本物勇者に捨てられて次席勇者に拾われた俺

高島静貴( しずたか)

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(06) 今度休みなんで。①

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 確定している過去を変える禁忌を神に破らせた挙げ句、過去に生まれ直した勇者が何をしたか知らないけど、未来に自分が生まれなければ過去の自分も生まれ出ない訳で。あの時神が『罰が下る』と言っていた。どんな罰が下るのか知らないが元伴侶とやり直したい一心でどんな罰でも受ける覚悟で一方的に絶縁されたのに会いに行ってしまった勇者。
 多分だけど、彼は俺というか他の誰にも高い熱量を向けないだろう。
 彼を動かせるのは彼の人だけだ。
 分かっているけど事実を目の当たりにして、俺の気持ちにささやかな波が立った。


 本当に、本当に。
 知らなければ、それで良かったのに。
 彼の姿を見なければ良かったのに。
 切られた縁の糸の断面は綺麗過ぎて最初から無かったと言われればそうなんだと思わせる。
 胸の奥のどこかが痛い。

********

「おはよ、久し振りだなケイト」
「おはよ、リモートで会ってるのにね」

 同期で他部署に勤務する男と笑い合う。

 長かった今回の魔族出現警報は解除され、いつもの平常が戻る。
 平常が戻るという事はジョルジオが息抜きに自分の所に顔を出さなくなる、という事である。
 
 にしても、息抜きで最近出逢ったばかりの自分の所に来るというのはどうなんだろう?

 ケイトは考える。いいよと言ったし自分の手料理だったりお勧めの出来合い品を出して、ジョルジオも評判の高い店の料理を持ち込んだりして、二人でワイワイやっていたが。

 まさか、友達が一人もいないなんて筈はあるまい。

 では何故か?



 ――――――――何故か。



 う~んと仕事をちょっと放り投げて考えてみる。

 今まで年下に懐かれた事ないんだよなあ。
 ケイトが首を傾げる。
 兄弟は兄だし、これまで学校関係で後輩はいたけど別に物凄く親しくなった経験はないし。
 当たり障りなく、の範囲でしか付き合いはない。でも、そんなものだと思っている。
 
 う~む。

 考える。考える。考える。


 あ、そっか。


 閃いて腑に落ちる。
「ジョルジオ君って犬みたいだもんね」

 大型犬。
 フサフサのモフモフの毛並みの良い犬。いつもご機嫌でフサフサの尻尾をぱたぱた振っている、優しさの詰まった生き物。
 犬ならなんか分かるかも。


 犬だ、犬だ、犬だった。

 厳しく躾けなくても主の考えを汲み取って動く聡明な犬。一度教えただけで理解する賢い犬。でもたまに構ってちゃん化する、日向の匂いがする犬。

 そんな風に思ったらおかしくなり、表面上は真面目な顔を取り繕いながらも、ふとした瞬間に笑い出しそうで苦しくなりながらケイトは仕事をこなしていった。

 ニヤけている風に見えて無ければいいけれど。

 ニヤけては見えなかったが泣きそうな顔に見えたらしく、逆に周りから気を遣われたケイトだった。



******



『ケイトさんて映画とか行きます?』

 とある日。
 ケイトの個人通信機に"急いでません言っとくね通知"としてジョルジオからメールで着信があった。既読や返信の優先度を必要としない、メールアプリの機能の一つであるが、大概は送信先に気を遣わせない為に使用される機能である。
 ジョルジオは仕事中かも知れず、直ぐに返信が出来ない事態が想定される為に、この機能を使用したのだと予想された。
 忙しいのかな?この国でない場所へ出張中なのかも知れないな?
 ケイトが小首を傾げた。
 映画?映画館にわざわざ行くって事かな?
 言われてみて、自分を振り返った。
 映画館なんか余程どうしても観たい物でなければ行かない。
 あの独特の空気が、空間が。
 慣れるまで一種、拒否されているように感じてしまうから少しだけ苦手だ。中に入って上映されてしまえば楽しめるのだけれど。
 でも映画のグッズ売り場を眺めるのは好きだ。各映画ごとに作られている工夫を凝らした物達は見ていて楽しい。記念とはいえ、こんなの買ってどうすのかな、と思うのが並んであって笑わせ…和ませてくれるから。
 映画は別に映画館に足を運ばなくてもネット配信になったら観れれば、それでいいと思っている。自分の都合の良い時に観るのが良いのだ。上映時間に自分の時間を左右され、拘束されるのが好きで無い。

 とはジョルジオに言い辛い。
 
『最近は行ってません。魔族問題もまだ収束してませんし、もっぱらネット配信で済ませています』

 こちらも"急いでません言っとくね通知"で返信をしておいた。
 にも関わらず、直ぐに返事が来た。想定外の事に通知音にびくっとしてしまう。
 アプリを開く前に通知を見ると『映画を見に行きませんか』とあった。アプリの方を開く。

 忙しくなかったのかな?

『映画のペアチケットを貰いました。魔族対策本部が景気対策の一環で勇者様に回ってきたものなんですが、勇者様は自分には一緒に行く者がいないから、と、くれたプレミアム席のものです』

 メールのある一文に、心のどこかが反応した。
『一緒に行く者がいない』
 今いないのですか。
 ここに、この時代にいないのですか。


 そんなはずなかったでしょう。


『自分のゴールド席は他の人に譲りました』

 追加でメールが来た。

『貰った物ですが、ケイトさんと出掛けるなら付き合いの為とはいえ時間を無駄にした、と思って欲しくなかったので』

 !?

『遠慮しないで貰いました』



 …………何そのデートに誘うような文。


 ジョルジオ君には言葉の使い方を、やんわりと注意した方が良いと思う。

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