世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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続 6章 災禍の中の希望

16-26. 僕のご機嫌取り

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 王子様が帰っても、ギルド内はあふれの前線から戻ってきた地元の冒険者たちでごった返しているので、僕たちは会議室へと引き上げた。ブロキオンに行くティガーのみんなも誘って、いつ出発になってもいいように準備だ。楽しみにしていた冒険者たちには申し訳ないけど、宴会は延期だ。

「ティグが急にそわそわしたから、神獣様がいらっしゃったって分かったんだ」
「ティグ君、偉いねえ。お肉たくさん持ってきたから、楽しみにしていてね」
「ぎゃう」

 可愛いなあ。いまもブランに気を使いながらも、僕の相手をしてくれている。こんなに性格もいいのに、ネコ科ってだけで意地悪するなんて、ブランの心が狭すぎる。

「本当に五周するのか? こんな状況だから、食料が買い足せないんだが」
「食事はこちらで用意するので、付き合ってほしい」

 アルが答えてくれたけど、ティグ君がいないと、僕が頑張れない。僕に差し出せるものなら、なんでも希望を聞くから、付き合ってほしい。

「魔剣を除く最下層のドロップ品もつけます」
「それは……」
「じゃあ、マジックバッグも追加で」
「いや待て、落ち着け。足りないんじゃなくて、もらいすぎだ」

 そんなこと言われても、ティグ君がいてくれないと、僕は息もできない。虎吸いが必要なのだ。

「俺たちからも頼む。ユウは三周目から、帰りたいしか言わなくなる」
『(八周で交渉しておけ。ティガーのために、あと三本必要だろう)』
「五周以上はしない!」

 これだけは譲れない。どうせリネの単独行動で、魔剣が増えるのだ。欲しいならそれをあげればいいじゃない。そう思って気づいた。

「そうだ。ダンジョン入り口に、司祭様を派遣してもらわなきゃ」
「リネの対策か。たしかに、冒険者しかいないカークトゥルスと違って、トラブルが起きるかもしれないな」

 カークトゥルスで大騒動にならなかったのは、そこにいるほとんどが高ランクの冒険者と軍の兵士だったからだ。ここでは、何が起きるか分からない。
 アルが、王子様にもお願いすることも検討しているので、混乱が最低限に押さえられるといいのだけど。

 ブロキオンへの準備は、すぐに終わった。あふれの対応で戦闘していた獣道とアルは、ポーションの補充が必要だけど、それも僕のアイテムボックスから渡せば終わり。あとはいつものダンジョン攻略と変わらない。
 掃討戦で必要になるものは、ギルドマスターに渡したので、もういつでも出発できる。

「いまのうちに、カークトゥルスについて聞かせてくれるか?」
「下層のことだよな」

 あふれ前に獣道とアルムーザが約束したカークトゥルスの情報について、ティガーの三人も身を乗り出して聞いている。彼らはまだこの国に三年滞在の条件を満たしていないので、カークトゥルスは未経験だ。

「ああ。下層二つ目ってどんな感じだ?」
「食料を十分に持っていけないなら、下層一つ目が余裕で、なんなら一人は休んでいても余裕で倒せるってくらいじゃないなら、行かないほうがいい」

 そんなに下層の一つ目と二つ目でボスの強さが違うように感じなかったけど、アルたちが強いからなのだろうか。

「そんなに強さが変わるのか?」
「二つ目のボスがギリギリだと、そこから地上まで戻るのが辛くなる」

 なるほど、そういうことか。下層二つ目のボス戦で消耗してしまえば、その先が大変だ。ゆっくり休めば食料がなくなるし、休まず無理を押して戻れば道中で会うモンスターにやられてしまう。地上までたくさんの階層を登っていかなければならないからこそ、余裕がなければ厳しい。

「だからみんな、上のほうでマジックバッグを十分に手に入れてから、下に向かうんだよ。何回も挑戦できるように」
「だが上は混んでいるだろう?」
「最近だと、下層一つ目でも数日待ちってこともあるらしいな」

 そんなに並んでいるのか。僕たちは下層まで飛ばしてしまうから、どれくらい混雑しているのか知らない。この前はリネの特権で先に通してもらった。
 それでも、下層二つ目に挑戦できるのが一度だけだと、労力に見合わないから、時間をかけて準備を整える。
 アルムーザは、下層一つ目で三つのマジックバッグを手に入れているが、それだけで足りるのか考え始めた。

「今度の冬、一緒に行きますか?」
「待て」
「ユウ、それは無理だよ」
「でも、アルも信頼しているみたいだから」

 あふれの対応の間に仲良くなったようで、帰ってきてから親しく話をしているし、この部屋にいることを断っていない。だから、カークトゥルスも問題ないはずだ。

「テイマー、すごくうれしい提案だが、やめておけ。魔剣だけでなく、マジックバッグもとなると、お前らに取り入ればもらえるんじゃないかと、たかるやつらが出てくる」
「それに、セーフティーエリアが狭くなるぞ」

 本人たちに断られてしまった。
 だけど、シリウスの三人がいたときでも、ギリギリ大きなテントでいけた。アルムーザは六人だけど、天幕テントをやめれば平気だ。

「僕たちが一回り小さいテントにします」
「無理だな。来年はティガーも参加だろう」
「え? 俺たち?」

 いきなり話を振られたティガーのみんなが驚いている。
 そうか。今年はモクリークに来てから三年の条件をクリアできなかったけど、来年は行けるのだ。二ヶ月もティグ君をなでられるなんて、天国だ。ぜひ付き合ってほしい。

「行きましょう!」
「いや、俺たちは……」
「お前らは、モクリークに来るより前から氷花と知り合いなんだ。周りから文句を言われる筋合いはない」
「だけど」
「じゃあ、ティグリスだけユウに貸し出すか?」

 期待を込めた目でティグ君を見ている僕に、みんながあきれながら笑っている。足にブランの尻尾がバシバシと当たっているのは、気のせいだ。

「俺たちのために付き合ってくれ。ユウの機嫌を取るのに、ティグリスが必要なんだ」
「そうだよ。そのティグリスのためなら、大っ嫌いなブロキオンを五周するんだ。カークトゥルスにもぜひ来てくれ」
「ティグリスも行きたいよな?」
「ぎゃう」

 とっても嬉しそうにお返事してくれたティグ君は、きっとブランの側にいたいのだろうけど、それはすなわち僕の側。ティグ君が来てくれるなら、次の合宿も頑張れそうだ。
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