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第五章 姫達の郷帰りと今代の勇者達
#27 そして始まる…
しおりを挟む食堂へ着くと既にテーブル上にはいろんな料理が大皿で乗せられていて、美味しそうな香りをこの部屋に充満させている。
見たところ椅子が無いから立食形式みたいだ。
この人数で飲み食いするなら丁度いいだろうな。
「うっひょーっ!こいつぁ豪華じゃねーかっロゼっ!」
「わぁ…すごいです、シータお姉さまっ」
「ホンマやな、これは中々…。ちょっとウチも負けてられへんなぁ。ティシャ、出来るだけ味覚えとき、それも修行のうちやからな」
「はいっ」
「喜んでもらえたみたいでよかったわ。ガズに話を聞いてからちょっと気合い入れて準備してたのよねっ」
「いや、ホント美味そうだな…こんなご馳走向こうでも見た事無ぇわ……」
「わわ、私も、です…」
「(…こんなの見ちまったらダメだな、もう……)……ルドさんよ、ちょっといいか」
「…?ひ、弘史さん…?」
イーナさんと、それにティシャ、シータが目の前の料理の数々に反応してる。
シータなんか何故かやる気出してる…帰ってからこの料理を再現でもするつもりなんだろうか。
ロゼさん達はガズのおっさんが急いで戻って行ったって言ってたから、こういう準備の為だったんだろう。
でも、他にも連れて来て人数増やしたはずなのに料理の量も対応出来てるみたいなんだけど…その辺りもガズのおっさんに聞いてたのかな…?
あと弘史が何やら神妙な顔してルドさんを連れていった、食堂の隅の方へ。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
「どうした?ヒロシ」
「その、なんだ…俺ら関係無いってのは分かってんだけどよ…もう一人連れて来てもいいか…?」
「…そうか、ヒロシも漂流者だし転移が使えるのか」
「一応、な。まだレベル低いから一気に飛ぶのはムリだろうし、せいぜい一人連れてくるのが限界だと思うんだけどな」
「それでどうしてもこの場に連れてきたい人がいる、と」
「…こんなん見ちまったらな…アイツも一緒に入れてやりてぇなって」
「そうかそうか。いや、何も遠慮することはないさ、是非連れて来てくれ。関係無いとかそんな寂しいことは言うなよ、もうこうして一緒にいるんだ。それに…ダイはヒロシの事を気に入ったみたいだしな」
「…分かった。んじゃ連れてくるわ。サンキューなっ」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
ルドさんはすぐこっちに戻って来たけど、弘史は一人食堂から出て行った…あれか、トイレの場所でも聞いてたのか?
「しっかしこんな豪勢なもの出してくれるなんて…やっぱラナってお嬢様だったのな」
「ちょっとファミー、それは失礼じゃないのーっ」
「大丈夫よミオンちゃんっ、ラナ含め姫ちゃん達は最初っからそんなこと気にしてなかったからねー」
「お嬢様らしくねぇのなんて端っから自覚してるしな」
「アーちゃんは特にねーっ、アハッ」
「うっせーウェナっ!」
これだけの料理、確かに早々出せるものじゃないだろうから、良い所のお嬢様だって認識させられるのは分かるけど…本人達からは微塵も感じられないっていう。
思えば俺も最初に会った時からそうだったしなぁ。
そもそも良い所のお嬢様方が冒険者や受付嬢やってるなんて…まぁそれ以前にやっぱり本人達からそういう気品というか態度というか雰囲気が全く見えないってのがなんとも。
いや、決して悪いとかダメとかこれっぽっちも思ってませんから、今のままの彼女達がいいんです、本当。
「私達もご一緒して本当によろしいのでしょうか…」
「エマ達ももうナオト様の相手なのだから、遠慮することはないだろう。私は別だが」
「僕もだよ…連れて来てもらったのは嬉しいんだけど、場違い感が…」
「みんな気にし過ぎだよー。せっかくこんなに凄い料理用意してくれたのにー」
「ふふっ。そうよ、遠慮なんかしないでっ。頑張ったかいがあったかしらね。それに今回は強力な助っ人もいたのよっ」
「自分の子供達を当然のように助っ人扱いしないでほしいんだけど…」
「本当よ、いつも便利に扱われてるとしか思えないんだけどっ。まぁ、今日は可愛い妹のためだから頑張ったけどねっ」
「シル兄さんっ、プル姉さん!」
エマ達やセヴァル、カッツがちょっと遠慮気味になってるところへ、大皿を片手ずつで運びながら会話に混ざってきた二人、どうやらラナのお兄さんとお姉さんらしい。
ロゼさんに文句を言いながらもラナの為にこうして準備を手伝ってくれている、と。
兄のシルさんの方はルドさんと似たカッコいい耳を付けているけど、顔立ちは柔らかい感じで雰囲気も優しげな落ち着いた物腰だな。
姉のプルさんは垂れ耳で、やっぱりロゼさんそっくり、雰囲気とかもラナよりプルさんの方がロゼさん似だと思う。
というか、三姉妹とか紹介されたら普通に違和感無く受け入れられるな、これ。
「おかえり、ラナ。元気そうだね」
「ラナ、おかえりっ。変わりなさそうねっ」
「兄さんと姉さんも元気そうでよかったっ。相変わらず父さんと母さんに振り回されてる感じ?」
「まぁね。もう大分慣れてきたよ、ははっ」
「それでっ?ラナのお相手はどなたなのっ?」
「えっと、初めまして。ラナと冒険者パーティー組んでる漂流者のナオトと言います。よろしくお願いします」
俺をお探しのようだったのでラナに寄っていって挨拶をした。
お相手っていうか、パーティーメンバーですとしか言えない、この人数の旦那ですとかまだ面と向かって言うには若干抵抗がある…どう考えてもおかしいんじゃないかって部分が拭えない…。
「あれ?冒険者パーティーって…ラナ、あなた受付嬢になったんじゃ?」
「あー、うん、そうなんだけど…ナオトさんと一緒にいたくて冒険者になっちゃった。って母さんから聞いてないの?」
「ちょっと母さんっ、私達聞いてないんだけどっ」
「言ってないもの、当たり前でしょ?」
「なんでそうなの、母さんは…。そういう大事な事はちゃんと僕達に言ってくれないと…」
「大事なことはちゃんと伝えてるじゃない、お相手出来たわよって」
「いや、そこは全部教えといてよ…」
ロゼさん話好きって聞いてたけどよく分からない取捨選択してる…自分の子供達相手だから?
「私達相手だと雑になるんだから、もうっ。で、ナオトって言ったっけ、私はプールミエラティナ、ラナの一つ上の姉よ。妹ともどもよろしくねっ」
「僕はシルヴェリオ、ラナの兄です。よろしく」
「こちらこそ」
二人が名乗ってくれてシル義兄さんの方は手も差し出してきてくれたから握り返した。
二人共普通に俺の事受け入れてくれたみたいで一安心。
「おいっルド!もう準備出来てんだろっ、早く飲もーぜっ!」
「ちょっとイーナ落ち着きなさいよ、もう」
「すまん、もう少し待ってくれ。今ヒロシが…」
「…っと、悪ぃ待たせたっ」
「「あっ!フラウっ!」」
イーナさんが急かしてたところに待ったをかけたルドさんだったんだけど、そのタイミングで弘史が食堂へ戻って来た…フラウを抱えて。
そっか、トイレじゃなくてフラウを迎えに行ってたのか…確かに弘史のとこは留守番がフラウ一人、まぁ執事やメイドは居るけど、今のこれ見てフラウだけ外れてるってのは寂しいよな、確かに。
っていうか、俺が気付けよって話じゃ…ひぃやティシャを連れて来といて何で忘れてたし。
ごめんフラウ、弘史…。
「俺ら直接関係無いんだけどよ、混ぜてやってくんね?」
「ごきげんよう、みなさま。ガルムドゲルン公爵家長女、フラウシャッハ・テラ・ガルムドゲルンですわ。おまねきいただきありがとうですわ」
弘史から降ろされたフラウが丁寧な可愛らしいカーテシーをする。
ぶっちゃけこの中で一番お嬢様な気がする、じゃなくて一番お嬢様だな、うん。
「これまた可愛らしいお嬢様を連れて来たもんだ。ご丁寧にありがとう、私がこの場の主催者、ルドラウトスだよ。さぁ遠慮はいらない、どうぞみんなと混ざってほしい」
「はい、では失礼いたしますわ」
そう言ってひぃとティシャの所へ向かうフラウ。
ちなみにひぃ達の所にはランとイア、それにコロネも居たりする。
ラナがさっき、ランをロゼさんからやっとの思いで引き剥がして、ひぃ達の所へ行かせてた。
イアもそれに付いてくみたいにリオから離れたんだけど…ひぃ達はラン、イアと会話出来ないからコミュニケーション取れないだろうな。
そこへフラウが、周りは半分以上知らない人ばかりなのも何のその、堂々と歩いて向かっていく…流石公爵家御令嬢、これくらいで動じるようなことはないんだな。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
「フラウも連れて来てもらったんだねーっ」
「ごめんなさいフラウ、ナオトお兄さまがおむかえに来てくれた時に言うべきでした…」
「かまいませんわ。だってわたくしは直接関係ありませんもの。ちょっとはさみしかったですけど、でもこうしてヒロシお兄さまに連れて来てもらえたのですから、それで十分満足ですわ」
「フラウ様、嬉しそうなのです」
「もちろんですわ。ヒロシお兄さまがわたくしのことを気にかけてくれたことがとてもうれしいですわっ。ところで…そちらのお二人はどなたかしら?」
「えっとねー、この二人はねー」
「「………」」
「…そう、シィエランとシィエィア、それでランとイアですのね。はじめまして、フラウとお呼びくださいな。ティシャとヒナリィの友人でしてよ」
「「………」」
「ええ、こちらこそよろしくですわ。ふふっ」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
少し離れてるから会話の内容はよく聞こえなかったんだけど、見た感じひぃ達と上手くコミュニケーションが取れてるみたいだ、皆キャッキャしてるし…どうやってるんだか。
弘史はフラウを降ろした後、俺の方へ来た。
「弘史…悪い、気付かなくて……」
「別に悪かねぇだろ。ホントなら俺ら関係無ぇんだしよ。俺が連れて来たかったってだけだかんな」
「アタシの所へ行く時はちゃんと呼ぶつもりだったんだからねっ、フラウもっ」
「そういうこった、それが早まったってだけだぜ。だから気にすんなよ」
そう言って俺の肩にトンッと拳の甲を軽く当ててきた。
お前向こうの世界じゃホントいい兄貴だったんだろうな…妹思いの。
「よし、じゃあみんな揃ったところで乾杯といこうか。飲み物の準備はいいか?好きなものを手に取ってくれ」
テーブルの上には料理と一緒にエールや蜂蜜酒、果実酒っぽいものや、まだお酒は早い娘のためだろう、ミルールや果汁飲料みたいなものまで用意されてる。
それとは別に使用人の人がウェイターみたいにお盆に飲み物を乗せて歩き回ってるから、本当にパーティー会場って感じだ。
皆それぞれ好きな飲み物を手に取り、乾杯の音頭を待つ。
「それでは乾杯の前に、まず私から一「あぁっ?んなもんいらねぇよっ!とっとと乾杯しろっ!」……分かったよ…。じゃあ娘達の良き出会いを祝して、乾杯っ!」
『『『『『『『『乾杯っ!』』』』』』』』
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