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閑話

お祭り

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(「最終章 手を携えて未来へ」より前のお話)

 いつものようにダンジョンを攻略して、攻略報告とドロップ品の買取を終えたところで、ギルドからブロキオンの剣を売ってほしいという要望があった。しかもこういう小さいギルドでは珍しく、Aランクの質の良いものだ。

「ありますが、適当でいいですか? 選びますか?」
「選んでもいいですか? お祭りの目玉商品に出したいので」
「お祭り?」
「ええ、この地方では春の到来を祝うお祭りがあるのです」

 春と言えば花のお祭りのイメージが強いので、まだ花のつぼみの固い時期に行うのは珍しいと僕は感じたけど、厳しい冬を無事に越し春を迎えられたことを祝う昔の名残りらしい。この辺りは雪深いから、昔は冬の食料が大変だったのかもしれない。

 会議室にAランクの剣を並べていると、ギルドの職員がたくさん入ってきた。目玉商品なので、みんなで選ぶらしい。
 鑑定士だけでなく、元冒険者の職員や、剣士のアルも加わって、目玉になりそうな、でも使いやすいのはどれかとワイワイ話し合っている。
 みんなが剣を振ってみたりしているのを部屋の隅っこで見ていたら、事務の職員さんが気を遣って話しかけてくれた。

「今年は珍しいドロップ品もなかったので、ちょうどよかったです」
「どんなお祭りなんですか?」
「見ての通り街も小さいですから、お店がちょっと特別メニューを作ったりするくらいですよ。でもこの日は夜更かししても怒られないので、友達と店を見て回ったり、子どものころは楽しみでしたね」

 子どものころから慣れ親しんだお祭りを楽しみにしているのが伝わって、僕もワクワクする。
 ギルドも毎年ドロップ品などを格安で売るけど、珍しいドロップ品など1, 2品は高額なものを用意するらしい。どちらかというと売るためではなくて話題作りのために。今回はそれがブロキオンの剣で「魔剣がドロップしたダンジョンの剣」という話題提供らしい。冒険者にはいつか頑張ればあの剣が買えるかも、という夢を提供するそうで、マジックバッグだと頑張っても手が届かないのでダメなんだそうだ。


 宿に帰って、宿の店主さんにお祭りまで宿泊を延長したいと伝えたら、そんな大した祭りじゃないよ、と言いながらもとても嬉しそうだった。

「うちも毎年ホットワインを出すんだ。夜はまだ寒いからね。他のところで買ってきたものをつまみに、みんなその辺で適当に飲んでる」
「それって、僕もお店出せますか?」
「ユウ、何か売るのか?」
「ワインに合わせてドガイのチーズを出したら楽しいかなって。チーズなら切るだけでいいし」
「ギルドに相談してみるか」

 せっかくならお祭りに参加したい。この街なら、僕たちが参加しても騒動にならない気がする。

 冒険者ギルドに掛け合って、冒険者ギルド前で、ギルド職員と一緒にならお店を出せることになった。目玉の剣の横だ。そこなら絡まれてもギルド職員がいるし、他のお店を見に行きたいときは店番を代わってくれる。僕たちは嬉しいけど、ギルドの仕事を増やしてしまった気がする。

 ギルドの前で、ドガイのたくさんのチーズの中から、そのまま食べることのできるものをいくつか小さめに切って、大きなお皿に並べた。種類は問わずに五切れセットでの販売だ。小さな街ではドガイのチーズはまず見かけないので、少しずつ試したい人が多いだろうというギルドの提案だ。

 お皿を並べると、買う人がひっきりなしにやってくるようになった。ギルド前で珍しいものを売っているとうわさになっているらしい。
 他のお店の人が自分のところの売り物を持ってきて物々交換もあったりと、アットホームな感じだ。
 僕たちも店番をギルドの職員に任せて、チーズを持ってお店をまわり、気になる料理と交換してもらった。アルはワインを片手に楽しんでいる。

 気づくと、飲んでいる人がたくさんギルドの前に集まっていた。冒険者も地元の人も、楽し気に飲んでいる。そして、子どもたちも。

「そのイヌはなにができるの?」
「オオカミだよ。氷の魔法が使えるよ」
「魔法使って!」

 ギルドのお店の端っこでみんなが盛り上がっているのを見ていたら、子どもたちがブランに興味津々で寄ってきた。周りの大人たちは、僕たちがSランクだからと遠慮しているが、子どもにはそんなこと関係ない。好奇心のままにブランの周りに集まっている。

「ブラン、何か危なくない魔法見せてくれる?」

 ブランが空に向かって小さく吠えると、小さな氷の花が降ってきた。

「わあ、お花!」
「氷だ!」

 子どもたちが花を手に受けて、大喜びしている。僕も手に取ってみたけど、今回は体温で少しずつ溶けていく普通の氷のようだ。
 同じように氷の花を手に取ったギルド職員が、これがパーティー名の由来なんですね、と氷の花をしげしげと見ながら言った。
 そう、これは僕にとって、アルとの思い出の花だ。あの時の氷の花は、大切にアイテムボックスにしまってある。

 あの時のことを思い出してアルを見たら、俺にとっても思い出の花だと言って、額にチュッとキスをされた。
 外なのに、子どもたちがいるのに、お祭りだから誰も気にしないって。恥ずかしいけど、でも嬉しい。アルも思い出の花だと思っていてくれたんだ。

「ブラン、ありがとう」
『(ユウのためなら、いつでも降らせてやる)』

 その後も子どもたちは、僕にアイテムボックスを使って見せてよと言ったり、アルに魔剣を見せてと言ったりと、周りの大人たちが慌てるくらい遠慮なく無邪気に絡んできた。きっとこの小さな街で、周りの大人たちから大切に守られて育てられているんだろうな。
 僕はソファを出して見せ、アルは鞘に納めたままの魔剣を触らせてあげると、歓声を上げて喜んでいた。

「お祭り、楽しいね」
「ああ、こんな夜もいいな」

 僕たちは移動を繰り返しているから、攻略後に冒険者と飲みに行くということがあまりない。
 アルも楽しそうだし、これからは知り合いの冒険者と会った時には飲みに行ってもいいかもしれないな。
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