長田浜高校ミステリー同好会の事件日誌

浜 タカシ

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File5/Page3 塑網の謎

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「えぇー、夏休みも規則正しい生活をおくり、新学期に元気な姿を見せてほしいと思います」

夏休み、長い長い夏を乗り切るための夏休みが明日からやってくる。

「やっ、博人」
「なんだ駿之介か」
「何だとは何だ。博人の」
「数少ない友達が声をかけてやってるんだぞ、だろ?」
「よくできました」
「それでどうした」
「あれから一週間、全く進展なしだね」
「あぁ」

あれから、つまり備品倉庫で塑網の創刊号を探してから今日で1週間、あれから何度ミーティングを重ねても、塑網の意味や前書きの表している事実にはたどり着けなかった。

「もし博人が無人島に行くとしたら英和辞典と和英辞典、どっちを持って行く?」
「なんだそれ」
「例えばの話さ、さぁ博人ならどうするんだい?」
「和英辞典」
「そのこころは」
「英語ができないから」
「ぷっ、あははは!なんだそれ、どんな理由だよ」
「悪かったな」

こんなたわいもない時間を過ごしている間にも時間は過ぎ、謎はその混沌さを増していく。
分からないという負債が積もれば積もるほど、答えから遠のいていっている、おれはそんな焦燥感に駆られていた。

「なんだ、おれもなぞ解きしたいんじゃないか」
「ん?何か言ったか、博人」
「なんでもないさ」
「そうだ、博人このあと少し付き合ってほしいんだけど」
「何をするつもりだ」
「それは後でのお楽しみだね」

――――――――

「うぃーす」
「やぁ、今日も暑いね」
「あっ、戸田さんと熊毛さん。お疲れ様です」
「お疲れ様。…?ねぇ、駿ちゃんそれ何?」
「あぁ、これかい。国語辞典だよ」
「なんで国語辞典なんて持っているんですか?」
「1年生って課題として読書感想文の提出があるだろ?」
「あるな」
「ありますね」
「だから僕はこの本を読んだ感想を書こうと思うんだ!」
「…、はっ?」
「ごめん駿ちゃん、もう一回説明してもらってもいい?」
「ごめんなさい、私もよく理解ができませんでした」
「言った通りだよ、国語辞典の読書感想文を書こうと思うんだ!」
「…、ばかだ」
「戸田の言うとおりね」
「同上です」
「結構みんな辛辣なんだね…」

とまぁ、駿之介のボケ大会があったが、今日も塑網の意味を見つけ出すべく、俺たちは活動を始めた。

「もう一度情報を整理してみましょうか」
「えっと、これが先輩のメモって事だったよね」

――――――
・ちとしえすはいらない
・ソクラテス「無知の知」
・塑網は自分の作った造語。ヒントを使って解けば、きちんと意味のある熟語になる。
――――――

「ちとしえすってなんだ?」
「こんな言葉ないだろ」
「あっ、駿ちゃん、ここで出番でしょ国語辞典」
「確かに、ナイスだよ真由美!」
「これが正しい使い方だな」

早速駿之介はものすごい速さで辞書をひきだした。その様子はテスト開始と同時にテスト用紙をめくるあの鬼の形相をした真由美の様だ。

「ねぇ、ちょっと。今、戸田が失礼なこと考えてた気がするんだけど」
「戸田さん、そうなんですか?」
「そんなわけは…ない」
「一瞬の間が怪しい」
「無かった!」
「やっぱりちとしえす自体に意味はないか」
「ねぇ、みんなは塑の意味知ってるの?」
「そういえば」
「知りません」
「おい、駿之介出番だ!」
「おう!」
「なんか、すごいコンビネーションだわ」
「ですね…」
「なかった…」
「これもないのか」
「でもこれはちゃんと実在する感じのはずですよね。熊毛さん、少し貸してもらってもいいですか?」
「あぁ、もちろんだよ」
「えぇーと、あっ、確かに塑の字では載っていないですね。でも、熟語としてなら」
「琴ちゃん、見てもいい?」
「もちろんですよ」

―――――――
そ-せい【塑性】(Plasticity)変形しやすい性質。外力を取り去っても歪が残り、変形する性質。可塑性。
―――――――

「確かに熟語で載ってるね」
「あっ、こんなことをしている時間はありませんでした。早く話の続きをしないと」
「そうだったね。このソクラテスの無知の知が意味しているものも気になるよね」
「確かにな」
「ねぇ、無知の知って何?」
「それはですね真由美ちゃん、ソクラテスさんは他の賢い人たちと違い、自分が知らないという事を知っているという事ですよ」
「…?」
「つまりだな、知ったかぶりしないで謙虚に学ぶことって意味だ」
「なるほど、ありがとう琴ちゃん」
「いや、俺も教えたからね」
「これらはいったい何を意味してるんだろう」
「そうよね、ここからいつも進まないもんね」
「ですね」

ちとしえす、塑性、無知の知、国語辞典、ソクラテス、Plasticity、網、塑網、網、網…net

「分かったぞ、この意味が」
「本当ですか、戸田さん!」
「あぁ、今回は駿之介のお手柄だな」
「俺の?」
「あぁ、お前の読書感想文のおかげだ」

―――――――

「早く説明してよ、何が分かったっていうの?」
「まぁ、そんなに焦るな。まず、もう一度状況を整理したいと思う。まず、大前提として、塑網という言葉自体に意味はない」
「国語辞典にも載ってないよ」
「次に、どうにかすれば、塑網はきちんと意味のある言葉になるということだ。そのためのヒントは全て明示してあった」
「すべてという事は、『ちとしえす』と『無知の知』という事ですか?」
「鹿野の言う通りだ。なぁ、鹿野。お前分からないことがあったらどうする?」
「そうですね…、インターネットや、言葉であれば辞書を引いたりしますよ」
「鹿野の言う通り、俺たちは分からないことがあればどうにかして調べるよな。この時、知ったかぶりをして、調べない奴はその意味を知ることができない。だから謙虚に、自分が知らないことを認めてそうして調べるんだ」
「なるほど、つまり調べる行為、それが無知の知って事だね」
「あぁ、塑という字は普段使わないから分からないだろ。俺たちもそうだったけどな。だから辞典を使って調べた。そしたら塑の字は出てこなかったが、塑を使った熟語は出てきただろ。これが重要だったんだ。なぁ、小郡。塑性のあと何があった?」
「何がって、説明でしょ」
「いや、説明の前だ」
「説明の?えぇっと、あっ、塑性の英訳が載ってる」
「そうだ、塑性は英訳するとPlasticity。これが無知の知というヒントを使って得た情報だ」
「でも、これだけじゃ意味が分かりません」
「部誌のタイトルは一文字だったか?二文字だっただろ」
「あと一文字は網だね」
「そうだ、じゃあ網も英訳すると」
「Netね」
「あぁ、小郡の言う通りNetだ」
「続けてみるとPlasticity Netですか?」
「あぁ、ここでもう一つのヒント『ちとしえす』の出番だ」
「確か『ちとしえす』はいらないんだよね」
「これってどういう意味なのかな?」
「難しく考えなくていい、区切ればいいんだ」
「区切るんですか?」
「あぁ、こうやってな」

――――――
ち/とし/えす
――――――

「ち、とし、えす。つまりPlasticity Netからこれをなくせばいいんだ」
「ち、とし、えす?どうやってなくすんだい」
「これは『ち、都市、S』と読んでみればわかるんじゃないか?」
「都市はCityで、『ち』はローマ字かな」
「それらを引くと…、Planet」
「なるほど、Planetつまり惑星になるって事か」
「あぁ、みんな正解だ」
「でも、本当に伝えたかったことが惑星ってこと?意味が分かんないよ」
「小郡、思い出してみろ。塑網No.2にはもう一つ資料が載ってただろ」
「確か、会議の議事録だったよね」
「あっ!」
「何かわかったみたいだな、鹿野」
「はい。議事録の中にある部員が惑星の意味を『私を忘れないで』としていました。だから、塑網に隠された意味は」
「あぁ、『私を忘れないで』。鹿野、ご名答だ」

塑網のタイトルに隠された「私を忘れないで」というメッセージ。
これが、俺たちが挑むもう一つのミステリーの始まりだった。
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