世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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もふもふ-3. 子犬10日目

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 さて、王様との会談の日だ。
 といっても今回僕はただ座っているだけなので、準備することも考えることもないし気が楽だ。しかも子狼になっているので、服の準備もない。
 ブランにも僕と同じ子狼になってもらってじゃれ合って遊んでいたら、大司教様が部屋に来た。

「これは……」
「目が紫の方がブラン、黒がユウです。最近のお気に入りの遊びです」

 ブランが子狼になったら、本当に目の色以外はそっくりなのだ。けれど動くとすぐ違いが分かってしまう。頭が重いのか僕はフラフラしてしまうのに、ブランはシュッと動ける。どうしてなの。
 ブランだけカッコいいのが納得いかなくて、ブランに飛びついたら、そのまま一緒にコロコロと転がって、椅子の足にぶつかった。

「きゃん!」
「ユウ、遊びはそこまでだ。ほら、サジェルに毛を整えてもらえ」
「くーん」

 アルに抱き上げられて、打ったところを確かめられた後、サジェルに手渡された。
 最初はアルに抱き上げられるその高さが怖かったけど、最近はだいぶ慣れた。アルは僕を絶対に落とさないと信じられるからかもしれない。
 サジェルの手で椅子の上に置かれて、ブラッシングをされる。ちなみに僕用のブラシは、ブランの物とは別に子犬用が用意されている。しばらくしたら元に戻るのに、と思ったけど、そこは執事のプライドが許さなかったのか。
 ブランはどうしたかなと思って見たら、いつものシルバーウルフの大きさに戻って、アルと大司教様にブラッシングされている。

 教会の人たちのブランへの接し方は人それぞれだ。
 基本的にブランに話しかけるのは大司教様か司教様、教会でも階位の高い人だけだ。
 ドガイの大司教様はブランに言葉をかけられただけで感激で倒れてしまったこともあるくらい、ブランのことを神聖視している。ドガイのグザビエ司教様はブランとたくさん会話もしているけれど、ブランに触れようとはしない。ケネス司祭様だけが特殊で、ブランに比較的気安く接している。それは最初にドガイに行った時の、王都から脱出する際のやり取りに起因しているのだけれど、ブランはケネス司祭様に撫でられるのは嫌がらない。そしてこの3人には僕のつけたブランという名前を呼ぶことを許している。
 一方モクリークの教会とは、僕たちがずっと距離を置いていたので、ドガイよりも関わりが浅かった。アルの襲撃以降一気に距離は縮まったものの、モクリークの人たちはブランに対しては一線を引いて付き合っているように見える。それはおそらく冷静沈着な大司教様がブランとは一定の距離をもって接している影響があるのだろう。
 その大司教様がブランのブラッシングをしている。アルひとりでは間に合わないから頼んだのだろうけど、なんだかいい光景だなと思って眺めていた。

 僕はサジェルの手で赤いリボンを首に巻いてもらった。子犬ブランに絶対似合うと思ったのだ。ということは、今の僕にも似合うはずだ。
 大司教様とチルダム司教様が相好を崩しているから似合ってるんだろう。子犬は無条件でかわいいよね。


 今日の会談で、僕はアルの膝の上でお座りだ。そしてブランはアルの横、つまり僕の横にいてくれる。
 向かいに座っている王様と王子様と宰相様が唖然としている。大司教様、アル、僕、ブランと視線がウロウロしているのが面白い。

「上級ダンジョン『ベネブ』の呪いで、ユウさんはただいま狼になっています」
「ギルドマスター、元に戻るのか?」
「はい。過去の記録では最長2か月で元に戻っています。ただ身体が変わるだけで、その他は変わりません」

 ダンジョンの呪いなので、ギルドマスターが内容について説明しているようだ。
 僕がアイテムボックスを使えるか半信半疑のようなので、使って見せることになった。
 アイテムボックスから、果物が乗った器を取り出してみせた。ちょっとお腹が空いたのだ。この身体、燃費が悪いのかすぐにお腹が空く。

「きゃん!」
「ユウ、この会議が終わったら食べよう。だから収納して」

 アルを見て食べさせてほしいなあと鳴いたけど、後でと言われてしまった。お偉いさんの前だからダメだよな、と納得して収納する。
 僕がスキルを使えることも、人の言葉を理解できていることも分かってもらえたようなので、アルの膝でいい子にしていよう。

「本日の会談は、どのように進めるのでしょうか」
「ユウさんの言葉はアレックスさんが理解できます。また、事前に伺っている要望についてはユウさんよりすでに回答をもらっています」

 宰相様と大司教様が今日話し合う予定だったことについてやり取りしているけど、僕たちの方からは現状維持で特に要望はない。
 王様のほうからは、カークトゥルスのマジックバッグの入札の制限を可能であれば解除してほしいと事前に要望をもらっている。僕たちが国や貴族には売らないと言い、サネバに常駐している軍が手に入れたものは国や軍で使うことにしているので、貴族がマジックバッグを手に入れるルートがなくなってしまった。その不満解消のためだそうだ。
 僕は貴族にあまりいい印象を持っていないので、その話を聞いたときにもちろん断った。アルもそれでいいと言ってくれたので、大司教様が笑顔で宰相様に断ってくれている。
 宰相様もこの要望は断られることを想定していたのか、代わりに僕たちが売りに出すマジックバッグの一部を、輸出のために国が買い取りたいと提案してきた。事前には聞いていない要望だ。大司教様も少し考えてから、どうするか僕に聞いてきた。大司教様がばっさり断らないってことは、受けても構わないということか。うーん。

「くーわうあう、うなうな、わふん」
「それによって私たちはどのような恩恵を受けられるのでしょうか。諸外国との貿易にはギルドに売っているドロップ品で貢献しているはずです」

 ブラン経由でアルが伝えてくれた。
 今まで国外に輸出していたのはサネバの軍が手に入れたものの一部で、僕が軍には売らないと言った影響で、輸出に回す余裕がなくなったのだろう。それを僕たちから買うってなんだか本末転倒じゃない?
 確かに国が盤石でないと、僕の安全なんかに気を使っていられないだろうから、ある程度は国に貢献したほうがいいとは思うけど、それは大量のドロップ品をギルドに売っているので十分なはずだ。

 それに、僕が欲しいなと思ったモクリーク国外の物は、全て教会ネットワークを通して手に入る。
 僕が気に入ったヒオク国のポンカンは、今やブランへの貢物として最優先でモクリークの中央教会に送られて来ている。でもブランは柑橘系はあんまり好きじゃないみたいでほとんど僕のお腹に入っているので、ヒオクの教会の方には大変申し訳ないけど、とても感謝している。
 何かお礼をと思ったけど、ここでしてしまうと僕への貢物合戦になってしまうので、ブランへの捧げものとしてもらっておく方がいいんだそうだ。

「ユウさん、現在カークトゥルスのマジックバッグの買取では、ほとんどの冒険者がユウさんと同じように、国と貴族に対しては販売しないという条件を付けています」
「わふっ?」
「自分たちの仲間が襲撃されたことを、彼らもまた怒っているのです」

 ギルドマスターが教えてくれたけど、僕は知らなかった。アルも驚いているので知らなかったようだ。国としては喜ばしくないんだろうけど、仲間として怒ってくれて僕はとても嬉しい。
 そのために国が手に入れるマジックバッグはサネバの軍の物だけになっているが、国内で沸き起こった軍への不満を抑えるためにも、あふれの対策に使うものが最優先で確保される。その結果、他の国から来ている購入依頼に応じるための在庫がなくなる。
 マジックバッグの輸出が滞っていることで、モクリークと氷花の協力関係は決して強固なものではないと周りの国からは思われ始めているので、このままでは僕たちへの勧誘合戦が始まる可能性があるという。

「ここでモクリーク王国と協力体制にあることを知らしめる価値はあると思います。そうなれば今まで以上におふたりの身辺に気を配ってくださるでしょう」
「きゃふ」

 大司教様が笑顔で、国に恩を売っておいてはいかがでしょう、と提案してきた。それって暗にだから他国からの勧誘を抑えろと脅してますよね。大司教様、さすがだ。
 アルも異存がないようなので、僕たちが手に入れたものの1割は輸出用に国に売ることで合意した。

 そのあとは特筆すべきこともなく、僕が王様たちに愛想を売っているうちに、会談は終了した。
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