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続 3章 ドロップ品のオークション

13-10. 王子様とお茶会

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 さて、いよいよ王子様に面会だ。何を話すという目的もないから心の準備もできないけれど、アルがそばにいてくれるから大丈夫。
 連絡が来て、案内された部屋に入ると、王子様とモクリークの大司教様だけだった。僕は嬉しいけど、部屋の前にすら護衛がいなくて問題ないのか心配になってしまう。

「神獣様に、テイマー殿まで」
「突然お邪魔してすみません」

 リネは少し緊張している僕を心配してついてきてくれたけど、すでに部屋の調度品に興味をひかれて、離れていった。王子様が一通りリネへの一方的な挨拶を済ませてから、こちらを向いた。

「アレックス、先に教えてくれればよかったのに」
「それで付き人が残っていたら、ユウが委縮する」
「だから大司教様が護衛も含めて全員下げさせたのか」

 僕の目に入らないように、お付きの人は全員隣の部屋にいるらしい。他国の教会で護衛を遠ざけることはできないというお付きの人と、全員部屋から出さないとアルを呼ばないという大司教様でやりとりがあり、最終的には神獣様に弓を引くつもりかとリネの威光をちらつかせて大司教様が勝ったらしい。なんだか申し訳ない。
 アルが王子様と会うときは、最初だけサジェルが同席していて、その後は二人だけで話しているらしいけれど、今日は僕がいるから大司教様がいてくれている。
 アルと一緒にソファに座り、ブランが僕の足元に座ったところで、ツェルト助祭様によってみんなの前にお茶が置かれた。そして、ツェルト助祭様が部屋を出るのを待ってから、王子様に話しかけられた。

「テイマー殿、私のことはテオと呼んでくれ。ユウと呼んでもいいだろうか?」
「ダメだ」
「アレックス、心が狭いことを言っていると嫌われるぞ」

 僕が答えるよりも早く、アルが断った。自分はアレックスと呼ばせているのに、僕の名前を呼ばれるのは嫌らしい。獣道のみんなは僕のことをユウと呼び捨てにしているから別に構わないんだけど、アルのやきもちはちょっと嬉しい。
 でも想像以上にアルと王子様は仲が良いようだ。気を遣わなくていいとアルが言っていたから、馬が合うのかもしれない。ポンポンとテンポよく言葉の応酬をして、話が進んでいく。僕は部屋の調度品を突っついているリネに気が気ではないのだけれど、大司教様はそんなリネを微笑ましく見守っているから問題ないのだろう。

「アレックスはこの後モクリークに戻るのか?」
「いや、リネが薬箱ダンジョンに興味を持ったので、明後日から潜ってくる」
「エリクサーか。急に立ち入り禁止になったと聞いたが、もしかしてそのためか?」
「だろうな」

 ギルドマスターは本当にダンジョンを閉鎖したらしい。しかも、リネの名前は出さずに、理由は伏せていてくれている。いずれダンジョン付近でリネが目撃されれば、みんな理由を知るだろうから、それまで黙ってやり過ごしてくれるようだ。

「モクリークは攻略に行かせていないのか?」
「いない。マジックバッグで船は持ち込めるだろうが、それで攻略できた場合、貸してくれと言われると面倒だ。それにエリクサーはモクリーク国内でも手に入る」

 僕たちも船を持っていったときに乗せてほしいと言われたからあり得る。国と国の付き合いだと断るのも角が立ちそうだから、最初から行かないのが無難だろう。

 なんだか昔からの友達のようだと、ぼんやりとアルと王子様のやり取りを聞いていたら、突然僕に会話のボールが飛んできた。

「テイマー殿は、ドガイには何度か来ているそうだが、食べ物では何が好きかな?」
「え? 食べ物、えーっと……」
「ユウ、そんなに緊張するな」

 ただでさえ王子様に緊張しているのに、さらに不意打ちだと慌ててしまう。
 教会で出される食事はいつだって、僕の口にあった美味しいものだから、これというのは選べない。僕が答えるのをゆっくり待っていてくれるので、慎重に答えを選んで口に出した。たかだか食べ物の話で大げさと言われるかもしれないけど、相手は王子様なのだ。モクリークの王子様にモクリークを貶めるようなことは言えない。

「コサリマヤの屋台で食べたチーズ料理が美味しかったです」
「神獣様もチーズを楽しみにしているとおっしゃっていたね」
『そうだ、チーズケーキできた?』

 突然リネが話に入ってきたので何かと思ったら、リネが王宮に突撃して、宝石とチーズケーキをねだったらしい。けれどチーズケーキが出てくるのを待ちきれずに飛んでいってしまったと、その場にいた王子様が説明してくれた。
 大司教様が王宮に連絡して中央教会へ届けてもらうようにお願いしてくれることになったが、果たして届いたときにこの会話をリネは覚えているのだろうか。まあ、チーズケーキはリネの好物の一つだから、無駄にはならないだろう。だけど、突然リネが現れて王宮は騒動になったんじゃないかな。

 それからも王子様は、軍のトップらしくモンスターやダンジョン攻略の話をアルとして、僕には当たり障りのない話題を振ってくれたので、穏やかに会話が進んだ。アイテムボックスや、マジックバッグに関わるような話は一切話題に上らなかったのは、きっとわざと避けたのだろう。

 また会いましょうと約束して、お茶会は終わった。
 これなら、また会ってもいいと思える内容だった。やっぱり王子様なだけあって、相手を不快にさせないような話術はお手の物なんだろう。

「ユウ、大丈夫だったか?」
「うん。アルは王子様とすごく仲が良いんだね」
「リネの機嫌を損ねてまで何かをしてくることはないだろうという安心があるからな」

 ダンジョンで会う貴族の息のかかった人と話すと、便宜を図るようなことを言ってしまったり、言質を取られないようにと気を遣う必要があるらしい。その点、僕たちがモクリークに属していると周りが認識している現状で、モクリークの王子様が僕たちの機嫌を損ねるようなことをする可能性は低い。自由なリネを知っているからこそ、無理を頼んでくることもない。だから、そこまで言葉の一つ一つに気を遣わなくていい分、楽なんだそうだ。
 アルの世界が広がっていくのが不安だと思っていたけど、アルは外で僕が思う以上に大変な思いをしているのかもしれない。
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