異世界漂流者ハーレム奇譚 ─望んでるわけでもなく目指してるわけでもないのに増えていくのは仕様です─

虹音 雪娜

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第四章 皇都グラウデリアへ

#24 魔王の事情

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 何か今、魔王って聞こえたような…聞き間違いか?

「Oh、この身体の記憶は間違っていなかったようダネ。我が見た目もアノ頃と変わってはイナいようダ、HaHaHaッ」

 何か言語翻訳が…片言の外国人みたいに聞こえる、何だこれ。
 まぁ、相手の容姿も外国人、ハリウッド映画の主人公で出てても何の違和感も無い程のハンサムっぷりなんですが。

 って、いやいやそうじゃなくてっ!

「リ、リオ…。今、何て…?」

「コレは失礼、記憶にアる顔を見掛けたのでネ、ツイ声を掛けてしまッタ。我はオーガスト・エア・グランフォード、コの国で男爵位を得てイル。本名をソノまま名字にしているがナ」

 自己紹介してきたけど…本名?それってまさか…。

「そこのリーオルが言った通り、転生先はマグリティア、コチら側ではマーリレンスだったカ、要はコノ大陸の魔王…烈魔王というコトにナってイる」


「「「「「っ!?」」」」」


 やっぱり聞き間違いじゃなかったっ、しかも転生者っ!?
 ってことは、コイツが…ガルムドゲルンを襲わせた張本人なのかっ!?

「テメェが魔王だって?んじゃガルムドゲルンを襲撃させたのはテメェってことかよっ!」

「…言いたいコトはよく分かル。が、少し話を聞いてクレないカ」

「あぁ!?あんな事しといて話もクソもあるかっ!」

 確かに俺もそう思ってる、けど今この場で熱くなるのはよろしくないってのも分かる…弘史のせいで少し周りがざわつき出した。
 お嬢様達もいるし、ここで騒ぎを起こすのはどう考えても得策じゃない。

「…弘史、落ち着け。ここで吠えるのはマズい、ちょっと場所を変えよう」

 弘史も自分のせいで周りから注目を浴びてることに気が付いたらしい、渋々ながらも俺の言うことを聞いてくれた。

「…チッ、わーったよ…」

「話を聞いてくれるのナラ、ドコへでも付いてイコう」

「それじゃ、あっちに移動しよう」

 ホール片面にあるバルコニーの方を指定してこの場にいる全員で移動することに。
 お嬢様達を置いていくわけにもいかないし。

 幸いバルコニーには誰も居なくて俺達だけで話をしても問題無さそうだ。
 内容が内容だから聞かれるのは避けた方がいいだろうしな。


「…んで、どんな話があるってんだよっ。言い訳なんて聞くつもりは無ぇぞっ!」

「だから少し落ち着けって弘史。魔王だけど俺達と同じ漂流者なんだ、話を聞いてみないと」

「Hum…そちらの御仁はワリと冷静だナ」

「…そうでもない。こういう場でなければ弘史と同じように突っ掛かってるさ」

 この場だから何とか抑えられてるだけだ。
 ガルムドゲルンの人達を危険に晒しといて冷静でいられるわけがない。

「ソウか…そうダナ。では冷静でいられている今のウチに話すコトとしよウ。マズは…あの街を襲わせた理由からカ」

「理由だ?見境無く平気で襲わせてただけだろーがっ!」

「…それナラ何故あの街が襲われタ?他の街では無ク」

「…そういえば確か、他の街には見向きもしなかったって聞いたな…。お前の指示か?それも」

 あの緊急依頼が出た時、確か隣街のゲリッツバルムからの情報だって言ってたよな…見境無く襲撃するんならどこの街でもいいはずなのに。

「そうダ。先遣隊を潰すホドの手練がイるのナラ、ナンとかしてくれルだろうト」

「先遣隊?」

「各都市に放ってイたのダよ。襲撃に耐えられソウな街を探すためニ。二人共我と同じ転生者なのダロウ?どちらかが潰したハズだが?ギガントゴブリンを」

「っ!?ギガントゴブリンって…まさかっ!」

 ガバッと勢い良くひぃとティシャの方を向く。
 あの時二人が襲われてたのが…先遣隊ってことなの…か?
 この二人をあんな目に合わせた奴が、今、目の前に居る…そう思った瞬間、頭に血が上り怒りのまま振り上げた拳が魔王の顔面に吸い込まれ…ることはなかった。
 何故なら二人の女性に止められたから。

「………」

 一人は俺と魔王の間に無言で割って入った魔王の連れの女性、そしてもう一人は…俺の振り上げた腕に自分の腕を絡ませて必死にしがみついてきたマールだった。

「ナオちゃんっ、ダメっ!」

「マールっ、なんでっ!コイツは二人を…っ!」

「その二人の前だからだよっ!」

「っ!?」

「ナオちゃんのそんな姿を二人に見せちゃダメっ!」

「くっ…」

 マールの言うことも分かる、分かるけど…それでも俺はあの時の二人の顔が忘れられないんだよっ!
 二人をあんな怖い目に合わせたヤツが同じ漂流者だって時点でもう許せるわけがないっ!

「…潰シた理由はナンだ?」

「この二人が襲われてたんだよっ!そのギガントゴブリンになっ!」

「…ソウか…。我の配下ニは出来ても、本能まデ支配するコトは出来ぬカラな…。そこマデ支配すると使い物にならなくナるのデな。そこノお嬢さん達にハ悪いことをしタ…」

「…テメェは一体何がしてーんだよっ」

「魔王に転生シた以上、魔王としてヤルべき事をやってイルというスタンスを見せなけレバならんノダよ…かなリ不本意ダがな」

「んだよそれ、どーゆーコトかちゃんと説明しろっ」

 何か変だな…やりたくてやってるわけじゃないのか…?
 普通に謝ってるし不本意とか言ってるし。

「コの世界での魔王の役割はナ、負の感情を集めルこトなのだヨ」

「負の感情…絶望とか恐怖か。なんの為にそんなものを」

「…魔統皇の完全復活のタメに」

「っ!?魔統皇は勇者達が倒したんじゃないのかっ!」

 リオの話では倒したことになってたはず…いや、でもこうして魔王がいるってことは、復活させることも出来るってことなのか…?

「この身体の記憶でハそうなってイルな。だが我が転生してキた時にはもう復活シテいた」

「………そん、な……………」

 リオもそんな事になってるとは思ってなかったみたいだ。
 そりゃそうだよな、苦労して倒したはずなのに、また同じ事が繰り返されようとしてるなんて、考えたくも無いだろう。

「その魔統皇かラノ命令で、完全復活のたメに負の感情を集メなければナらんのダが…我はそんなコトしたくもナイ」

「したくないって、なんで…」

「決まっているダロう、我が最愛の娘を危険に晒すようなコトなど、ヤリたくもナいわっ!」


 ………は?娘?って、その娘か…。
 さっきから魔王の後ろに隠れて少しビクビクしてる、魔王と似たような小さ目の巻角生やしたちっちゃい娘…長いサラサラした銀髪でお人形さんみたいだ。
 
 
「コノ娘はな、我が転生しテきた時に出会ってな…。ソれ以来、我が娘として寄り添いあっテきたのダヨ。この国の爵位を得たノも我が娘のタメだ」


「「「「「………」」」」」


「我は運が良かっタのだよ、コの大陸の魔王に転生したノダからな。他の大陸はヒドいものだ、殆どが魔統皇の命令ニ従っていル。まぁ、上手くイってはいナイようだガな」

「……その話が本当なら、失敗前提でガルムドゲルンに向かわせたってことなのか…?」

「そうダと言ってイる。そんなコトをしなくてもイイのならそうしタいのだガな…魔王とイう立場上、やらザルを得ないノだよ…ソの点は済まないト思っていル」

 この魔王にも事情があって仕方無くやらなきゃいけないってことなのか…魔統皇に従ってるフリをして。
 うぅ…何か複雑だ……。
 感情的には許せない部分があるんだけど、こうして話を聞いてしまうと、どうしようもないって思ってしまう部分もあって、しかもその娘の為になんだよな…。

 どうやら話を聞いてた皆もそんな感じみたいで、どうしたらいいのか、何を言えばいいのか分からないみたいだ。

 と、そんな中で行動を起こしたのは、ひぃだった。
 さっき子供達同士交流してた時と同じように何も変わらず、前に出て来て普段通り魔王の娘に話し掛けるひぃ。


「ごきげんようっ、わたしはヒーナリナリィ・ルナ・リリエンノルン、あなたのお名前は?」

「…わたシは、フィオレスフィーナ・エア・グランフォード…。ミんな、フィオってよぶヨ」

「フィオねっ、わたしはヒナリィってみんなよぶよーっ。よろしくね、フィオ!」

「…よろシく、ヒナリィ……」


 …唐突に子供達の挨拶が始まり、ひぃはニコニコしながら、フィオっていう魔王の娘ははにかみながら、二人で握手をした。

「…えっと……ひぃ?」

「なにー?ナーくん」

「今の話聞いてたんだよ、ね…」

「聞いてたけど…むずかしくてよく分からなかったーっ」


 ガクッ。
 分からなかったって…その娘が魔王の娘ってのはいくら何でも分かるでしょ?

「ふふっ、ヒナちゃん~らしいねぇ~。お友達にぃなりたかったのぉかなぁ~?」

「うんっ!だってフィオ、すっごくかわいいんだもんっ。髪もキレイだし!」

「…ありガトう、ヒナリィ。ヒナリィも、カワいいよ…」

「えへへっ、ありがと、フィオっ。わたしとお友だちになってくれる?」

「…ワタしと、友だちにナッてくれる…ノ?」

「うんっ!いっしょにおはなししたり、あそんだりしよーっ」

「…(コクっ。いっしょに、おはなししたい…ナ」

 ひぃが持ち前の人懐っこさで魔王の娘を取り込んでしまった…これはもうどうしようもないな。
 こんなの目の前にして大人が言い争うとか無いわ。

「我が娘と、友達になっテくれるのカ?お嬢さん」

「うんっ!」

「ソウか…。ありがとウ」

 魔王も魔王でそんな嬉しそうな顔して…。
 これは完全にひぃが流れ持ってっちゃったな。

 もうやめやめ、いろいろ思うところはあるけど、ここはひぃ達に従うしかないや、そもそも付き添いだしな、俺達は。
 お嬢様達の好きにさせましょうってことで。


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