世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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3章 アルの里帰り

3-9. 薬箱ダンジョン攻略

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 氷花としての初仕事、上級ダンジョン「カルデバラ」の攻略に来ている。まだギルドカードは更新してないけど。

 カルデバラまではドガイの街を出てから歩くて3時間ほどかかる。
 不人気のダンジョンなので、ギルドによる馬車の定期便などもなく、アクセスは徒歩のみ。ブランに乗って行くつもりにしていたら、教会が馬車を出してくれたので、「帰りのお迎えはなし」という条件で、乗せてもらうことにした。そうしないと、僕たちが(ブランが)戻るのずっと待ってそうだし。

 入り口にはダンジョンの出入りを管理するギルドの職員用の小屋があり、周りに少しだけテントが張ってあるけど、店などはなかった。いかにも不人気のダンジョンって感じだ。
 そんなところに教会の馬車で乗り付けたので、ものすごく注目を集めてしまったけど、無視して入る手続きをする。

「こちらのダンジョンは1階層が大変広く、セーフティーエリアがありませんが、準備はお済みでしょうか?」
「問題ない。指名依頼を受けて来た」
「ギルドより連絡が来ています。お気をつけて行ってらっしゃいませ」

 地図は3階層分しかない。つまり、3階層までは人がいる。
 1階層は歩き、まばらにいた人もほとんど見なくなった2階層からは、いつものシルバーウルフ形態よりもちょっと大きくなったブランに2人で乗って進む。3階層は全く人に会わなかった。やはり不人気だ。階段を下りて、4階層に入った。ここからは地図がない。

 入った瞬間に、なぜ4階層から地図がないのか分かった。4階層は湿地だ。
 僕はここまでブランに乗ってきたから全然疲れていないけど、ずっと歩いてきて湿地は辛いだろう。1階層を抜けるのに、歩くと2日かかるのだ。
 今日は戻って3階層に泊まることにした。

 このダンジョンは、セーフティーエリアがない。
 出てくるモンスターはそこまで強くないが、セーフティーエリアがなければ、夜営がかなり大変になる。モンスターには魔物除けも効かないので、常時見張りと場合によっては戦闘が必要となる。
 僕たちはブランが結界を張ってくれるので、見張りも戦闘も不要だ。

 4階層へ下りる階段の近くに、大きなテントを出す。
 いつもは他の冒険者の邪魔にならないように3人用のテントを使うが、上級ダンジョンの下層など人がいないところでは天幕っと言ったほうがよさそうなテントを使っている。

 アイテムボックスは、入れ物ごと収納できる便利機能付きだ。例えば箱にポーションがたくさん入っている場合、ポーション箱1つとして収納できる。それが天幕テントにも適用されて、中のものがセットされた状態で収納できる。天幕テントには、ベッドがあるのだ。
 ダンジョン攻略を始めた当初は、3人用のテントで寝ていた。でも僕がその閉塞感を苦手としていることにアルが気付き、それで作ったのがこの天幕テントだ。床は厚手のマットで、僕の希望で土足禁止だ。
 おそらく家も収納できるだろうけど、さすがにダンジョンのセーフティーエリアには入らないのでやってない。
 こういうことができると、国に狙われるのも仕方ないなあと思ってしまう。

 ベッドでゆっくり寝た翌日、湿地帯は足が汚れるのを嫌がったブランが、道を凍らせて走り抜けた。なんて力業。
 モンスターも一緒に凍ってドロップ品になっている。ドロップ品は各種瓶入りポーションだが、氷に埋まっているので、ブランに溶かして掘り出してもらわないと取れない。
 このダンジョン、3階層まで薬草しかドロップしないので、通称が「薬草ダンジョン」なのだと出発前にケネス司祭様が教えてくれた。でも、ポーションが出たということは「薬箱ダンジョン」かもしれない。

 4階層にはボス部屋があった。
 ボスは開始早々アルがバッサリ切って、すぐにドロップ品の小さな宝箱に変えた。中身は「上級ポーション3本セット」だった。
 ドロップ品を収納し、ボス部屋を抜けて5階層へ下りると、今度は乾燥した草原だった。
 草原を見るアルの眉間にしわが寄っている。

「どうしたの?なんか変?」
「……ああ、4階層のボス部屋にもう1度挑戦してもいいか?」
「ブランいい?」
『構わん』

 ということで、階段を上って4階層に戻る。
 ボス部屋がある場合、ボス部屋を抜けないと下の階に降りれないが、上がるのは下からのみ使える階段があって、そこから上の階層に戻ることができる。

 ボス部屋は1度扉を開けて倒すと、次に扉が開くようになるまで少し時間がかかる。
 どれくらいで開くようになるかは、やってみないと分からないので、時間をあけて何度か試してみるしかない。ここは約半日かかるようだった。
 今度もアルが瞬殺して、出て来たのはまた小さな宝箱だ。今度の中身は「中級ポーション20本セット」だった。

 2日かけて5回で出たドロップ品は、上級ポーションセットが2回、中級ポーションセット3回が、数は上級が1~3本、中級が10~20本だった。
 アルはボスの強さとドロップ品の価値が釣り合わないことが気になっているようだ。

「この広さや湿地を抜けるのは大変だが、出てくるモンスターは強くない。ボスも強くない。しかもまだ先があるのに上級ポーションが出てる」
「それだとなんか困るの?」
『エリクサーが出るな』
「そうなの?!」
「ああ。何階層まであるのか分からないが、次のボス部屋のドロップに出てもおかしくない。上級ポーションの上はエリクサーだ」

 エリクサーはモクリークの上級ダンジョンのボス部屋でもたまに出るが、買取金額がすごく高い。それに、そのボスはアルでも一瞬で倒せるようなレベルじゃない。

 5階層から、フィールドの調査をもう少し詳しくしようと決めて踏み出したのだが、早々に挫折した。なぜなら、道がない。
 ダンジョンは、ここが通路ですよという感じに、それとなく歩くところを誘導するように地形ができていることが多い。でも、5階層は乾燥した草原、6階層は断崖絶壁、7階層は鬱蒼とした森、8階層は海と、道なき道を行くフィールドばかりだった。
 フィールドの全体像と階層を移動できる階段の位置を確認して、目印になる者があれば追記するくらいにした。

 8階層の海は、ブランが氷の船を作ってくれたので、それに乗って進んだ。推進力はブランの魔法の風だ。
 いくつか海に浮かぶ小島があるが、1つの島に扉が、扉だけが設置されている。どこでもドアみたいでシュールだ。
 そのドアを開けると、ボス部屋だった。

 ボスは、アルが一瞬では倒せないけど、簡単に倒せるくらいの強さで、ドロップ品は予想通り「エリクサー1本」だった。
 ボス部屋を抜けると、地上への転移魔法陣があるから、ここが最下層だ。
 ボス部屋は戻れないので、もう一度挑戦するためには、1階層から攻略する必要がある。

 次もエリクサーが出るのか、調べるか迷ったが、やめにした。
 それは必要ならギルドが調べるだろう。エリクサーが出る可能性があるだけでも、ギルドを上げて攻略に乗り出すはずだ。
 僕たちはブランがいないと攻略できなかったけど、人海戦術で時間をかければ攻略できそうな気もする。

 湿原、草原、崖、森、海は、薬草の取れる環境だ。このダンジョン、作成者の意図をすごく感じる、初めてのパターンだ。


 地上への転移魔法陣で脱出し、出入りを管理しているギルド職員に戻ったことを報告していると、周りにいた冒険者たちが話しかけてきた。
 「攻略したのか?」「何階層まであった?」「最下層のドロップは何だ?」などなど。
 アルが「ギルドに報告するからギルドから聞け」とバッサリ切って捨てて、街に向けて出発しようとしたら、今度は止まっていた馬車から、商人や貴族の使いと思われる人が出てきた。捕まったらヤバい気がする。
 ブランが念話で『乗れ』と伝えてきたので、アルも一緒にブランに乗ったところで急発進して、人や馬車の間を通り抜けた。

 西門から出て来たけれど、西門で待ち伏せされているかもしれない。街をぐるっと迂回して、東門から入ることにした。
 東門にも貴族がいて、絡まれそうになったので、Sランクの特権で優先で門を通してもらう。それでもあちらも貴族特権で門を通るので、追いつかれるのは時間の問題だ。

 街に入ってからはギルドまで走った。ブランは子犬になってアルが抱いている。周りが何事だって見てくるけど、後でちゃんと怒られるから今は許してほしい。
 駆け込んできた僕たちを見た職員さんが非常事態かと驚くが、「貴族に追いかけられて」と言ったら、そのままギルドマスターの部屋まで通してくれた。教会へ迎えに来てほしいと伝言も頼んだ。今までモクリークで絡まれなかったので、貴族を舐めてました。

「攻略できたのか」
「した。報告書はまだ出来ていないので明日提出する」
「最下層のドロップ品はなんだった?」
「ポーションだ」

 ギルドマスターが詳しく聞こうとしたところで、ギルドの入り口のほうから騒動の声が聞こえる。しばらくすると、職員が報告に来た。僕たちがギルドに入ったのを見た貴族が、僕たちを追いかけて来たようだ。

「予定のない方々がいらっしゃって、Sランク冒険者に会わせろと騒いでいます。どうしますか?」
「俺が行く。おまえは教会の迎えを解体倉庫へ回して、この2人を解体倉庫へ案内しろ。あそこならあいつらは入らん」
「承知しました。パーティーカードをお借りしてもよろしいでしょうか?依頼達成の処理をします」
「報告書がまだ出せない」
「報告書は後日で構いません。しばらくこちらでお待ちください。ギルドマスターか私以外が来た場合は、ドアを開けないでください」

 職員さんが出て行ってから、なぜ最下層のドロップについて言わなかったのか、小さな声でアルに聞く。
 あのギルドマスターなら、協力を強制されることもないと僕は思うけど、アルは違うと思った理由が何なのか気になった。

「これだけ便宜を図ってもらってるんだ。なんとか1度だけでもって頼み込まれたら、断れるか?」
「無理だね」

 確かに、これだけ良くしてもらったからこそ、頼み込まれると断れない。そして、もう1回潜っている間に国が動いたら、国と教会が全面戦争になる可能性がある。
 あのダンジョンは攻略のために国が軍を動かす可能性が高い。そのときに僕がいれば、僕のアイテムボックスがあれば攻略は確実になる。大きな船を持ち込めるのだ。国がなりふり構わず、教会を敵に回してでも僕を手に入れようとした場合、ブランがいる限り全面的に僕たちの味方である教会が矢面に立たされてしまう。

「もしかして早めにこの国出ないとダメ?」
「街に入らないほうが良かったな。教会を巻き込まないためには、このまま知らせずに国を出て、モクリークから報告したほうがいいだろう」

 職員さんがパーティーカードを持って帰ってきた。ここの中級ダンジョン「タルニラム」のドロップ品と、モクリークから持ってきた武器の買取金額も精算してくれていた。
 その足で解体倉庫に案内されて、そこに横付けされた馬車に乗り込むと、中に乗っていたのはケネス司祭様だった。
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