奈華は少しお互いに間を空けながらも二人で並んで歩いていた。はじめはお互いの友達であまり仲良くはなかった二人だけど、今はなんだかんだ仲良くしているみたいだった。
「なんでそんな遠いんだよ。」
「だって、恥ずかしいし…」
「もっとこっち来いって。」
大貴は比奈華の腕を引いて自分に引き寄せた。
「ちょっと、強引だなぁ~。」
「うるせぇ。別にいいだろ。」
比奈華はそう言う大貴の顔が真っ赤になっていることに気がついて、持ち前のからかい癖が少し顔をのぞかせ、引き寄せた大貴の腕に自分の腕を絡め、肩に頭を乗っけた。
「お、おい。何してんだよ。」
「いいでしょ~別に!…あたしのために、してくれたの?」
「…俺がしたかっただけだ。」
「耳まで真っ赤にして…可愛い。」
「は!?だ・ま・れ!」
大貴は比奈華の口をつまんだ。
「大貴ってさ…やっぱり優しいよね。」
「は?急に何言ってんだよ。」
「な~んでもない!かずちゃんたちのとこいこ!」
腕をパッと離した比奈華は大貴から顔をそらすように上総の方へ走って行った。その場に大貴だけが残される。
「なんだよ…急に…」
仕方なく大貴も後ろに続いた。そして、水族館の中に入るとまた自然に俺と上総、大貴と比奈華のかたちで分かれた。
「じゃ、1時間後にイルカショーの会場な。」
「は~い!いっくよ~!」
「ちょっと、走んないで!」
2人はドタバタと人ごみの水族館の奥へ消えていった。
「行っちまったな。」
「私たちは…反対から見て回らない?人少ないし。」
「あぁ…そうだな。」
少しそっけなく答えた大貴に比奈華は頬を膨らませて、両手で大貴の顔をつかんで自分の方へ向けさせた。
「もう!2人でいるときは恥ずかしがるの禁止!…ちゃんと、あたしのこと…見て?」
大貴は小首を傾げた比奈華の姿を見て顔を赤らめた。
「…2人だから、恥ずいんだっつの。」
大貴は強引に比奈華の手を握って自分の方に引き寄せた。
「はぐれんなよ…探すの、面倒だから。」
比奈華は大貴の手の温もりを感じて少し微笑んだ。
「もぅ~!素直じゃないな!手、繋ぎたいんでしょ?」
「うーせ。早く行くぞ。」
「分かった、違うってことにしとくよ。」
からかうようにしながらも耳まで真っ赤になっていることに気がついていることは、大貴は黙っていることにした。
「それにしてもさ、まさか大貴と手繋いでデートする日が来るとはね~。」
「思ってもなかったか?」
「そうだなぁ、大貴と屋上で会ったときは無理かなって思った。」
「なぁ、その…いつからだったんだ?俺のとこ好きだったの。」
「いつから…か。そうだなぁ~一目惚れ。初めて会った時にね、なんか違うなって思ったの、他の人と。」
「ってことは、中2の時か?」
すると、比奈華は大貴の前に出て大貴に顔を近づけた。
「えい!」
比奈華は大貴のおでこに勢いよくデコピンした。
「何すんだよ!」
「女の子と初めて会った日のこと忘れる大貴が悪いんだよ。」
「は!?忘れてねぇだろ。」
「…そっか、まぁ無理もないよね、小学の時だよ、初めて会ったの。その時はあたし、挨拶しかできなかったけど。」
「それを初対面に入れないでくれ。」
「その時から好きだったの。かっこよくて、頭がよくて、最初はそんな理由だったかも。でも、中学に入ってかずちゃんに紹介してもらって、そうじゃないんだってね。すごく優しいんだもん。本気で告白しようか考え始めたのはその頃かな。」
「なんか、聞いといてあれだけど、恥ずいな。」
「ちなみに、初恋だよ?」
「なんか、ちょっと意外。そこそこ遊んでそうなイメージだった。」
「ひどいな~、そんなことないよ。大貴は?言ってくれたでしょ、好きだって。」
「思い出させんな。今思い出してもあれはなかったな。でも、ショッピングセンター行ったあたりからだな。最初はやけになってるだけだと思ったけど。初めてだった。あいつよりも強く印象に残ったやつなんて。」
「そっか…。だからカフェ代おごってくれたんだね!」
「そうだよ!お前、あん時の返せって!」
「いやだよ~!」
「まぁ、それはいいけど。どうせまた出かけっから。」
「…ねぇ、あたしのことも、名前で呼んで?」
「は!?バカか!」
「え~!いいじゃんよ!」
「比奈華…こ、これでいいだろ!」
「あっはは!やっぱりあんたら似てる!なんだかんで言って聞いてくれるじゃん。まぁ、嬉しかったよ。」
「ほ、ほら!先行くぞ!ついてこい!」
「あ、待って待って!あぁ~!」
くだらないと思いつつも2人とも楽しそうに微笑んでいた。
「あたしってさ、めんどくさいかな。」
「何言ってんだ?」
「いや、よく考えたらさ。失恋してるのにつけこんで告白するなんて、最低だよね。」
すると、大貴は少し真面目な、怒ったような顔をして比奈華の口をつまんだ。
「それ以上言うな。それだけ好きでいてくれた証拠だろ。お前…比奈華は、今のままで充分可愛いし、気にすんな。めんどくさかろうと、そんなこと関係ねぇ。俺が好きなんだから、それでいいだろ。」
「…ひどいな、そんなこと言われちゃったら、あたし、これ以上何も言えないじゃん。」
「大事なのは、これからだろ。」
「うん。やっぱり…好き!」
比奈華は大貴の頬に軽くキスをした。
「行こう!向こうにもいっぱい魚いたよ!」
「お、おぉ。そうだな。」
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「うわぁ~!おっきい魚~!」
「はしゃいで転ぶなよ?」
「平気平気!ねぇ、これなんて魚?」
「えっと~、ナポレオンフィッシュだってさ。」
「へ~、なんか強そうな名前。見た目面白いのに。」
「奥も行ってみる?大きいトンネルもあるってよ。」
「トンネル!?いくいく!」
そこには一面真っ青に染まり、優雅に泳ぐ魚の姿があった。時々頭上を通りすぎるマンタが床に大きな影を落としていく。俺たちは上を見上げたまま、しばし黙ってしまった。言葉も出ない美しさとはまさにこのことだった。
「うわぁ…」
「すごいね…幻想的だ。」
俺たちは真ん中の椅子に隣同士で座った。偶然にも、隣の水槽で餌やりをしていてそこには誰もいなかった。そっと、少しずつお互いに手を近づけ、そして、重ねた。すると、ふと上総がこっちを見て、儚げな、美しい笑顔を見せた。
「私ね、嬉しいんだ。こうやって勝と手繋いで、一緒に同じものが見れて。」
「俺も…かな。最近、毎日がすごく楽しい。時々怖くなるくらい楽しい。上総の…おかげだよ。」
「うん…」
上総はまた、少し寂しそうな表情をした。俺は上総の方を向いて、真剣な目で見つめた。
「俺はさ、上総のことをきっとずっと好きだったんだ。気がつかなかっただけで。だけど、やっと気がついて、付き合い始めて、遅かったけど、別に気がつくのが早かったかどうかなんて、きっと関係なかったんだと思う。」
上総は少し不思議そうな顔をして、けど真っ直ぐに、僕の目を見つめた。
「過去なんて関係ない。大事なのは僕たちの気持ちで、これからまた、思い出も、2人の未来も、ゆっくり作っていけばいいんじゃないかって、思うんだ。」
すると上総は、じわじわと瞳に涙を浮かべて、繋いだ手をそっと離した。そしてその手を僕の背中に回して、ぎゅっと抱きついた。僕も答えるように抱きしめ返す。
「ごめんね…ずっと1人にして…」
「いいの…だって、こうなるってずっと信じてたから。勝が答えてくれたから、それでいいの…」
「ありがとう…上総。」
僕は身体を離してそっとキスをした。それは、優しく、静かな、2人だけの時間だった。
やがて遠くからざわざわと人が戻り始めると、僕らは手をつないだままその場を離れた。
「ねぇ、勝。やっぱりそっちのほうが似合ってるよ。」
「ん?なにが?」
「話し方。しばらく俺って言ってたでしょ?でもやっぱり、僕っていう方が…落ち着く。」
「そ、そうかな。僕も…変わりたい、変わらなきゃって。思ったんだ。もっと頼れるように。」
「そのままでも、勝はかっこいいし、充分頼れるよ。でも…たまには、あの勝も…いいかな?」
「あ、うん…そうだね。」
2人して顔を赤らめた。隣の水槽では静かにクラゲが水中を漂っていた。
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