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続 2章 新たな日々
12-4. 避難民の対応
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「一緒に作業してもらう、Sランクの『リリアンダ』だ。さっそく契約を」
「知ってるパーティーです。お久しぶりです」
「久しぶりだな。いろいろ聞きたいが、まずは契約して、物資の詰め替えだな」
彼らは、僕たちが最初に王都で活動していたころからの知り合いだ。各地を回るようになってからも、王都に寄った際に、一緒に食事をする仲だ。
詳しいことは先にギルドマスターが話してくれていたようで、ギルドが用意した契約魔法の使い手のもと、ライダーズも一緒にパパっと契約を済ませた後、物資をマジックバッグに詰め変えていく。
「二人が王都に帰ってきたって噂になったと思ったら、神獣様との契約だろう。驚いたよ。でも無事でよかった」
「ありがとうございます」
「剣士は獣道と一緒に潜ってんのか?」
「はい。今どこにいるのか僕も分からないんですが、ダンジョンから出たら毎回中央教会まで帰ってきてくれます」
パーティーメンバーで協力して手早く物資を詰めながらも、僕たちの近況を質問している。器用だなあ。
「テイマーは教会で付与か?」
「はい。あと孤児院の授業のお手伝いもしています」
「ほお。冒険者よりそっちのほうがあってるかもな。それに教会の中なら安心だな」
遠回しに冒険者に向いてないって言われてしまった。まあ自分でも自覚はあるけど、面と向かって言われたのは初めてかもしれない。でも本当に僕たちを心配してくれていたのが分かって嬉しい。
彼らは、アルの戦闘奴隷の契約が終わりパーティーを組んだころに、初めて一緒に食事をしたパーティーの一つだ。みんなからなんとなく遠巻きにされていた僕たちに気軽に声をかけてくれた。仲間として認められたような気がして嬉しかったのを覚えている。
あのときアルが食事に参加しようと僕を誘ってくれたのは、僕の知り合いを増やすためだった。そのアルの気遣いに、今こうして助けられている。
人数が増えたことで順調に物資の詰め替えは終わった。
ライダーズとリリアンダは明日早朝出発する。あふれているダンジョンのすぐ近くなので、余裕をもって三日で往復する予定なので、僕はその帰りを待って、王都に戻る予定だ。
その間、僕は教会にいることになっているけど、やることがない。
教会内は、キバタからの避難民を受け入れる準備でみんな忙しく、僕たちと僕の担当のツェルト助祭様は邪魔にならないようにあてがわれた部屋で大人しくしている。僕が出ていくと、混乱を招く可能性があるので、大人しくしているしかない。
何か出来ることはないかなと考えて、思いついた。
「助祭様、避難してくる子どものために簡単な計算の問題を作りませんか?」
「避難民のためにですか?」
避難所でボランティアの学生が子どもたちに勉強を教えているのをテレビで見たことがある。いつものように遊んだり勉強したりすることは、子どもたちの心のケアのために必要だと言っていた。
それに、今の僕のようにやることがないのに大人しくしているように言われても、子どもたちには難しいだろう。
だったら、せっかくだから勉強すればいいと思う。飽きたら隣の子とおしゃべりをする、そんなゆるい感じで。
「小さい子には字の練習、大きい子には計算、まだ字が書けない子はお絵描きにしましょうか」
「いいですね」
「ここの孤児院で使っている教材を借りてきます」
この世界にはコピー機がないので、本は高価だ。王都ニザナの孤児院での計算の補習は、各自問題を書き写してから解いていく。
けれど、今回は避難民がどれくらい来るか分からないので、問題を選んで書き写した紙をいくつか用意しておくほうが混乱が起きないだろう。
ツェルト助祭様が借りてきた教材から、子どもたちが飽きないためにはどれがいいか、ああでもないこうでもないと言いながら選ぶのは文化祭の準備のようで、こんなときに不謹慎かもしれないが楽しかった。
翌日、僕が起きる前にライダーズとリリアンダは出発した。そしてお昼前には避難民が教会に到着した。
近くのダンジョンがあふれた際に、街に籠るか、街の外へ逃げ出すかは、難しい判断だ。あふれたモンスターは一番近くの街を目指すが、街の外へ逃げ出しても、モンスターが到達するまでに十分に街から離れられなければ襲われる。だが街に籠っても、応援が来るまでに街が持ちこたえられるかどうかは分からない。街に残るのも逃げ出すのも、一か八かの賭けだ。この街まで逃げてくることができた避難民は、その賭けに勝った人たちだ。
僕が借りている部屋は、この教会で一番奥まったところにあるのに、それでも外の声が聞こえてくる。
いつもは入れないところまで一般の人が入ってくるからと、僕は部屋から出ることを禁止されてしまったので、大人しくブランのブラッシングをしている。
ツェルト助祭様も、僕の担当ということで昨日までは受け入れ準備の手伝いはしていなかった。けれど、中央教会からの応援が到着する前に避難民が到着したために、あまりにも手が足りないからと手伝いに行ってしまった。
教会に迎え入れられるのは、避難民の中でも、治癒魔法が必要になる怪我人と子ども連れだ。もしかしたら怪我人が多いのかもしれない。
そんな中でやることもなくじっとしているのも落ち着かないので、途中で僕の様子を見に来てくれたツェルト助祭様に提案してみた。
「僕も裏の目立たないところでお手伝いをします。服を借りて、ブランが小さくなれば、バレないと思うんです」
「……そうですね。人手が足りていないので、ここの司祭に相談してみます」
相談の結果、避難民に食事や必要なものを配る、その裏方の準備を手伝うことになった。ブランと契約している僕にそんなことをさせていいのかと、ここの司祭様が恐縮しているけど、ブランが神獣なだけで僕はただの冒険者だから、気にしないでほしい。むしろ前線に行けないのだから、冒険者としては落ちこぼれだ。できることは手伝いたい。
作業をするために、僕には助祭じゃなくて見習いの服があてがわれたけれど、もし万が一避難民に何かお願いされたときに、見習いなのでよく分からないと逃げる口実を作るためだ。決して見習いの年齢に見えるからではないはずだ。
ちょっぴり拗ねながらも、僕が運んだ物資の中から水の樽や食料の箱を取り出して、指定された場所へ置く。これが重くて大変な作業らしいけど、僕には触れて収納してから再度取り出すだけの簡単な作業だ。
最初は遠慮していた司祭様たちからも、食料以外のものもお願いしたいと、この物資はあっち、これはこっちと次々に仕分けの指示が飛んでくる。
言われたとおりに並べながら、もしかして僕は引っ越しのバイトをすれば無敵なんじゃないかと考えていた。
「知ってるパーティーです。お久しぶりです」
「久しぶりだな。いろいろ聞きたいが、まずは契約して、物資の詰め替えだな」
彼らは、僕たちが最初に王都で活動していたころからの知り合いだ。各地を回るようになってからも、王都に寄った際に、一緒に食事をする仲だ。
詳しいことは先にギルドマスターが話してくれていたようで、ギルドが用意した契約魔法の使い手のもと、ライダーズも一緒にパパっと契約を済ませた後、物資をマジックバッグに詰め変えていく。
「二人が王都に帰ってきたって噂になったと思ったら、神獣様との契約だろう。驚いたよ。でも無事でよかった」
「ありがとうございます」
「剣士は獣道と一緒に潜ってんのか?」
「はい。今どこにいるのか僕も分からないんですが、ダンジョンから出たら毎回中央教会まで帰ってきてくれます」
パーティーメンバーで協力して手早く物資を詰めながらも、僕たちの近況を質問している。器用だなあ。
「テイマーは教会で付与か?」
「はい。あと孤児院の授業のお手伝いもしています」
「ほお。冒険者よりそっちのほうがあってるかもな。それに教会の中なら安心だな」
遠回しに冒険者に向いてないって言われてしまった。まあ自分でも自覚はあるけど、面と向かって言われたのは初めてかもしれない。でも本当に僕たちを心配してくれていたのが分かって嬉しい。
彼らは、アルの戦闘奴隷の契約が終わりパーティーを組んだころに、初めて一緒に食事をしたパーティーの一つだ。みんなからなんとなく遠巻きにされていた僕たちに気軽に声をかけてくれた。仲間として認められたような気がして嬉しかったのを覚えている。
あのときアルが食事に参加しようと僕を誘ってくれたのは、僕の知り合いを増やすためだった。そのアルの気遣いに、今こうして助けられている。
人数が増えたことで順調に物資の詰め替えは終わった。
ライダーズとリリアンダは明日早朝出発する。あふれているダンジョンのすぐ近くなので、余裕をもって三日で往復する予定なので、僕はその帰りを待って、王都に戻る予定だ。
その間、僕は教会にいることになっているけど、やることがない。
教会内は、キバタからの避難民を受け入れる準備でみんな忙しく、僕たちと僕の担当のツェルト助祭様は邪魔にならないようにあてがわれた部屋で大人しくしている。僕が出ていくと、混乱を招く可能性があるので、大人しくしているしかない。
何か出来ることはないかなと考えて、思いついた。
「助祭様、避難してくる子どものために簡単な計算の問題を作りませんか?」
「避難民のためにですか?」
避難所でボランティアの学生が子どもたちに勉強を教えているのをテレビで見たことがある。いつものように遊んだり勉強したりすることは、子どもたちの心のケアのために必要だと言っていた。
それに、今の僕のようにやることがないのに大人しくしているように言われても、子どもたちには難しいだろう。
だったら、せっかくだから勉強すればいいと思う。飽きたら隣の子とおしゃべりをする、そんなゆるい感じで。
「小さい子には字の練習、大きい子には計算、まだ字が書けない子はお絵描きにしましょうか」
「いいですね」
「ここの孤児院で使っている教材を借りてきます」
この世界にはコピー機がないので、本は高価だ。王都ニザナの孤児院での計算の補習は、各自問題を書き写してから解いていく。
けれど、今回は避難民がどれくらい来るか分からないので、問題を選んで書き写した紙をいくつか用意しておくほうが混乱が起きないだろう。
ツェルト助祭様が借りてきた教材から、子どもたちが飽きないためにはどれがいいか、ああでもないこうでもないと言いながら選ぶのは文化祭の準備のようで、こんなときに不謹慎かもしれないが楽しかった。
翌日、僕が起きる前にライダーズとリリアンダは出発した。そしてお昼前には避難民が教会に到着した。
近くのダンジョンがあふれた際に、街に籠るか、街の外へ逃げ出すかは、難しい判断だ。あふれたモンスターは一番近くの街を目指すが、街の外へ逃げ出しても、モンスターが到達するまでに十分に街から離れられなければ襲われる。だが街に籠っても、応援が来るまでに街が持ちこたえられるかどうかは分からない。街に残るのも逃げ出すのも、一か八かの賭けだ。この街まで逃げてくることができた避難民は、その賭けに勝った人たちだ。
僕が借りている部屋は、この教会で一番奥まったところにあるのに、それでも外の声が聞こえてくる。
いつもは入れないところまで一般の人が入ってくるからと、僕は部屋から出ることを禁止されてしまったので、大人しくブランのブラッシングをしている。
ツェルト助祭様も、僕の担当ということで昨日までは受け入れ準備の手伝いはしていなかった。けれど、中央教会からの応援が到着する前に避難民が到着したために、あまりにも手が足りないからと手伝いに行ってしまった。
教会に迎え入れられるのは、避難民の中でも、治癒魔法が必要になる怪我人と子ども連れだ。もしかしたら怪我人が多いのかもしれない。
そんな中でやることもなくじっとしているのも落ち着かないので、途中で僕の様子を見に来てくれたツェルト助祭様に提案してみた。
「僕も裏の目立たないところでお手伝いをします。服を借りて、ブランが小さくなれば、バレないと思うんです」
「……そうですね。人手が足りていないので、ここの司祭に相談してみます」
相談の結果、避難民に食事や必要なものを配る、その裏方の準備を手伝うことになった。ブランと契約している僕にそんなことをさせていいのかと、ここの司祭様が恐縮しているけど、ブランが神獣なだけで僕はただの冒険者だから、気にしないでほしい。むしろ前線に行けないのだから、冒険者としては落ちこぼれだ。できることは手伝いたい。
作業をするために、僕には助祭じゃなくて見習いの服があてがわれたけれど、もし万が一避難民に何かお願いされたときに、見習いなのでよく分からないと逃げる口実を作るためだ。決して見習いの年齢に見えるからではないはずだ。
ちょっぴり拗ねながらも、僕が運んだ物資の中から水の樽や食料の箱を取り出して、指定された場所へ置く。これが重くて大変な作業らしいけど、僕には触れて収納してから再度取り出すだけの簡単な作業だ。
最初は遠慮していた司祭様たちからも、食料以外のものもお願いしたいと、この物資はあっち、これはこっちと次々に仕分けの指示が飛んでくる。
言われたとおりに並べながら、もしかして僕は引っ越しのバイトをすれば無敵なんじゃないかと考えていた。
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