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続 3章 ドロップ品のオークション
13-14. 秘密の共有
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「それで、俺に話って何? 大事なのかな?」
「そう、ですね。僕は……」
さすがにこの話は教会の人たちには聞かれたくなくて、部屋から出てもらった。病み上がりの僕を心配しながらも、ブランがいるからすんなりと部屋を出てくれたけれど、その状況にカリラスさんが緊張している。
「僕はこの世界の人間じゃないんです」
きっと、こんなことを言うなんて、頭のおかしい人だと思われるだろうな。自分で言っていて、信じられる要素などどこにもない気がする。アルはあのときカージの宿で、よく信じてくれたなとあらためて感じる。
ポカンとしているカリラスさんに、こことはまったく異なる世界で生きていたこと、ある日気づくとこの世界にいたこと、それからカイドでだまされて逃げた先でブランに会ったことを説明する。
「ブランが、神獣であるブランが僕と契約してくれたのは、僕がこの世界の人間ではなくて珍しかったからなんです」
「えーっと、神獣様にはそういうのが分かるってこと?」
『魂が異なるからな』
しばらく言葉をかみ砕くように何かを考えていたカリラスさんは、よく分からないけど、と前置きして僕に問いかけた。
「それって、アレックスは知ってる?」
「会った日に言いました。戦闘奴隷を買ったのは、この世界の常識を教えてもらうためもあったので。でもアルは、ブランが神獣だってことのほうに驚いていました」
「それは、まあ、神獣様だし」
きっと、ブランが言っているから僕の荒唐無稽な話も信じてくれるのだろう。
「僕は、僕には、神様っていうのがよく分からなくて。だから、今のアルの神獣の契約者という立場もよく分からないんです」
「ユウくんも、神獣の契約者だよね?」
「そうなんですけど、僕にとってブランは、魔法が使えて人の言葉をしゃべる、食いしん坊なもふもふなので」
僕のブラン評にカリラスさんが絶句しているけど、結局のところ僕とこの世界とのすれ違いは、本を正せば全てそこに行きつく。僕だけが、この世界の神という存在が理解できないでいる。すぐそばにいるのにもかかわらず。
僕は、この世界では異物だ。最近はあまり感じることもなくなっていたけど、でもこの数日立て続けに突き付けられた。
「僕はこの世界で子ども時代を過ごしていないので、流行り病にかかってしまいました。それに、孤児院でお姫様に、神獣の契約者の血を残すべきだって言われて、でもそれがどれくらいの意味を持つのか、僕には分からなくて」
「あー、ここのところアレックスと微妙な雰囲気なのは、そのせい?」
「はい。アルには、この世界の人のほうがいいのかなって思ってしまって」
しばらく考えていたカリラスさんは、俺はアレックスの友達で、だからアレックスの味方なんだけど、と断ってから話を続けた。
「アレックスの育った孤児院はあんまりいいところじゃなくて、だからアイツはいつも周りとの間に壁を作ってた。愛情というものが分からないって」
「ミダの孤児院のことは聞いています」
「だから、ユウくんを恋人と紹介されたときは驚いたし、嬉しかった。ユウくんは、アイツがそういう孤児院出身だってこと、気にしたことある?」
「ないです」
「それと一緒じゃない? ユウくんがどこの出身でも、アイツは気にしてない。それだけのことじゃない?」
人によっては孤児院出身や、元奴隷ってことを気にする人もいる。でも気にしない人もいる。孤児院と異なる世界では、次元がまったく違う気もするけど、何をどれくらい気にするか尺度は人によって千差万別だ。
そんな属性の一つで、アルは気にしてないんだから、僕も気にしなくていいんじゃないかと言われて、そんなことはないと思う一方で、そうかもしれないとも思う。
「アイツはさ、なんでも器用にこなすけど、人間関係はとんでもなく不器用なんだよ。戦闘奴隷になったのだって、治療費を貸してくれって言えば助けてくれるパーティーがたくさんいたんだ。なのに相談もせずに戦闘奴隷になって、さっさと売られていくし」
「カリラスさんが買い戻すために手を尽くしてくれたって、タゴヤのギルドマスターにも聞きました」
「そうなんだよ。そのときに先に言えば助けたのにって何度言われたことか。薬箱ダンジョンに行く前も、『ユウに拒絶されて、どうしたらいいのか分からない』って途方に暮れていたのに、あっさりダンジョンに行くし。そこは、プレゼントとかで機嫌を直してもらうところだろう。ユウくんもそう思わない?」
「えっと……」
「そもそもユウくん、アレックスにプレゼントもらったことある?」
「身代わりのブレスレットをもらいました」
「他には? それだけ?」
そういうところが気が利かないんだと、カリラスさんがアルの至らないところのダメ出しを始めた。
僕が宝石のついた指輪とペンダントを送っているのに、ブレスレット一つでは釣り合わないらしい。でも僕のペンダントは買ったものだから、お互いドロップ品の指輪とブレスレットで釣り合っている気がする。そう反論してみたけれど、ユウくんも文句を言わなきゃ、となぜか僕までダメ出しされてしまった。ブランもそれを聞いてため息をついてるんだけど、それはどっちに対してのため息なんだろう。カリラスさんの脱線気味な話になのか、アルと僕のダメさ加減になのか。
「ユウくんは、アレックスにプレゼントのおねだりをすること」
「はあ」
「で、そのプレゼントが気に入ったら、許してあげてよ。その代わり、気に入らなかったから、またおねだりするんだよ」
「はあ」
アルのせいで嫌な思いをさせられたんだから、プレゼントをもらって、それで許せばいいと。今ってそういう話をしてたっけ?
でも、それくらい軽い感じでいいのだと思わせてくれる何かがカリラスさんにはある。
世界が違う。僕たちの間にあるそれは、僕では太刀打ちのできないとてつもなく大きな問題だと思っていたけど、カリラスさんにかかるとアルが不器用なのがいけないってことになってしまった。ちょっとしたすれ違いなんだから、文句を言ってプレゼントでもおねだりして、それで仲直りすればいい。深刻に考えなくても、それくらいの問題なのだと。
こういうカリラスさんの明るさと面倒見の良さに、アルはずっと助けられてきたんだろうな。カリラスさんがアルの友達でよかった。
「アルは僕のことを誰にも相談できないでいたから、アルの相談に乗ってあげてください」
「知ってるの、俺だけ?」
「アルとブランと、リネだけです。僕にはブランがいてくれるけど、アルには誰もいないから」
「あー、あの神獣様に相談しても、アドバイスくれなさそうだもんな」
これ不敬かな、と言いながらカリラスさんはブランを見て、ブランの我関せずな態度に安心していた。不敬かもしれないけど、僕もブランもその意見には同意するよ。相談に乗ってくれないどころか、リネは無邪気に傷をえぐりそうな気もする。
「そう、ですね。僕は……」
さすがにこの話は教会の人たちには聞かれたくなくて、部屋から出てもらった。病み上がりの僕を心配しながらも、ブランがいるからすんなりと部屋を出てくれたけれど、その状況にカリラスさんが緊張している。
「僕はこの世界の人間じゃないんです」
きっと、こんなことを言うなんて、頭のおかしい人だと思われるだろうな。自分で言っていて、信じられる要素などどこにもない気がする。アルはあのときカージの宿で、よく信じてくれたなとあらためて感じる。
ポカンとしているカリラスさんに、こことはまったく異なる世界で生きていたこと、ある日気づくとこの世界にいたこと、それからカイドでだまされて逃げた先でブランに会ったことを説明する。
「ブランが、神獣であるブランが僕と契約してくれたのは、僕がこの世界の人間ではなくて珍しかったからなんです」
「えーっと、神獣様にはそういうのが分かるってこと?」
『魂が異なるからな』
しばらく言葉をかみ砕くように何かを考えていたカリラスさんは、よく分からないけど、と前置きして僕に問いかけた。
「それって、アレックスは知ってる?」
「会った日に言いました。戦闘奴隷を買ったのは、この世界の常識を教えてもらうためもあったので。でもアルは、ブランが神獣だってことのほうに驚いていました」
「それは、まあ、神獣様だし」
きっと、ブランが言っているから僕の荒唐無稽な話も信じてくれるのだろう。
「僕は、僕には、神様っていうのがよく分からなくて。だから、今のアルの神獣の契約者という立場もよく分からないんです」
「ユウくんも、神獣の契約者だよね?」
「そうなんですけど、僕にとってブランは、魔法が使えて人の言葉をしゃべる、食いしん坊なもふもふなので」
僕のブラン評にカリラスさんが絶句しているけど、結局のところ僕とこの世界とのすれ違いは、本を正せば全てそこに行きつく。僕だけが、この世界の神という存在が理解できないでいる。すぐそばにいるのにもかかわらず。
僕は、この世界では異物だ。最近はあまり感じることもなくなっていたけど、でもこの数日立て続けに突き付けられた。
「僕はこの世界で子ども時代を過ごしていないので、流行り病にかかってしまいました。それに、孤児院でお姫様に、神獣の契約者の血を残すべきだって言われて、でもそれがどれくらいの意味を持つのか、僕には分からなくて」
「あー、ここのところアレックスと微妙な雰囲気なのは、そのせい?」
「はい。アルには、この世界の人のほうがいいのかなって思ってしまって」
しばらく考えていたカリラスさんは、俺はアレックスの友達で、だからアレックスの味方なんだけど、と断ってから話を続けた。
「アレックスの育った孤児院はあんまりいいところじゃなくて、だからアイツはいつも周りとの間に壁を作ってた。愛情というものが分からないって」
「ミダの孤児院のことは聞いています」
「だから、ユウくんを恋人と紹介されたときは驚いたし、嬉しかった。ユウくんは、アイツがそういう孤児院出身だってこと、気にしたことある?」
「ないです」
「それと一緒じゃない? ユウくんがどこの出身でも、アイツは気にしてない。それだけのことじゃない?」
人によっては孤児院出身や、元奴隷ってことを気にする人もいる。でも気にしない人もいる。孤児院と異なる世界では、次元がまったく違う気もするけど、何をどれくらい気にするか尺度は人によって千差万別だ。
そんな属性の一つで、アルは気にしてないんだから、僕も気にしなくていいんじゃないかと言われて、そんなことはないと思う一方で、そうかもしれないとも思う。
「アイツはさ、なんでも器用にこなすけど、人間関係はとんでもなく不器用なんだよ。戦闘奴隷になったのだって、治療費を貸してくれって言えば助けてくれるパーティーがたくさんいたんだ。なのに相談もせずに戦闘奴隷になって、さっさと売られていくし」
「カリラスさんが買い戻すために手を尽くしてくれたって、タゴヤのギルドマスターにも聞きました」
「そうなんだよ。そのときに先に言えば助けたのにって何度言われたことか。薬箱ダンジョンに行く前も、『ユウに拒絶されて、どうしたらいいのか分からない』って途方に暮れていたのに、あっさりダンジョンに行くし。そこは、プレゼントとかで機嫌を直してもらうところだろう。ユウくんもそう思わない?」
「えっと……」
「そもそもユウくん、アレックスにプレゼントもらったことある?」
「身代わりのブレスレットをもらいました」
「他には? それだけ?」
そういうところが気が利かないんだと、カリラスさんがアルの至らないところのダメ出しを始めた。
僕が宝石のついた指輪とペンダントを送っているのに、ブレスレット一つでは釣り合わないらしい。でも僕のペンダントは買ったものだから、お互いドロップ品の指輪とブレスレットで釣り合っている気がする。そう反論してみたけれど、ユウくんも文句を言わなきゃ、となぜか僕までダメ出しされてしまった。ブランもそれを聞いてため息をついてるんだけど、それはどっちに対してのため息なんだろう。カリラスさんの脱線気味な話になのか、アルと僕のダメさ加減になのか。
「ユウくんは、アレックスにプレゼントのおねだりをすること」
「はあ」
「で、そのプレゼントが気に入ったら、許してあげてよ。その代わり、気に入らなかったから、またおねだりするんだよ」
「はあ」
アルのせいで嫌な思いをさせられたんだから、プレゼントをもらって、それで許せばいいと。今ってそういう話をしてたっけ?
でも、それくらい軽い感じでいいのだと思わせてくれる何かがカリラスさんにはある。
世界が違う。僕たちの間にあるそれは、僕では太刀打ちのできないとてつもなく大きな問題だと思っていたけど、カリラスさんにかかるとアルが不器用なのがいけないってことになってしまった。ちょっとしたすれ違いなんだから、文句を言ってプレゼントでもおねだりして、それで仲直りすればいい。深刻に考えなくても、それくらいの問題なのだと。
こういうカリラスさんの明るさと面倒見の良さに、アルはずっと助けられてきたんだろうな。カリラスさんがアルの友達でよかった。
「アルは僕のことを誰にも相談できないでいたから、アルの相談に乗ってあげてください」
「知ってるの、俺だけ?」
「アルとブランと、リネだけです。僕にはブランがいてくれるけど、アルには誰もいないから」
「あー、あの神獣様に相談しても、アドバイスくれなさそうだもんな」
これ不敬かな、と言いながらカリラスさんはブランを見て、ブランの我関せずな態度に安心していた。不敬かもしれないけど、僕もブランもその意見には同意するよ。相談に乗ってくれないどころか、リネは無邪気に傷をえぐりそうな気もする。
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