世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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1章 アルとの転機

1-2. パーティー登録

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 何もする気が起きず、ぼーっとしていた。
 悪夢に飛び起きても、背中をさすってくれる手はもうない。ブランが尻尾で優しく撫でてくれる。アルを購入する前に戻っただけだ。
 どれくらいたったときだったか、ギルドマスターが部屋を訪ねてきた。アルが、自分がいなくなった後、様子を見るように頼んでいたそうだ。アルは今どうしているのか聞くと、一人でダンジョンに潜っていると教えてくれた。僕のお守りがなくなってのびのびとしているのかな、と思ったら、また涙がこぼれた。

 それから何日たったのか、ブランにもたれかかってぼーっとしていたら、突然ブランが来客だと言って立ち上がった。
 出たくないと渋る僕を、ブランは尻尾を使って立たせて扉へと押すので、仕方なく開けた扉の向こう、立っていたのは、アルだった。

「ユウ様、痩せられましたね。お食事はちゃんと召し上がらないとダメですよ」
「僕はもう、アルの主人じゃないよ」
「そう、だな。ユウ、入っていいか?」

 久しぶりに会ったアルは、今までと同じように話しかけてくれたけど、もう僕たちは主人と奴隷じゃない。
 とりあえず部屋に招き入れたけど、アルがここに来た理由が分からない。体調はどうか、食事はしているのかと聞かれるけど、そんなことよりもアルがここに来た理由が知りたい。

「なんで来たの?」
「ユウ、俺とパーティーを組んでくれるか?」

 なんで。一人でダンジョンに潜ったって。僕のこと置いていったくせに。

「ユウ、これからは、パーティーメンバーとして、そばにいさせてくれないか?」
「やだ、もうやだ、やだよ」

 契約を終了したときは、パーティーメンバーとして残りたいなんて一言も言わなかったのに。一人で活動してやっぱり僕と一緒にいるほうが便利だと思ったの?
 僕は顔をあげることもできず、ただアルを拒絶した。

「ユウ、悪かった。ごめん。今日は帰る。また来るよ」

 拒絶したのに、アルが行ってしまう、そう思ったら、アルの袖をつかんでいた。
 置いていかれるのは嫌だ。会いたいのに会えないのは嫌だ。この世界での家族だと思っていたのに、また家族から離されてしまった。大切な人に会えなくなるのはもう嫌だ。

「帰っちゃやだ。置いていかないで。もうやだよ」

 気持ちがぐちゃぐちゃで、駄々をこねるように嫌だと言い募る僕を、アルはそっと抱きしめてくれた。
 帰らないから。落ち着いて。大丈夫。ここにいる。もう置いていったりしないから。
 いつものように優しく背中を撫でられて、言い聞かせるよう繰り返すアルの言葉に、少しずつ心が落ち着いていき、僕はアルの腕の中で、気を失うように眠った。


 すっきりと目が覚めた。
 水槽の中に閉じ込められているような、全てが膜の向こう側にあって届かない、ここのところそんな風に感じていたのに、今日は世界が近い。
 起き上がろうとして、右手を握られていたことに気づいた。見ると、僕の手を握ったまま、アルがベッド脇の椅子で寝ていた。

『起きたか』
「ブラン、おはよう。僕どうしたんだっけ」
『アルが来て、癇癪を起して、宥められて、寝た』
「かんしゃく……」
『そろそろ昼飯の時間だ』

 アルに会えて嬉しい気持ちと、またいなくなるのではないかという不安に揺れた僕の感情の発露は、ブランに言わせると癇癪だったらしい。間違っていないような気もする。
 僕はほぼ丸一日寝ていたようで、もうお昼だ。ブランにはご飯のほうが大切なのかな、とからかったら、アルが戻ってきたんだからもう大丈夫だろう、とため息をつかれた。ブラン、そばにいてくれて、ありがとう。もふもふ、もふもふ。

「アル、疲れてたのかな」
『一人でダンジョンを攻略したんだ。当然だろう』
「なんでそんな危ないこと。言ってくれれば一緒に行ったのに」
『ユウとパーティーを組むためには仕方ないだろう。人は肩書で判断する。アルがAランクでは周りが納得しない。ユウ、お前のために、Sランクの実力があると証明したかったのだ。汲んでやれ』

 ブランはアルが戻ってくるつもりであることを知っていたのに、いつになるか分からないから僕には言わなかった。教えてほしかったけど、聞いていたら心配でダンジョンの前でずっと帰りを待っていたかもしれない。生きて帰れる保証もなかったから、僕には知らされなかったのだ。
 ブランによる裏事情の暴露を聞いていると、アルが起きた。

「ユウ……? 起きたのか?」
「アル、おはよう。お昼だよ」
「そうか。ユウ、体調は大丈夫か?」

 ぐっすり寝たので問題ない。 アルに置いていかれたのではなかったと分かって、心のざわめきが少し落ち着いたので、久しぶりにお腹が空いたと感じる。ご飯にしよう。それに、アルの話も聞きたい。

「ユウが契約終了について悩んでいることに気づいていたから、ユウが望むなら期間中は契約したままでもいいと思っていたんだ」

 けれど悪夢にうなされるの僕を見て、それでは問題の先送りにしかならない、契約で縛られた関係ではなく、対等の関係で隣で支えていきたいと思った。だから、契約を解除して、手っ取り早くSランクになるために、ブランと相談して相性の良いダンジョンを選んで。
 自分がいない間にユウが絡まれないよう、ギルドマスターにお願いしていたが、ダンジョンを攻略して帰ってきたら、ユウが限界なので早く会いに行くように言われ、急いできた。まさかあれから部屋を出ていないとは思わなかった。

 そんなふうにアルは契約を解除した理由、してからのことを、教えてくれた。

「一度ユウを置いていった俺を信じることが難しいのは分かっている。これから一緒に活動していけば、意見が対立することもあるだろうし、いずれ道を分かつことが絶対にないとは言えない。けれど、同じ方向に歩いていけるよう、一つずつ信頼を積み重ねていこう」

 人を信じるのは怖い。
 アルは信じたい。きっとアルは裏切らない。でもアルだって裏切るかもしれない。
 裏切られたら僕の心は今度こそ壊れる。だから信じるのが怖い。

「パーティー、組んでくれる?」
「もちろんだ」

 だけど、そんな気持ちを否定しないで受け入れてくれるから、信じられるかもしれない。
 

 アルが戻ってきて、少しずつ僕の悪夢も落ち着いていった。まだときどきうなされてはいるらしいけど、飛び起きることはなくなった。
 睡眠時間が取れるようになると、体調も良くなり、気持ちも前向きになる。外出する気力も湧いてくる。
 ギルドに行ってパーティーの申請をしたい。僕のギルドカードには、まだアルが戦闘奴隷として刻まれている。それを消して、パーティー申請をしたい。
 それに、そろそろブランのために、お肉を買いに行きたい。宿のご飯も美味しいけれど、ブランのお気に入りのお店巡りをしないと、そろそろブランが拗ねそうだ。

 ギルドを訪れると、久しぶりに現れた僕たちにギルド内が騒然としたけど、アルの「パーティー申請するから道を開けろ」の一言に、受付までの道が開いた。受付にたどり着くと、用件を言う前に職員によってギルドマスターの部屋へ案内された。

「お元気になられたようで、安心しました」
「ご心配をおかけしました。ありがとうございます」

 部屋に入るなり声をかけられたけど、ギルドマスターは宿に籠っている僕を見ていたので、本当に心配してくれていたようだ。

「ユウとパーティーを組みたい」
「パーティー名はお決まりですか?」
「決まっていない」
「リーダーはアレックスさんでよろしいですか?」
「はい」

 アルは僕をリーダーにしたいと言ったけど、ギルドとやり取りをするのがアルなのだからと、アルにお願いした。
 パーティー名は、考えるのを忘れていたので、まずは未定のまま登録して、決まったら知らせればいいらしい。

 僕のギルドカードが更新されて、戦闘奴隷の項目が消え、代わりにパーティー名のところに「パーティー名未定」と刻まれた。
 さらにパーティーカードが発行されて、そちらにはアルと僕の名前が載っている。こっちのカードはパーティー共有の資金を管理できる。パーティーで受けた依頼の料金は、全額パーティーカードに入れることもできるし、一部だけパーティーカードに入れて、あとは個人のカードに分配することもできる。パーティーで使うポーションとか宿代とかそういうものはパーティーカードから、個人の服は個人カードから支払うと言った感じで使い分けるそうだ。
 銀行口座みたいですごく便利だ。ATMはないけど、各地のギルドが支店だ。裏でのお金の管理がどうなっているのか、すごく不思議だけど、魔法のあるファンタジーな世界ならなんとかなるんだろう。

 パーティー名は何がいいかなあ。「ブランと愉快な仲間たち」くらいしか思いつかない。
 ブランの名前は「銀」のかっこいい呼び方を知らなかったから、「白」のブランになったのだ。そういうセンスはあいにく持ち合わせてない。
 こちらのパーティー名は十四歳の流行病を患っていそうな名前も多いが、僕の流行病はとても軽かった。まさか極めなかったことを悔やむ日が来るとは思いもよらなかった。もし帰れるなら、過去の十四歳の僕に、もうちょっと頑張れと言いたい。
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