異世界漂流者ハーレム奇譚 ─望んでるわけでもなく目指してるわけでもないのに増えていくのは仕様です─

虹音 雪娜

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第六章 激震、マーリレンス大陸

#33 冒険者達のお気に入り

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‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


「リズちゃん、また来ちゃったのさーっ」

「メイちゃん…と、ナオトも来たのねっ」

「一応付き添いでね」


 鍛冶工房でラナ達の防具整備の作業が終わった後、メイがすぐ素材調達の依頼をしに行くって言うから、俺も付いていくことにした。
 今は俺が居るんだから俺が行こうかってメイに聞いてみたら、昨日大変だったみたいだからゆっくりしててほしいのさー、って言われた…まぁそれなりに大変だったけど、メイのお願いだったら昨日の今日でも全然平気なのにこうして気遣われて、じゃあせめてギルドまで付き合おうということでメイと二人、ここ冒険者ギルドの受付カウンターに居るリズと会話をしているわけだ。

 アーネ達は新装備のチェックで勇者パーティーのメンバー相手に庭で手合わせをするからって誰も付いては来なかった。
 あと家に居る他の嫁達も家の事…普段からやってる仕事があるからって言ってたし、魅音達はそもそももう出掛けてて居なかったから、メイと二人っきりになった。

 魅音達はギルド酒場でライブするようになってから日中はギルド前だけじゃなくて、いろんな場所で路上ライブをしているんだとか。
 そう言えばカッツがそろそろライブ会場を押さえられそうって言ってたな…この街でも魅音達の認知度が上がってきたようだし、皇都に居た時みたいにメジャーとなる日も近いかもしれない。
 まぁ、当の本人達は今のままで十分楽しいから名を売ることにはそれほど執着してないそうな。
 自分達のやりたいようにやっていくスタイルを貫き通すらしく、実を言うともう前の事務所はとっくに辞めてたりする。
 つまり完全にフリーでやってるわけで、金銭面は度外視してるとか。
 ただそこは一緒に事務所を辞めてマニファニに付いてきたカッツが前と変わらずあれこれ動いているみたいで、全く収入が無いわけじゃなく、所属していた頃に比べると雲泥の差はあるものの、それなりには稼げているってさ、うちの家計に貢献出来るくらいには。


 で、その家計の中からクエストの依頼料や報酬金等の諸費用はメイがセヴァルからしっかり貰ってきてた、セヴァルもすんなり渡してたし。
 お金周りの管理はもう完全にセヴァルが握ってる…俺も俺で完全にセヴァルを頼りきってるんですが。
 もうあの家にセヴァルが居ないとか考えられないくらいに。
 どうしても家を空ける事が多いから頼らざるを得ない…家長としてはどうなのかと思わなくも無いんだけど。


「なーに?またクエストの依頼しに来たのー?」

「うんっそうなのさーっ。ラナちゃん達の装備でほとんど使い切っちゃったのさー」

「ラナ達の装備なんて作ってたのねー。それはさぞかし喜んでたでしょー?」

「ああ、アーネが嬉々として早く試してみたいって言ってたよ。今頃家で攻瑠美達と模擬戦でもしてるんじゃないかな、きっと」

「あー、それは想像しやすいねぇー」

 アーネの事だからペルとチュチュ辺りを相手にしてるんだろうか。
 出来れば攻瑠美と護璃の相手をして少しでも鍛えてくれるといいんだけど、アーネには無理かな…教えるの向いてなさそうだし。
 ラナはブリッズとヴォルド…もしかしたらシータも相手にしてたりして。
 まぁ訓練だから無茶はしないだろう、それに何かあったとしてもマールやリオが居るから心配は無いかな。

「早速なんだけどリズちゃん、この前と同じ依頼をしたいのさー」

「りょーかいー。じゃあ、あっち側の依頼カウンターまで移動しよっかー」

「わかったのさーっ」

 どうも依頼カウンターは別に設けられているみたいで、リズが受付カウンターから離れて依頼カウンター──いつも受付カウンター内に入れてもらう時と反対方向、隣接闘技場入口の方で、五つ並んだ受付カウンターから90度折れ曲がった辺の部分がそうらしい──へ向かって移動し始めた。
 メイもカウンターの位置が分かっているらしく、そっちに向かって歩き出す…俺もメイに付いて行こうと身体の向きを変えたら、目の端に入ってきた待合所の冒険者達が半数くらい立ち上がり、クエストボードの方へ移動していくのが見えた…何だかタイミングを見計らったような動き方したな…。

 依頼カウンターまで来ると、リズとメイが依頼について話し始めた。
 と言っても初めてじゃないから内容の確認だけみたいだ。

「んーっと、鉱石採掘だっけ。内容変わらず?」

「うんっ、量も報酬金額も前と同じでいいのさーっ。はい、これっ」

「あいさー、それじゃちょっと依頼手続きしてくるねー」

「よろしくなのさーっ」

 何回目かは分からないけど、見た感じはもう慣れたやり取りっぽい、大した会話もせずメイはセヴァルから受け取っていたお金をカウンターに出して、リズはそれを持ってすぐカウンター奥へ引っ込んでいった。
 リズを見送ったメイはピコピコ両サイドに結んだ髪を動かしながら、何がそんなに嬉しいのかにっこにこしてる…なんかおつかいを頼まれた子供みたいに見えてしまう、その身長だと。

 そんなメイから目を放し、さっきクエストボードの方へ動いていった冒険者達を再度見てみると、何故か全員ボードを見ないでカウンター内を気にしているようだった…目線の先に居るのはどうやらリズらしい。
 ということはあれ全員メイのクエスト待ちってことか、何やってるんだか…その人数だと取り合いになるんじゃないか?

 なんて思いながらボード前を埋め尽くしているそわそわした集団を少々訝しげに見ていたら、すぐリズが戻って来た。

「んじゃ一応内容確認してくれるー?」

「……うんっ、これでいいのさーっ」

 リズがクエスト依頼書と思われる紙っぺら一枚をカウンターに置いてメイに見せると、メイはその紙に書かれた内容をサラッと確認してオッケー出してた。
 前と同じ内容の依頼なら中身も変わらないだろうし、だからリズもすぐ用意出来たんだろうな。
 
「それじゃぁこれで出しちゃうねー…って、またー?」

「…?また?」

「あー、うん、あのボード前…メイちゃんの依頼貼り出す時はなんでかあーなるんだよねぇー」

「前回もあんな感じだったのか」

「そそ。依頼書貼るのタイヘンなのよー、あの中に入って行かなきゃいけないし。ワタシちっちゃいから余計タイヘンよ?」

 まぁリズだとそうなるだろうなぁ…冒険者達は皆ガタイいいし、あそこに割り込むのは相当苦労するだろう。
 というかリズの仕事の邪魔するなよ、お前ら…。

「俺が言ってこようか?」

「うーん…いや、大丈夫ー。どうせナオトが言ったって聞きゃしないだろうし。ま、しょーがない、ちょっと行ってくる…って、あっちからじゃ出られないかぁー……」

 あっち…クエストボードがあるのは、いつも俺達が受付カウンター内に入る時に使う入口側にあって、今はその付近まで冒険者達が屯してる…カウンター台を開けてもボードまですぐ進めなくなるのは目に見えて明らかだった。

「やっぱり俺が行って退かせてこようか?」

「ううん、それには及ばないよっ。こうなったらもうアレしかないねーっ。ナオト、こっち来て!」

 そう言ってリズが今居る依頼カウンターの更に端まで俺を誘導する…そっち側にも入口があるんだろうか?いや、あったら黙ってそこを使うだろうし…ってまさか。

 リズに言われて端まで来たら、そのまさかだった。
 いくら何でもそれは横着し過ぎだろう…カウンター台ギリギリまで寄り依頼書片手に両腕を広げて上にあげ──

「ん、はいっ、抱っこ!」

 ──俺にカウンター内から引き上げろだって。
 向こうの入口がああだから仕方無いっちゃ仕方無いのかもしれないけど、堂々と抱っこ宣言するのはどうなのかと。
 いやまぁやりますけどね、リズだから簡単に引き上げられるし。

 上半身をカウンター台に乗り出して、ほぼ腕の力だけでリズを引っこ抜き…そのまま抱きかかえた。

「にししっ。ありがと、ナオトっ」

「…こんなことしてたらまたクリスさんに怒鳴られるぞ……」

「これはしょーがないんだから平気だってばっ」

「いいなぁーリズちゃん…あっ!ナオにーちゃん、メイもっメイもなのさーっ!」

「はいっ?」

 抱っこしているリズを見てメイまでせがんできた…いや、すぐ降ろそうとしてたんだけど、ここギルド内なんだし。

「ダメなのさぁ……?」

 って、あー…そうやって上目遣いで目うるうるさせないでくれるっ?そんな目されて断るとか俺には無理なんだからさ…おねだり顔にすんなり負けを認めて、それ以上何も聞かず言わず黙ってメイを抱き上げた。
 二人抱っこはひぃとティシャ…あとランとイアか、その二組だけの専売特許だと思ってたけど、この二人でもありなのか…?いや、身体的には問題無いんだろうけど、その、年齢的にどうなんだろう、と。

「えへへーっ、ナオにーちゃんありがとなのさーっ!」

「…どういたしまして」

 …まぁいいか、メイも喜んでくれてるみたいだし深く考えるのはやめよう、俺もこれはこれで嬉しいし。

「さてっ、じゃあこのままボード前まで行ってー」

「……了解」

「なんか楽しいのさーっ!」

 もう既に周りからいろんな声──まーたナオトが何かやってるぜー、とか、おいおい子連れ冒険者かよ、とか、憲兵さんコイツです!とか、通報しました、とか──が聞こえて…っておい、最後の方おかしいだろっ、ここに居る奴らは皆リズの事知ってるだろーがっ!メイだってドワーフなんだから分かってるだろっ、ニヤニヤした目で見てくるのはもう諦めてるからいいとしても、その犯罪者扱いのイジり方はヤメてくれっ!ったく、ここの連中は最初から漂流者だろうがお構い無しで気さくに絡んできて…代表格はガズのおっさんだけど。
 まぁ変に遠慮されたり荒事にされたりとかは全然無いから別にいいっちゃいいんだけど、そのロリコン決め付けだけはヤメてくんないかなっそこだけは違うから!

 と、耳に入って来た声に心の中でツッコみつつ、二人を抱きかかえたままクエストボードの方へ向かうと、早速待ってましたと言わんばかりにボード前の冒険者達が声を掛けてくる。

「おうリズ、早くそれこっちに寄こしなっ」
「待て待てっ、それはこっちが受け取るんだ」
「何を言っている貴様等、それは我が受けるべきものだ」
「あぁ?ざっけんなっ、そりゃ俺達のパーティーがやるんだよっ!」
 
 …たかだか鉱石採掘のクエストがこうも人気を博すとか、一体全体どうなっているのかと。
 予想通りクエストの取り合いの様相を呈してきた…。

「フッ…騒ぐなお前達。そのクエストは俺達が受けると決まっているのだ」

「お、お前らは…」


『『『『採掘屋ディグダグラーっ』』』』


「そうっ!俺達こそが採掘のスペシャリ「お前ら前回受けたからナシな」っ!?バッ、バカなっ!」

「ったりめーだろ、メイちゃんのクエストを独り占めとかありえねーし」


『『『そうだそうだっ』』』


「だ、だが採掘にかけては俺達の右に出る者などいないだろうっ!なら当然このクエストは俺達にこそ相応しいと決まっているではないかっ!」

「バッカ、ちっげーよっ。採掘云々じゃなくてメイちゃんのクエストだからだってーのっ」

「そういう事だな。一度受けた貴様等には大人しく引いておいてもらおう」

「くっ…」

 ボード前に集まってた皆で何やら言い合いに…。
 これ、収拾つかないんじゃないか?メイもここまで皆に気に入られてるのか…何がどうなっているのかさっぱり分からない。

「…なぁメイ、これもう俺行った方が『『『『ダ・メ・だっ!!』』』』っ!」

「お前はスッこんでろナオトっ!」
「そのクエストはメイちゃんが出したんだっ、お前は関係ないっ!」
「横からカッ攫おうなんてマネはさせねーよっ!」

『『『そうだそうだっ!』』』


 どうにも纏まりそうになかったからもう俺が行こうかって言おうとしたら、全員が全員喰い気味に遮ってきた…スッこんでろとかちょっとヒドくないか?まぁ確かにメイが出したクエストだから、これに関しては直接関係無いのかもしれないけどメイは俺の嫁ですよ?そこは分かってるんだろうなお前ら。

「…なぁ、なんでそこまでメイのクエストにこだわるんだ?」

「あ?そりゃぁ、なぁ?」
「うむ、アレだ」
「だなぁ」
「おつかいのお手伝い的な?」
「そうそう、それそれっ」
「こんなちっちゃ可愛い娘からのクエストを誰が断わると?」
「そりゃもう全力でやるしかねーよなぁ、だろっお前ら!」

『『『うんうん』』』
『『『そうそう』』』


 …まぁ、何となくそんな気はしてたけど…さっきリズ待ちしてたメイを見ちゃったからなぁ。
 あんなの見たら放っておけないって思っちゃうのも分からなくは無いんだけどさ…。

「…それ、みんな俺のこと言えないんじゃないか…?」

「ハァ?バッカ、お前と一緒にすんじゃねーよっ!」
「そうだ、貴様と同類などと思われたくはないなっ」
「テメーみてぇになんでもかんでも手ぇ出してるわけじゃねぇしっ」
「その証拠にほれ、俺達ゃリズになんかこれっぽっちも興味ねぇぞ?」


『『『うんうん』』』
『『『そうそう』』』


 ……お前ら全員俺にケンカ売ってるのか?よしいいぞ買ってやるっ!




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