世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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もふもふ-2. 子犬2日目

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 ゆらゆら揺られるのが気持ちいい、優しく撫でてくれる手が気持ちいい。赤ちゃんの時のゆりかごの中ってこんな感じかな、と夢うつつに思っていたら、いい匂いがしてきて目が覚めた。
 あれ、アルが大きい、と思って思い出した。僕は今子狼だ。

「きゃん!」
「おはよう。よく眠っていたな」

 いい匂いは僕のために準備されたご飯のようだ。大きな椅子の上に低い台を置いて、そこに食器が並べられている。多分床の上だと僕が抵抗があるだろうと用意してくれたんだろう。
 昨日食べないで寝てしまったので、お腹が空いている。食べるぞ、と意気込んだものの、今は狼だ。手を使って食べようとして、自分の肉球を見て諦めた。食器に顔を突っ込んで食べるしかない、と決意して一生懸命食べているけど、上手く食べられない。

「サジェル、シチューは無理なようだ。何か他に食べやすそうなものを出してくれるか。パンは食べているが」
「すぐにご用意いたします」

 気づくとシチューの大半が台の上にこぼれている。ブランはこんなのどうやって食べてるの。
 固いものは僕が食べられないかもしれないと思って、軟らかく煮たシチューにしてくれたのに、汁気のある物を上手く食べられないことが判明した。水はぺろぺろすると飲めるけど、それも実は透明だから目立たないだけで、たくさん周りにこぼれていたようだ。
 仕切り直しで、焼いた柔らかいお肉やお野菜、パンなどを小さく切って並べてくれたので、それを1つずつ順に食べ、時間はかかったけどお腹いっぱいになった。
 サジェルに顔の周りをきれいにしてもらった後、お腹がいっぱい過ぎてころんと転がっていたら、ブランが隣に寝転がってくれたので、ブランのお腹の毛に埋まるように寄り添う。

「ユウ、お腹がパンパンになってるぞ」
「けふっ」
「おはようございます。食欲があるようでよかったです」

 チルダム司教様が今日も部屋に来てくれた。何か用があるのかな?

「ところで、陛下との会合はいかがなさいますか?」

 そういえば、忘れていた。
 アルが襲われた後に、教会を通して国と交渉の場を持ったが、その時に1年に1度は同じように非公式で顔を合わせることになった。
 国としては僕との繋がりを切らせないためだが、僕はあまり乗り気ではない。けれど前のように知らないうちに水面下で襲撃を企てられていたりすると嫌なので、まあ出て黙ってるだけならいいかと了承したのだ。
 前回は自分で交渉しようとして結局最後は大司教様に上手くまとめてもらうことになったので、今後は全てお任せする予定だ。

 その会合が、8日後にある。
 長い人だと戻るまでに2か月かかったらしいので、2か月後以降に伸ばすと、カークトゥルス合宿に影響が出てしまう。
 それに王様だって直前に予定を変えられるのはあまりいい気はしないだろう。
 どちらにしろ僕は座ってるだけだし、子狼でも関係ないよね。

「きゃふ、うーわふっ」
『このままで問題ないなら、どうせ座っているだけなので今の日程で良いと言っている』
「予定通り交渉は全て大司教に任せるということですね。承知しました」

 アルが延期したほうがいいんじゃないかと言っているけど、子狼に話しかけてくる人もいないだろうし、めんどくさいことはさっさと終わらせたい。
 魔法のある世界だし、子狼の姿で出るのが失礼に当たるとかはないみたいなので、構わないだろう。大司教様に全てお任せしよう。

 ということで、難しいことは忘れてブランの毛に埋まろう。自分が毛玉になっても、やっぱりブランの毛は最高だ。
 ふわふわの尻尾をちょいちょいしていたら、ブランが尻尾をフラフラと振ってくれるので、思わず飛び掛かってしまった。ブランがまた尻尾を動かすので、なかなか捕まえられない。夢中でブランの尻尾を追いかける。

「マーナガルム様は子守がお得意なようですね」
「いつもとあまり変わらない気もしますが」

 チルダム司教様とアルが何か言っているけど、僕は今ブランの尻尾を追いかけるのに忙しい。ふわふわの尻尾が目の前を行ったり来たりすると、飛び掛からないといけない気がするのだ。

 気が付くと、ブランの尻尾にしがみついて、寝ていた。どうやら追いかけているうちに疲れて眠ってしまったようだ。本当に子どもになっている気がする。


 起きるとお昼を過ぎていたので、お昼ご飯を食べて、念願の外だ。
 外に出たいとお願いしたのに、ブランの尻尾で遊んでいるうちに寝てしまったのだ。

 ブランに首の後ろを咥えられて、庭まで運ばれていると、通りすがりの人たちがぎょっとした顔で見てくる。
 高性能になった僕の耳が、通り過ぎた後の会話を拾った。

「あれって、子どもか……?」
「いつの間に、子どもが……?」

 みんなにブランの子どもだと思われているみたいだ。
 ブランお父さんは僕を柔らかい芝生の上まで運ぶと、そっと降ろしてくれた。ここなら肉球も傷つかないだろうって言われたけど、確かに僕の肉球はぷにぷになので、石の上を歩いたら傷がつきそうだ。

 芝生の上を走り回ろうとするが、4つ足が難しいのか、この身体が子どもだからか、すぐにこけてしまう。それでも足の裏の柔らかい感触が楽しくて走り回っていたら、目の前にチョウチョが飛んできた。
 捕まえたくて必死で飛び上がるけど、かすりもしない。しかもこのチョウチョ、わざわざ僕の頭の上をウロウロするのだ。絶対におちょくられている。
 意地でも捕まえてやると飛び上がったら、そのまま背中から落ちた。

「きゃうん!」
『何をやってるんだ』
「ユウ、怪我はないか」
「うなうあう」
「チョウチョに遊んでもらったんだな」

 違う。断じて違う。
 僕がチョウチョを捕まえたかっただけで、チョウチョに遊んでもらったわけじゃない。

 それからは、チョウチョに飛び掛かろうとするたびにやめておけ、とブランに連れ戻され、ブランに登ったりブランの周りをウロチョロするだけで、ほとんど室内と変わらない遊びになってしまった。
 でも芝生と風が気持ちよかったからいいもん。


 夜になって、お風呂に入れてもらったら、もう瞼が閉じそうだ。この身体は、あまり長時間起きていられないのか。

「ユウ、どうやって寝る?」
「あう……わう……」

 ブランのお腹がいいと言いたいけど、眠くて口が回らない。とりあえずブランのお腹にしがみつけば分かってもらえるだろうと、ふわふわの毛の中に頭を突っ込んだ。
 お腹と言っているが、本当にお腹の部分の毛は薄くなっているので、僕が潜り込んでいるのはブランが寝転がったときに胸の部分と足に囲まれたふわふわ天国の中だ。
 どこまでが自分の毛でどこからがブランの毛か分からない天国に全身で潜り込むと、もう起きていられない。
 おやすみ、という挨拶は、もごもごと毛の中に消えていった。
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