本物勇者に捨てられて次席勇者に拾われた俺

高島静貴( しずたか)

文字の大きさ
3 / 41

(03)お付き合い…ではなく付き合いの始まり。

「この度はお招き頂いて有難うございます」
「本日は快くご承諾頂き誠に有難うございました。なんて」
 少々カチコチで挨拶をしたケイトに、ジョルジオがいえいえ~と返す。
「お招きって言ってもハンバーガーショップじゃカッコつかなくて.......すみません」
「いえ、そんな。あの、今日は休みでしたか?」 
 ジョルジオは大変ラフな服装をしていた。白シャツにジーンズにスニーカー。完全なるオフ仕様。比べてケイトは会社帰りだからスーツのままである。チャコールグレーのスーツの上下に薄い青色に白の細いストライプが入ったシャツにネクタイ。自宅から自転車通勤なので、足元は靴底薄めだがスニーカーだった。
「いえ、あ、でも勇者業務は休み貰ってます。拘束付きですが」
 つまり、休みだが呼び出しがあれば、すぐに任務に着かなくてはならないのだ。まだまだ魔族襲来が収束する見込みがない事を物語っている。
 休めないなぁ、とケイトが思う。
「でも最近は勇者様のお陰で呼び出しも少なくなったし。全然、ゆっくり出来てますよ」
「お陰?」
「前から精力的に業務をこなす人だったんですけど、ある日突然、もっと働き出してワーカーホリック気味なくらいで。あ、この間はどことなく八つ当たりみたいな。何があったか知りませんけど」
 さ食べましょう、とジョルジオがケイトに勧める。
 ジョルジオが頼んだのはハンバーガーショップ一押しの商品、肉のパテが三枚とチーズがどちらも厚みのあるものと、チキンが二枚入ったもの、豚肉とチキンの両方がチーズとレタス、マヨネーズが交互に挟んである、どれもこれもに厚みのあるハンバーガーにLサイズのポテトが二つ、Lサイズのドリンク。他にもわちゃわちゃとバスケットに入っている。対してケイトはスタンダードなセットメニューのみ。商品が入ったバスケットはかなり余裕がある。
 足りますか?足ります。
 と会話して二人でむぐむぐ食べる。
「美味いです」
「俺も久し振り食べましたけど、美味いですね」
 テイクアウトで食べるハンバーガーはいつもの冷めて、味はいいのに味気ない。こうして熱い内に誰かと食べるのは久し振りで、誰かと食べるのは美味しい事を忘れていた気がする。
 ケイトが味を噛みしめる。
 ジョルジオはにこにこ顔のまま、食べ進める。見た感じ、足りないように見える。
「ジョルジオさん。呼び出しが少なくなったと言うのは、こちらに来る魔族が少なくなったという事ですよね」
「そうですね。以前に比べたら全然です」
「それは魔王を討伐する日が近いという事でしょうか」
「いえ、そこまではまだ。本格的にこちらにやって来る奴もまだまだいるでしょうし、楽観視は出来ません」
「そうですか」

 会話が途切れる。
 二人で食べる事しかなくてケイトは緊張した。
 自分はこんな時にどうすればいいのか分からない。
 正解が分からない。
 いつも、こんな時は相手が誰でも気の利いた事一つ言えず、会話の引き出しもなく、会話を盛り上げる事が出来ない自分を恥じた。コンプレックスなのだ。
 相手が怖い。この時間を後悔されていたらと強迫観念に囚われている。気持ちだけ空回りして、変にソワソワする。
「ケイトさん」
 独り静かにぐるぐるしているとジョルジオに声を掛けられた。
 はっとして目線を上げる。
「あの、つまらなくないですか。自分、会話盛り上げるとか、苦手分野なんで、その」
 困ったと苦笑いでジョルジオが頭をかく。
「昔から、本当にどうしようって」
 ケイトは目を瞬いた。
 ジョルジオの見掛けからは想像も付かない言葉が出て来たのだ。
 金髪に紺碧の瞳。澄ましていれば端正な顔立ちだが、にこにこが通常運転なので気安く、性格も優しく、どこかボケ担当というか、そんな雰囲気がある。人当たり良く、誰とでも会話出来て困る事がない。
 ……様に見えていたのだけれど。違っていたのか。
「対面て難しいですよね」
 てへ。
「はい。いえ、俺の方こそ、盛り上げるというか会話を広げるのとか苦手で。沈黙が怖いというか」
「!同じですね」
「ジョルジオさんはそうは見えません」
「どうも俺は小さい頃から何故か勘違いされてしまうんですけど違うんです。だからケイトさんが同じなら」
「なら?」
「苦手な者同士、ずっとそれでも良いかなって。無理しなくても話したくなったら話す、でいいかなって。駄目ですかね」
 そもそも、そんな提案された事にない。というか、先にそんな事言われた事ない。というか、何故苦手としている事が似てると分かったのだろう。
 何か分かり易かったかな。
「駄目ですか」
「.......ジョルジオさんが嫌じゃなければ」
 よく分からないが恥ずかしい。
 ケイトは顔が赤くなるのを感じた。
 ジョルジオがにっこり笑う。
「良かった。嫌われてたんなら、どうしようって思いました」
「そんな事」
「勇者様とは沈黙なんて当たり前なんですけどね」
「勇者」
「友達とかってとんでもないし、仕事仲間というか上司みたいなものだし」
「あの、ジョルジオさんの言ってた"次席勇者"って何ですか」
「簡単に言うとスペアですね」
 思いもかけない言葉がジョルジオの口から出た。
 スペア?候補?本物がいるのに?どういう事?
「神殿に二度目のお告げがあった時に俺の所に話があって。すぐ受けました。お陰で大学、休学中です」
 てへてへ。
 あっけらかんとするジョルジオにケイトが軽く開いた口が塞がらない。
 は?二度目?
 は?大学?
 は?休学中?
「ジョルジオさん!?」
「俺、大学生なんです」
「えええー」
「年下なんで"さん付け"要らないです」
 てれてれ。
 訊きたい事が色々あって、でも訊いて良いのか迷っていた所に意外な発言で吹っ飛んでしまった。ジョルジオの邪気のない笑顔がケイトを驚かせた。



「大学生!?」
「え?あれ?見えません?老けてる?」
「落ち着いていると言うんですよ、そういうのは!え、だってスーツ!」
 目茶苦茶似合ってた、とは言えない雰囲気がある。
「スーツくらい着るでしょ」
「そりゃ着ますけど」
 絶対社会人だと思ってた!
 一緒に立ってたら俺の方が後輩に見られちゃう。
 人知れず心の中で滂沱の涙するケイトだったが、何か察するものがあったのか、少し暗くなる。
「そうですか、やっぱり老けてるんですね」
「いや、あのちょっと、いえ、あまりに似合ってて」
「似合ってる?」
「…就活スーツだとまた違って見えたと思います」
「就活スーツですか」
「魔王討伐したら復学して就職活動ですね。就活スーツ着ますねっ」
「や、自分、大学院行くので」
「大学院?」
「歴史学やってるんですけど、今回見習いになってみたら魔道具が面白くて」
 それは失われたに等しい道具だ。
「実はあのスーツも魔道具なんです」
 どことなく、ジョルジオの語りに温度がともる。
「勇者様が用意してくれて、なんでも生地がレアな魔物や鉱石が練り込まれていて付与も何重にも重ねて掛けられていたりとか、ポケットも全部空間魔法になっていて何でもどんなものでも入れられるし、あと」
「ち、ちょっとジョルジオさん、落ち着いて」
「あとですね」
「........」
 ケイトは引き攣った笑顔で固まった。
 止めてもムダ。
 多分、誰かに言いたくて仕方無かったのだろう。秘密だから言えなくて。
 聞き流そうとしても、たまに興味を引かれる所もあって、つい耳を傾ける時もあったが、取り敢えずほどほどに止めてもらった。
「あのスーツは俺の戦闘服です」
 締めくくりの言葉は誇らしく、どこか今から戦地に赴く高揚感のある男の顔をしていた。


 差し当たってケイトとジョルジオは連絡先を交換した。今日の食事会はジョルジオがケイトの会社に連絡したからこそ実現したのであって、ケイトは仕事のやり直しの途中で魔族に邪魔されそうになったけど何とか出来て良かった、で完結しており、その他の事はすっかり忘れていたのだった。





感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

メインキャラ達の様子がおかしい件について

白鳩 唯斗
BL
 前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。  サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。  どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。  ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。  世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。  どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!  主人公が老若男女問わず好かれる話です。  登場キャラは全員闇を抱えています。  精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。  BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。  恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。