世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

文字の大きさ
145 / 226
続 3章 ドロップ品のオークション

13-4. 付与魔法の子

しおりを挟む
 翌日、朝からオークションの品を教会内の指定された場所に出すと、今回の訪問の一番の目的は終わってしまった。オークション会場は王宮だけど、そこまでは人力で運んでもらえるらしい。僕が王宮の会場まで行くと、そのまますんなり帰れそうにないから、教会にしてくれていた。
 二番目の目的はカリラスさんにリネを紹介することだけど、カリラスさんは今移動中だ。アルのダンジョン攻略とカリラスさんの移動がかみ合わなくて、まだリネを紹介できていない。カリラスさんはモクリークの王都に来ると、中央教会の宿泊施設に泊まるので、僕はときどき会っているけど、リネと契約して以降はアルがいなくて二人は会えなかった。
 今回カリラスさんを紹介したら、リネは移動中のカリラスさんのところに突撃するんじゃないかと思っている。アルがカリラスさんに気を許していることはすぐに分かるだろうし、カリラスさんの面倒見の良さはリネに対しても発揮される気がする。

 カリラスさんに会う前に、僕には付与魔法の子との面会の予定がある。
 前回、ドガイの大司教様たちがリネに会いに来たときに、水魔法を付与した魔石を見せてもらったけど、まるで泉のように水を生み出し続ける魔石は、噂が広がってあちこちから注文が入っているらしい。あの魔石があれば、あふれで初級ダンジョンに避難していた人たちは飲み水に困らなかっただろう。マジックバッグもアイテムボックスも必要としない大量の飲料水の調達は、どの国も欲しいはずだ。
 今回のオークションには、付与した魔石も出すことになっている。教会主導で行っている事業なので、オークションのついでに大々的に紹介することにしたのだ。

「初めまして。ユウです。僕の従魔のブランと、アルです」
「は、初めまして。テルリです」

 付与魔法スキルの子は、どこにでもいる男の子という感じだけど、冒険者になろうとしていただけあって、体格がいい。僕よりも背が高いように見えるけど、きっと気のせいだ。すごく緊張しているけど、そんなに固くならないで。リネはいないけど、やっぱり神獣の契約者のアルがいるのがダメなのかな。
 リネはどこかに遊びにいっている。神獣様がドガイに訪問していることは知られているので、どこかにふらっと現れても、そこまで大騒動にはならないはずだ。

 ドガイの付与担当の司祭様が間に入ってくれて、お互いに自己紹介から始めて付与で苦労したことなんかを話していると、少し慣れてきたのか笑顔も見せてくれるようになった。

「テルリ、聞きたいことがあったのでしょう?」
「はい。あの、付与するときに、一番気をつけていることは何ですか?」
「魔力を一定に保つことかなあ。気を抜くと変わってしまうので」
「それが難しくて。何かコツってありますか?」
「うーん、慣れかなあ。僕はたくさん失敗して、やっとできるようになったけど、そこまで二年かかったから。だから焦らないで」

 この子はモクリークを含めて、教会の付与の店舗で働く技術者第一号だ。相談できる人が周りにいないから、この機に聞きたいことを用意していたらしい。
 モクリークにもこの国にも付与で商売している人はいるけど、多くが貴族の後見を受けているので、コツなどは話してくれないだろう。僕の経験が役に立つならと思って、答えられることには答えた。でも感覚的なことは上手く伝えられないので、そこはたくさん作って、慣れていくしかない。
 僕は付与でお金を稼がなくても困らなかったから、のんびりと練習できた。でもこの子は第一号として期待もかけられて、プレッシャーもあるだろう。

「テルリくんはまだ見習いなのに、あんなに大きな魔石に付与できるんだから、すごいよ」
「大きな魔石は途中で魔力切れになるので、魔力ポーションを飲みながらでないと作れません」
「え、そうなの? そんなに大変なの?」

 僕は付与で魔力切れになったことがない。冷凍庫のために大きな魔石に氷魔法を付与したことがあるけれど、特に困らなかった。これは付与魔法スキルと付与スキルの違いなのかと思ったら、違った。

『(ユウには加護があるから、魔力切れにはならない)』
「え? もしかして僕って」
「ユウには、魔力切れになるほど付与をさせたことがない。体が丈夫ではないので、その前に止めている」

 僕は魔法を使い放題なのかと聞こうとしたところで、僕のうかつな言葉にかぶせるようにアルが発言した。そうだった。ブランの正体を知らない人の前で言っていいことじゃなかったのに、教会の中にいるので油断していた。
 でも、僕は魔力切れにならないってことは、ものすごく大きなアイスの魔石が作れるということだ。ということは冷凍倉庫が作れる。アイスクリームが作れないかな、と全然関係ないことを考えていたら、アルに太ももを軽くたたかれてしまった。目の前の会話に集中しろってことですね。
 ここは、話題を変えよう。

「見習い期間が終わったらどうするの?」
「このまま教会のお世話になるつもりです」

 貴族からお抱え付与術師にというお誘いもあるらしいけど、貴族への苦手意識があるようで、直接関わりたくないそうだ。教会が守ってくれるなら、その庇護のもとにいるほうが楽だというのはよく分かる。まだ成人したばかりなのだから、しばらくは教会にお世話になって、もっといろんなことができるようになってから考えればいいだろう。この事業は始めたばかりだから、数年後に付与魔法スキルを持つ人の扱いがどうなっているか分からないが、今とは変わっている可能性だってある。
 テルリくんの身辺警護をするべきだという話も出ているそうだ。今は神学生と同じ扱いで寮にいるけど、あの水の付与魔石が広く知られると、気軽に外出できなくなる可能性だってある。

「付与魔法スキルを持つ人が狙われないように、スキルを持つ人がもっとたくさん見つかるといいのにね」
「モクリークにも今一人見習いがいるんですよね?」
「孤児院の女の子だよ。修行を頑張ってる」

 かつて孤児院へ向かう途中の野営地であった女の子は今、教会で修行中だ。同じスキルを持つ同年代が周りにいないので、交流したいのかもしれない。ただ、成人したばかりの子が気軽に隣の国へ行けるほど、この世界は優しくない。特にモクリークは魔物も多いし、あふれも他の国に比べれば多い。
 でも身近に仲間がいるほうが、張り合いも出るだろうし、当初案に出た留学を考えてもいいだろう。
しおりを挟む
感想 93

あなたにおすすめの小説

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、生命を懸けて鬩ぎ合い、幾度も涙を流す旅路の中で自分の在り方を探す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※基本週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開中(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...