110 / 214
第四章 皇都グラウデリアへ
#19 皇都到着
しおりを挟むシータとリオと一緒に皆の所へ戻ってくると、こっちはこっちでもう魔石の回収とかは終わってて、何時でも出発出来る感じになってた。
負傷してた冒険者も回復が終わって難無く動けるみたい。
ブリュナ様から聞いた話だと、商人達はゲリッツバルムから皇都へ向かっていたらしく、護衛依頼を受けた冒険者達もゲリッツバルムを拠点としたパーティーで、俺達と同じく護衛依頼は初めてだったそうだ。
初めてでこれとは相当運が悪かったんだろうけど、俺達が運良く通り掛かって援護した事を感謝してくれた。
当然の事をしたまでだし、こっちも護衛だから危険は排除しないとだったしね。
不運とはいえこうやって出会ったのも何かの縁、目的地も同じってことで皇都まで一緒に、ということになった。
ひぃ達ももう起きてて、馬車の中、俺の膝の上でお寛ぎいただいてます。
「ティシャちゃん、ヒナリィちゃん、ごめんね。久しぶりで力加減間違っちゃったみたいで…」
ラナが二人を眠らせてしまったことに対して罪悪感を抱いてるっぽい。
俺としては逆に良かったと思うんだけど…怖い思いさせずに済んで。
「いえ、そんな。わたくしたちこそお姉さまたちががんばっている時にねむってしまって…」
「いいんじゃないか?眠ってたおかげで怖い思いもしなかっただろ?二人とも」
「そうだけど…でも、お姉ちゃんたちはたいへんだったのに……」
「それがアタイらの仕事なんだからいーんだよっ。気にすんな」
「そうだよぉ~。ティシャちゃんとぉヒナちゃんを~無事にぃ皇都までぇ届けるのがぁ~、お姉ちゃん達のぉお仕事だからぁねぇ~」
「そういうことや。ラナも気に病むこと無いて、ナオの言う通り結果的にこれで良かったんやって」
うんうん、シータの言う通り。
不安がって俺の脚元にしがみついてるより、眠ってた方が精神的負荷は間違い無く軽かったはず。
体力的にも回復出来てむしろ一石二鳥だとさえ思うから、ラナのファインプレーと言っても過言ではないくらいだって。
「ワタシだって何も出来なかったし、そーゆーことは出来る人にお任せでいいんだって。それよりほらっ、皇都が見えてきたよっ!」
リズがもうこの話題はお終いと言わんばかりに前方御者席の窓から見えてきた皇都の外壁に目をやった。
進行方向とは逆向きの席に座ってたからリオの膝の上で無理矢理反対向きに身を乗り出してる。
改めて思ったんだけど、この二人のコンビは凶悪過ぎる…俺には。
二人は俺の正面に座ってたんだけど、俺と向き合って座ってた時は、リオの胸でリズの頭を挟んで、リズを抱えてるリオの手でリズの胸を押し上げて、これみよがしに二人のその胸を強調してた…本人達はそんなつもり更々無かったのかもしれないけど、昨日のお風呂のせいで否が応でもその中身を思い出してしまって、一人脳内で悶まくってたっていう…。
そういう目で見るなって話だけど、神や仏じゃあるまいし、そんな無欲を通すなんてこと俺には無理ですから、いくらおっさんといっても所詮は男なんですよ。
「あっ、ホントだー、見えてきたよーっ」
「おー、さすが皇都、外壁も高ぇなぁ」
「遂にぃ~来ちゃったねぇ~、皇都にぃ~」
「そういやみんな皇都初めてなの?」
邪念を払うのは他の事を考えるのが一番ってね。
皆の話題に乗っかってみた。
「ウチら4人は初めてや。リズは?」
「ワタシも初めてだよー。リオちゃんは?」
「………昔…来た、ことが……ある、よ………」
「あー、でも今とは全然違うだろうから、初めてとあんまり変わらないかもな…」
なんせ400年以上前だしな…その頃とは変わってるに決まってるだろうし。
「わたしとティシャは、ちっちゃい頃来たことあるよー」
「…ほとんど覚えていませんが……お父さまとお母さまに付いて来たことがあります」
二人は貴族だけあって来た事はあるみたいだな。
流石に今より小さい頃だからあんまり記憶に無いっぽいけど、行ったことだけは分かってるらしい。
「そっか。じゃあみんなほぼ初めてに近いってことだな。もう少しだけど気は抜かないようにしとこうか。アーネ、頼むな」
「ったりめーよっ。キッチリ仕事熟してこそ冒険者ってもんだぜっ」
俺もマップで確認してるけど、アーネの索敵の精度が良過ぎて頼りっぱなしになってるっていう。
やっぱり獣人って凄いんだな、と改めて思ったり。
もう皇都が近いせいか魔物の気配も無く、あっさり皇都の外壁門まで無事辿り着いた。
皇都だけあって人の出入りも激しいんだろう、外壁門は3つあって、内一つは貴族専用だ。
一緒に来た商隊の人達とはここで別れて俺達は貴族専用の門からほぼ素通りで皇都内へ。
ブリュナ様が貴族証を提示しただけで、ノーチェックって感じでした、俺達冒険者が居たのにも関わらず。
中に入ると…各門から伸びているメインストリートが真っ直ぐ中央広場まで続いていて、貴族専用側は馬車の通りが多かった。
道幅はガルムドゲルンの倍くらいはあると思う。
「おぉー、さすが皇都、でっけぇなぁ…」
「人通りも多いし、店もいっぱいやなぁ……」
「何かぁ~、凄いぃ歓声みたいなのがぁ~聞こえてぇくるんだけどぉ~…」
「…歓声?何かイベントとかやってるのかな?」
耳のいいマールが何か歓声?を拾ったみたいで、どこかに人が集まってるっぽい…祭りとかやってたりするんだろうか?
「とりあえず、このまま冒険者ギルドまで行くんでしょー?」
「どうだろ?皇城までは流石に要らないと思うけど…。ちょっとブリュナ様に聞いてくるか」
一旦馬車を停めてブリュナ様に確認しにいったら、ここまででももう十分っぽい感じだった。
ただ、明日昼前にまたここの冒険者ギルドで待っていてほしいと言われたけど…まだ何か用があるんだろうか?
特に予定もあるわけじゃないし、分かりました、と返事をしてブリュナ様達は馬車で皇城に向かって行った。
ティシャとひぃ、それにフラウも、またねーって言って別れた…また帰りにね、ってことだろうな。
俺と弘史のパーティーは歩いて冒険者ギルドに向かう事に。
依頼書にはもうブリュナ様のサインは貰ってあるし、これを提出して完了だからな。
「いや、しっかしでけぇ街だな…人多すぎだろ、これ」
「そそ、そうです、ね……」
「この国の中心だからな、これくらいは当然なんだろ?城も見るからにデカそうだしなぁ…」
漂流者三人でまたおのぼりさんよろしくキョロキョロ辺りを見回してたら、ふと目に入ったものに唖然とした…。
同じ様に弘史も唖然としてる…ただし見てる物は違うみたいだ。
「……なぁ、あれ……」
「…おい、あれ……」
弘史が指差した先には…この世界では高い5,6階建ての建物の壁に貼り付いてるデカいモニター…映像が流れてるから恐らく街頭ビジョンだと思われるものが…。
で、俺が指差したのは空、こっちも大型モニター絡みなんだけど、それを付けた飛行船が数台行き交ってて、一瞬どこの学○都市ですか?って思ってしまった…。
「あー…これもやっぱり先に来てた漂流者の仕業だよなぁ…間違い無く」
「ったく、やりたい放題じゃねーかっ」
「あ、あははは……」
ちょっと呆れ返る漂流者三人、まさかここまでやっちゃってるとは思ってなかったり。
そんな感じで辺りを観察しながらメインストリートを歩いていたら、中央広場が見えてきたんだけど…これまた広い。
楕円形の広場で、門からのメインストリート三本の正面に人の彫刻を乗せた大きな噴水が3つ、多分この国の偉人じゃないかと想像は付くけど、当然誰かなんて分からないね。
広場の広さは…サッカーグラウンドとか競技場より一回り、いや、二回りくらい大きいんじゃないかって程広々としてる。
で、メインストリートの対面中央の辺に何やら人だかりが出来てて…その奥に野外ステージっぽいものが見えてたり。
さっきマールが言ってた歓声の元はこれか?
ちょっと気になるけど、あの人だかりに入って行くのはちょっとな…なんて考えてたら、歓声と一緒に演奏と歌声も聞こえてきた…やっぱりあれ、ステージだったんだ。
『さぁ~今こそ~♪旅立ーちのとーき~♪』
『仲間ーととーもーに~♪力合わーせーて~♪』
『行こう~♪あの虹ーのー橋ーを目ー指ーし~て~♫』
……えーっと…よくよく聞き耳立てたらバンドっぽいんですが…。
ギターとベース、ドラムにキーボードの音が…。
「あっ!これ、『マニファニ』じゃないっ!」
「え?『マニファニ』?」
「そ、今皇都で大人気のガールズバンド、『マニオン・ファニオン』、略して『マニファニ』ねっ」
ガールズバンドて…これも漂流者絡みだよな、絶対。
楽器まで作って…もしかしてプロデュースまでやっちゃってるんじゃないのっ?
「あー、聞いたことあんな、名前だけは。アタイは音楽とかあんま興味ねーけどよ」
「ガルムドゲルンでもそこそこファンは多いよ?えっとね…」
そう言ってメンバー紹介しだしたリズ。
ドラムのマミーナシャリーナ、翼人種(悪魔族)、ベースのニナストリィミア、獣人種(狸人族)、キーボードのファミールレティル、翼人種(天使族)、リードギターのニアネスラヴィア、竜人種(蒼竜族)、そして…ギターボーカルのミオン・ヒビキ、人種だって。
名前だけじゃなく種族まで知ってるとか、リズも相当なファンなんじゃないのか?
それと…モロ漂流者が組んだバンドじゃねーか。
向こうの世界でもバンド組んでたとか、そういうのかなぁ…。
「バンドもあんのかよ…ここまできたら異世界感まるで無ぇわ」
「…それな。馴染みあるもの多すぎだろ……」
「ちょっと見てくー?」
「見てみたい気もするけど、まず先にギルド行って依頼片付けてこよう」
興味無い訳じゃないけど、観光する前に片付けなきゃいけないものは先に片付けておいて、それからゆっくり見て回る方がいいだろうなって。
「ほな先にギルドな。えっと…あ、あそこやないか?」
シータが広場を見回してある一点を指し示した。
その先には大き目な建物、ガルムドゲルンの冒険者ギルドより当然大きくて、本部に相応しい感じの佇まいに思えるんだけど、この建物の壁にも街頭ビジョンがあって、映像を見てみると一発で冒険者ギルドだって分かる内容だった…「来たれ若人!冒険者募集中!」とか流れてるし……。
「見るからにあそこだな…。んじゃ、行こうか…」
若干謎の辟易感を覚えつつ、俺達はそのまま冒険者ギルドに向かうことにした…。
6
あなたにおすすめの小説
絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~
志位斗 茂家波
ファンタジー
想いというのは中々厄介なものであろう。
それは人の手には余るものであり、人ならざる者にとってはさらに融通の利かないもの。
それでも、突き進むだけの感情は誰にも止めようがなく…
これは、そんな重い想いにいつのまにかつながれていたものの物語である。
―――
感想・指摘など可能な限り受け付けます。
小説家になろう様でも掲載しております。
興味があれば、ぜひどうぞ!!
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。
シトラス=ライス
ファンタジー
万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。
十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。
そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。
おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。
夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。
彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、
「獲物、来ましたね……?」
下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】
アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。
*前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。
また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる