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続 3章 ドロップ品のオークション

13-5. 将来の展望

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 テルリくんとの面会も終わって、午後は予定がない。
 明日はカリラスさんが到着して、明後日はモクリークの大司教様たちが到着する予定だ。

「ああそうだ、明後日テオリウスが教会に来る」
「モクリークの王子様? 僕も会ったほうがいい?」
「必要ない。俺は少し話をする予定だが、ユウは部屋でのんびりしていてくれ」

 明後日の大司教様の到着に合わせて王子様が教会に来るときにアルと会うことになっているらしい。
 王子様からできれば僕にも会いたいと言われているのは知っているけど、アルが断ってくれたからその話はなくなった。王子様は僕の会いたくないという気持ちを尊重してくれるらしい。だったら、会っても嫌な思いはしないかもしれない。

「僕も会ってみようかな」
「ユウ? どうした? 会いたくないならいいんだぞ?」
「気が変わった、ような?」

 教会に閉じこもっていないで、外に出ていこうと決めたのだ。これはその最初の一歩だ。
 モクリークでオークションの品の仕分けをしているときに見たアルと王子様は、仲が良さそうだった。僕の知らないアルの交友関係が広がっていくのが、少し不安だ。僕にはアルの知らない友人はいないけれど、アルにはたくさんいる。この世界で生きている長さが違うのだから当然のことだけど、僕よりもそちらの関係がメインになってしまったら、とときどき悪い方向に考えてしまう。だから、アルが友達として紹介してくれるなら会っておきたい。それが王子様っていうのが、かなりハードルが高いけど。
 それにモクリークではなく旅先でのことだから、一度会ってみたけど今回だけにしようと思った場合にも、理由を付けやすい気がする。

「ユウ、無理してないか?」
「無理はしてないよ。アルは会ってほしくない?」
「いや、できれば会ってほしい。悪い奴ではなさそうだから、ユウも顔見知りになってくれれば、俺が安心できる」
「安心?」
「俺がダンジョンに行っていないあいだに何かがあった場合、ユウの頼れる人が増えるから。テオは王都にいることが多いだろう」

 二百年周期に入った今、どこで何があってもおかしくはない。別行動しているのだから、そのときにアルが僕のそばにいるかどうか分からない。
 たとえ何があっても、ブランと教会が守ってくれる。それを疑ってはいないけど、他にも頼れるところがあれば、より安心できる。モクリーク王国は僕との縁を切らさないために守ってくれるだろうけど、面識があったほうが、より真剣になってくれるはずだ。
 それに、王様とは一年に一回会談の席を設けてもらっているけれど、リネが来てからはまだ開催されていない。王子様と僕が会うようになれば、その会談も必要なくなる可能性もある。
 アルはそんなふうに僕のために考えてくれていた。

「数日前から緊張しているだろう? あの会談はユウには負担が大きいんじゃないか?」
「確かに王子様だけのほうが、気が楽かも」

 あの、王様の後ろにずらずらとお付きの人がいるのが特に緊張するのだ。でも王子様とアルが会うときはお付きの人はいない。
 それだったら、ますます会うことに意味がある気がする。
 頑張って踏み出してみよう。

 王子様はドガイの王宮に泊まっているので、モクリークの大司教様が到着するのに合わせて中央教会に来る。表向きは自国の大司教様のお出迎えを兼ねて、オークションに関する情報交換だ。アルに会うと知られると、アルがドガイや他の国の王族とも会わなければならなくなるので、大司教様のお出迎えをしたらたまたま会った、ということにするらしい。偉い人は大変だ。
 僕も、たまたまアルと一緒に行動していたら王子様と会ったという筋書きにするそうだ。

 ちょうどいい機会だから、カザナラでソマロさんと話したことを聞いてみよう。

「ねえ、アル。アルはどういう将来を考えている?」
「将来? どういうことだ?」
「アルは、冒険者を引退したら何をしたい?」
「ユウと一緒にいたい」

 その思いはとても嬉しい。アルはいつだって僕を優先してくれる。でもアルにも本当はやりたいことがあるはずだ。

「ソマロさんはキリシュくんと、行商をする予定なんだって。僕はアルとの将来を具体的に考えたことがなかったなと思って」
「小さな家で、使用人は雇わず、ブランと俺と過ごすんだろう?」
「そう思っていたけど、今はリネもいるし……」

 カザナラの別荘を買ったときに、将来は小さな家でアルとブランと過ごすという話をしたことはある。そのために今の資金で足りるのかとサジェルに聞いたこともある。とてもぼんやりとした未来の話だった。けれど、リネがいて、アルが神獣の契約者と知られてしまった今、そういう未来は難しいだろう。

「ユウが何をしていても、俺はユウのそばにいる。ユウの将来から俺を締め出さないでくれ」
「待って、そんな話じゃないよ」

 アルが僕を強く抱きしめて、肩に顔をうずめたまま、小さな声でつぶやいた。

「俺から離れたいっていう話じゃないのか?」
「違うよ。ごめん、違うんだ」

 そうだ。僕はここで、一緒にいるのが辛いから離れたいとアルに言った。この部屋に辛い思い出があるのは、僕じゃない。アルだ。そのことを軽く見て、アルをまた傷つけた。僕が何を考えているのか、ちゃんと言わなかったばかりに。

「アル、突然ごめんね。僕は今、アルと別々の行動が多くなって不安なんだ」
「だったら、ダンジョンには行かない」
「リネが飽きちゃうよ。そうじゃなくて、いつかは二人でこういう将来を迎えようっていう具体的な目標があれば、離れている時間も頑張れるかなと思ったの。だから将来の話をしたいなって」

 アルはしばらく僕を抱きしめてから、そっと身体を離して顔を覗き込んできた。

「ダンジョンに復帰したいと言っていたのも、それでか?」
「うん。離れている時間が長くなって、僕のいないところでアルが新しい世界を作っていくのが不安だから」
「ユウ、俺も不安だ。ユウは孤児院でも付与の店でも、俺の知らない交友関係があるだろう? ユウには冒険者よりそっちのほうが合っていると思う。でも俺はそこで何もできない」
「あれは、お仕事だよ。友達じゃないよ」
「俺だって獣道以外とはほとんど話をしない」

 僕たちは、お互い同じことを不安に思っていたみたいだ。もっと早くに話せばよかった。
 普通なら、別々の生活をしていた二人が、少しずつ一緒の生活を始めていく、その過程で話し合って解決していることなんだろうけど、僕たちは雇い主と戦闘奴隷としてまず常に一緒にいる生活から始まってしまった。それがあの襲撃で状況が変わって、二人で生きていくということについて、考えさせられている。周りから見たら、すごくいまさらのことで悩んでいるのかもしれない。
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