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第五章 姫達の郷帰りと今代の勇者達
#20 騎乗竜
しおりを挟む「よし、これくらい離れれば大丈夫か。それじゃリオ、よろしく」
「……(コクコクっ……。……竜、変化…………」
ツヴァルトゲインで十分な休息というか、柔らかいベッドで気持ちいい睡眠を取った翌日、早速街を出てある程度離れた場所までやって来た。
いよいよリオの出番ってことでお願いしたら、待ってましたと言わんばかりに竜化してくれて、眼前に薄紅色のドラゴンが現れる。
うん、やっぱりいつ見てもカッコいいっ。
「しっかしバトってる時遠目に見たことあるけどよ…カッケェな、やっぱ」
「そそ、そうです、ね。そ、それにと、とってもきき、綺麗、です…」
「トモミに同感だな。見事としか言いようが無い」
「……あり、がとう………」
リオの姿に弘史達が賛辞を送ってる。
リオも褒められて満更でもなさそうだ。
ドラゴンの時の方が表情分かりやすいっていう。
これ、誰が見てもそう思うなら、そんなに人目気にすることも無かったか?
まぁ、リオの事知ってるからってのもあるだろうから、その辺は今まで通りでいいか。
「リオー、ホントにアタシ達まで乗ってもいいのっ?」
「……もちろ、ん………」
「サンキューな、リオちゃんっ。んじゃ遠慮なく乗せてもらうぜっ!」
「あ、ありがとうリ、リオちゃんっ」
「貴重な体験だ、存分に堪能させてもらおう。ありがとう、リオ」
雷銃のメンバーも楽しみにしてくれてるみたいだ…が、ちょっと待て弘史、俺達より先に乗ろうとするんじゃないっ、俺達だって初めて乗るんだよっ!
「弘史待てっ!俺達が先だっ!」
「ん?何でだよ?別に順番なんてどーでもいいだろ?」
「ダメですヒロシさんっ、わたし達だって初めて乗るんですから、リオにっ!」
「へぇ…そーなんか…。んじゃ俺が一番乗「「ふざけんなっ!!」」……ジョーダンだ、ジョーダン。んなムキになるなっての」
お前がやると冗談に見えないんだよっ。
俺とアーネが力技で止めに入るところだったわっ。
ったくコイツは…油断も隙もあったもんじゃない、っていうかリオは俺達のメンバーなんだからこっちが先に乗ってからにしないかっ普通はっ。
それにリオは俺の嫁なんだから少しは気を遣えっ!竜化してたとしてもっ。
「んじゃほれ、早く乗れよ。モタモタしてっと先に乗っちまうぜー」
「分かったからヤメろっ。ったくお前は…」
本当に乗りそうだからとっとと乗ることにした…初めてなんだからもうちょっとこう、感動を味わいたかったのにコイツのせいで台無しだ。
リオが皆乗りやすいように体勢を低くして、それと尻尾をくるっと巻いて螺旋階段みたいにしてくれた。
なんか慣れてるな…まぁ、勇者達を乗せてたくらいだし当然か。
俺が初めて乗せる人ってわけじゃないもんな。
…別にそんな、リオの初めてになりたかったとか、そんなコトは思ってない、うん、思ってないです…。
尻尾からくるくる上って行くと広々とした背が目の前に広がってきた。
ただ、一箇所だけ少し周りと違う、竜鱗が滑らかそうな場所が背の中央辺りにあった。
もしかして、そこが乗るポイントってことなのかな?
何気無くそこに向かうと、思った通りゴツゴツした感じが少なく、寧ろ若干柔らかい感じで、これなら座っても全然負担は掛からないような気がする。
他の皆も俺に付いて上って来てて、俺の向かった先まで一緒にやって来た。
「おぉ?ここだけ何か周りと違わね?」
「そうね、ちょっと柔らかい気が…。リオ、ここに乗ればいいの?」
「……うん………そこ、で…………」
「リーちゃん~、嬉しそうなぁ声にぃ~なってるよぉ~?ふふっ」
「そんなに乗ってほしかったんか、リオ」
「……そうだ、よ………」
乗る方だけじゃなくて乗せる方も楽しみにしてたとか、心底乗せるのが好きらしいリオ。
何でそこまで好きなのか…やっぱり勇者達のせいなんだろうか?
何だろ?理由が知りたい気もするんだけど、聞きたくないような気も…何でこんなにモヤるんだ。
いかんいかん、せっかくの空の旅なんだ、余計な事は考えないで思いっ切り楽しまないと。
「………」
「なに?わたしもリオお姉ちゃんと一緒に飛びたいって?人化したまま飛べるのか?イアは」
「………」
「飛べるけど多分追い付けない、か。まぁリオ速そうだもんな」
「………」
「獣化したら大丈夫だと思うけど獣化したくないって…どんだけイヤなんだよ……」
リオが竜化したから俺に抱っこされてるイアが俺の顔を覗き込んで無言で訴えてる。
何故か顔見ただけで言いたい事が分かってしまうという謎仕様…念話ってわけでもない。
しかしなんでそこまで獣化嫌がるのかと。
元々獣なんだぞオマエらは。
「………」
「可愛くしてもらったから?いや、オマエら最初から嫌がってただろ…」
ラナに抱っこしてもらってるランまでラナごと寄ってきて話に突っ込んできた。
人化とか設定勝手に変えられて忠実な従者とかどっか行っちまって、もうホント可愛いだけになってますね、オマエ様方。
弘史達も来て、全員騎乗ポイントに揃ったところでリオが身体を少し起こし、竜翼を広げて飛ぶ態勢に入った。
数回程ゆっくり羽ばたくと、俺達を乗せたまま地上を離れていく。
ある程度の高度まで来た所で本格的に竜翼を羽ばたかせ、滑るように前方へ進んでいった。
「うぉっ、高ぇっ!ホントに空飛んでるぜアタイらっ!」
「わぁーっ!凄いっ、景色が全然違うっ!」
「ええなっ、これ!」
「風がぁ~気持ちいいぃねぇ~っ!」
徐々に高度とスピードが上がってきてる筈なのに、受ける抵抗が殆ど無い。
マールと同じで心地良く感じるくらい。
この騎乗ポイントといい、風や重力の抵抗が軽減されてるのはリオのスキル、騎乗保護ってやつのおかげか。
外気に晒されてるのにこの快適さ、これは病みつきになりそうだ。
「ドラゴンに乗るってだけでも俺達漂流者からしたらあり得ねーってのに、こんなに快適だと俺も欲しくなっちまうなぁ」
「リオはダメだぞっ」
「バーカ、んなこと言うかよ。なぁリオちゃん、知り合いでドラゴンになれる娘いねえ?」
「………今、は……分から、ない………」
弘史がまた変な事言い出した…竜化出来る竜人を仲間に、というか多分ハーレムに加えたいんだろう。
コイツのことだからリオを引き抜こうとか言い出すかも、と思わず否定してやったらそんなことは無かった。
俺の騎乗竜になってるし、まぁそれ以前に俺のハーレムに入ってるから大丈夫なはずなんだけど、何となく勢いで反論してしまった。
リオはずっと洞窟に居たんだから、知り合いが今どうなってるかなんて分かるはずないよな…そう考えたら先にリオの故郷へ行くべきだったんじゃ?
リオからもこれといって何も言ってこなかったし、特に気にせず連れ回しちゃってたな…。
「なぁリオ、リオは故郷に戻りたいとかないのか?」
「………今は…みんな、と……マスター、と…いる、方が……楽し、い……から…………」
「…そっか」
「ま、その内行くだろ?だったらそれでいいんじゃねぇの?」
「……それ、で……いい……よ………」
「その時はもちろんウチらも一緒やからな」
「そうだぁねぇ~。またぁこうやってぇ~リーちゃんにぃ乗せてぇもらいたいぃなぁ~、ふふっ」
「………うん……また…乗って……もら、う………」
今まさに乗ってる最中なのに次に乗せてもらう約束してる。
皆よっぽど気に入ったってことだろうな。
俺も最初は一回乗せてもらえればいいと思ってたけど、こんなに快適で素敵な空の旅ならまたしたいと考えを改めてしまった。
リオも喜んでくれてるみたいだし、それならいろんな所へ連れてってもらおうか。
まずはこの大陸制覇しちゃおうかな、転移でいつでもどこでも行けるようにしておきたい。
「んじゃその時俺らも連れてってくんね?」
「ひ、弘史さん…そそ、それはちょ、ちょっと……」
「いくら何でも図々し過ぎないか、それは」
「いいじゃないのっ、アタシは付いていくわよっ」
「モリー、わたしが行くからでしょ、それ……」
「当ったり前じゃないっ!」
ラナ大好きっ娘のモリーは何が何でも付いてくるらしい。
リオがいいって言うなら別に構わないけど、まず間違い無くいいって言うだろうな…こんなに乗せるのが大好きなら。
「……マスター、が…いい、って……言うな、ら……」
「え?俺なの?そこ」
「……マス、ター…に……従う、のは……当然…………」
「いや、だから主従じゃないって…」
「んじゃ決まりなっ。尚斗、よろしく頼むわ」
「お前なに勝手に決めてんだよ…」
「んなの尚斗が断るわけねーって分かり切ってるからだっての」
そりゃまぁ俺から断る理由は無いけどさ…リオがいいって言うならって思ってたから俺に決定権が来るとは予想外だったわけで。
リオはどうしても主従がいいらしいし…本気で俺をマスターにしたいんだな、どうあっても。
けどダメです、俺的にそれは意地でも認められません、ランとイアだって俺の中でもう主従外れちゃってるし、皆対等でいきたいんですよ。
「リオの主従は置いといて、まぁ弘史の言う通りか…断る理由もないし」
「ほらな。そんじゃ行く時ちゃんと声掛けろよ」
「気が早いって…これから行く所が先だってのに」
「ま、そうだけどよ。こーゆーのは忘れねぇうちに言っとくもんだ。ってことでいいよな?お前らも」
「強引だなヒロシは…」
「すす、すみません、尚斗、さん……」
「いや、大丈夫だよ、知美ちゃん。元々リオがいいならいいよって思ってたし」
「リオが断るわけないじゃないっ、こうやってアタシ達を乗せてくれたんだしっ」
はい、そうですね。
この話が出た時点で決定でした。
とりあえず何時になるか分からない先の話だから、今はまず勇者と姫達のこと優先で。
こうして皆で話ながら快適な空の旅を楽しんでたら…竜背連峰の向こうに一面緑の海が広がってるような景色が目に入ってきた。
ここが姫達の故郷、そして勇者達がいる獣人達の国か…よし、そろそろちょっとだけ気を引き締めとこう、何が来ても大丈夫なように。
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