本物勇者に捨てられて次席勇者に拾われた俺

高島静貴( しずたか)

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(07) 今度休みなんで。②

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 ジョルジオのデートのお誘いみたいなメールの文章にやれやれ……とケイトが肩を竦める。
 年上相手に気を遣ったのだろうけれど、言葉の選び方が違うと思う。
 というか、そんなんで気を遣うくらいなら気を遣わないで済む、仲良しの友人を誘って普通席とは違う豪華な席を楽しめば良いと思う。自分がこう思うのは間違ってないと考えるけれど、どうなんだろう?

 ジョルジオが誘う映画館のプレミアム席とは演劇鑑賞場にあるボックス席と同じである。誘われた映画館は大陸全土に根を張る財閥が経営しており、この国では王都にある映画館のみプレミアム席がある。そのもう一つ上にはロイヤルプレミアム席なるものもある。王族が鑑賞する際に使用される席だ。ここは流石にどんなにお金を積もうとも使用許可が降りる事がない。



『鑑賞日はケイトさんの都合と映画館の空きとを照らし合わせます』

 返信する間もなく送信されてくる。
 ちょっとジョルジオ君、待ってってば!

 ええええーーと?
 急いで返事を思ってる側から送信されてくるので打ち込んだ文が書き直しになる。打ち込み消して、また書いて消す。
 一人で焦っていたら送信が止まった。


 チャンス!早く返事を…。

『迷惑だったら済みません。この話は忘れて下さい』

 送信された。

 待って待って待って待って待って。

 どうしてそんなせっかちなの君!
 文書いてるんじゃなくて音声入力だよね?何処で喋ってるか知らないけど恥ずかしくないのかな?俺の入力速度が遅い?それは否定しないけど!

 勝手に自己完結しないで欲しい!

 思ったら既にケイトの指先はジョルジオに繋がる連絡先に音声通話になるマークを押していた。
 
 コール1回目にして『ケイトさん!』と大音声が聴こえた。耳が痛い。既に遅いにも関わらず、ケイトは端末を自身から腕の長さいっぱいに離す。
『ケイトさん!ケイトさん!ケイトさん!?』
 聴こえてるから少し黙って。少し眉根を寄せつつ、犬が鳴いてる姿が脳裏に浮かんだ。
「ジョルジオ君!」
 電話に話し掛けた直後、さっと離す。
『ケイトさん!』
 案の定、大音声が再びケイトの鼓膜を撃った。危ない近距離聴音!
「ジョルジオ君、落ち着ける?」
 落ち着いてーとか、ではない。
『は!はい!落ち着いてます!永遠に!!』
 意味が分からない。
「…今、大丈夫なの?」
『はい』
「映画の件なんだけど…」
『駄目なんですよね。済みません』
「え、違うよ」
『今度は違うのに誘うので!』
「いやさ、待ってジョルジオ君」
『出来ればケイトさんの楽しめるものを教えて欲しいです』
「だから待ってって」
『全力で探しますから…』
「待て!」
 気分は飼い犬に指示を出す飼い主だった。ケイトが自分を犬みたいに見ているとは知らないジョルジオが電波の向こうで止まる。知らないから普通に制止されただけと感じているに違いない。でも何故だろう「キャウン」、後に「キューン」と聴こえた気がした。空耳大爆発だ。
「…落ち着ける?時間大丈夫?」
 瞬間、はっとした気配がした。
『済みません、俺よりもケイトさんが、休憩時間!?』
 ケイトが安堵の息を吐く。暴走した犬が我を取り戻した幻が見えた気がした。
「それは良いんだけどね」
『す、すみません、俺』
「本当に俺と一緒でいいの?そんな良い席だったらもっと仲の良い友達と観た方が楽しいんじゃないの?ウチに来てた事なら恩に着なくても良いよ、お礼とか考えなくていいから、ちゃんと友達同士で楽しんでおいでよ」
  遠回しに恋人いるでしょ、その人と行っておいでと伝えた。……つもりだ。
 お付き合いしている人を蔑ろにするような真似はしちゃいけないんだよ。それと、自分の方こそ君に残念な思いをして欲しくないんだよ。
『……………』
 ジョルジオから新たな言葉が無かった。それを諾と受け取ったケイトが軽く息を吐いた。
「じゃあ俺、仕事戻るから。そっちも頑張ってね、じゃ」
『待って!!!!』
「!!」
 耳が痛い。絶対、渾身で叫ばれた。
「……はい」
『俺付き合っている人、いません』
 あ、伝わってた、良かった。
 言っていいのか躊躇して、でもケイトは言った。
「でも確か前にもうずつと好きな人がいるって言ってたよね。その人誘ったらどうかな?感激してくれると思うよ」
『だから、だから、あー、もう』
 何やら伝えたい事が自分に伝わらないとイラっとしている雰囲気が電話越しに分かる。
 困ったな。
 俺も俺の言ってる事が分かってくれてないみたいで、どうしよう。
「…御免ね、本当にもう勤務時間だから」
『分かりました、この話はまた』
「うん、またね」

 と、通話を切った後にケイトは大きく溜め息を吐いた。
 もしかしたら、嫌われたかも知れないな。
 「うん、またね」が最後の言葉か。

 仕方無いか。

 これで済ます、自分を見つめる自分がいる。
 人間関係に淡白なのは昔からだ。
 自分を一切見る事なく切り捨てられた生まれる前の記憶が影響しているのかも知れない、と勝手に分析している。もしかしたら、単に本当に淡白な性質なのかも知れないけれど。

 努力しようと思う気持ちが無い訳ではない。けど、どうやっても駄目な事もあるって知っているから去る者は追えなかった。

 自分が自分を好きじゃないのに好いて貰おうなんて厚かましいにも程がある。

 短い友誼だったけど楽しかったなあ。
 と勝手に自己完結しながらケイトは職場の席に戻った。

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