世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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7章 この世界でやりたいこと

7-1. 大人の責任

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 突然だけど、商会を立ち上げることになった。
 事の起こりは、カザナラの別荘で雇っている孤児院の子どもたちだ。

 僕は、ある日この剣と魔法のファンタジーな世界に迷い込んだ。契約してくれた神獣のブランと、恋人のアルと一緒に、冒険者として生計を立てている。モンスターは遊び相手くらいにしか思っていないブランと、Sランクのアルが、ダンジョンのモンスターを片っ端からドロップ品に変え、僕の持つ希少スキル『アイテムボックス』で全てのドロップ品を収納していくおかげで、僕たちのお財布はとても潤っている。
 実はどれくらい稼いでいるのか、僕は知らない。そういうことはすべて、カザナラの別荘の管理人であるサジェルが管理してくれている。冒険者には一部税の免除があるけど、その辺りのことも全てお任せしている。

 そのサジェルに、カザナラの別荘を買う際、従業員に希望はあるか聞かれたので、僕は出来ることなら孤児院の子どもにチャンスを与えてあげてほしいと言った。言っただけで、その後雇っているのかどうかは知らなかったし、あの別荘に使用人が何人いるのかも僕は知らない。アルは確認しているようだけど、僕が委縮してしまわないよう、僕の前にはサジェル以外の使用人は極力姿を見せないようになっている。

 別荘を買って5年、孤児院の子どものうちのひとりが、なんとこの度王宮の使用人になった。
 王宮といっても、軍の宿舎のメイドさんなんだけど、孤児院出身者の採用は異例中の異例だ。軍の施設は王宮の端っこにあって、宿舎もその中にある。基本的には軍の見習いの人たちが掃除とか洗濯はするけど、将官の宿舎だけはメイドさんがつく。といっても男社会なので、日中だけの勤務だ。

 王宮のメイドさんは、確かな身元と教養が必要になるので、下位貴族や商人など裕福な家のお嬢様が多い。寝室にも入れるわけだから、寝首をかかれたら困るし、それは納得だ。王宮に勤めていたとなると箔がつくし、もちろん玉の輿狙いもあって、お嬢様たちには人気の職だ。
 一方、軍の将官の半分は平民だ。モクリークはダンジョンが多いこともあり、軍は完全に実力主義だ。貴族だろうが庶民だろうが、モンスターには関係ない。そのため、メイドさんたちには軍の宿舎は不人気でハズレの職場だ。軍の将官から、お高くとまっているメイドに部屋に入られるくらいなら、見習いでいいという声もよく上がるらしい。

 そこに、カザナラの別荘の使用人がどうかかわってくるのか。
 サジェルは、僕の希望を叶えるべく、孤児院の子どもたちを雇って、ある程度仕事ができるようになったところで、伝手をたどって転職させていたそうだ。
 あの家の主人である僕たちは、1年のうちトータルでも2か月くらいしか屋敷にいない。じゃあ残りの期間何をしていたかというと、新人教育をしていた。そして新人の子たちは、サジェルやベテランの使用人の合格をもらったら、商会や高級宿、貴族のお屋敷の使用人として雇われていった。孤児院出身ではあるが、元王宮侍従長のお墨付きとあって、身元を気にしない職場からは引く手あまたらしい。
 その噂を聞いた軍の将官から、是非軍の宿舎のメイドに来てほしいと話があった。

 孤児院出身とは言っても、身元のはっきりした子どももいる。魔物やモンスターのせいで親を亡くして孤児院に身を寄せた子どもたちだ。そういう子であれば、他国のスパイなどはないし、サジェルの元でしっかり教育されているなら、王宮のメイドになるのも問題はない。
 けれど最初、サジェルは断ったそうだ。自身が王宮にいたからこそ、そこで身分によって起きる使用人のあいだでの嫌がらせも知っている。孤児院出身だからと他の使用人から嫌がらせを受けるのは目に見えている。他に行くところがないならともかく、是非来てほしいという職場があるのだから、わざわざ苦労する必要はない。
 それでも、その子が行くと自身で決めた。

「自分が行くことで、この後の孤児院の子どもたちの就職先が広がるなら頑張れるから」

 そう言ったそうだ。
 僕はその言葉を聞いて、不覚にも泣いてしまった。どうして、親を亡くしてひとりで生きて行こうと頑張っている子が、そんな発言をしなければいけないのか。それは、僕たち大人が考えるべきことじゃないのか。
 その時感じたのは怒りだった。

 この世界は、世襲制が一般的だ。パン屋の子どもはパン屋、宿屋の子どもは宿屋になる。成人する前から労働力として家の手伝いをして、親が引退するときに引き継ぐ。大きな商会など、血縁関係のないところに従業員として雇われることもあるが、ごく一部だ。継ぐべき家業を持たない子どもは、コネがなければ職につけない。結果、冒険者になるしかない。一攫千金を夢見たり、その手で魔物やモンスターから家族を守りたいからと冒険者を選ぶ人もいるが、冒険者以外になれない人もいる。
 冒険者は、戦闘系のいいスキルを持っていたら軍から勧誘されることもあるし、自分の才覚だけで成りあがっていける一方、才能がなければ成りあがることはできない。そういう子たちは、落ちぶれるか、無理な依頼を受けて命を落としてしまう。

 継ぐべき職業がなく、冒険者にも向かない子どもが、安全に稼いでいけるように手助けがしたい。
 この世界で初めて、やりたいことができた。

 僕のやりたいことを、アルとサジェルに告げたところ、すでにカザナラの別荘がそういう場所になっていると言われた。けれど、カザナラの別荘で雇っているのは、カザナラ周辺の孤児院の子どもたちだけだ。
 200年周期が始まり、決して予想は当たってほしくないけれど、これから孤児となる子どもは増えるだろう。その子たちが生きていくために、少しでも希望になれればいいと思う。
 夢が壮大すぎて自分に何ができるか分からないけど、僕にもやりたいことができた。


 やりたいことができたからといって、日々やることは変わらない。
 ダンジョンに行って、上層で僕の訓練をして、中層からはドロップ品を拾って、地上に帰る。そろそろ諦めてもいいんじゃないかと思うけど、いちおう冒険者なので、戦闘訓練は続けている。最近は、通りがかる冒険者にまで応援されてしまうようになった。
 その中で、各街に家を買って、そこでサジェルみたいな人を雇って、新人教育してもらう?なんて冗談で話したこともあった。

 サザとコハツのダンジョンを攻略して、カザナラに戻ったら、こちらが孤児院の子どもたちの職を作るための計画です、とサジェル計画書を渡された。

「ユウ様のご希望で、孤児院の子どもたちに職業訓練をする施設を考えましたが、宿を経営してはどうかと思い、草案を作成いたしました」
「え?宿?」
「はい。宿でしたら、質は劣りますが、こちらと同じような教育を施すことが可能です。子どもたちの安全も考えますと、中級から高級宿になりますので、対象は旅の商人です。商人が立ち寄り、中級宿がなく、土地のある街をリストにしてあります」

 サジェルが有能すぎる件。

「アル、どう思う?」
「やりたいのはユウだろう?」
「えっと、話が早すぎてついていけない」

 僕は高校生になってすぐこの世界に落ちてしまったので、日本で働いたことがない。この世界では冒険者として働いているけど、収入をちゃんと把握していたのは、アルが戦闘奴隷だったころだけだ。それも、アルが自分を買い戻せるようになっているかどうかしか興味がなかったので、自分のギルドカードの残高はしばらくお金に困らないくらいはあるな、という感覚だった。
 アルとパーティーを組んで、ダンジョンのドロップ品などの収入は全てパーティーカードに入っている。僕のカードには僕の付与で得た収入しか入っていない。といっても個人カードから支払うのはアルへのプレゼントだけなので、出て行かないから貯まる一方だ。カザナラの別荘を買ってから、お金の管理はサジェルに任してしまったので、なおさら僕は把握していない。
 そんな状態で経営とか、無理だな。

「サジェル、ありがとう。でも僕には早いと思う」
「理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「僕は、自分たちがダンジョンでどれくらい稼いでいるのか知らないし、中級の宿が1泊いくらするのかも知らないし、宿を経営するのにどれくらいの費用が掛かるのかも知らない」
「それは全てサジェルに任せればいいことだ」
「うーん、そうなのかもしれないけど、言い出しっぺとしては、ちゃんと把握しておかないといけないなと思って。だから、まずはサジェルの時間がある時に教えてほしい」
「かしこまりました」

 それから僕は、サジェルにまず僕たちの経済状況を教えてもらった。
 サジェルは僕たちのパーティーカードを見ることもできるし、お金を引き出すことも出来る。初めて知ったけど、ここの別荘の従業員のお給料はそうやって払っている。
 パーティーカードを見てつけてくれていた家計簿のようなもので、僕たちがダンジョンに潜って集めたドロップ品の毎回の買取金額とその平均、街での買い物で使っている金額、ここの従業員に払っているお給料などを説明してくれた。
 それで気づいた。

「アルって、お小遣いないよね?」
「お小遣いというか、俺の個人カードには、戦闘奴隷だった時に貰った金の残りと、そのあとひとりでダンジョン攻略したときのドロップ品の買取金額が入っているから、まだあるぞ」

 お小遣いという言葉に笑いながらアルが答えてくれたけど、僕たちのダンジョンの収入は、全てパーティーカードに入っている。僕は付与で得たお金を個人カードに入れているけど、アルにはそういう収入がない。
 普通はどうしているんだろうと質問したら、ギルドでの買取金額などは、まずパーティーとして必要な額をパーティーカードに入れて、残りをパーティーメンバーで割って個人カードに入れるそうだ。僕たちの場合、日常的にアルと僕のお財布が1つだからこういうことになってるんだな。

 使うかどうかは別にして、アルが自由に使えるお金もあったほうがいいから、今後は買取金額の一部はアルと僕の個人カードにも入れることに決めた。戦っているのはアルだからアルだけでいいという僕と、メインで戦っているのはブランなんだから、それを言うとユウが多く貰わないといけないだろうというアルの意見の間を取って、同じ金額を入れることになった。
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