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(03)お付き合い…ではなく付き合いの始まり。

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「この度はお招き頂いて有難うございます」
「本日は快くご承諾頂き誠に有難うございました。なんて」
 少々カチコチで挨拶をしたケイトに、ジョルジオがいえいえ~と返す。
「お招きって言ってもハンバーガーショップじゃカッコつかなくて.......すみません」
「いえ、そんな。あの、今日は休みでしたか?」 
 ジョルジオは大変ラフな服装をしていた。白シャツにジーンズにスニーカー。完全なるオフ仕様。比べてケイトは会社帰りだからスーツのままである。チャコールグレーのスーツの上下に薄い青色に白の細いストライプが入ったシャツにネクタイ。自宅から自転車通勤なので、足元は靴底薄めだがスニーカーだった。
「いえ、あ、でも勇者業務は休み貰ってます。拘束付きですが」
 つまり、休みだが呼び出しがあれば、すぐに任務に着かなくてはならないのだ。まだまだ魔族襲来が収束する見込みがない事を物語っている。
 休めないなぁ、とケイトが思う。
「でも最近は勇者様のお陰で呼び出しも少なくなったし。全然、ゆっくり出来てますよ」
「お陰?」
「前から精力的に業務をこなす人だったんですけど、ある日突然、もっと働き出してワーカーホリック気味なくらいで。あ、この間はどことなく八つ当たりみたいな。何があったか知りませんけど」
 さ食べましょう、とジョルジオがケイトに勧める。
 ジョルジオが頼んだのはハンバーガーショップ一押しの商品、肉のパテが三枚とチーズがどちらも厚みのあるものと、チキンが二枚入ったもの、豚肉とチキンの両方がチーズとレタス、マヨネーズが交互に挟んである、どれもこれもに厚みのあるハンバーガーにLサイズのポテトが二つ、Lサイズのドリンク。他にもわちゃわちゃとバスケットに入っている。対してケイトはスタンダードなセットメニューのみ。商品が入ったバスケットはかなり余裕がある。
 足りますか?足ります。
 と会話して二人でむぐむぐ食べる。
「美味いです」
「俺も久し振り食べましたけど、美味いですね」
 テイクアウトで食べるハンバーガーはいつもの冷めて、味はいいのに味気ない。こうして熱い内に誰かと食べるのは久し振りで、誰かと食べるのは美味しい事を忘れていた気がする。
 ケイトが味を噛みしめる。
 ジョルジオはにこにこ顔のまま、食べ進める。見た感じ、足りないように見える。
「ジョルジオさん。呼び出しが少なくなったと言うのは、こちらに来る魔族が少なくなったという事ですよね」
「そうですね。以前に比べたら全然です」
「それは魔王を討伐する日が近いという事でしょうか」
「いえ、そこまではまだ。本格的にこちらにやって来る奴もまだまだいるでしょうし、楽観視は出来ません」
「そうですか」

 会話が途切れる。
 二人で食べる事しかなくてケイトは緊張した。
 自分はこんな時にどうすればいいのか分からない。
 正解が分からない。
 いつも、こんな時は相手が誰でも気の利いた事一つ言えず、会話の引き出しもなく、会話を盛り上げる事が出来ない自分を恥じた。コンプレックスなのだ。
 相手が怖い。この時間を後悔されていたらと強迫観念に囚われている。気持ちだけ空回りして、変にソワソワする。
「ケイトさん」
 独り静かにぐるぐるしているとジョルジオに声を掛けられた。
 はっとして目線を上げる。
「あの、つまらなくないですか。自分、会話盛り上げるとか、苦手分野なんで、その」
 困ったと苦笑いでジョルジオが頭をかく。
「昔から、本当にどうしようって」
 ケイトは目を瞬いた。
 ジョルジオの見掛けからは想像も付かない言葉が出て来たのだ。
 金髪に紺碧の瞳。澄ましていれば端正な顔立ちだが、にこにこが通常運転なので気安く、性格も優しく、どこかボケ担当というか、そんな雰囲気がある。人当たり良く、誰とでも会話出来て困る事がない。
 ……様に見えていたのだけれど。違っていたのか。
「対面て難しいですよね」
 てへ。
「はい。いえ、俺の方こそ、盛り上げるというか会話を広げるのとか苦手で。沈黙が怖いというか」
「!同じですね」
「ジョルジオさんはそうは見えません」
「どうも俺は小さい頃から何故か勘違いされてしまうんですけど違うんです。だからケイトさんが同じなら」
「なら?」
「苦手な者同士、ずっとそれでも良いかなって。無理しなくても話したくなったら話す、でいいかなって。駄目ですかね」
 そもそも、そんな提案された事にない。というか、先にそんな事言われた事ない。というか、何故苦手としている事が似てると分かったのだろう。
 何か分かり易かったかな。
「駄目ですか」
「.......ジョルジオさんが嫌じゃなければ」
 よく分からないが恥ずかしい。
 ケイトは顔が赤くなるのを感じた。
 ジョルジオがにっこり笑う。
「良かった。嫌われてたんなら、どうしようって思いました」
「そんな事」
「勇者様とは沈黙なんて当たり前なんですけどね」
「勇者」
「友達とかってとんでもないし、仕事仲間というか上司みたいなものだし」
「あの、ジョルジオさんの言ってた"次席勇者"って何ですか」
「簡単に言うとスペアですね」
 思いもかけない言葉がジョルジオの口から出た。
 スペア?候補?本物がいるのに?どういう事?
「神殿に二度目のお告げがあった時に俺の所に話があって。すぐ受けました。お陰で大学、休学中です」
 てへてへ。
 あっけらかんとするジョルジオにケイトが軽く開いた口が塞がらない。
 は?二度目?
 は?大学?
 は?休学中?
「ジョルジオさん!?」
「俺、大学生なんです」
「えええー」
「年下なんで"さん付け"要らないです」
 てれてれ。
 訊きたい事が色々あって、でも訊いて良いのか迷っていた所に意外な発言で吹っ飛んでしまった。ジョルジオの邪気のない笑顔がケイトを驚かせた。



「大学生!?」
「え?あれ?見えません?老けてる?」
「落ち着いていると言うんですよ、そういうのは!え、だってスーツ!」
 目茶苦茶似合ってた、とは言えない雰囲気がある。
「スーツくらい着るでしょ」
「そりゃ着ますけど」
 絶対社会人だと思ってた!
 一緒に立ってたら俺の方が後輩に見られちゃう。
 人知れず心の中で滂沱の涙するケイトだったが、何か察するものがあったのか、少し暗くなる。
「そうですか、やっぱり老けてるんですね」
「いや、あのちょっと、いえ、あまりに似合ってて」
「似合ってる?」
「…就活スーツだとまた違って見えたと思います」
「就活スーツですか」
「魔王討伐したら復学して就職活動ですね。就活スーツ着ますねっ」
「や、自分、大学院行くので」
「大学院?」
「歴史学やってるんですけど、今回見習いになってみたら魔道具が面白くて」
 それは失われたに等しい道具だ。
「実はあのスーツも魔道具なんです」
 どことなく、ジョルジオの語りに温度がともる。
「勇者様が用意してくれて、なんでも生地がレアな魔物や鉱石が練り込まれていて付与も何重にも重ねて掛けられていたりとか、ポケットも全部空間魔法になっていて何でもどんなものでも入れられるし、あと」
「ち、ちょっとジョルジオさん、落ち着いて」
「あとですね」
「........」
 ケイトは引き攣った笑顔で固まった。
 止めてもムダ。
 多分、誰かに言いたくて仕方無かったのだろう。秘密だから言えなくて。
 聞き流そうとしても、たまに興味を引かれる所もあって、つい耳を傾ける時もあったが、取り敢えずほどほどに止めてもらった。
「あのスーツは俺の戦闘服です」
 締めくくりの言葉は誇らしく、どこか今から戦地に赴く高揚感のある男の顔をしていた。


 差し当たってケイトとジョルジオは連絡先を交換した。今日の食事会はジョルジオがケイトの会社に連絡したからこそ実現したのであって、ケイトは仕事のやり直しの途中で魔族に邪魔されそうになったけど何とか出来て良かった、で完結しており、その他の事はすっかり忘れていたのだった。





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