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続 2章 新たな日々

12-5. 王都への帰路

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 翌日には中央教会からの応援も到着し、僕とツェルト助祭様はまた部屋で大人しくしている。
 予定では明日ライダーズが帰ってくるので、明後日には王都に向けて出発することになる。僕が今一番優先しなければならないのは、王都にちゃんと帰りつけるように体力を温存することだ。筋肉痛もだいぶ良くなってきた。

 迎えた三日目、ライダーズたちが帰ってくる予定の夜になっても帰ってこない。ギルドマスターも教会に顔を出してくれたけど、表情が曇っている。

「何か不測の事態が起きたのかもしれないが、いまこの街から捜索を出す余裕がない。あと一日待ってもらえるか」
「構いません」
「やはり、持ち逃げをしないと契約に入れるべきだったか……」

 ギルドマスターはマジックバッグの持ち逃げを口に出したけど、実際のところ、ギルドマスターも僕も持ち逃げではなくライダーズたちの身を心配している。
 確かに契約には口外しないという内容しか入っていないけれど、彼らが持ち逃げするとは思えない。そんなパーティーならそもそもギルドが僕に近づけたりしない。それくらいギルドから信用を得ているパーティーだ。だからこそ、契約に持ち逃げしないという、本来なら一番に入れるべき条件が入っていない。
 そもそも、契約における「持ち逃げ」の定義が難しいのだ。タハウラとキバタから遠くへ持ったまま行かない、というような条件になるけれど、今はあふれの最中、何が起きるか分からない、場合によっては急遽別の街への避難が必要になるかもしれない状況だ。契約のために逃げられなくなっては困るので、入れなかった。
 きっと帰ってこられない何かが起きているのだろう。どうか無事でいてほしい。


 祈りながら迎えた翌日、予定から半日遅れてお昼にライダーズたちが帰ってきた。よかった。姿を見たときは、安心して力が抜けてしまった。
 彼らに怪我はないけど、途中で怪我人のいる避難民の集団に会って、夜までに街に着くのは無理だと判断して野営に付き合ったそうだ。

「悪かった。こっちまで流れてきているモンスターがいて、連絡に街まで走るのは危険があって無理だったから」
「いえ、無事で本当によかったです」

 崩れるように座り込んだ僕に、みんなが苦笑しながら謝ってくれる。冒険者をしていればこれくらいは想定内の事態なんだろうけど、僕には気が気でない一晩だった。

 問題の物資の輸送については、順調に済んでいた。ダンジョン内に逃げ込んだ人の中にはキバタの司祭様もいて、上手く統率が取れているそうだ。行きはモンスターとの戦闘はあったものの、一日目の夕方に初級ダンジョンに着いた。そして二日目はセーフティーエリアでゆっくり休んで、三日目の早朝に出発したが、途中でキバタから避難してきている人たちに会い、護衛をしながら帰ってきた。怪我人もいる避難民に合わせるので進みが遅くなり、さらにキバタから流れてきているモンスターがいるため、この街まで伝令として一人走らせるのも危険だし、かといって二人出すと避難民の野営中の護衛が少なくなるので、連絡を諦めたらしい。
 遅くなって悪かったと謝られたけど、そこで見捨ててくるような人じゃないからこそ、信用している。
 やっぱり、離れたところと連絡を取れる手段がないって不便だなとあらためて思う。スマホが使えたら、遅れますの一言で済むのになあ。


 翌日、やることはすべて終わったので、朝から王都に向けて出発だ。
 リリアンダのみんなは、このままあふれの対応にあたるので、ここでお別れだ。アルによろしく伝えておいてくれという伝言を受け取って、別れた。

 往路は急いでいるので飛ばしてたが、帰路は所々で休憩を入れながら、途中の街の教会で一泊して帰る。体力のない僕のために申し訳ない。
 今もツェルト助祭様に支えてもらっているけど、今後のためにも、一人で長時間ブランに乗っていられるように、訓練すべきかな。

「うまく乗るコツってなんですか?」
「衝撃を逃すために、身体の力を抜くことでしょうか」

 そうすると僕はブランから落ちてしまう。多分余計な力が入っているのを抜くって言うことなんだろうけど、その加減が分からない。練習あるのみなんだろう。

 街道をそこまで飛ばさずに進んでいるときに、ブランが、リネとアルがこっちに向かってきていると教えてくれた。

「ツェルト助祭様、リネとアルが僕たちのところへ向かってきているそうです」
「……そうですか」

 僕を支えてくれているツェルト助祭様の声から緊張が伝わる。きっと不安で耳が少し伏せられているはずだ。助祭様の前にいるから見えないけど。
 助祭様も教会でリネの気ままな振る舞いを見ているから、合流してからのことを心配しているのかもしれない。最近はアルと上手くやっているみたいだし、きっと大丈夫。

 しばらくすると、遠くから飛んでくる鳥が見えた。遠いのにはっきり見えるのは、鳥が大きいからだ。

「何かが来るぞ!」
「あれって……」

 軍の隊長さんが警戒しているけど、ライダーズの二人はあれって神獣様じゃないかと話している。もしかして会ったことがあるのかな。ツェルト助祭様が、軍の人たちに神獣様です、と伝えてくれたので、警戒は緩んだけど、今度は浮足立っている。リネはお城にもよく宝石をもらいに行っているみたいだけど、目の前で見る機会はあまりないのかもしれない。

『ユウ、大丈夫~?』
「ッ! アル!」

 僕たちのすぐ近くまで降りてきたリネが、突然小さくなったので、乗っていたアルが落下するのを見て、悲鳴を上げてしまった。僕だけでなく、ツェルト助祭様も声にならない悲鳴を上げている。
 けれど僕たちの心配をよそに、アルはうまく勢いを殺して着地した。

「驚かせて悪い。いつものことだ」

 あんな空中で放り出されてちゃんと着地ができるなんてすごい。僕だとそのまま落下して地面に激突するだろうな。
 驚いたので心臓はバクバクしているし、いつものことというアルの言葉にどう反応していいのか分からなくて黙ってしまった僕の肩に、小さくなって降りてきたリネが止まった。

『ユウ、外に出て平気?』
「う、うん。心配してくれてありがとう」
『よかった。あの甘いのちょうだい』

 相変わらずリネの言葉には脈絡がなくて、一瞬何を言われているのか分からなくなる。リネは僕も好きなチーズケーキが最近お気に入りなので、リネが言う甘いのはチーズケーキのことが多い。

 今は道のど真ん中に止まっているし、とりあえずどこか野営地にでも止まってにしたほうがいいんじゃないかと思ったら、ツェルト助祭様が提案してくれて、とりあえず野営地まで進むことになった。耳がぺしょっとなって可愛いけど、教会の代表として堂々とリネとの交渉をしてくれている。
 アルが僕と一緒にブランに乗ってくれることになって、馬に乗ることになったツェルト助祭様の肩にリネが移動したため、ツェルト助祭様の耳が緊張で横にピンとなった。可愛い。

 どんな魔物があふれたのか、とリネがツェルト助祭様に質問しているけど、僕と一緒にいて前線に行っていないツェルト助祭様は答えられない。それで、ライダーズの二人がこんな魔物にあったと話しているのを、軍の兵士たちも聞き耳を立てて聞いている。本当にしゃべっている、と誰かが呟いたのが聞こえて、神獣が人の言葉を話すことが特別なのだと思い出した。僕はブランに慣れ過ぎているかも。
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