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6章 あふれの渦中
6-7. 不安定 *
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ブランのお腹を満たしながら、屋台を回って注文し、僕たちもちょこちょこと食べたら、冒険者ギルドに向かう。
ブランが狩った魔物を解体してもらって、そしてそれを料理してもらうのだ。最初のころはお肉は全部引き取ってお店に持ち込んでいたが、最近はギルドに売れば数日後に料理となって屋台やお店に並ぶので、よほどお気に入りのお肉でない限りギルドに売って、お店に買いに行くようにしている。市井に回るようにギルドが貴族の買い占めを禁止してくれているおかげだ。
王都のギルドに入ると、僕たちに気付いた冒険者から口々に無事に帰ってよかったと言われた。あふれの真っ最中のダンジョン内の様子を教えてくれという声も聞こえる。
そういうのを軽く流して、買取カウンターに向かうと、流れるように倉庫へ案内された。毎回のことだもんね。
「今回はどんな珍しいのがあるんだ?」
「ユラカヒから森の中を進んだだけだから、大して珍しいものはないな」
「毎回旨い魔物を持ち込むくせによく言う」
食べられる魔物ばかりだとバレているが、ブランが狩るのはブランが食べたい魔物だから、自然とそうなってしまう。魔物はブランとの実力差が分かるのか逃げてしまうので、出会った魔物を狩るのではなくて、魔物を探して狩るしかないからだ。
解体してほしい魔物を全部出して、アイスの魔石も大量に出して、それから時間停止のマジックバッグも渡して、預かり証をもらう。以前は1日に解体できる分だけ出していたけど、1日ずつ出したり受け取りに来るのも面倒なので、今の形に落ち着いた。
タペラであんなことがあった後なので、付与した大量の魔石やマジックバッグを渡すことに抵抗があったが、かといって毎日来るのは面倒だ。この辺りをうまく折り合いをつけられないのは僕が不器用なんだろうか。
僕の気分が沈んだことに気付いたブランが、すりっと身体を寄せてきたので首の周りのもふもふを堪能して、気分を上向かせる。心配ばっかりかけてダメだなあ。
カウンターに戻ると、ギルドマスターが話があるからと、ギルドマスターの部屋へ案内された。
「ご無事のお帰り、何よりです」
「救援隊を出してくれたことに感謝する」
「あれは国が出したものですよ。ギルドはあふれが落ち着いてからだと言ったのですが、なんとしてもダンジョンに入ると聞かなくて。まあ一度挑戦して無理だとすぐに諦めてくれたのでよかったのですが」
「そうだったのか。中にいて思ったが、あの状況で入るのは無理だな」
「そのお話を詳しく聞きたいのですが。あふれの最中にダンジョン内にいた人の証言は貴重ですので、ダンジョン特別部隊の治癒術師の方がダンジョン内で聞き取った内容はギルドにも共有されています」
「明日、俺だけで来る。ユウは宿で休ませたい」
「分かりました。明日の午後でしたらいつでも構いません」
あの時のことで気分が沈んでいる僕に無理をさせたくないという、アルの気遣いだろう。それに、僕はずっとセーフティーエリアにいたから話せることはあまりないし、多分同じものを見ていても、アルのほうが冒険者として重要なことに気付いている。
「ドガイへ行ってきたいと思っている」
「よろしければ目的をお聞きしても?」
「チーズと、俺の友人に会うためだ」
「チーズ、ですか」
「前回のような騒動にする気はないので伝えておく」
4年前、僕たちは思い立ってすぐに山を越えてドガイへ入国したため、僕たちがモクリークと仲違いをしてドガイの教会へ身を寄せたのではないかと騒動になってしまった。アルは孤児院で育ったので、ドガイの教会とは繋がりがあり、実際はお世話になった方々への挨拶で、司教様の言葉を借りるなら里帰りだった。
ドガイへ行くなら、中央教会にも顔を出したほうがいいだろうな。ブランが行けば大歓迎してくれるだろう。
今夜は本当に久しぶりに屋根の下だ。ダンジョンは屋外でいいよね。
王都では定宿になっているお風呂付のブランもお部屋に入れてくれる宿に向かうと、執事さんのような店員さんが「お帰りなさいませ」と迎えてくれた。そういえば、日本の都会には執事カフェっていうのがあったらしいけど、こんな感じかな。カザナラの別荘でお願いすれば、メイドカフェごっこが出来そうだ。
待つことなく、すでにお風呂の準備は出来ております、と部屋に通された。まだ日が高いのにお風呂の用意がされているのは、僕たちが王都に入ったという情報を得てすぐに、部屋を用意していてくれたのだろう。
荷物はすべてアイテムボックス内に入れている僕は、荷物の整理をする必要もないので、何をおいてもとにかくお風呂だ。ひとりでのんびりのお風呂に入る。ブランはお風呂は近寄らないし、アルも僕の長風呂には付き合ってくれない。
お、新しい入浴剤が増えている。どれにしようかな、やっぱり柑橘系かな。
お風呂はかなりの贅沢品なので、入浴剤は高位の貴族しか使わないらしいけど、ここのお宿は入浴剤を置いていて、それが売りでもあるようだ。ブランのおかげでできる贅沢だ。
僕の後にさっとお風呂に入ったアルを誘ってソファにぴったりくっついて座る。僕の肩を抱いてくれているアルから同じ入浴剤の香りがするのがちょっと嬉しい。
ブランは、窓際にマットを敷いたら、そこでぐでーんと寝っ転がって伸びている。ダンジョンからずっと僕を守ってくれていたので、ブランも久しぶりに羽根を伸ばしているんだろう。
何を話すでもなくソファに座って、お風呂に入っていつもより少し体温の高いアルの温もりを感じている。
大変だったな。この世界に来てからいろいろあったけど、アルと出会ってからはダントツで大変な15日だった。
つむじをきっかけに額、鼻の頭と移動してきたキスが、唇に触れたところで、僕はアルの首に手をまわして自分からもキスをする。少しずつ深くなっていくキスに酔っていたところで、アルに止められた。
「ユウ、もう少ししたら夕食だ」
「その前に僕を食べてよ」
「夕食を食べ損ねるぞ」
「それでもいいから、お願い」
今は食事よりも、アルを感じたい。
お姫様抱っこで運ばれた寝室は、まだ明るくて、服を脱がされるのは少し恥ずかしい。けれどアルの裸も良く見えて、綺麗についた筋肉に傷がないのが一目で見えて、分かってはいたけど安堵した。怪我がなくてよかった。
確かめるように筋肉触れていると、両手を取られて、指を絡めるようにお互いの手を握り合って、顔の横に押さえつけられた。僕の上に乗ったアルが見下ろしてくる、その眼差しが、いつもと違って心配そうだ。もっと、僕を欲しがって、頭から食べつくすような目で見てほしいのに。そしてそのまま本当に食べられてしまえばいいのに。
そう願いながら重なった唇に、僕は目を閉じた。
「アル、ねえ……おねがい、はぁ、もっと僕を……ほしがって」
「ユウ、好きだ」
「ちがうっ、もっと強く、ああぁ……もっと」
お願いしてるのに、アルは僕を気遣ってくれているのか、いつもより優しくしかしてくれない。もっと激しくしてほしいのに。
「ユウ、愛してる」
「だったら、ちょうだい。おねがいっ」
「ユウ……」
アルは少し悲しそうに笑って、それまでとは一転して僕の感じるところだけを強く狙って突き上げ、一気に僕を高みへと押し上げた。
「あああっ!んんぁ、いい、もっとぉ、ああぁぁっ」
「くっ、ユウ、オレの想いを疑わないでくれっ」
「ああっ、いくっ、あああーーーーーーっ!」
浮遊感に身を任せていたら、中にアルの魔力を感じて、アルが僕の中でイったのが分かった。この瞬間が、深くで繋がっている感じがしてすごく好きだ。
僕の横に身を投げ出したアルが、ずっと繋いだままだった手を離そうとするので、力を入れて繋ぎなおす。お願い、今は離さないで。
アルが手を繋いだまま、片手を僕の頭の上から通して、後ろから抱き込んでくれた。
背中に感じるアルの体温と、まだ整わない呼吸に上下する胸が、泣きたいくらいに嬉しい。僕はひどく情緒不安定になっているみたいだ。
「ユウ、ずっとこうしているから、安心して眠れ」
「アル……、手を握ってて」
「ああ」
起きたら、翌日の昼過ぎだった。しかも微熱が出ている。ブランはあふれで疲れたんだろう、と言っているが、僕はいろいろ考えすぎて頭がオーバーヒートした気がしてならない。
アルは、僕が起きる前に帰ってこれるようにと、あふれの詳細について話に冒険者ギルドへ早めに行ったそうだが、まだ帰ってきていないので、そばにいるのはブランだけだ。熱が出ているときは、ブランのひんやりとした毛が気持ちいい。ここのベッドは大きいので、僕の枕代わりにブランが寝転がってくれて、もふもふアイスノンになってくれている。
「ブラン、アルは……、裏切らないよね?」
『ユウ、人の心は移ろうものだ。だが契約で縛るのは嫌なんだろう』
「そう、だね。ブランは裏切らないよね?」
『言っただろう。お前の一生くらい瞬きの間だ。その間はそばにいてやる』
ブランは、神獣は、一度口に出したことを決して違えない。だから、ブランが僕を裏切ることはない。分かっていても、確かめたくなる。
僕は、アルに裏切られることが、何よりも怖い。
カイドでの出来事は、この世界に来て初めて関わった人たちにされたことは、僕のこの世界への人たちへの印象を固めてしまった。この世界の人たちは信用ならない。
日本に比べて生きていくのが厳しいこの世界では、自己責任の割合が高いと思うことが多々あるけれど、それでも、いい人もいれば悪い人もいる。頭では分かっていても、トラウマとなってしまった事はなかなか克服できない。
この世界の人は信用できない。でもアルはこの世界の人だ。
僕がこんなことを考えているのが知られたら、アルに愛想をつかされるかもしれない。僕はこんなに悲観的な人間だったのかな。
ブランが尻尾で背中を撫でてくれるので、ブランのひんやりしたお腹に顔を埋めていたら、いつしか眠ってしまった。
次に起きたら、ベッドサイドにアルがいた。
「大丈夫か?一度起きたと聞いたが、泣いたのか?目が腫れている」
「アル……」
アルが優しく頭を撫でてくれるので、また涙が出てきた。僕はこの世界に来て泣いてばっかりいる気がする。
「お願いだから、僕のこと裏切らないで」
「ユウ、裏切ったりしない。ユウ、大丈夫だ。熱が出ているから弱気になっているんだ」
こんなに優しくしてくれるのに、こんなに愛してくれるのに、どうして僕はアルに裏切られるかもしれないと思ってしまうんだろう。どうして僕はアルを信じられないんだろう。弱い自分が嫌になる。
「ユウ、食べれそうなら何か食べないか」
「そうだね。果物が食べたいけど、タペラで全部出しちゃった」
「宿に頼んでくるから、離れても平気か?」
「うん。アル、キスして」
アルは額にキスをしてくれてから、部屋を出て行った。
それから僕は高熱を出して寝込んだ。
ブランが狩った魔物を解体してもらって、そしてそれを料理してもらうのだ。最初のころはお肉は全部引き取ってお店に持ち込んでいたが、最近はギルドに売れば数日後に料理となって屋台やお店に並ぶので、よほどお気に入りのお肉でない限りギルドに売って、お店に買いに行くようにしている。市井に回るようにギルドが貴族の買い占めを禁止してくれているおかげだ。
王都のギルドに入ると、僕たちに気付いた冒険者から口々に無事に帰ってよかったと言われた。あふれの真っ最中のダンジョン内の様子を教えてくれという声も聞こえる。
そういうのを軽く流して、買取カウンターに向かうと、流れるように倉庫へ案内された。毎回のことだもんね。
「今回はどんな珍しいのがあるんだ?」
「ユラカヒから森の中を進んだだけだから、大して珍しいものはないな」
「毎回旨い魔物を持ち込むくせによく言う」
食べられる魔物ばかりだとバレているが、ブランが狩るのはブランが食べたい魔物だから、自然とそうなってしまう。魔物はブランとの実力差が分かるのか逃げてしまうので、出会った魔物を狩るのではなくて、魔物を探して狩るしかないからだ。
解体してほしい魔物を全部出して、アイスの魔石も大量に出して、それから時間停止のマジックバッグも渡して、預かり証をもらう。以前は1日に解体できる分だけ出していたけど、1日ずつ出したり受け取りに来るのも面倒なので、今の形に落ち着いた。
タペラであんなことがあった後なので、付与した大量の魔石やマジックバッグを渡すことに抵抗があったが、かといって毎日来るのは面倒だ。この辺りをうまく折り合いをつけられないのは僕が不器用なんだろうか。
僕の気分が沈んだことに気付いたブランが、すりっと身体を寄せてきたので首の周りのもふもふを堪能して、気分を上向かせる。心配ばっかりかけてダメだなあ。
カウンターに戻ると、ギルドマスターが話があるからと、ギルドマスターの部屋へ案内された。
「ご無事のお帰り、何よりです」
「救援隊を出してくれたことに感謝する」
「あれは国が出したものですよ。ギルドはあふれが落ち着いてからだと言ったのですが、なんとしてもダンジョンに入ると聞かなくて。まあ一度挑戦して無理だとすぐに諦めてくれたのでよかったのですが」
「そうだったのか。中にいて思ったが、あの状況で入るのは無理だな」
「そのお話を詳しく聞きたいのですが。あふれの最中にダンジョン内にいた人の証言は貴重ですので、ダンジョン特別部隊の治癒術師の方がダンジョン内で聞き取った内容はギルドにも共有されています」
「明日、俺だけで来る。ユウは宿で休ませたい」
「分かりました。明日の午後でしたらいつでも構いません」
あの時のことで気分が沈んでいる僕に無理をさせたくないという、アルの気遣いだろう。それに、僕はずっとセーフティーエリアにいたから話せることはあまりないし、多分同じものを見ていても、アルのほうが冒険者として重要なことに気付いている。
「ドガイへ行ってきたいと思っている」
「よろしければ目的をお聞きしても?」
「チーズと、俺の友人に会うためだ」
「チーズ、ですか」
「前回のような騒動にする気はないので伝えておく」
4年前、僕たちは思い立ってすぐに山を越えてドガイへ入国したため、僕たちがモクリークと仲違いをしてドガイの教会へ身を寄せたのではないかと騒動になってしまった。アルは孤児院で育ったので、ドガイの教会とは繋がりがあり、実際はお世話になった方々への挨拶で、司教様の言葉を借りるなら里帰りだった。
ドガイへ行くなら、中央教会にも顔を出したほうがいいだろうな。ブランが行けば大歓迎してくれるだろう。
今夜は本当に久しぶりに屋根の下だ。ダンジョンは屋外でいいよね。
王都では定宿になっているお風呂付のブランもお部屋に入れてくれる宿に向かうと、執事さんのような店員さんが「お帰りなさいませ」と迎えてくれた。そういえば、日本の都会には執事カフェっていうのがあったらしいけど、こんな感じかな。カザナラの別荘でお願いすれば、メイドカフェごっこが出来そうだ。
待つことなく、すでにお風呂の準備は出来ております、と部屋に通された。まだ日が高いのにお風呂の用意がされているのは、僕たちが王都に入ったという情報を得てすぐに、部屋を用意していてくれたのだろう。
荷物はすべてアイテムボックス内に入れている僕は、荷物の整理をする必要もないので、何をおいてもとにかくお風呂だ。ひとりでのんびりのお風呂に入る。ブランはお風呂は近寄らないし、アルも僕の長風呂には付き合ってくれない。
お、新しい入浴剤が増えている。どれにしようかな、やっぱり柑橘系かな。
お風呂はかなりの贅沢品なので、入浴剤は高位の貴族しか使わないらしいけど、ここのお宿は入浴剤を置いていて、それが売りでもあるようだ。ブランのおかげでできる贅沢だ。
僕の後にさっとお風呂に入ったアルを誘ってソファにぴったりくっついて座る。僕の肩を抱いてくれているアルから同じ入浴剤の香りがするのがちょっと嬉しい。
ブランは、窓際にマットを敷いたら、そこでぐでーんと寝っ転がって伸びている。ダンジョンからずっと僕を守ってくれていたので、ブランも久しぶりに羽根を伸ばしているんだろう。
何を話すでもなくソファに座って、お風呂に入っていつもより少し体温の高いアルの温もりを感じている。
大変だったな。この世界に来てからいろいろあったけど、アルと出会ってからはダントツで大変な15日だった。
つむじをきっかけに額、鼻の頭と移動してきたキスが、唇に触れたところで、僕はアルの首に手をまわして自分からもキスをする。少しずつ深くなっていくキスに酔っていたところで、アルに止められた。
「ユウ、もう少ししたら夕食だ」
「その前に僕を食べてよ」
「夕食を食べ損ねるぞ」
「それでもいいから、お願い」
今は食事よりも、アルを感じたい。
お姫様抱っこで運ばれた寝室は、まだ明るくて、服を脱がされるのは少し恥ずかしい。けれどアルの裸も良く見えて、綺麗についた筋肉に傷がないのが一目で見えて、分かってはいたけど安堵した。怪我がなくてよかった。
確かめるように筋肉触れていると、両手を取られて、指を絡めるようにお互いの手を握り合って、顔の横に押さえつけられた。僕の上に乗ったアルが見下ろしてくる、その眼差しが、いつもと違って心配そうだ。もっと、僕を欲しがって、頭から食べつくすような目で見てほしいのに。そしてそのまま本当に食べられてしまえばいいのに。
そう願いながら重なった唇に、僕は目を閉じた。
「アル、ねえ……おねがい、はぁ、もっと僕を……ほしがって」
「ユウ、好きだ」
「ちがうっ、もっと強く、ああぁ……もっと」
お願いしてるのに、アルは僕を気遣ってくれているのか、いつもより優しくしかしてくれない。もっと激しくしてほしいのに。
「ユウ、愛してる」
「だったら、ちょうだい。おねがいっ」
「ユウ……」
アルは少し悲しそうに笑って、それまでとは一転して僕の感じるところだけを強く狙って突き上げ、一気に僕を高みへと押し上げた。
「あああっ!んんぁ、いい、もっとぉ、ああぁぁっ」
「くっ、ユウ、オレの想いを疑わないでくれっ」
「ああっ、いくっ、あああーーーーーーっ!」
浮遊感に身を任せていたら、中にアルの魔力を感じて、アルが僕の中でイったのが分かった。この瞬間が、深くで繋がっている感じがしてすごく好きだ。
僕の横に身を投げ出したアルが、ずっと繋いだままだった手を離そうとするので、力を入れて繋ぎなおす。お願い、今は離さないで。
アルが手を繋いだまま、片手を僕の頭の上から通して、後ろから抱き込んでくれた。
背中に感じるアルの体温と、まだ整わない呼吸に上下する胸が、泣きたいくらいに嬉しい。僕はひどく情緒不安定になっているみたいだ。
「ユウ、ずっとこうしているから、安心して眠れ」
「アル……、手を握ってて」
「ああ」
起きたら、翌日の昼過ぎだった。しかも微熱が出ている。ブランはあふれで疲れたんだろう、と言っているが、僕はいろいろ考えすぎて頭がオーバーヒートした気がしてならない。
アルは、僕が起きる前に帰ってこれるようにと、あふれの詳細について話に冒険者ギルドへ早めに行ったそうだが、まだ帰ってきていないので、そばにいるのはブランだけだ。熱が出ているときは、ブランのひんやりとした毛が気持ちいい。ここのベッドは大きいので、僕の枕代わりにブランが寝転がってくれて、もふもふアイスノンになってくれている。
「ブラン、アルは……、裏切らないよね?」
『ユウ、人の心は移ろうものだ。だが契約で縛るのは嫌なんだろう』
「そう、だね。ブランは裏切らないよね?」
『言っただろう。お前の一生くらい瞬きの間だ。その間はそばにいてやる』
ブランは、神獣は、一度口に出したことを決して違えない。だから、ブランが僕を裏切ることはない。分かっていても、確かめたくなる。
僕は、アルに裏切られることが、何よりも怖い。
カイドでの出来事は、この世界に来て初めて関わった人たちにされたことは、僕のこの世界への人たちへの印象を固めてしまった。この世界の人たちは信用ならない。
日本に比べて生きていくのが厳しいこの世界では、自己責任の割合が高いと思うことが多々あるけれど、それでも、いい人もいれば悪い人もいる。頭では分かっていても、トラウマとなってしまった事はなかなか克服できない。
この世界の人は信用できない。でもアルはこの世界の人だ。
僕がこんなことを考えているのが知られたら、アルに愛想をつかされるかもしれない。僕はこんなに悲観的な人間だったのかな。
ブランが尻尾で背中を撫でてくれるので、ブランのひんやりしたお腹に顔を埋めていたら、いつしか眠ってしまった。
次に起きたら、ベッドサイドにアルがいた。
「大丈夫か?一度起きたと聞いたが、泣いたのか?目が腫れている」
「アル……」
アルが優しく頭を撫でてくれるので、また涙が出てきた。僕はこの世界に来て泣いてばっかりいる気がする。
「お願いだから、僕のこと裏切らないで」
「ユウ、裏切ったりしない。ユウ、大丈夫だ。熱が出ているから弱気になっているんだ」
こんなに優しくしてくれるのに、こんなに愛してくれるのに、どうして僕はアルに裏切られるかもしれないと思ってしまうんだろう。どうして僕はアルを信じられないんだろう。弱い自分が嫌になる。
「ユウ、食べれそうなら何か食べないか」
「そうだね。果物が食べたいけど、タペラで全部出しちゃった」
「宿に頼んでくるから、離れても平気か?」
「うん。アル、キスして」
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