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最終章 手を携えて未来へ

10-14. 僕の居場所

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 授業を終えたら教会へ馬車で帰る。孤児院は教会の敷地内にあることが多いが、モクリークの中央教会は土地の広さの関係か、孤児院と神学校が王都の外れにある。
 帰りの馬車の窓から何気なく外を見ていたら、獣道とアルが歩いていた。ダンジョンから帰ってきたみたいだ。
 ツェルト助祭様が馬車を止めてくれたので、馬車の中から声をかける。

「お帰りなさい。これからギルド?」
「ただいま。これから攻略報告だ。ユウは外出か?」
「孤児院でお手伝いした帰り。あ、ルフェオさん、虎の獣人の子どもがいましたよ。ちっちゃくて可愛かったです!」
「ほお。助祭さん、俺がいきなり行っても会えるか?」

 身分証を見せれば誰でも会えるそうで、攻略報告後に会いに行こうと話し合っている。ルフェオさんだけじゃなくて他の3人も乗り気だから、子ども好きなのかな。でもその前に。

「僕も攻略報告一緒に行ってもいいですか?」
「俺達はいいが、教会のほうはいいのか?」
「大丈夫ですよ。ユウさんが希望されるなら、街中であれば構わないとチルダム司教からも言われています」

 みんなに良いと言われたので、一緒に攻略報告に行こう。先に馬車で行って、5人が着くのを待ってるね。


 アルと獣道と一緒にギルドの建物に入ると、現れた僕、というよりブランに気付いた周りの冒険者から、ギルド中へとざわざわが広がっていく。帰って来たって本当だったんだな、という言葉が聞こえるけど、そういえば教会の関係者じゃない一般の人の前に出るのは初めてだ。
 そのざわめきに気付いたのか、連絡があったのか、奥からギルドマスターが現れた。この建物で会うのはすごく久しぶりだけど、ここのギルドマスターなんだからここが本来の仕事場で、いて当然の人だ。

「お帰りなさい。攻略報告ですか?」
「ああ。ユウはおまけだ。アレックスが帰ってくるのを待ちきれなかったらしい」
「ご一緒にどうぞ」

 アルにぴったりとくっついていたから、ルフェオさんに揶揄われた。でもまあ間違ってない。顔を見たら、攻略報告を終えるまで待っていられなかったのだ。

 会議室で攻略報告をして、買取のドロップ品を並べていくが、アルも獣道も容量特大のマジックバッグを持っているので、とにかく多い。マジックバッグの空きスペースを作るためにも、いらないものは無償でも引き取ってもらう必要がある。しかもどれが何個あるのかも数えなければならず、鑑定の職員も3日かかると申し訳なさそうに告げた。
 そういえば僕たちはいつもリストを作って、ギルドが買い取ると言ったものだけ売っていたから、こういう風に全部を出したことはなかった。それは容量制限が多分ないアイテムボックスだからこそ出来ることだったんだな。

「ところで、獣道の皆さんに指名依頼が来ているのですが、一応断る前にお知らせしておこうと思いまして」
「どんな依頼だ?」
「貴族から、新たに魔剣を取ってきてほしいという依頼です」
「断ってくれ」
「かしこまりました。今後魔剣に関する依頼は全て断ります」

 ブランが行かないと魔剣が出ないというのは、多分ギルドマスターも気づいているんだろう。
 実はブランの正体に気付いていたりするのだろうか。そんな思いでぼんやりとギルドマスターを見ていたら、目が合ってにっこりと微笑まれた。なんかヤバい気がするので曖昧に笑ってみたけど、心が読めたりしないよね?

「少し早いですが、今年の冬のカークトゥルスの占有権は使われますか?」
「ああ。俺達は行く。多分アレックスも行く。ユウはその時の状況次第だ」
「分かりました。ユウさんが発破をかけてからサネバの軍がマジックバッグの獲得に躍起になっていまして、下層2つ目を占有していますので、その時は空けるように伝えます」

 え、あれは別に発破をかけたわけじゃないんだけど。そう取られちゃったの?

「ユウ、何を言ったんだ」
「僕たちが冬2回で200近く買取に出したんだから、常駐している軍はもっと手に入れてるはずでしょう?あふれにはそれを使ってって言っただけで、そんなつもりはなかったんだけど」
「サネバの軍が気の毒だな。お前はその従魔の強さに慣れすぎだ」

 え、なんで?ブランがいなくても、獣道との4人だけで下層2つ目のフロアボスを倒せるようになったし、軍ならもっと人数がいるんだから、倒せるはずだよね?

「あのな、俺達いちおう最強って言われてるパーティーだからな」
「そうですね。獣道と同じくらいの強さの兵士は、隊に1人いればいいほうですよ」
「連携もあるから、人数がいればいいってものでもないんだよ。しかも軍は安全に倒せる確証がなければ挑戦しないよ」

 えーっと、つまり、素人がよく分からずに努力が足りないと言っちゃったのか。しかも王様の前で。どうしよう。
 上手く交渉できたと思っていたけど、やっぱりやらかしていた。慣れないことはするものじゃない。あの時アルやギルドマスターが苦笑していたのはこれだったのかもしれない。
 無理して怪我人とか出ていないか心配になったけど、兵士は育成に費用も時間もかかるから、訓練に位置づけられているダンジョンで無理はしないそうだ。よかった。


 孤児院の虎獣人の子に会いに行くという獣道と別れて、アルと一緒に教会に戻ってきた。次のダンジョンに行くまで5日間休みにして、一緒にいてくれる。

「お帰り。危ないことはなかった?」
「ああ。獣道が魔剣を使いこなしているから、ほとんどのモンスターは苦労せず倒せる」
「すごいね」
「本当に彼らが最強だろうな。ユウは、孤児院の手伝いとは何をしていたんだ?」
「計算の補習のお手伝い。学生に戻った気分で頑張ってる」

 教える立場としては、間違ったことは言えないので、先に問題を見せてもらって僕も解いている。四則演算が日本と違う法則だったりしなくて本当に良かった。
 それから僕は付与のことや、孤児院で会った子どものことなどを話した。その間僕がアルにぴったりとくっついているので、ブランは少し離れたところで寝転がっている。

「ユウは計算をどこで習ったんだ?」
「学校だよ」
「難しいことをやるんだな」
「6歳から15歳までは全員通うんだけど、外国語とかも習うよ」

 そういえば、学校の話はしたことがないような気がする。
 僕は日本のことを思い出すのが辛くて、アルに家族の話をしたのもタペラのあふれを経験した後だった。今はだいぶ冷静に話せるようになったけど、アルは気を使って聞かないでいてくれたのかもしれない。

 そんなに長く何を勉強するんだと聞かれて答えようとしているけど、当たり前だと思っていることって上手く説明できない。そういう決まりだから、としか答えられない。
 そもそも義務教育の内容は直接仕事に結びつくことじゃないし、この世界にそういう仕組みがないからか、アルもピンとこないようだ。
 体育とか、なんでわざわざ走るんだ?と聞かれると、僕にも分からない。僕は単距離も長距離も苦手だったし。球技も苦手だったし、体育全般得意じゃなかった。そこで、だろうなって相槌を打たないでくれますか、ブランさん。

 アルの疑問に答えて、話が落ち着いたところで、僕はずっと気になっていたことを聞いた。

「ねえ、冒険者たちは僕のこと、なんて言ってた?」
「ユウ?」
「ドガイに行ったり、帰ってきたり、無責任って言われても仕方がないなって」
「ユウ、冒険者はどこに行くのも自由だ。ユウはこの国になんの責任もないんだ」
「でもギルドも冒険者も僕たちが困らないようにずっと助けてくれていたのに」

 僕たちに絡まないようにとギルドが通達してくれて、冒険者も絡まれていたら助けてくれた。もちろんそうじゃない人もいたけど、大多数の人は僕を助けてくれた。僕たちが襲撃された時だって、その場にいた冒険者たちは助けてくれたのだ。なのにこの国を出て行った。

「心配していたよ。テイマーは大丈夫か?って何回聞かれたと思う。教会が守ってくれているなら安心だなと言っていた。大丈夫、みんな分かっている」

 モクリークは僕がこの世界で初めて、自分の居場所ができたと思えた場所だ。
 その中でも関わってきたのは、ほとんどが冒険者だ。やりたくて始めた仕事ではないけれど、それでも僕は、この世界で冒険者として生きてきた。
 国や軍に思うところがあっても、彼らは別だ。仲間だと思っていた。もちろんいい人ばっかりじゃないけど、でもいろいろと助け合ってきた仲間だ。今もできるなら仲間に戻りたいと思っている。
 大丈夫、焦らなくていいと言って抱きしめてくれるアルの腕の中で泣いてしまった。足元にはブラン寄り添ってくれる。あれから泣いてばかりだ。

「ごめんね。僕のせいでアルも巻き込まれてしまって」
「ユウ、俺がユウのそばに居たいんだ」
「うん。巻き込んで悪いと思ってるけど、それでもそばにいてほしい。ごめんなさい」

 泣きじゃくる僕の手を取って、アルが優しく言ってくれた。

「謝る必要なんてない。ブランの氷の花に誓っただろう。俺のそばにいてくれ」
「ありがとう」

 僕といるとまた狙われるかもしれないのに、それでも、どうしてもこの手を離すことが出来なかった。

 どうか、僕のせいでこれ以上アルが傷つけられることがありませんように。
 この世界の神様に、心から祈りを捧げた。
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