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続 3章 ドロップ品のオークション
13-4. 付与魔法の子
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翌日、朝からオークションの品を教会内の指定された場所に出すと、今回の訪問の一番の目的は終わってしまった。オークション会場は王宮だけど、そこまでは人力で運んでもらえるらしい。僕が王宮の会場まで行くと、そのまますんなり帰れそうにないから、教会にしてくれていた。
二番目の目的はカリラスさんにリネを紹介することだけど、カリラスさんは今移動中だ。アルのダンジョン攻略とカリラスさんの移動がかみ合わなくて、まだリネを紹介できていない。カリラスさんはモクリークの王都に来ると、中央教会の宿泊施設に泊まるので、僕はときどき会っているけど、リネと契約して以降はアルがいなくて二人は会えなかった。
今回カリラスさんを紹介したら、リネは移動中のカリラスさんのところに突撃するんじゃないかと思っている。アルがカリラスさんに気を許していることはすぐに分かるだろうし、カリラスさんの面倒見の良さはリネに対しても発揮される気がする。
カリラスさんに会う前に、僕には付与魔法の子との面会の予定がある。
前回、ドガイの大司教様たちがリネに会いに来たときに、水魔法を付与した魔石を見せてもらったけど、まるで泉のように水を生み出し続ける魔石は、噂が広がってあちこちから注文が入っているらしい。あの魔石があれば、あふれで初級ダンジョンに避難していた人たちは飲み水に困らなかっただろう。マジックバッグもアイテムボックスも必要としない大量の飲料水の調達は、どの国も欲しいはずだ。
今回のオークションには、付与した魔石も出すことになっている。教会主導で行っている事業なので、オークションのついでに大々的に紹介することにしたのだ。
「初めまして。ユウです。僕の従魔のブランと、アルです」
「は、初めまして。テルリです」
付与魔法スキルの子は、どこにでもいる男の子という感じだけど、冒険者になろうとしていただけあって、体格がいい。僕よりも背が高いように見えるけど、きっと気のせいだ。すごく緊張しているけど、そんなに固くならないで。リネはいないけど、やっぱり神獣の契約者のアルがいるのがダメなのかな。
リネはどこかに遊びにいっている。神獣様がドガイに訪問していることは知られているので、どこかにふらっと現れても、そこまで大騒動にはならないはずだ。
ドガイの付与担当の司祭様が間に入ってくれて、お互いに自己紹介から始めて付与で苦労したことなんかを話していると、少し慣れてきたのか笑顔も見せてくれるようになった。
「テルリ、聞きたいことがあったのでしょう?」
「はい。あの、付与するときに、一番気をつけていることは何ですか?」
「魔力を一定に保つことかなあ。気を抜くと変わってしまうので」
「それが難しくて。何かコツってありますか?」
「うーん、慣れかなあ。僕はたくさん失敗して、やっとできるようになったけど、そこまで二年かかったから。だから焦らないで」
この子はモクリークを含めて、教会の付与の店舗で働く技術者第一号だ。相談できる人が周りにいないから、この機に聞きたいことを用意していたらしい。
モクリークにもこの国にも付与で商売している人はいるけど、多くが貴族の後見を受けているので、コツなどは話してくれないだろう。僕の経験が役に立つならと思って、答えられることには答えた。でも感覚的なことは上手く伝えられないので、そこはたくさん作って、慣れていくしかない。
僕は付与でお金を稼がなくても困らなかったから、のんびりと練習できた。でもこの子は第一号として期待もかけられて、プレッシャーもあるだろう。
「テルリくんはまだ見習いなのに、あんなに大きな魔石に付与できるんだから、すごいよ」
「大きな魔石は途中で魔力切れになるので、魔力ポーションを飲みながらでないと作れません」
「え、そうなの? そんなに大変なの?」
僕は付与で魔力切れになったことがない。冷凍庫のために大きな魔石に氷魔法を付与したことがあるけれど、特に困らなかった。これは付与魔法スキルと付与スキルの違いなのかと思ったら、違った。
『(ユウには加護があるから、魔力切れにはならない)』
「え? もしかして僕って」
「ユウには、魔力切れになるほど付与をさせたことがない。体が丈夫ではないので、その前に止めている」
僕は魔法を使い放題なのかと聞こうとしたところで、僕のうかつな言葉にかぶせるようにアルが発言した。そうだった。ブランの正体を知らない人の前で言っていいことじゃなかったのに、教会の中にいるので油断していた。
でも、僕は魔力切れにならないってことは、ものすごく大きなアイスの魔石が作れるということだ。ということは冷凍倉庫が作れる。アイスクリームが作れないかな、と全然関係ないことを考えていたら、アルに太ももを軽くたたかれてしまった。目の前の会話に集中しろってことですね。
ここは、話題を変えよう。
「見習い期間が終わったらどうするの?」
「このまま教会のお世話になるつもりです」
貴族からお抱え付与術師にというお誘いもあるらしいけど、貴族への苦手意識があるようで、直接関わりたくないそうだ。教会が守ってくれるなら、その庇護のもとにいるほうが楽だというのはよく分かる。まだ成人したばかりなのだから、しばらくは教会にお世話になって、もっといろんなことができるようになってから考えればいいだろう。この事業は始めたばかりだから、数年後に付与魔法スキルを持つ人の扱いがどうなっているか分からないが、今とは変わっている可能性だってある。
テルリくんの身辺警護をするべきだという話も出ているそうだ。今は神学生と同じ扱いで寮にいるけど、あの水の付与魔石が広く知られると、気軽に外出できなくなる可能性だってある。
「付与魔法スキルを持つ人が狙われないように、スキルを持つ人がもっとたくさん見つかるといいのにね」
「モクリークにも今一人見習いがいるんですよね?」
「孤児院の女の子だよ。修行を頑張ってる」
かつて孤児院へ向かう途中の野営地であった女の子は今、教会で修行中だ。同じスキルを持つ同年代が周りにいないので、交流したいのかもしれない。ただ、成人したばかりの子が気軽に隣の国へ行けるほど、この世界は優しくない。特にモクリークは魔物も多いし、あふれも他の国に比べれば多い。
でも身近に仲間がいるほうが、張り合いも出るだろうし、当初案に出た留学を考えてもいいだろう。
二番目の目的はカリラスさんにリネを紹介することだけど、カリラスさんは今移動中だ。アルのダンジョン攻略とカリラスさんの移動がかみ合わなくて、まだリネを紹介できていない。カリラスさんはモクリークの王都に来ると、中央教会の宿泊施設に泊まるので、僕はときどき会っているけど、リネと契約して以降はアルがいなくて二人は会えなかった。
今回カリラスさんを紹介したら、リネは移動中のカリラスさんのところに突撃するんじゃないかと思っている。アルがカリラスさんに気を許していることはすぐに分かるだろうし、カリラスさんの面倒見の良さはリネに対しても発揮される気がする。
カリラスさんに会う前に、僕には付与魔法の子との面会の予定がある。
前回、ドガイの大司教様たちがリネに会いに来たときに、水魔法を付与した魔石を見せてもらったけど、まるで泉のように水を生み出し続ける魔石は、噂が広がってあちこちから注文が入っているらしい。あの魔石があれば、あふれで初級ダンジョンに避難していた人たちは飲み水に困らなかっただろう。マジックバッグもアイテムボックスも必要としない大量の飲料水の調達は、どの国も欲しいはずだ。
今回のオークションには、付与した魔石も出すことになっている。教会主導で行っている事業なので、オークションのついでに大々的に紹介することにしたのだ。
「初めまして。ユウです。僕の従魔のブランと、アルです」
「は、初めまして。テルリです」
付与魔法スキルの子は、どこにでもいる男の子という感じだけど、冒険者になろうとしていただけあって、体格がいい。僕よりも背が高いように見えるけど、きっと気のせいだ。すごく緊張しているけど、そんなに固くならないで。リネはいないけど、やっぱり神獣の契約者のアルがいるのがダメなのかな。
リネはどこかに遊びにいっている。神獣様がドガイに訪問していることは知られているので、どこかにふらっと現れても、そこまで大騒動にはならないはずだ。
ドガイの付与担当の司祭様が間に入ってくれて、お互いに自己紹介から始めて付与で苦労したことなんかを話していると、少し慣れてきたのか笑顔も見せてくれるようになった。
「テルリ、聞きたいことがあったのでしょう?」
「はい。あの、付与するときに、一番気をつけていることは何ですか?」
「魔力を一定に保つことかなあ。気を抜くと変わってしまうので」
「それが難しくて。何かコツってありますか?」
「うーん、慣れかなあ。僕はたくさん失敗して、やっとできるようになったけど、そこまで二年かかったから。だから焦らないで」
この子はモクリークを含めて、教会の付与の店舗で働く技術者第一号だ。相談できる人が周りにいないから、この機に聞きたいことを用意していたらしい。
モクリークにもこの国にも付与で商売している人はいるけど、多くが貴族の後見を受けているので、コツなどは話してくれないだろう。僕の経験が役に立つならと思って、答えられることには答えた。でも感覚的なことは上手く伝えられないので、そこはたくさん作って、慣れていくしかない。
僕は付与でお金を稼がなくても困らなかったから、のんびりと練習できた。でもこの子は第一号として期待もかけられて、プレッシャーもあるだろう。
「テルリくんはまだ見習いなのに、あんなに大きな魔石に付与できるんだから、すごいよ」
「大きな魔石は途中で魔力切れになるので、魔力ポーションを飲みながらでないと作れません」
「え、そうなの? そんなに大変なの?」
僕は付与で魔力切れになったことがない。冷凍庫のために大きな魔石に氷魔法を付与したことがあるけれど、特に困らなかった。これは付与魔法スキルと付与スキルの違いなのかと思ったら、違った。
『(ユウには加護があるから、魔力切れにはならない)』
「え? もしかして僕って」
「ユウには、魔力切れになるほど付与をさせたことがない。体が丈夫ではないので、その前に止めている」
僕は魔法を使い放題なのかと聞こうとしたところで、僕のうかつな言葉にかぶせるようにアルが発言した。そうだった。ブランの正体を知らない人の前で言っていいことじゃなかったのに、教会の中にいるので油断していた。
でも、僕は魔力切れにならないってことは、ものすごく大きなアイスの魔石が作れるということだ。ということは冷凍倉庫が作れる。アイスクリームが作れないかな、と全然関係ないことを考えていたら、アルに太ももを軽くたたかれてしまった。目の前の会話に集中しろってことですね。
ここは、話題を変えよう。
「見習い期間が終わったらどうするの?」
「このまま教会のお世話になるつもりです」
貴族からお抱え付与術師にというお誘いもあるらしいけど、貴族への苦手意識があるようで、直接関わりたくないそうだ。教会が守ってくれるなら、その庇護のもとにいるほうが楽だというのはよく分かる。まだ成人したばかりなのだから、しばらくは教会にお世話になって、もっといろんなことができるようになってから考えればいいだろう。この事業は始めたばかりだから、数年後に付与魔法スキルを持つ人の扱いがどうなっているか分からないが、今とは変わっている可能性だってある。
テルリくんの身辺警護をするべきだという話も出ているそうだ。今は神学生と同じ扱いで寮にいるけど、あの水の付与魔石が広く知られると、気軽に外出できなくなる可能性だってある。
「付与魔法スキルを持つ人が狙われないように、スキルを持つ人がもっとたくさん見つかるといいのにね」
「モクリークにも今一人見習いがいるんですよね?」
「孤児院の女の子だよ。修行を頑張ってる」
かつて孤児院へ向かう途中の野営地であった女の子は今、教会で修行中だ。同じスキルを持つ同年代が周りにいないので、交流したいのかもしれない。ただ、成人したばかりの子が気軽に隣の国へ行けるほど、この世界は優しくない。特にモクリークは魔物も多いし、あふれも他の国に比べれば多い。
でも身近に仲間がいるほうが、張り合いも出るだろうし、当初案に出た留学を考えてもいいだろう。
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