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もふもふ-4. 子犬15日目

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 朝起きたら人に戻っていた。
 子狼になってからずっと、ブランのお腹で眠っていたはずなのに、ベッドで寝ている。
 聞くと、明け方元に戻ったので、アルを起こしてベッドに入れてくれたみたいだ。ブランもアルもありがとう。起こしてごめんね。

「ユウ、大丈夫か?」
「アルが小さい」
「あはは、そうだな。ユウが大きい」

 アルに抱き着くと、抱きしめてくれた。前はすっぽり腕の中に入っていたので、全身で抱き着くのがなんだか新鮮だ。しばらくアルの温もりを堪能した。

 ところで、思い出したのだけど、僕はなんで子狼の姿のまま王様との会談に出ようと思ったのだろう。真面目な話をしていたのに、片方は子狼。ないわー。ありえないわー。
 絶対に王様たちにこいつ何考えてるんだって思われたはずだ。しかも会議中に果物を食べようとしたり、ちょっと緊張感なさすぎでしょう。
 思い出したら恥ずかしすぎて、シーツに潜り込んだ。

「ユウ、どうした?調子が悪いのか?」
「違うよ。やらかしたことを思い出して、穴を掘って埋まりたいだけ」
「ずっと可愛かったぞ」

 いやいやアルさん、それおかしいよね。可愛かったからってやらかしたことがなくなるわけじゃない。
 いや、可愛いは正義だからいいのか?やっぱりダメだよね?

 シーツの中でうだうだしていたら、ご飯を食べようとアルに無理やりベッドから引っ張り出された。付き合いも10年になると、こういう時の扱いに慣れているというか遠慮がない。待っていても僕が出てこないことを知っているのだ。

 リビングに行くと、すでに食事がずらっと並べられていた。しかも僕が好きなものばかりだ。

「ユウ様のお好きなものを揃えましたので、お好きなだけお召し上がりください」
「張り切ったな」
「私ではなく料理長です」

 料理長、ありがとうございます。子狼の時も食べやすいご飯作ってくれて、本当に感謝しかないです。
 とりあえず気を取り直して好きなものを食べたら、やらかしもまあ仕方ないと思えるようになった。あれは僕じゃなくて、子狼がしたことで、子狼は子どもだから仕方がない。そう思い込まないと立ち直れない。
 来年、どんな顔をして会談に出ればよいのか分からないが、きっと1年たてば王様たちの記憶も薄くなっているはずだ。そうであって下さい、お願いします。

「サジェル、王様に子狼の姿で失礼しましたって伝えてもらえる?」
「畏まりました」
「お休み取って、王宮の知り合いの人とかに会ってきていいよ」
「お気遣いありがとうございます」

 プロフェッショナルな執事さんは、いつ休んでいるのか全く気取らせない。休んでいますよと言うけど、いつでもいる気がするので、実は分身出来ると言われても驚かない。
 カザナラの別荘から王宮に転職した子にも、仕事の合間に会いに行っていると言っていたし、瞬間移動くらいは執事のたしなみとしてできるのかもしれない。


 食事が終わったら、ブランのブラッシングだ。
 自分がブラッシングをされて気持ちがよかったので、戻ったらブランにしてあげたいと思っていたのだ。

「ブラン、遊んでくれてありがとね」
『いつもとそう変わらんだろう』

 ツンデレさんだな。
 昨日までは全身で楽しんでいたもふもふを、今日は手のひらで楽しむ。相変わらずいい手触りですね。
 さらに手触り良くするためにも、僕がやってもらって気持ちよかったところを重点的にブラッシングしていこう。
 ここ気持ちいいよね、僕はここが好きだった、と言いながらやっていると、本当に気持ちがよかったようで、ブランがカーペットの上で敷物みたいにだらーんとなった。
 そのままブラッシングを続けていると、大司教様とチルダム司教様がきてくれた。

「ユウさん、無事に戻られたようで良かったです」
「ありがとうございます。王様との話し合いもまとめていただいてありがとうございました。なんであの姿で出ようとしたのか、反省してます」
「大丈夫ですよ。マーナガルム様はおくつろぎのようですね」
「僕がブラッシングしてもらって気持ちよかったところをしていたら、ブランも気持ちよかったみたいです」
「先日、私もさせていただきましたが、あのような誉れは二度とないでしょう」

 ブランが偉いのは分かるんだけど、ブラッシング自体はそんな大層な行為じゃないような。
 やりますか?とブラシを渡そうとしたけれど、断られてしまった。それは僕だから許されていることだからと。

「人というのは欲深いものです。手に入れてしまえば、次はもっと大きなものをとなってしまうのです」

 それでどんどんと要求が多くなり、最終的に僕とブランがここに居づらくならないように、適度な距離を取っておくことが必要なのだと説明された。
 僕は、ブランのことも含めてギブアンドテイクだと思ってしまう。けれどブランは神様で、本来神様から見返りが得られることはない。
 僕の態度は周りに誤解を生じさせてしまうとやんわりと諭されている。

「僕にとってブランは神様である前に家族で、多分それはこれからも変えられないので、おかしなことをしていたら言ってください」
「ユウさんは、無償で何かを施されるのが苦手なのですね」
「心苦しいって言うのもあるんですけど、あの時やってやっただろうと後で回収されるのが怖いんだと思います」

 カイドで僕は騙されて辛い目にあった。親切から差し伸べてくれたのだと思い掴んだ手は、僕を利用するために檻へと引き込むものだった。多分あの時の経験が影響している。見返りを要求されていることに気付いていなくて、後から痛い目に合うのが怖い。

「教会は心配ありませんよ。そのようなことをすれば一夜にして教会がなくなりますから」
『全て粉々にしてくれるわ』
「ブラン、関係ない人に影響が出ないようにしてね」

 ブランが本気を出したら、跡形もなく砂になりそうで怖い。ほどほどでお願いします。

『お前たちにはユウの付けた名を呼ぶことを許そう』
「そのような、畏れ多い」
『家族のユウが世話になっているからな』

 その言葉が嬉しくて寝転がっているブランに抱き着くと、ブランに圧し掛かっているような体勢になってしまった。それを見て、アルだけじゃなくて司教様たちも笑っている。

「ユウ、せっかくブラッシングした毛がぐちゃぐちゃになるぞ」
「だって、ブランが初めて家族って言ってくれた。嬉しい。ブラン、大好き!」

 ふん、と鼻息で返事をしたブランが、尻尾でゆっくりと僕の足を撫でてくれる。
 ブランは尻尾が一番素直な気がする。いつだって、僕を優しく受け止めて、宥めて、勇気づけてくれる。

 もう少し、ブランとお揃いの狼の姿でもよかったかな。
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