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第三章 来訪、襲来、ガルムドゲルン

#13 柄でも無い事はするもんじゃない

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 全員でギルドに戻って来て、魔石の買取りをラナにお願いするため俺だけ受付カウンター内に残った。
 みんなには酒場のマスターに話を通しておいてほしいってお願いして、すぐ受付カウンターを出て酒場の方に向かってもらった。

 魔石もそこそこの数だったからそれなりの金額に。
 初日にクリス女史が値を付けてくれたから、それにならって買取額を出したら、169000セタル…大金貨1枚と金貨6枚、大銀貨9枚だって。
 これで今回受け取った金額の合計は…743000セタルってことになったけど、奢りで足りるかどうかは酒場のマスターに聞いてみないと何とも言えないか。

「ラナ、ありがとな。それと酒場貸し切りっぽく使いたいんだけど、フィルさんとかに話通しといた方がいい?」

「酒場ですか?それなら多分問題無いと思いますよ。同じギルド内ですけどあっちはあっちで独立して管理してますから、酒場のマスター、ヴォルドガルドさんに話を通しておけば。何かするんですか?」

「いや、ほら、こんな時だからこそ景気付けにギルドにいる冒険者みんなでパーっとやろうかなって。お金も出来たし」

「あ、なるほど…確かにいい考えかもしれませんね。ここのみんななら士気上がりそうで」

「何となくこの間飲んでた時の感じだったらそうなりそうかなって。沈んだ空気になるよりはいいと思ってさ」

「分かりました、そういうことなら一応わたしからもマスターに一言伝えておきますよ。出来たらわたしも参加する方向で…」

 あ、ラナもなのね…リズはまず間違いなく来そうだな、とは思ってたけど。
 来るのは全然構わないんだけど、やる事やってから来るんだぞ?

「じゃあそっちは頼むよ。よろしくな」

「はいっ」



 受付カウンターから出て(もう自分でカウンター台開けて)真っ直ぐ酒場のカウンターに向かうと、先に来てたみんなと酒場のマスター、ヴォルドガルドさんが話してた。


「…ってわけなんだけど、どうだ?」

「………悪くねぇな」

「だろっ?ジタバタしたってやるこた変わんねーんだ、だったら勢いつけた方がいいんじゃねぇかってな」

「……よし、ノッてやる。フェレア!」

「はいっ!」

 アーネとマスターが主に話してたらしく、どうやらもう話自体まとまってたみたいだ。
 マスターが店員…この前飲んでた時最初に来た4枚翅のバイト風店員を呼んでた。
 フェレアって名前なんだ、なんか容姿とマッチしてて可愛らしい感じだな。

「マスター、なんでしょう?」

「休暇の連中全員呼び出せ。給仕から厨房の奴ら全てだ。今からここを俺達の戦場にする」

「せっ、戦場ですかっ!?ま、まさか…」

「ああ、久しぶりに暴れるぞ」

「はっ、はい!すぐ呼んできますっ!」

 そう言って酒場から出て行ったんだけど、前と違ってホントに飛んで移動してた…ちゃんと飛べるのね、その翅飾りじゃなかったんだ…。

 っと、俺も出すもの出さないとな。

「マスター、初めまして、漂流者のナオトって言います。提案聞き入れてもらいありがとうございます」

「…お前がナオトか。ふんっ、よく見てるじゃねぇか、ここの連中のことを。それと、俺に敬語なんぞ使うんじゃねぇ、虫唾が走る」

 ドギツい隻眼、片目によく見る海賊が付けてそうなアイパッチをしてるから余計視線が鋭く感じる…そんな目で睨まれたら誰でも萎縮して敬語になりそうな気がするんだけど…。

「わ、分かったよ…マスター。すまないけどよろしく頼むよ」

「…ふんっ、任せておけ。やるからには全力でやってやる」

「それで、ここに居る冒険者全員相手だといくらくらいかかりそう?」

「…そうだな……ザッと大金貨5枚もあれば足りるか」

「了解。あー、それと食材も提供出来るんだけど、使ってくれないかな?」

「食材か…。分かった」

 お金も何とかなりそうで少し安心した。
 食材のことを言ったらマスターが、中に入って黙って付いてこいと言わんばかりにカウンターの端を開けてくれた。
 受付カウンターと同じ仕組みなんだ、と思いながら俺だけ中に入ってマスターに付いていったら、そこそこ広めの厨房で数人が調理に勤しんでた。

「…で、食材ってのは何だ」

「えっと、これなんだけど」

 と、無限収納からさっき貰ってきた魔物の肉をひと塊だけ調理台の上に出してみた。

「…肉か。……ふんっ、中々良い肉じゃねえか」

「これがそこそこの量あるんだけど、足しになりそう?」

「…どれくらいあるんだ?」

「ここじゃ全部出せないくらい…かな」

「…そうか。なら倉庫で出せ。そこで見てやる」

 ぶっきらぼうに言い放ちながら今度は厨房の更に奥、恐らく食材置き場なんだろう、そこに案内された。
 中は少しひんやりしてて食材が所狭しと置いてあった…けど、乱雑じゃなくてちゃんと分かるように整理されてるみたい、木箱に札で文字とか書いてあるし。
 で、生ものっぽい食材はそこから更に奥の扉、多分冷凍庫だと思う、そこまで連れて来られた。
 案の定扉を開けた途端、冷気が漏れ出してきた…やっぱり魔導具とか使ってるんだろうな。
 中には予想通り生ものに属する食材が壁際の棚に置かれていた…見た感じそれなりの量があるから、俺が出さなくてもいいような気もするけど、言っちゃった手前出さないとおかしいよな…。
 全部じゃなくて半分くらいにしとこうか。

「整理は後でやる。取り敢えずこの上に出せ」

 って、床の一角に敷いてある布を指定してきたからそこに半分くらい無限収納から放出した。
 それでも結構山積みになったな。

「…こんなもんだけど、どう?」

「…これだけあれば…大金貨4枚と金貨7枚でいい」

「了解、じゃあこれでよろしく。みんなにはこれから伝えるよ」

 お金もここで渡しちゃっていいかと思って言われた額の大金貨と金貨を無限収納から出してマスターに手渡した。
 ってか、ここ寒いから早く出た方がいいんじゃないかな?俺はスキルのおかげで身体に異常が出ることは無いけど普通に寒いです。

「…分かった。そっちは上手くやれ」

「まぁ、多分大丈夫だと思う」

「…ふんっ、血の気の多いやつらばかりだからな」

「そういうことだね。じゃ、行ってくるよ」


 冷凍庫から脱出して厨房を通りカウンターまで戻って来たら…


 おおおぉぉぉぉおお!!


 って、もうなんか既に盛り上がってた…。
 見るとリオに肩車されてるアーネがいて、多分もう説明っていうか、言い触らしたんだろう…まぁマスターがオッケー出した時点で決まりだったからいいっちゃいいんだけど。

 アーネが一通り言い触らした後、俺が戻って来たのを見つけたらしく俺を呼んだ…リオに肩車されたまま。

「おら、ナオト!お前からも何か一言言えよっ」

 柄じゃないことしてるのは重々承知してるんだけど、言い出しっぺだしな…しょうがないか。

「みんなっ!知ってる人もいるとは思うけど、改めて。漂流者のナオトだ。知っての通り、今この街に魔物の大群が向かってきている…その数およそ1万だそうだ」

 ザワザワザワ……

「けど!どんな数だろうが、俺達のやる事に変わりはないっ、そうだよな!俺達は冒険者だ、どれだけの魔物が来ようと、俺達にはそれを打ち払うだけの力があるっ!数を聞いて絶望するのか?この状況を悲観するのか?そんなことをして何になる!何回でも言うぞ、俺達は冒険者だ!俺達がやらないで誰がこの街を護るんだっ!だからこそ、今ここで沈んだ空気を吹き飛ばしたいと思ってる!今日は全部俺持ちだっ!飲んで食って鋭気を養ってくれっ!」



 ………シーン………



 え、あれ?ヤバいハズしたっ!?ちょっ、それは勘弁して……。


「クックックっ。ナオトよぉ……そんな事、お前に言われなくたってなぁ、ここにいる連中はみんな分かってんだよぉ」

「ああ、そうだな。今のを聞いて怖気づくのは新米くらいなもんだ」

「そーゆーこった。だがまぁ、勢いづけにやるのは良い考えだぜ。俺達には一番効くしなぁっ」

「しかもお前の奢りなんだろ?だったらノるしかないよなぁ、お前らぁっ!」


 オオオオォォォォォォオオオ!!!


 歓声が一気に上がってこの場にいるほとんどの冒険者が拳を高々と突き上げていた…よ、よかった……ハズしたわけじゃなくって……やっぱ柄でも無いことはするもんじゃないな…心臓に悪い……。
 でも、とりあえずみんな賛成っていうか、ノッてくれるらしいから結果オーライかな。

「よっしゃ!オマエら飲むぜぇーっ!!マスターっ!!」

「……ふんっ、いつまでそこで騒いでるつもりだ。とっととこっちに来て飲んで食えっ」

 アーネがまだリオに肩車されてる状態で号令を出して、マスターがいる酒場のカウンターへ振り返ってみたら…もう既にズラリとジョッキやらグラス、大皿の料理がカウンターとテーブルの上に並んでた。
 それと、いつの間にか店員も揃っていて準備万端って感じで待機してた…マスターに指示されて休みの人達を呼びにいったフェレアって娘もいるし、さっきは見掛けなかった竜人のルーエラもいた。
 ルーエラは多分今日休みだったんじゃないかな…そう考えると悪いことしたかも……。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


「いいかお前等、何も考えなくていい、出来た料理からすぐ運んでいけ。分かったな」

「「「「「「はいっ!」」」」」」

「ったく、人使いの荒いマスターだよ…。折角の休暇だったってのに…」

「こんな時に休暇もクソもあるか。黙って連中を見送ってやれ」

「…分かってるさ、アタシだってそれくらいは。んじゃこっちも気合い入れていくかね」

「…こっちは任せたぞ、ルーエラ」

「あいよー!」


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 みんな一斉に酒場の方へ流れていって、思い思いに酒を手にしてすぐ隣の仲間達と酌み交わしていた。
 俺も混ざろうと思ってたんだけど、その前に…。

「アーネ、いい加減リオから降りろって。もういいだろ?」

 未だに肩車されたままのアーネ、まぁ身体は小さめだからそんなに負担じゃないのかもしれないけど、それでもやっぱりリオが大変だろ?

「あー、いや、そうしたいんだけどよぉ…」

「…?」

「…リオが降ろしてくれねぇ」

 はい?え、竜人になっても騎乗されたいところは変わらないって?そんなわけないだろ、いくらなんでも…。

「………アー、ネ…………もっ、と……乗って…て………?…………」

 …そんなわけあった。
 どんだけ乗せたいんだリオ、それはドラゴンの時だけでいいだろ…。

「リーちゃんはぁ~、乗せるのがぁ本当にぃ~好きぃなんだぁねぇ~。うふふっ」

「…………(コクっ……。………好、き…………」

「竜人になってもそこは変わらへんのやなぁ。あははっ」

「うん。まぁ乗せるのが好きなのは分かったから、降ろしてあげような。アーネが酒飲めないぞ?」

「…………わ、かった……………」

 顔には出てないけど、何となく渋々アーネを降ろしたって感じ…いや、乗せる機会なんてこれからいくらでもあるだろうから、そんな残念そうな雰囲気出さなくてもいいだろ…。

「あんがとな、リオ。助かったぜ。また今度してくれよっ」

「………(コクコクっ…。………また…す、る…………」

 あ、ちょっと嬉しそうな気がする。
 そんなにか…これ、俺も乗せてくれって言ったらホントに喜んで乗せてくれそうだ…竜人の時には言わないよう気を付けとこ。

「よっし!んじゃアタイらも飲もうぜっ!」

「そうだな。次いでっぽくてあれだけど、リオの歓迎ってことで乾杯しようか」

「そうだねぇ~、リーちゃんがぁ来てくれたぁ~お祝いぃしないとねぇ~。ふふっ」

「せやなっ、新しいパーティーメンバーを歓迎せなっ」

 というわけで、リオを歓迎するのに近くの酒を手にしてみんなで乾杯した。
 
「くぅ~っ!やっぱ酒はいつ飲んでもいいなっ!ここ数日旨い酒しか飲んでねぇぞっ」

「ホンマやな。ナオトはんが来てからウソみたいに変わったわ、ウチらの状況が」

「あれだよねぇ~、天とぉ地ぃくらいのぉ~差があるよぉねぇ~」

「…………お酒…………美味、し…い………………」

「おっ、リオは結構イケる口か?いいなっ!」

「………初め、て…………飲ん…だ………よ……?…………」

 え、400年以上も生きてるのに初めてって…あぁ、そっか、その年齢ほぼ洞窟の中だったんだもんな…洞窟に入る前に飲んだこと無かったのか。

「初めてっ!?マジか、あっぶねぇ…酒の味も知らねぇまま逝こうとしてたなんてよぉ…間に合ってよかったぜ……」

「でもぉもうぅ~大丈夫ぅだよぉ~。これからはぁ~私たちがぁいるからぁねぇ~、ふふっ」

「だな。これからはいくらでも飲めるよ、みんなと一緒に…な」

「………みん、な…………一緒…に……………」

「そや、みんな一緒やで?」

 嬉しそうな気はするんだけど、ちょっとだけ遠慮っていうか戸惑ってる感じ…素直に喜んでいいのか分からないみたいな、何となくそんな雰囲気がした…表情からは読み取れないから俺の思い込みかもしれないけど。
 恐らく自分が今こうしているのと、過去にあった事と、天秤にかかってるんじゃないかって…。
 気にはなるけど、今はただ、俺を含めみんなと一緒だって、側にいるって、それを感じてくれるだけでいいと思うよ。


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