世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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6章 あふれの渦中

6-2. 上層へ移動

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 上層へ上がるので支援してほしいと、迎撃していたSランクパーティーから申し入れがあった。
 それを受けて、話し合いの結果、全員ですぐに出発することになった。アルは僕のために今日ここで休んでから移動したかったようだけど、時間がたてばたつほどモンスターは強くなる。僕と荷物持ちは戦闘はせずに移動に専念するので、戦闘するパーティーが今すぐ行きたいというなら行ったほうがいいだろう。
 各パーティーに1つずつマジックバッグを貸して、それに武具とポーション以外のすべての荷物を入れてもらい、そのバッグを僕が収納した。通常時ははぐれたら困るので最低限の荷物は持っているが、今回ははぐれた時点でもう生き残れない。全員身軽に、目的のセーフティーエリアまで走り抜けることだけを目標にする。各種ポーションも渡した。これで準備は整った。

「大盤振る舞いだな」
「帰ったら請求する」
「そうだな。帰ったら払うよ」

 ほんのわずかではあるけど時間稼ぎに、ブランの氷で階段を塞ぎ、上層へ向けて走り出した。といっても僕はブランの上だ。僕だけ騎乗しているのは、僕の体力では足手まといだからだ。
 荷物持ちを中心にして、Sランクパーティーが先頭を走り、両側をABランクが固めて、最後尾から僕たちがついていく。荷物持ちは、3パーティーともCランクなので、全員僕よりも強いし体力もある。

 フロアを走り抜け、階段前でモンスターを一掃して、階段を上がったら、ブランの氷で階段を塞いでしばらく休憩し、また走り始める。
 途中で周りのモンスターに攻撃されて怪我を負う人も出たけど、ポーションで治して走り、目的の半分くらいまで来たところで、僕の限界が来た。

「悪いが俺も騎乗する」
「大丈夫か?」
「ユウが限界だ」

 いくらブランが魔法も使って揺れないようにしてくれていても完全に揺れがなくなるわけではなく、アルの支えもなく半日乗り続けた僕がグラグラし始めたのに気付いたブランに、アルも乗って支えるように言われてしまった。情けない。
 アルが動き回ってモンスターの相手をできなくなるので、Aランクのパーティーが最後尾を変わってくれて、後ろから来るモンスターを倒している。

 階段の上で休憩していると、アルに抱き込まれてウトウトしてしまった。情けないことに、走ってもない僕が一番体力を消耗している。スタミナポーションを飲んでも回復しないのは、そもそもの体力がないからだ。顔色が悪いと荷物持ちの年下の子にまで心配されてしまって、立つ瀬がない。

「ユウ、みんなの荷物の入ったマジックバッグと、俺のマジックバッグ、水と食料と、空のマジックバッグも2つ出してくれ」

 回らない頭で言われた通りのものを出すと、アルが荷物持ちの子と協力して、水と食料をマジックバッグに入れ、空のマジックバッグに他の全てのマジックバッグを入れた。僕がアイテムボックスに収納してしまうと、僕の意識がないと取り出すことができなくなるので、僕が眠ってしまった時用の対策だ。申し訳ない。
 その先は、ぼんやりとしか覚えておらず、多分途中何度かおそらく意識が飛んでいるうちに、目的のセーフティーエリアについていた。

『起きたか』
「ん……」
『目的のセーフティーエリアだ。アルは戦闘に出ている』
「ブラン?あれ僕、寝ちゃった?」
『ああ』

 テントを出ると、セーフティーエリアに、冒険者がたくさんいた。一斉にこっちに視線が集まったので身構えたが、一緒に上がってきた荷物持ちのパーティーが声をかけてくれた。

「大丈夫ですか?」
「はい。あの、ごめんなさい」
「無理をさせてしまってすみませんでした。ここが目的のセーフティーエリアです」

 それから状況を説明してくれた。ここにもSランクパーティーの誘導で多くの冒険者が避難していた。ここにもともといたパーティーと移動してきた僕たちを含めると、合計で17パーティーいるので、セーフティーエリアが混雑している。そのうち僕たちを除いてもSランクとAランクで5パーティーなので、この戦力なら生き残れるのではないかと、セーフティーエリアの雰囲気がなんとなく前よりも明るい。戦闘も3交代制になっているようだ。

「このマジックバッグお返しします」
「地上に帰るまで持ってて」
「でも……」

 荷物持ちのパーティーに渡していたマジックバッグを返されたけど、それはまだ早いと思う。地上に帰って、返してほしい。
 僕はこの後どうするのか分からないけど、ここまで上がってきたんだ。彼らにも必ず地上に無事に帰ってほしい。
 そんな押し問答をしていたら、交代の時間になったようで、アルがセーフティーエリアに帰ってきた。

「ユウ、大丈夫か?顔色は少し良くなったな」
「僕だけ寝ちゃってごめんね」
「いや、強行軍だったから仕方ない」

 それから、アルにテントの中に誘われて入ると、アルがブランに遮音の結界をお願いした。何を言われるのか警戒する僕に、アルが切り出した。この後どうするのか、地上に向かうか、ここに残るか、どうしたいかと。
 ここにいる人たちは、下層のモンスターが到達するよりも前にダンジョンを出られないから、ここにあふれがおさまるまでここに残るそうだ。
 地上へ向かうなら、このまま休んで、明日出発だ。彼らを見捨てていくことに対して良心がとがめる。けれど今はそんな甘いことを言っていられる状況ではない。

 でもこういう状況で、アルが僕に選ばせるということ自体が珍しい。聞いてみると、アルもどちらが僕にいいのか分からないと言う。
 地上に向かったほうがいいと思う理由は、このメンバーがここで生き残れるかどうかは分からないからで、地上に向かわないほうがいいと思うのは、地上の様子が分からないからだ。すでに中層のモンスターは地上に出ている。地上は、ダンジョンのように吸収されないから、血生臭い場面を見る可能性が高い。

「アル、ブラン、ここに残ってもいい?僕は足手まといにしかならないけど、ブラン、僕のこと守ってくれる?」
『構わん。ここからなら地上もすぐだ』
「分かった。伝えてくるから、ユウは休め」

 ブラン、ここから地上がすぐって、もしかして何かあったら階層間の床をぶち抜くつもりですか。
 いざっていう時は、上にいる人たちに影響が出ないようにしてほしいなあ。

 アルが入ったことで、改めて3チームにパーティーを分けなおした。三交代制で、1チームが休んで、残りの2チームで階段前とセーフティーエリア前を交代しながら担当する。そして、Cランクも戦闘に参加することになった。今後モンスターが強くなっていけば、最後は総力戦にならざるを得ない。
 セーフティーエリアにずっといるのは、Dランクの荷物持ちパーティーと僕とブランだけだ。Dランクのパーティー『リンバーグ』の4人はまだ10代だけど、近々Cランク昇進間違いなしの有望パーティーらしい。

 となれば、まずは、セーフティーエリア内担当のリンバーグと僕で、エリア内の模様替えだ。
 チームごとにテントを固めて、隅っこに僕の持ち物の遮音とクリーンの魔石をつけた簡易トイレを設置する。
 予備で持っていた遮音の魔石を、真ん中に開けたスペースに置いたカーペットの上に出した水の樽の上に置いて、ご飯や会話は睡眠を邪魔しないようにそこで行うようにする。
 セーフティーエリアの入り口には、監視しながら休めるように椅子を置いた。あふれの影響で、モンスターがセーフティーエリアに入れるようになっているが、物は吸収されないままなのは、助かった。
 食事と水、ポーション類は、時間停止のマジックバッグに大量に入れて、リンバーグに渡しておく。これで僕が寝ている時間でも、リンバーグの起きてるメンバーが食事を出せる。

 戦闘中だったチームが帰ってきて、レイアウトが変わっていることに驚いている。勝手にしたからね。
 リンバーグが、僕たちで決めたルールを説明して、僕が付与したクリーンの魔石を各テントに持って行ってもらった。きっと5日以上になるのだから、清潔は大切だ。

「なんか一気に人間らしくなったな」
「勝手に決めちゃったので、変えたほうがいいところがあれば言ってください。疲れを溜めないように、睡眠が一番大切ですから」
「ベッドでぐっすり寝たい」
「ベッドは出す場所がないので、毛布貸しましょうか?」
「ベッドあるんだ。毛布は借りたい」

 ということで、貸し毛布サービスも始めた。全員分はないので、寝る時だけ持って行くことにするが、クリーンがあるので洗濯しなくてもいいから使いまわしができる。魔法便利。
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