世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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続 3章 ドロップ品のオークション

13-9. 防災訓練

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 翌日お昼前に、モクリークの大司教様が中央教会に到着した。前日に隣の街タガミハに到着したと連絡があったので、ミンギを出てからは問題は起きずに移動できていたようで安心した。
 僕たちの借りている部屋まで挨拶に来てくれた大司教様の肩には、リネが乗っている。遊びにいった先で大司教様を見つけて、構ってもらっていたようだ。

「ブラン様、ドガイまでご足労いただきありがとうございます。お出迎えできず申し訳ございませんでした」
『よい』
「ユウさん、アレックス様、ご不便をおかけいたしました」
「みなさんよくしてくれましたので。ミンギのあふれは問題ありませんでしたか?」
「はい。モクリークでの経験が活きました」

 聞くと、あふれに慣れているモクリークと違って、教会の人たちも混乱していたから、最終的にはモクリークの人たちが指揮をとることになった。それで落ち着くまでは離れられなかったのだと説明してくれた。
 今回ドガイにはいろんな国の教会の偉い人たちが集まるので、その場であふれの対策について情報を共有する機会を設けようと、すでにドガイの大司教様の提案で話が進んでいるそうだ。あふれの起きる頻度は、モクリークがダントツだ。それに上級ダンジョンが多いので、あふれの被害も大きくなる。その中で積み重ねられた対応策はきっと、他の国の参考になるはずだ。

 そこに、モクリークの王子様が中央教会に到着したと連絡がきたので、慌ただしく席を立つことを謝る大司教様に、アルが声をかけた。

「この後、テオと話をする予定です。ユウも同席しますが、テオには伝えないでください」
「ユウさん、ご無理をされていませんか?」

 僕がモクリークで偉い人から逃げ回っているのを知っている大司教様に、王子様と会うことを心配されてしまったけど、頑張ると決めたのだ。
 僕の表情から無理をしていないと分かってもらえたのか、大司教様の話が終わったら連絡をすると言って、部屋を出ていった。
 リネは大司教様の肩からツェルト助祭様の肩に移っている。ツェルト助祭様の緊張がピンとした耳に現れていて、可愛い。

 連絡が来るまで、サリュー司祭様も一緒に、ツェルト助祭様からミンギの話を聞こう。
 ミンギのあふれは、モクリークに比べれば大した規模ではなかったものの、ほとんどの人間が経験がないために混乱してしまったそうだ。そう考えると、どこかであふれが起きたと連絡が入るとすぐに態勢が整うモクリークは、あふれ慣れしているのだろうな。

「モクリークでは、冒険者はギルドの命令に従いますし、住民は領兵や教会の指示で避難するのですが、ミンギではそれが上手くいっていませんでした」
「私は普段タガミハにいるのですが、それを聞くとタガミハも怪しいですね。あふれを経験した者はほとんどいないですから」
「防災訓練をしたらどうですか?」
「ボーサイクンレン?」

 この世界に防災訓練はないらしい。
 モクリークではあふれが身近なために、他の街であふれにあった人の経験を聞いたりすることで、実際に起きたらどうするかという知識が共有されている。でもあふれの少ないドガイや他の国では、その知識がない。知識もなく訓練もしていなければ、いざというときに動けない気がする。

「あふれが起きたと仮定して、みんなで避難します。そのときにどういう道を通るのか、何を持っていくのか、実際にやってみるんです」
「それは、住民にも呼びかけるのですか?」
「はい。この日のこの時間から始めますと事前に知らせておいて、参加できる人でやります」

 避難場所の選定に、避難者の誘導方法など、もし門を突破されて街にモンスターが入ってきたら、教会に立てこもることもあるのだから、訓練しておいて無駄にはならないはずだ。
 僕は学校での訓練しかしたことがないけれど、父さんは訪問先の会社で火災報知器が鳴って、実際に避難したことがある。結局誤報だったらしいけど、十何階から階段を歩いて降りるのは予想以上に大変だったと言っていた。考えているのとやってみるのとでは、違うことも出てくるだろう。
 サリュー司祭様が興味を持っているから、この世界にも防災訓練が広まるかもしれない。

 その話の最中、リネは料理長が作ってくれたチーズケーキを食べ、その後はずっとサリュー司祭様になでられてご機嫌だった。ツェルト助祭様は緊張から恐る恐る触れていたので、リネはサリュー司祭様のもとへと自分から移動した。サリュー司祭様はモクリークに来たときに一度なでたことがあったそうで、気負わず触れている。
 後でブランが、ツェルト助祭様は気配に敏感な獣人だから、神気をより強く感じているのだろうと教えてくれた。だとすると、キバタのあふれのとき僕を支えるためにツェルト助祭様がブランに乗ったのは、かなり大変なことだったのかもしれないと、いまさらながら思い当たった。
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