世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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閑話

母の日

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(「最終章 手を携えて未来へ」より前のお話)


 ダンジョンを攻略していたときに、とても懐かしい花を見つけた。
 そのダンジョンは、ヒョエツ近くのあまり人気のないダンジョンだった。上層では花の種を、中層では切り花を、下層では花の鉢植えをドロップする、通称花ダンジョンだ。
 切り花は丁寧に扱わないと花弁が痛むし、何よりダンジョンから出る前に萎れてしまう。そのためこのダンジョンは上層の種はそれなりに回収されるが、中層の切り花は打ち捨てられる。そして下層に挑むのは、貴族などから鉢植えの依頼を受けた一握りの冒険者だけだ。

 ダンジョンは放置するとあふれる可能性が高くなる。だから僕たちは人気にかかわらず全てのダンジョンを攻略して回っている。この花ダンジョンもその一環で来たのだが、どうしてもドロップする切り花を捨て置けなくて拾っていたら、ブランが風魔法で一か所に集めてくれた。

『買い取ってもらえないのに、集めてどうする』
「でも萎れるとかわいそうだし」
『萎れる前にダンジョンに吸収されるぞ』
「そうだけど」

 なんとなくいやだったのだ。卒業や入学の時期に、駅のごみ箱に花束が捨ててあるのを見て、何とも言えない悲しい気分になった、あんな感じだ。
 アルも拾って束ねた花を渡してくれたけど、アルが花束を持つとかっこよくて、少しドキドキする。うち捨てられたように見える花に沈みかけた気分も回復した。

 ブランにかかれば、このダンジョンのボスも片手間で倒せるようなピクニックのようなもので、ボス戦は訓練としてアルがひとりで戦い、無事勝利して終わった。
 攻略の報告をして、種と鉢植えはギルドで買い取ってもらう。珍しい鉢植えがあったようで、王都でオークションにかければ貴族が高く買ってくれるだろうとギルドマスターがホクホク顔だった。この世界にもバラの愛好家のような人たちがいるのかも。


 この街を離れる前に教会に寄ると、孤児院の子どもたちが教会の前で屋台の準備をしていた。

「お祭りかな?」
「だろうな。何かを売って孤児院の資金にするんだろう」

 聞いてみると、花ダンジョンでドロップした種から子どもたちが育てた花を売るらしい。
 それならばと、僕のアイテムボックスに入れた花ダンジョンの切り花を、一種類の花を除いてすべて寄付した。

「こんなにたくさん、よろしいのですか?」
「なんとなく集めただけですから、役立てていただけると嬉しいです」

 モンスターを倒したのも、お花を集めたのも僕ではないけれど。
 屋台は一週間なので、最後までは持たないかもしれないけれど、切り花が少しでも長持ちするように、アイスの魔石も一緒に渡した。これだけは僕の作ったものだ。

 それから宿に帰り、アイテムボックスの中に残した花を出して眺める。
 それは、赤いカーネーションだった。少なくとも僕にはそう見える。

「ユウ、どうした? その花は出さなかったのか?」
「……アル、このお花はこの世界ではよくあるの?」
「どうだろう。俺は花に詳しくないから。その花がどうかしたのか?」
「母の日の、花……」

 お母さんに贈る花。でも、もう会えない。二度と渡せない。そう思ったら、涙が止まらなくなった。
 泣いてしまった僕を、アルがそっと抱きしめてくれる。そのアルごとブランが毛皮と尻尾で包んでくれる。

 家族を思って僕が泣くとき、アルは分かってやれなくてごめん、と謝ってくれる。アルは悪くないのに。
 慕うべき面影すら知らないのと、知っていて二度と届かないのと、どっちが辛いのだろう。


 アルとこの世界で生きると決めた。アルとブランが、僕の家族だ。
 それでも、忘れられない、諦めきれない思いがある。

 どうか母さんが、僕がいなくなって辛い思いをしていませんように。
 美しく咲くカーネーションの花に祈りを捧げた。
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