本物勇者に捨てられて次席勇者に拾われた俺

高島静貴( しずたか)

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(05) 警報中にかこつけて②

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 ふとした瞬間、脳裏に映るのはいつでも勇者の映像だ。そう、神様との面談の時に見せられたワンシーン。魔族を容赦無くぶった斬る"処刑人"と言う名の救世主。先代として過去に生まれ直し、当時の魔族から付けられた二つ名。今また新たに呼ばれている。というか何やらもっと散々な言われようをしていたから二つ名とは言わず、更に色々あるのかも知れない。彼は戦い終わりの冷淡な表情も格好良いが、やはり戦っている時の方が格好良かった。たった一度、見せられただけの映像が俺の心の中に棘となって痛い。
 この気持ちに、名前を付けたくない。



「ケイト、最近何か悩んでないか?」
 ケイトがパソコンのモニターを前に目をぱちくりと瞬いた。
 魔族出現警報がまだ解除されない現在、こうして一番仲の良い同僚と連絡を取り合っていた。近況を教え合うだけの短いやり取りだが、顔を見るとホッとする。今日も何となく通信が入って、何となく話している。
 浮かない顔でもしていたのか、いつもの愚痴りの前に同僚がケイトに尋ねた。
「そりゃ悩みもするよ。警報解除ならないんだからね」
「こればっかりはなー、仕方無いよ」
「だよね。分かってるんだけどね」
「何処にも出られないのが辛い」
「そうだね」
 いやーバカンス休暇じゃないだけどー、と同僚が笑い自分も笑い返して通信を切った。



 今回の警報は王都中に出ている他に他国にも出ている。勇者は高位魔族と他国の要請の対応をしておりジョルジオは国内の中級以下に対応していた。感知システムに反応があるものの、フェイクもあり気が抜けない状態が続いている。
 日参していたジョルジオは4、5日来なくなった。彼が言う『戦闘服』のスーツが脱げずにいるのは警報から分かる。
 500年前と違うのは今の勇者には『勇者パーティ』なるものが存在しない事だ。故に治癒魔法を使える存在がいない事。防御に徹してくれる仲間がいない事。自分で考えて動くは当然の事としても、背中を預けられる存在の有り無しの差は大きい。

 俺にもし、何か出来たなら、何かが違っていたのだろうか。

 ふと、そんな事を思ってしまってケイトが心の中で俯いた。

 埒も無い。

 溜め息を吐いた。
 出来た所で変わりはしないに違いない。

 きっと勇者の心は振り向きはしない。

 
 

 携帯電話の着信音が鳴る。
 メールが届いた様だった。操作して画面を開く。
 発信者はジョルジオだった。
 漫画の吹き出しの形で会話が進むメールアプリで『今ヒマですか』とあった。別段何もしていなかったから、素直に『ヒマです』と返信する。
 返信直後に今度は通話用の着信音が鳴り、ケイトは音にびくっとした後、すぐに通話に切り替えた。

『ケイトさん、今からお邪魔して良いですかっ』
「お茶しか出せないけど」
『大丈夫ですっ、自分が休憩中に買っておきました』

 そう言えば、と思い出す。
 ジョルジオのスーツはポケットが全部、空間魔法仕様になっていたのだという事を。

「分かりました。お待ちしてます」
『今ここにいます。玄関の前に』
「へ?」
 大慌てで玄関ドアを開けた先には笑顔でヨレっとしたジョルジオが立っていた。
「どうもお久し振りです」
「上がって」


「お疲れ様、大変だね、大丈夫?」
「はは」
 もう笑うしか無いといった体のジョルジオが疲れた笑いで笑う。
「今回は警報が長いね」
「念の為そうさせて貰っているんです」
 とは?と紅茶を出した後で自分も座ってジョルジオと向き合う。
 ジョルジオはカップの中に大量の砂糖とミルクをぶち込んでティースプーンでかき混ぜた。一緒にテーブルに出されたビスケットやクッキーやチョコレートにも手を出す。良かった買っておいて、とケイトが胸を撫で下ろす。
「今こちらに来ている魔族は魔界から逃げて来た奴等です。魔界では今、爵位のある魔族達と勇者様が戦っています。逃げて来た奴等はとばっちりで死にたく無いのがこちらに来ていて」
「でも、こっちに来ても迎撃されるんじゃ」
「基本、舐められてますから」
「でもこっちに来ても滅ぼされるから変わりないんじゃ。そんな話は聞いて無いのかな?」
「魔族にそういった横の繋がりは無いようです」
 どういう事だろうとケイトが首をひねる。
「高位魔族になればなる程、他者と連携は取りません。自分に自信が有りますから。あと、見下されの原因になるので部下から話は聞いてても、そこで終わります」
 何と言うかダメダメな。
「逃げる奴はどうやったって逃げるので、もうゲートも半分以上開けてるんです」
「はあ」
「でもですね、内緒なんですが中には移住希望者もいるので面談とかやってる訳で」
「え?魔族が人間界に移住?」
「大昔はよくあった事だそうてす。あ、人間界に住んでいる事がですが。何も珍しく無い事で、ただ魔王が生れてしまって道を外すと手の平返しがあって迫害対象になってしまうのだそうで」
 ふむふむ。
 ケイトが頷く。
「魔王が生まれる事自体は別に良いんです。魔族から見て魔王は本来の主。魔族が本能的に惹かれずにはいられない者だそうなので。それまで治めていた者は代官でしかない立場を弁えていますから、争いにはなりません。問題は魔王が道を外れてしまう事です。何故道を外れてしまうのかは謎なのですが」
「そうなんですか」
「魔王がいる間は勇者がいます。暴走しそうな兆候が懸念された時は候補が選ばれて備えていたらしいですよ」
「なら、今まで五百年も魔王が生まれなかったのって」
「参考文献が何一つ残ってないので、やはりこれも謎です。候補の方ですら選ばれなかったらしく、これも謎です。今でも多数の歴史家が研究している題材です」
 それまでふんわりと均衡を保ってきたバランスが崩れた。
 候補から選出していくのではなく、ダイレクトに勇者が選ばれた。
「まるで今の勇者様の為に舞台が整ったように」
 ケイトはその言葉を黙って受け止めた。

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