長田浜高校ミステリー同好会の事件日誌

浜 タカシ

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File6/Page1 鹿野の鹿野家

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どこまでも広がる青空、そこに高く伸びる入道雲。
せわしなく鳴き、暑さをより一層感じさせるセミたちの大合唱。
夏休みが始まり早1週間。もうすぐ8月もやってくるというこの暑い日に、俺は電車に揺られていた。

「いや、でも楽しみだね」
「もう、駿ちゃん、ちゃんと行儀良くしてよ?」
「分かってるって真由美」
「お前たちは何をしに行くか分かってるんだろうな」
「ふん、戸田に言われる筋合いはないわ。ちゃんと分かってるわよ」
「小郡は素直にはいと言えんのか」

とまぁ、電車には俺だけでなく、駿之介と小郡も一緒だ。
『次は、終点鹿野、鹿野です。お忘れ物なきようご注意ください』

「もうすぐね。二人とも忘れ物しないでよ」
「お前が一番忘れ物しそうだけどな」
「黙れ戸田」

夏休み、活動しなくてもいい気がするが、俺たち長田浜高校ミステリー同好会は活動場所を少し変え(部室は暑すぎて話にならんしな)塑網の謎の続きを解き明かそうとしていた。

「博人、なにぼうっとしてるのさ。さぁ着いたから降りようよ。鹿野さんも待ってるよ」
「おう」

電車を降り、改札へ向かう。町から少し離れた山奥というだけあって、周りは山に囲まれた盆地の中に町が一つあるような、のどかな田舎町だった。

「みなさん、遠いところありがとうございます。ようこそ鹿野町へ」
「ひゃあ!ひさしぶり琴ちゃん、元気だった?」
「お久しぶりです真由美ちゃん!もちろん元気でしたよ」

一週間ぶりのテンションではないと思われる感動の再会を果たしつつ、部員がそろったところで、話は少し遡り、あの塑網の謎を解き明かした終業式の日に戻る。

――――――――

「塑網の意味は分かりました。流石は戸田さんです。でも…」
「私を忘れないでってなんだろね…」
「もしかして博人はこれについても何かわかってたりする?」
「バカ言え駿之介。俺はあくまでヒントがあったから意味を導き出すことができたんだ。なにもない状態から謎を解けるわけないだろ」
「確かに。ごめんな博人」
「でも、少しなら情報はありますよね?」
「琴ちゃんの言うとおりね」
「…?ごめん、ちょっと状況が整理できてないんだけど」
「熊毛さん、塑網No.2の前書きを読んでみてください」

――――――――
今年もこの塑網を文化祭で販売することができ、大変うれしく思う。この塑網のタイトルは私たちの先輩が昨年の創刊号で付けてくださったものだ。
 残念だが、今年先輩とこのNo.2を作ることは叶わなかった。あの、勇気ある行動が無ければ、今こうして塑網を執筆することも叶わなかっただろう。
 さて、今年のミステリーはおかしな話だが、この塑網というタイトルについてだ。
 ぜひ、私たちと一緒に謎を解き明かしてほしい。
――――――――

「読んでみて分かっただろ、駿之介。これにはちょびっとばかり当時の状況を表す文言が散りばめられている」
「確かにそうだね。この『残念だが、今年先輩とこのNo.2を作ることは叶わなかった』とか『勇気ある行動が無ければ、今こうして塑網を執筆することも叶わなかっただろう』とかは当時の緊迫した状況を表していると思うよ」
「でもさ、普通に先輩が卒業しちゃったから一緒に塑網を作れなかった、っていう事じゃないの?」
「バカだな小郡は」
「なっ、なんだと!」
「まぁ、まぁ真由美落ち着いて。どういうことか説明してくれよ博人」
「まぁ、俺の口から言っても文句言われるだけだろうがな…。そうだ、鹿野、この間電車の中で話したこと覚えてるか?」
「この間…?」
「2週間くらい前だったかな。あの日だよ、備品倉庫に塑網を探しに行った日」
「あぁ、あの日ですか!覚えていますよ。真由美ちゃん、その前書きを卒業した先輩と一緒に執筆することができなかったと仮定して解釈すると、すこし不自然なんですよ」
「…?どういうこと琴ちゃん」
「だって、卒業というのは誰しも迎える節目じゃないですか。それに対して、『残念だ』とか『叶わなかった』などと悲観的な、マイナスな心情を抱くでしょうか?私なら、卒業していった先輩を超えられるように頑張るぞー!とプラスの感情を持ちますよ」
「なるほど、つまり、普通に卒業したのであれば、こんな言い回しはしない、という事だね」
「その通りだ駿之介。だから、この先輩は普通に卒業できていない、俺たちはそう仮定したんだ」
「なるほどね…。確かにこれなら『私を忘れないで』っていう塑網に隠されたメッセージにも説明がつくわね」
「どうやら、解決しないといけない謎がもう一つできちゃったみたいだね…」
「この謎は、塑網の中でずっと誰かに見つけてもらうのを待っていたんですね。これは絶対に解決しなければいけません!」

あっ、鹿野がやる気になっちゃったよ…。俺は半ばあきらめた、さようなら夏休み。

「みなさん、夏休みの活動は惑星、つまり『私を忘れないで』というメッセージを残さなけばいけなくなってしまったミステリー部の謎を解き明かす、これでどうでしょうか!」
「たのしそう!私は参加するよ琴ちゃん」
「これは僕もぜひ参加したいな」

3人が一斉に俺の方を向く。あぁ…厄介ごとだ…

「分かった、参加すればいいんだろ」
「それでは、夏休みも頑張りましょう!」
「おぉ!」
「でも、部室はきっと暑いですよね…。そうだ、みなさんがよろしければ私の家に来ませんか?部屋はいっぱいあるので、ミステリー合宿を兼ねて」
「乗った、それ乗るよ琴ちゃん!」

―――――――

これが夏休み前に決まった、ミステリー同好会夏合宿である。

「ここが家です」

鹿野が立ち止まり俺たちは玄関の前で立ち止まる。

「…、なぁ、鹿野。聞き間違いじゃなければここがお前の家であっているんだよな?」
「はい、ここが私の家ですよ」
「う、噂には聞いていたけどこれはすごいね」
「ちょっと駿ちゃん興奮しすぎ!」

鹿野家はこの鹿野町一帯の土地を所有する大地主とは聞いていたが、これほどまでとは思っていなかった…。

「敷地はざっと東京ドーム1.5個分くらいでしょうか。でもほとんどが庭なので家は小さいですよ?」
「と、東京ドーム1.5個分⁉そんな家聞いたことないぞ」
「これがお金持ちの世界なのね」

俺たち庶民は初めて見る鹿野の家の壮大なスケールに圧倒されながらも、どうにか母屋にたどり着いた。

「今日は合宿なので、戸田さんと熊毛さんはこちらの客間を使ってください。真由美ちゃんは私の部屋でいいですか?」
「もちろんだよ、さっさっ、行こうよ」
「ひゃあ、ちょ真由美ちゃん押さないでくださいよ」
「行ってしまった」
「あぁ、行ってしまったな」

客間に取り残された俺と駿之介は何一つ説明を受けていないので、何に手を出していいか全くわからず、中央に置かれた座布団に腰を下ろし、テーブルを挟んで向かい合う。

「いやぁ、でもここまでとは正直びっくりだよ」
「それは俺も同感だ。大地主とは聞いていたがまさかここまでとは」
「俺たちの近くにもすごい人って案外いるもんだね」
「そうだな」
「お二人とも、すみません。説明の途中なのに部屋に戻ってしまって」

急に入り口のふすまが広いたと思うと、若干額に汗を浮かべ、疲れ気味の鹿野が立っていた。

「いや、さっきのは真由美が悪いんだし戸田さんは気にしないで」
「ありがとうございます、熊毛さん。えぇっと、この部屋にある物は自由に使ってもらって構いません。タオルなどは用意してますから声をかけてくださいね。食事や会議は居間でやりましょう」
「了解だ」
「会議はいつからだい?」
「そうですね、すこし真由美さんのテンションが落ち着くのを待ってからなので…、それでは10分後に居間に集合でお願いします」
「合点承知だよ」
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