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第四章 皇都グラウデリアへ
#20 テンプレ、それから犬猿
しおりを挟む皇都の冒険者ギルドは、流石本部だけあって中も結構立派な造りだった。
基本的にはガルムドゲルンの冒険者ギルドとあまり変わりは無いように見える。
待合所があってクエストボード、受付カウンター、併設のギルド酒場もあるし。
違いといえば受付カウンター横に素材回収と解体専用カウンターがあるのと、二階が資料室みたいに
開放されてるところ、あとは広い、冒険者の数が多い、くらいかな。
「ここが皇都のギルドかぁ、結構立派じゃねーか。おっ!早速ケモミミっ娘ちゃん発見っ!」
「後にしろ後に。まずはクエスト完了報告するのが先だろ」
早速暴走しかける弘史にストップをかけて、まず先に受付カウンターへ向かおうとしたら…
「おうおう、エラいベッピンな姉ちゃんたち連れてんじゃねぇか」
「ヒュ~ゥ♪しかも獣人に竜人かよっ、コイツはいいなぁ」
「よう、姉ちゃん達、そんな坊主より俺達と一緒に来いよっ、いい思いさせてやるぜぇ、へへっ」
『『『………』』』
…おっとぉ?これはまさかのテンプレか?
如何にも中堅っぽいむさいおっさん冒険者三人が絡んできたぞ。
この国では無いかと思ってたけんだけどな、話聞いた感じだと。
ガルムドゲルンには居なかったし、このタイプは。
「なぁおい、そりゃアタイらに言ってんのか?あ?」
「あー、おチビちゃんには用ねぇなぁ。俺はそっちの巨乳ちゃんがいいねぇー」
「へぇー…アタイは眼中に無いってか……いい度胸してんなぁ、テメェ……」
っと、ヤバいアーネがキレそうだ。
着いて早々騒ぎ起こすとかちょっと勘弁願いたい。
「アーネ、ほら、落ち着けって。どうどう」
「ちょっ、ナオト、止めんなっ…フニャぁっ!」
吹っ掛けられて前に出ようとしてたアーネを後ろから抱き止めて、トラ耳を撫でてやったら可愛らしい声を出した。
なんか風呂の一件以来、普通にスキンシップ出来るようになってしまった気が…こうやってケモミミもふもふするのもサラッと出来てしまう…。
「あぁ?テメェ何俺らの前でイチャついてんだよっ」
「あ、いや、これは大事にならないよう止めてるだけであって、決してイチャついてるわけでは…」
あー、でもアーネのトラ耳の感触が気持ちいい…ちょっと止められないかも。
アーネも何故か大人しく俺にされるがままで全然抵抗してこないし。
「どっからどう見てもイチャついてんだろーが、ったくよぉ…。ほれ、アンタらも行った行った。馬に蹴られて逝きたくはねーだろっ?」
「あぁ?何だテメェは。ヤローに用は無ぇんだよっ」
「おーおー、こっちの冒険者はイキがいいねぇ。けどよぉ、こんなん誰が見たって一発で分かんだろーが、ハーレムだってよぉ。アンタらみたいなヤツが相手にされるわけ無ぇって気付けよっ」
「んだとテメェっ!」
おい弘史、お前が煽ってどうすんだよっ!余計騒ぎになるじゃねぇかっ!
ったく、折角アーネを止めたのに意味無いってのっ。
「君達、落ち着きたまえ。ここでの荒事はいけないよ」
と、一触即発の雰囲気になってたところにまた新手の冒険者が…やって来たのはイケメン剣士?騎士?っぽい奴、綺麗な白鎧に身を包んで如何にも自分の容姿に自信ありげなナルシストタイプ…これもテンプレでよく有りそうな気が。
「んだよ『白憐』の、オメェも邪魔しに来たんかよっ」
「邪魔とは失礼な。穏便に済ませようとしているだけじゃないか」
「穏便も何もそっちが突っ掛かって来なきゃ済んだ話だっての」
「まぁ、君の言いたい事も分かるが…こんな可憐な美少女達を放っておける冒険者など居ないだろう」
まぁ、そこは激しく同意せざるを得ない。
やっぱり誰から見てもそうなんだな…うちの娘達は可愛い、うん。
でもね、そう思うんなら騒ぎの渦中に巻き込まないようにしてほしいんですがね。
「そこでだ。どうだろう、そこに居る美少女達を賭「やりませんよ、絶対」……何故かな?」
「彼女達は物じゃないんです、そんな安安と賭けの対象にするわけ無いでしょう」
「フッ…、ものは言いようだね。さては自信が無いのかな?分かるとも。こう見えて私はハイゴールドランクだからね、無理もない」
「高々上級ってだけでよくそこまで自信持てるな…。俺もハイゴールドだけどアンタが今吹っ掛けてるコイツはプラチナだぜ?」
「「「「なっ!?」」」」
あれ?プラチナってあんまり居ないのか?
ただまぁ俺のは成り行きでプラチナまで引き上げられたんですけどね…。
正規のポイントじゃ、まだハイゴールド?なんじゃないかと。
「えっと、はいこれ。プラチナランク、ガルムドゲルン専属冒険者パーティー、『黒惹華』のリーダーで漂流者のナオトです」
「同じく専属『雷銃』のリーダーで漂流者のヒロシだ。この通りハイゴールドランクだぜ」
「…本当に、プラチナじゃないか……」
「それに専属…しかも、ガルムドゲルンのって……」
「つい先日、『烈華絢蘭』も参戦してたっていう防衛戦の…」
「その時一緒に戦ってた漂流者ってこと、か…?」
「そーゆーこった。分かったんならほれ、さっさと退いてくんね?こっちも忙しいんだよっ」
「「「「「しっ、失礼しましたぁっ!」」」」」
ギルドカード見せたら皆逃げるように去って行った…防衛戦の話は皇都のギルドにも届いてたんだな。
お陰で大事にならずに済んだ、よかったよかった。
「……それでナオトさん、いつまでそうやってるつもりですか?」
「………え?」
あ。
ラナに言われるまで気付かなかった…あまりの心地良さにアーネ抱きっぱで撫でまくりのままだった…。
「ご、ごめんアーネっ、つい撫で心地が良くて…」
「……も、もう…いいのか、よ……」
「あ、うん。ごめんな」
「べ、別に謝ることなんかねーよっ。その、なんだ、止めてくれてありがとよ……」
アーネを離して謝ったら逆にお礼を言われた…しかもなんか嬉しそうにしてるし。
「アーちゃん~良かったねぇ~、ふふっ」
「エラい大人しくしてたやんか、なぁ?」
「………いい、なぁ……アー、ネ…………」
「へへっ、いーだろーっ。めっちゃ気持ち良かったわっ」
「こういう時のアーネは得よね、ナオトさんなら絶対に止めるだろうし」
「アーネちゃんも吹っ切れちゃってまぁ…やっぱりお風呂効果かなー?」
お風呂効果て…まぁ否定は出来ないんですが、俺にも効果あったみたいだし。
アレのせいで普通のスキンシップが軽く思えちゃって、さっきみたいにスッと出来ちゃう。
慣れてきたのかな、これって…。
「おら、イチャイチャタイムは終わりにしろって。早く行こうぜっ、俺だってケモミミっ娘ちゃんをモフモフしてーんだからよっ!」
「…そんな相手がいるといいな…ヒロシ」
「で、ですね……」
「まぁ頑張れ、弘史。んじゃ報告しに行くか」
「見てろよ…ぜってーモノにしてやっからな!待ってろよっケモミミっ娘ちゃん達っ!」
一人気合い入れてる弘史はまぁほっとくとして、完了報告をするため受付カウンターまで進んだら、意外とすんなり窓口まで来れた。
窓口の数が多いから上手い具合に分散されてたってところかな。
ラナみたいな看板受付嬢は居ないんだろうか?
なんて思いながら窓口まで来たら…受付嬢は獣人だった。
なんか俺、獣人に縁があるのかなぁ…。
「冒険者ギルド、グラウデリア本部へよう…」
「「げっ、ラナ!」「あっ、モリー」」
っと、どうやらお知り合いのようで。
でもなんだろ、ちょっと相手がイヤそうな顔してるのは気のせいだろうか…げっ、とか言ってるし。
「なっ、なんで居るのよ!こんなトコロにっ!」
「何でって…冒険者だからに決まってるじゃない」
「アンタ、ガルムドゲルンの受付嬢でしょうが!」
「受付嬢は辞めたよ。今は冒険者なんですー」
「は?辞めたって…」
「ふっふーん、今はこの人と一緒に居たいから冒険者になっちゃったんですー、うふふっ」
そう言って俺の腕を取ってくっついてきたラナ。
明らかにこの受付嬢に見せ付けようとしてる感じで。
「え?ウソでしょ?」
「あなたに嘘言ってどうするのよ」
「だってアンタ、受付嬢になるのが夢だって、嫌っていうほどアタシに言ってきてたじゃない!アンタが受付嬢になるって言うからアタシもこうして受付嬢になったのにっ!」
「え、なんで?」
「なんでって…アンタに負けるわけにはいかないからよっ!」
あ、よく見たらこの娘、猿の獣人じゃないかな、多分。
なるほどね、だからラナに対抗心燃やしてるわけだ、犬猿のって聞いてたし。
けど今はもう冒険者になっちゃったからなぁ…俺のせいで。
まさかこの娘も冒険者になるとか言い出さないよな…?
「相変わらずやなぁモリー。久しぶり、こないなとこで会うとは思わへんかったわ」
「なになに?ラナちゃん達のお知り合い?俺にも紹介してくれよっ!」
シータも知ってるみたいだな、ってことはマールもアーネも知ってるってことか。
それと弘史が張り切りだした…また受付窓口前でナンパとかしだすんじゃないぞ、先にやる事あるんだから。
「あー、コイツはな、モリーンラトゥーアっつって、これでもアタイらと同じ領主の娘だ、猿人族のな」
「ちょっとアーネ!これでもって何よっ!どっからどう見ても姫にしか見えないでしょうがっ!」
いや、受付嬢な時点で全く姫に見えないんですが…ラナとかシータ達もそうだったし。
獣人の感覚がよく分からない…。
「おっ!この娘も姫ちゃんなのかぁ。俺はヒロシ、漂流者だっ、よろしくなっモリーちゃん!」
「えっ!?漂流者だったのっ?ってことはもしかして、ラナのお相手も…」
「ご推察の通り、漂流者のナオトです。よろしく」
「って、何で漂流者が二人もラナのところにいるのよっ!うっきーっ!!」
あ、サルっぽい怒り方。
でも可愛いなぁ、この世界の獣人って皆こうなのかな?それとも俺が出会う獣人がもれなく可愛いのか…それだと相当運がいいって事になるけど。
「まぁ、ヒロシは別のパーティーなんだけどな。それよりモリー、ちゃんと仕事してくんねーか?無駄話しにきたわけじゃねーんだよっ」
「無駄話って、アタシには重大事よっ!これじゃ勝負にならないじゃない!」
「勝負ってぇ…相変わらずぅラーちゃんにぃ~ライバル心剥き出しぃ~だねぇ…」
「あったり前じゃない!犬に負けるとか猿の名折れもいいところだわっ!」
そこまで言っちゃうほどなのか…これ、ラナ達の故郷行ったら領地間でも凄いことになってるんじゃ…。
「えっと、とりあえずこれ、いいかな…?」
「っと、俺のも頼むよっモリーちゃん!」
なんか収まりつきそうに無いから弘史と二人で依頼書を提出してみた。
ずっと窓口専有しちゃうわけにもいかないし。
「…仕方が無いわね、ちゃんと仕事してあげるけど、ラナ!後で話があるからちょっと待ってなさいよねっ!」
「え、いやよ。わたし達この後皇都見て回るんだから」
「そんなの後にしなさいっ!こっちの方が先よっ!」
「いや、仕事の方が先だろっ、いいから早くこれ処理しろってのっ!」
「何よアーネったら、せっかちねっ!全くもう…はいっ終わりっ!」
「って、ハンコ押しただけじゃねーかっ!他にもあるだろっ!ギルドカードの更新とかよっ!」
ざ、雑過ぎる…これが皇都の受付嬢とか大丈夫なのか…?
これでラナと張ろうって思えるところがある意味凄いな…勝負になってないぞ、これどう考えても。
「ああもうめんどくさいわねっ!ほらっ、チャッチャとギルドカード出しなさいよっアンタたち!」
「モリー、受付嬢としてその対応はないんやないか…?」
「めんどくさいぃってぇ~……」
「ははっ!モリーちゃんおもしれーなっ!気に入ったわっ!」
「…どこが気に入ったんだ、ヒロシ…。私には分からないぞ」
「わ、私にもよよ、よく分からない、です…」
弘史のことだからケモミミっ娘なら誰でもいいんじゃないかと。
受付嬢としてはちょっと問題有りだけど、一緒に居ると賑やかになりそうだな、とは思う、モリーは。
とまぁ、皆ブツブツ言いながらギルドカードを出して、それを回収したモリーが、
「更新してくるからそこで大人しく待ってなさいよっアンタたち!」
って言い放って奥に引っ込んでった…。
普段からああいう感じだと、誰もモリーに受付頼まない気が。
ラナがいるからこうなってるんだよな、きっと。
犬と猿かぁ…あまりお近付きにならないようにした方がいいんだろうか?と、ちょっと思ってしまった。
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