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第四章 皇都グラウデリアへ
#36 俺の価値観を悉く覆す娘達
しおりを挟む賑やかで楽しい夕食も終わって、今は食後のティータイム中。
夕食が美味しすぎて少し食べ過ぎた感があるけど、お腹も胸もいっぱいです、お茶が染み渡る。
「ふぅ…美味しかったなぁ。これからこんな食事が出来るのか…」
「ふふっ、お粗末さまや。喜んでもらえたみたいで何よりやわ」
「あの、シータお姉さま…」
「ん?どないした?ティシャ」
「その、よろしければ、わたくしにもお料理を教えてくださいませんか?わたくしも、ナオトお兄さまをよろこばせてさしあげたいです…」
「なんや、そないなことか。ええよ、もちろん。ほな家にいる時は一緒にやろか」
「あっ、ありがとうございますっ。よろしくおねがいしますっ」
ティシャまで俺の為に…。
丁度いい、少し皆と話そう、前々から思ってた事とか、これからの事とか。
「なぁみんな、ちょっといいか?少し話したいんだけど」
「んだよ、そんな改まって」
「いや、前々から聞きたかったんだけど…みんな俺のどこがいいのかなって。こうしてこんな可愛い娘達に囲まれてるのが、まだちょっと信じられないというか…」
俺が改まったせいで何事かと思ったのか、皆がそれぞれ顔を見合わせてたけど、内容を聞いてなんだそんなことかって雰囲気になった…俺にとっては結構大事な話なんだけど。
その質問にまずはファルから答えてくれた。
「私は…それなりに漂流者の方達を担当していますが、ナオト様はやっぱりちょっと違って…その、柔らかい雰囲気がとても好ましく……」
柔らかいっていうか、物腰が低いだけだと思うんだけど…一応自分なりに礼儀だけはちゃんとしようとしてるだけで。
「わたしも最初はそうでしたね。あとはやっぱり困ってたわたしを助けてくれたことが嬉しかったです…」
いや、あれも結果的にそうなったってだけで、助けてやるぜっ!って勢い勇んでいったわけじゃないし…。
「ワタシはもう最初っからよ。前にも言ったけど、こんな身体でも普通に受け入れてくれたところねっ」
それだって、ちっちゃいけどちゃんと働いてるんだから普通に接するのは当然というか。
「ウチもラナと同じで困ってたとこに救いの手を差し伸べてくれたとこやな。あとは、その…あの夜カッコええとこ見せてもろて、一目惚れってとこや……」
え、アレで?ただこの身体を確かめるために運動してみたってレベルなんだけど…。
「私もぉ同じぃだねぇ~。それにぃ、ナオちゃんはぁ~こんなぁ私でもぉ変わらず~接してぇくれるしぃねぇ~」
「そりゃアタイもだな。手が早ぇだの口が悪ぃだの散々言われてきたけどよ、なーんにも気にしねぇで普通に絡んできやがって」
それはまぁ、二人共特徴的だけどただそれだけだし、至って普通の可愛い女の娘なんですが…俺からしたら。
「わたしはシーちゃん達と…っていうかマーちゃんと普通に絡めてる時点で凄いとは思ってたけど、やっぱりあんな風に助けられちゃったら…ねっ」
「ウェナちゃぁんん?」
「あーっ!アハハ……」
「私も…。あの時のナオト様が今でも目に焼き付いて離れません……」
あー、うん、あれは…自分でも気になってどうしようもなかったから……。
でもそれのおかげで二人と優里香さんを間一髪救い出すことが出来たからな…。
同じ漂流者なんだけど、そこはやっぱり関係ないのか…。
「わたしもナーくんに助けてもらった時のことおぼえてるよーっ。ナーくん、強くてーカッコよかったーっ!」
「わたくしも、あの時のナオトお兄さまは忘れられません…。それに、おやさしいところが、その…」
「大好きっ!」
「…はい、す、好きです……」
…あぁ……この二人にここまで慕われるとは思ってなかったけど、こうして言われると感無量だな…。
あの時、間に合って本当によかった…。
「……マスター、に……初、めて…魔力を、貰った…時………ケンゴ、とコウ、キを……思い、出し…た………。……だけ、ど………マス、ターの…魔力、は………二人より、も……もっと………温かく、て…優しかっ、た…の…………」
魔力の質なんて俺には分からないけど、リオにはそう感じられるのか…漂流者特有の何かってところなのかな。
皆それぞれ思う所があって気に入ってくれてるみたいなのは嬉しいんだけど、それでもやっぱりこう、複数人からの好意に対して俺はどうしたらいいのかと…。
元の世界では気が多いのはあまりよろしくはなかっただろうし、結婚してたら尚更だし…。
まぁ、俺が知らないだけで実際にはいろんな形があったとは思うから、元の世界でもハーレムとか作ってる人だっていただろうし。
複数人相手でも養える財力あってこそだとは思うけど、一般人の俺には全く関わりない話なのは確か。
そんな世界から放り込まれて、こうやって好意を寄せてくれる相手がいきなりこんなに現れて…下手に歳いってるから余計戸惑う。
若い男だったら何も考えずに来る者拒まずって感じだったんだろうな…あんな常識広めるくらいだし。
夢や幻想…では無いんだよな……実際今目の前に居るし、触れる事だって出来るし、俺の妄想ってわけでもないらしい。
これ、どう応えたらいいんだろうか…称号のせいで離すわけにもいかないし、そんな無責任なことはしたくない。
正直離したくないし、何かもうこのままでいいような気もしてきたぞ…。
「そっか…。うん、みんなが俺の事どう思ってるのか分かった…けど、俺、どうしたらいいのかまだちょっと整理がつかなくて……」
「どうもこうもナオの好きなようにしたらええやん。それだけやろ?」
「そうねー。ただそれだけの話だと思うんだけど、それじゃダメなの?」
「ダメっていうか…あ、いや、そうだな。ダメだろうって思ってる部分があるよ。複数人との関係なんて相手に失礼だろうって」
「…?それのどこが失礼なんですかー?」
「仮にそういう好意を複数受けた場合、俺のいた世界では一人を選ぶのが普通だったんだよ、一般的にね。俺が知らないだけで例外はあるだろうけど、大多数はそうだと思ってる。だから複数の相手に対してそういう好意を持つのは、気が多いってことでよく思われないことが多いんだよ…浮ついた感じで」
こっちの世界で浮気っていう概念はあるんだろうか?
どうも皆を見てると気が多いのは別に悪い事じゃないように見えるんだよな…何て言うか、独占欲とか嫉妬心みたいものが薄い感じがして、そこも違和感の一つなんだけど…。
「あぁ~、それでぇ~。同じようにぃ相手のことを~想うのはぁそれぞれの相手にぃ悪い事してるってぇ~感じにぃなるのねぇ~」
「ふぅーん、それでナオトはそんな風になってるってわけねー」
「その状況は相手の方達もよく思われていないのでしょうか?」
「そこもまぁ、人によるだろうけど…奪い合いになったり、相手のこと妬んだり、そういうのも割とあるんじゃないかな…。みんなってそういうの無いの?ちょっと自分で言うのはなんだけど、俺の事独占したいとか、他の人より構って欲しいとか…」
「そうですね…無いことは無いと思いますけど、相手を押し退けてまでそうしようとかは思わないですね」
「そりゃ、あんま構ってくれねーと拗ねたりはすっけどよ…んなの自分のせいだって分かりきってるしな、ソイツより魅力が足りねーんだろって」
「結局のところ、やっぱりみんな自分のやりたいようにしてるだけかなーって。多分この中でしてないのお兄さんだけですよ?」
「……マスター、は……もっと…自由に、して……いい、と…思う…………」
「むずかしいことはよく分かりませんが…ナオトお兄さまが、何かをがまんしているのだけは分かります」
「そうなの?よく分かんないけど、ナーくんはお姉ちゃんたちともっと仲よくした方がいいよー、わたしにしてるみたいにっ」
…弘史の言った通り、俺の頭の固さが悪いというか、元の世界の常識を拭えないのが悪いというか…みんなと話してるとそんな気がしてくる。
俺のしたいようにしても、みんなは大丈夫なんだってこと…?
「つまりはあれね?ナオトがワタシ達の誰かにしたいようにすると、他の誰かを傷付けちゃうとか悲しませちゃうとか、そう思えちゃうわけね」
「それが一般的な世界にいたからね…。そもそも不特定多数とこういう関係になること事態、俺にはほぼありえなかったし……そういうのはイケメンだけって認識だったよ」
「ハッ!顔がいいだけで相手選ぶとか、アタイからしたら生きる気あんのかって思っちまうわ。ま、そんだけ平和なんだったっけか、ナオトがいた世界はよ」
「まぁね…。一番怖いのは人間だったよ。ファルやウェナは分かると思うけど……」
「「………」」
「俺はたまたまこの世界に放り込まれて、やり直すチャンスだと思って生きていこうって決めたから…自分の好きなように生きてきた結果だけはなぞりたくないんだよ。また一人になるのは御免だし…」
一人は確かに楽なんだけど、無性に寂しくて人肌が恋しくなる時があって…自ら関わりを断つような生き方してたくせに、何でそんな風に思うのかわけが分からなかった。
そんな自分勝手な都合に振り回されるのも嫌だったから、今度はちゃんと人と関わって生きていこうって。
だからこそ、想定してなかったこの状況はどうするのが正解なのか、考えても答えが見えてこないし、考える事を放棄して好きなようにしたら、皆が離れていってまた一人になるのが目に見えてたし…。
我慢っていってもそれほど我慢はしてない…ってわけでもないか。
あればっかりはどうにもならないし、だからこんなに悩んでるわけで…ぶっちゃけもうこうなった以上、ここにいる誰にも嫌われて離れていってほしくないと思ってるからな…それだけ俺も皆の事気に入ってるってことなんだと思う。
「はぁ…。変なとこ気にするのねぇ、ナオトって。どうりでワタシ達から寄ってっても何もしてこないわけだー」
「まぁ、ナオはそういう人やっちゅーのは何となく分かっとったけど…」
「けどまぁ、別にいいんじゃねぇの?今すぐ考え改めろなんて無茶は言わねーよ。ナオトの思った通りにやれよ。アタイらはアタイらでやりたいようにすっからよ」
「そうね、ゆっくりでもナオトさんともっと親密になれればそれでいいし」
「私もぉ~それでぇいいんじゃないかなぁ~ってぇ~」
「……わたし、には……何、も………遠慮は…いら、ない……よ………?………」
「わたしも、もっとお兄さんと仲良くなりたいから、やりたいようにしまーっす!」
「皆様がそうなのでしたら…私も遠慮は必要なさそうですね。ふふっ」
「ティシャとヒナリィは今まで通りナオに甘えとき?ナオもそれで喜ぶんやから」
「うんっ!そうするーっ」
「ナオトお兄さまが、それでよろこんでくださるなら…」
えっと…つまり、今まで通りでいいってこと?
特に今すぐどうにかしなきゃいけないことは無い、と。
今話してた感じだと、よっぽどのことしない限りは俺の側に居てくれるってことだよな…。
本当に俺が知ってる常識や価値観が合わないんだなと実感させられる。
「みんなはこれで何も問題は無いってこと?」
「そーだなぁ…。ナオトがアタイらと距離おいてる感じすんのが一番問題じゃねーの?」
「「「「うんうん」」」」
「………」
何ていうか、その、どんとこーいっ、みたいな感じに押され気味なだけで、決して距離をおいてるわけじゃないんだよ…まぁ、ひぃやティシャの手前、そっち方面には距離をおかざるを得ないんだけど。
けど、それ以外、この状態はホント何も問題だとは思ってないのね…問題だと思ってるのは俺だけ、か。
ホントこの娘達ときたら…もう完全に俺の知らない生き物だな。
でもこれで何となく分かった気がする、これからどうやっていけばいいのか…別に急がなくても、ゆっくり俺が慣らしていけばいいんじゃないかって。
こうして運良く家も手に入れることが出来たし、ぼちぼちやっていくか…皆と一緒に。
「うん、分かった。それじゃこれからここで皆と一緒に楽しくやっていくことにするよ。俺なりに…ね」
「それでいいって言ってたつもりだったんだけどねー、態度でも」
「まぁ、そんなすぐには無理やったんやろ、ナオにはな」
「そこもナオト様らしいといいますか、他の漂流者の方達と違って好感が持てますよ、私は」
「それもそうか。あんましがっつかれても困るしなぁ」
「がっつくって…人を獣みたいに言わないでくれよ」
「実際そういう人が多いですからね。現に隣の家にもいますし」
「あぁ~、うん~居るねぇ~。モリーちゃん大丈夫かなぁ~?」
「モリーなら大丈夫やろ、多分な」
弘史はどうなんだろ…こうやって俺と同じように家持っちゃったんだから、俺と違って好き放題やりそうなんだけど。
ま、相手がモリーだと一筋縄じゃいかない気もするけどさ。
「他に何かある?聞きたいこと」
「いや、とりあえず大丈夫…かな」
「そ。ならワタシ達の荷物部屋に運んでもらっていい?」
あ、そっか、帰って来てすぐ夕食にしたから3人の荷物は俺の収納に入れっぱなしか。
「了解、んじゃ行こうか。それが終わったら…ひぃ、ティシャ、一緒に風呂入ろうか」
「うんっ!入るー!」
「あ、はいっ。またナオトお兄さまのおせなかおながししますねっ」
「なんや、ヒナリィとティシャだけか?」
「そうだけど…?」
「?お姉ちゃんたちもいっしょじゃないのー?」
「だよなー。ヒナリィは分かってんじゃん」
それは…確かに全員余裕で入れる広さだけどさ、やっぱり皆も一緒に入りたいの…?
「…なに、みんな一緒に入りたいわけ…?」
「…駄目なんですか?ナオトさん……」
そこでシュンとしないでください、ラナさんや。
そんなシュンとするほどの事なの…?
「お兄さんが言わなくてもわたし達のやりたいようにしちゃいますけどねー。だから結局一緒だと思いますよ?」
「……(コクコクっ………」
まぁ、俺が誘わなくても結構な勢いで頷いてる娘が入ってくるだろうなーとは思ってますけど。
ひぃ達と一緒になって背中を、うん、背中だけじゃなく全身を隈無く洗ってくれそうだ。
「ハァ…。分かりましたよ、皆の好きなようにしてくれ。とりあえず荷物置きにいこう」
どうせここで反対したって誰も止める人はいないだろうし、俺がひぃやティシャの前で変な気起こさなきゃいいだけの話なんだから、もう皆の好きなようにさせることにして、一先ず3人の荷物を片付けることにした。
…一度強襲されてるから大丈夫だろうって高を括ってた俺は馬鹿なんだろう、と思い知らされることにはなるんですが。
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