世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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5章 新しい街の建設

5-おまけ 魔石集め 4. 最下層

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 いよいよ最下層のボス部屋だ。
 前のフロアボスでブランの戦いっぷりを見ている獣道は、なんだか前回と緊張感が全然違うな、とぼやいている。
 前回獣道が2パーティーでフロアボスに挑んだ時は、帰れないことも覚悟しながらの挑戦で、2回とも上級ポーションを何本も使ってギリギリで勝利したそうだ。
 けれど今回はブランがいる。危なくならないと手は出さないと取り決めはしてあるけど、後ろに絶対的エースが控えていると思うと、気も楽になるのだろう。

 最下層のボスは金属のゴーレムで、硬い上に魔法もあまり効かないし、魔法での攻撃もしてくるので、今までブランがお膳立てしてアルが戦うという感じだった。
 けれど今回は魔剣があるので、アルと獣道だけで倒せるんじゃないかと予想を立てて、ブランは最初は見学だ。
 光が集まり、ゴーレムが出現したところで、まずはアルの魔剣に魔法をまとわせた大技をお見舞いする。それだけで魔力の半分を持って行かれるらしいので、ここぞという場面でしか出せないが、フロアボスにはかなり有効だった。それでも、さすが最下層のボス、削れたのは少しだけで、致命傷にはなっていない。
 それから時間をかけて少しずつ削り、魔力の回復したアルが魔剣で片腕を落としたあたりから、時間がかかっても勝てそうな流れになった。

『時間はかかるが、5人で勝てるな』
「そうなの?」
『あやつら、素早い上に体力があるので、ゴーレムの攻撃がまともに当たらなければ、いずれ削り取る。アルの魔剣があるしな』
「アルだけで勝てる?」
『それは無理だろう。あの獣人ほどの体力と素早さがあれば別だが、アルだけでは攻撃を避け続けられない』

 どうやら獣道はものすごくすごいらしい。
 アルも1対1では勝てないと言っていたけど、僕にはどちらもすごく強いのカテゴリに入るので、違いが分からないのだ。ただ、ずーっと動き続けているし、ゴーレムの攻撃があったって飛ばされてもすぐに戦線に復帰するので、体力がすごいな、とは思う。素人から見た感想なんてそんなものだ。
 途中でアルが何度もポーションを飲んでいたのは、多分魔力だけじゃなくて、スタミナの回復もだろう。アルはバテてきているのに、獣道は最初から変わらない速さで動き、ついにゴーレムの足が外れた。これで後は魔法に気を付けて、核を破壊するだけだ。
 最後は、アルの魔剣が外殻から一気に核を貫いて、ゴーレムが光になって消えた。

「アル、大丈夫?」
「スタミナ切れだ」
「アレックス、何バテてんだ、情けねえぞ」
「宝箱開けていいかい?」
「ああ」

 獣道が4人で覗き込みながら開けた宝箱には、当たり前だけど何の変哲もないカバンが入っていた。

「ブラン、鑑定してあげて」
『(特大だな。時間遅延はない)』
「時間遅延なしの特大だって」
「やったぞーーーーー!」
「特大だ!!!」

 獣道が子どものように喜んでいる。いつもは冷静なガリドラさんも叫んでいる。
 僕のアイテムボックスのせいで、特大って珍しいね、くらいにしか思ってなかったけど、この喜びようを見るとこちらも嬉しくなる。ヘロヘロになっているアルも、獣道の喜びように嬉しそうだ。
 そして、シリウスに特大の時間遅延をあげようとしたのがかなり非常識だったなと反省もする。


 獣道の喜びがひと段落したところで、アルも復活したので、一緒に地上へ帰還した。
 カークトゥルスから街までは歩いて2時間ほどなので、アルと僕はブランに乗っている。あれだけ戦闘したのに、ケロッと歩いているなんて、ほんとに獣人の体力すごいな。

 そして帰り道で、マジックバッグの精算でアルと獣道が揉めている。
 今回、魔石が欲しい僕とマジックバッグが欲しい獣道で、引き取る物の半額を払って精算すると決めていたのだが、それだと貰いすぎだという獣道と、当初の取り決め通り半分ずつでいいじゃないかというアルの主張が平行線だ。
 僕は魔石を拾っただけだし、主に戦ったブランが報酬に無関心なので、僕も半分ずつが楽でいいよねというスタンスだ。ブランの好きなお肉が買えてお風呂に入れるなら、後はいいようにしてほしい。
 結局、すべての魔石は支払い無しで僕たちのものになり、マジックバッグのみの精算で、獣道の欲しいものの半額を僕たちに払うことになった。特大のマジックバッグが高額なので、容量中の時間停止と合わせると、他のマジックバッグを合わせた額を超えそうだ。

 ギルドに戻ると、ギルド職員が泣き出さんばかりに歓迎してくれた。
 全員何事かと訝しんだが、ギルドに伝えていた予定よりも半月遅くなっているので、何かあったのではないかと心配されていたようだ。獣道のみんながしまったという顔をしている。そういえば、だいたい2か月って伝えてたね。ごめんなさい。でもたくさんマジックバッグ持って帰ってきたから許して。
 量が量なので、買い取りの話は別室でお願いした。

「遅くなった理由だが、下層2つ目のフロアボスに半月ほど挑んでいたせいだ。予定をすっかり忘れていて悪かったが、マジックバッグはたくさん持って帰って来たぞ」
「買取に出してもらえるのですか?」
「ああ、下層1つ目が15個、下層2つ目が64個、最下層が1個だ。そのうち、最下層のものと、下層のものに時間停止があればそれも買い取りたい」
「15個と、6、64個ですか……。お待ちください。今すぐ鑑定士を呼んできます」

 職員さんが走って出て行ったが、予想以上に多かったらしく、動揺しすぎて扉にぶつかっている。まあ最後のほうはマジックバッグがどうのというよりも、修行が目的だったもんね。
 ブランが鑑定できるのは伏せてくれるようで、マジックバッグの詳細はまだ知らないフリをしてくれている。ありがとう。

 鑑定士さん2人が部屋に入ってきた。マジックバッグの多さに、2人で鑑定するようだ。
 まずは最下層のマジックバッグを2人で鑑定して、小さな声で確認のやり取りをした後、震える声で告げた。

「最下層のものは、特大です。時間遅延等はありませんが、特大です。2人で鑑定したので間違いありません」
「よっしゃー!」
「やったー!」
「引き取り、ですよね……」
「悪いな。オレたちがもらうぞ」

 獣道がもう1回喜んでいる。でも全然演技って感じはないので、本当に嬉しくて、何度でも喜べるんだろうな。
 会議室にギルドマスターも入ってきた。買取に出されるマジックバッグの多さに、呼ばれたようで、特大は獣道が自分たちで使うと聞いて残念そうだが、それでも机の上に並んだバッグの多さに、顔がほころんでいる。
 それから鑑定士さんが全部鑑定して、時間停止のついているバッグを分けてくれた。下層2つ目で出たものに容量中の時間停止が2つ、容量小の時間停止が5つあった。ブランの鑑定で知っていたけど、下層2つ目は10分の1くらいで時間停止が出るってことか。獣道は、その中で一番容量の大きいものを引き取る。

「では、獣道が引き取る2つ以外は、全部ギルドに売ってもらえるということでよろしいか?」
「ああ、俺たちはこの2つでいい。半額氷花に払うので、これも査定してくれ」
「俺たちは魔石が目的だったので、今回マジックバッグは不要だ」
「ありがとうございます。ところで氷花のおふたり、この後のご予定はお決まりかな?」
「特には。長くダンジョンにいたので、しばらくゆっくりしたいが」
「このうちの大半は王都へ運ぶことになると思うので、その依頼をしたいのだが」

 なるほど。たしかにこんなにたくさんこのギルドに置いていてもしょうがない。久しぶりに王都に行こうという話もしていたところだし、急ぎでないなら受けてもいいな。

「急ぎでなくてよいのであれば、依頼としてではなく便宜を図ってもらっている礼として王都へ運ぼう。もともと買い物もあって王都へ行こうと話していたところだが、途中温泉に寄ったりする予定だ。急ぎであれば、他のパーティーに依頼してくれ」
「出発はいつだ?」
「3日はこの街にいる」
「ではそれまでに調整して宿に連絡する」

 温泉、嬉しいな。ブランとギルドには悪いけど、温泉でちょっとのんびりしたい。ここならフイカヤチの温泉かな。あの家庭的なお宿は空いてるかな。
 僕が温泉でウキウキしだしたのが分かったようで、獣道のみんなが笑ってる。

 明日の夜は打ち上げパーティーをすることにして、獣道と別れて宿に帰った。だって、今夜はお風呂に入りたい!
 さすがに今回は2か月も帰ってこないからと宿は一度チェックアウトしたけど、僕たちの泊まる部屋はだいたい空いてる。

 おふろ、おふろ♪と鼻歌を歌いながら部屋に入ると、すでにお風呂にお湯が張ってある。俺たちがダンジョンから帰ってきたと聞いた宿が湯を張ってくれたんだろう、とアルに言われて、僕のお風呂好きはそこまで広まっているのかと驚いた。
 ありがたく、2か月以上入れなかったお風呂をのんびりひとりで満喫する。アルは僕の長風呂には付き合ってくれないのだ。ブランはお風呂自体が嫌いだし。
 皮膚がふやけるくらいお湯につかって堪能してお風呂から上がると、アルがソファで寝ていた。最後スタミナ切れになっていたもんね。そういう時こそお風呂で身体を温めて寝てほしい。
 アルを起こして、お風呂に送り出して、夕食を持ってきてもらうようにお願いしたら、ちょうどアルが出た時に、夕食が届いた。

「どう?お風呂に入ると疲れが取れるでしょう?」
「そうだな。初めてユウが長風呂する気持ちが分かった。だが疲れているとそのまま寝そうだな」
「寝ると溺れるから気を付けてね。軽く食べて、今日はゆっくり休んで」
「ああ、そうしよう」

 それからアルはいつもの半分くらいの量で食べるのをやめて、早々にベッドに潜り込んだ。ゆっくり休んで、疲れを取ってほしい。
 僕はブランと一緒にベッドに入って、ダンジョンの中と同じように、もふもふの毛に埋まって眠った。
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