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続 4章 この世界の一人として
14-9. 味の好み
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下層になると、セーフティーエリアも空いてくる。このあたりにいるのは、攻略を目指す冒険者か、貴族や商会からの依頼を受けた特定の果物を狙う冒険者だ。
今回のダンジョン内の食事は、ティガーの分も含めて、教会で用意してもらったものを全て僕のアイテムボックスから提供している。
「今日の夕食は、ドガイのチーズを使ったバーガーです」
「旨そう」
「そういえば、ドガイのオークションってどうだったんだ?」
「近隣の王族が集まっていた。目玉の宝石のオークションは盛り上がって、ドガイ国王が落札していた」
アルが見学したオークションの説明をしているけど、さすがに呪いの宝石については言わなかった。
そういえばあの後どうなったんだろうか。必ず解決するとドガイの王様は言っていたけど、僕は今まですっかり忘れていたくらいだから、解決していても僕まで情報が来ていないのかもしれない。僕よりも大司教様たちのほうが怒っていたから、きっといいようにしてくれたんだろう。
ブロキオンの剣に関するオークションの話が盛り上がっている人間は無視して、ブランとリネはチーズバーガーに夢中だ。人間の味付けは苦手だというティグ君には味付けしていないお肉を用意したけど、目の前のお肉ではなく、ブランとリネが食べているチーズバーガーを見ている。神獣が美味しそうに食べているものに、興味をひかれたのかな。
「ティグ君、ティグ君もチーズバーガー、食べてみる?」
「……ギャウ」
「はい、どうぞ。口に合わなかったら、残りはブランが食べるから、遠慮せずに食べてみて」
テイマーさんの許可をもらってから、小さくちぎったバーガーをティグ君のお皿に置くと、しばらくクンクンした後、一口でぱくっと食べた。もぐもぐしているけど、あまり楽しんでいるようには見えない。気に入らなかったのかな。
「ティグ、どうだ?」
「……グルゥ」
『(味がキツイと言っている)』
「そっかあ。味のついていないお肉もたくさんあるから、食べてね」
それでもブランがバクバクと食べているチーズバーガーを羨ましそうに見ているから、きっとティグ君は神獣と一緒のものを食べたかったんだね。塩分の取りすぎはよくないから、ティグ君に合うものをしっかり食べてね。
夕食が終わってテントの中、ブランの許可をもらおうとお願いしているんだけど、なかなか首を縦に振ってくれない。
「ブラン、ティグ君のブラッシングしてもいい?」
『……』
「明日の夜はブランの食べたいもの出すから」
『……』
「今だけお願い」
『明日の昼は、チーズフォンデュだぞ』
「ブラン、ありがとう!」
『夜は肉だ』
「もちろん」
渋々だけど許可を出してくれた。ありがとう。ブランの許可は出たので、次はテイマーさんに許可をもらおう。
テントを出ると、テイマーさんは剣の手入れをしながら、アルや他の冒険者たちと話していた。ティグ君はテイマーさんのそばで寝転がっていたのに、ブランが近づいてきたことに気づいて起き上がっておすわりしている。
「ユウ、どうした?」
「あの、ティグ君のブラッシングをしてもいいですか?」
「えーっと、俺はいいけど、その」
「ブランの許可は取りました!」
僕の返答に、みんなが苦笑している。僕がティグ君をかまうとブランの機嫌が悪くなることには、気づいているのだ。そういうところを見せたくなくてテントに入ったけれど、バレバレだったらしい。
テイマーさんの許可ももらえたので、ブラッシングをしよう。予備として持っていた新品のブラシを出して、ティグ君に近づくと、ティグ君が緊張している。
「ブラン、そんなにじっと見たら、ティグ君がリラックスできないでしょ」
『(ふん)』
ブランは僕のそばで、ティグ君と僕に背を向けて伏せた。ささやかな抵抗を見せているのが、ちょっと可愛い。
ブランの背中にもたれかかるように座って、ティグ君にブラシを見せると、クンクンと匂いを嗅いでから、地面に伏せてくれた。背中にブラン、目の前にティグ君で、僕にとってはパラダイスだ。
ティグ君の背中をそっと撫でると、毛が短くてつるつるだ。優しくブラシを当てて動かすと、ブラシの通った後の毛が筋になっている。そんな少しの違いも新鮮だ。
「ティグ君、気持ちいいかな?」
「ギャウ」
「痛かったら言ってね」
「ギャウ」
ブランの手前、言いにくいかもしれないけど、ティグ君の嫌なことはしたくない。慎重に、敏感な部分には当たらないように、背中を丁寧にブラッシングしていく。
「ティグ、気持ちよさそうだな。今度俺もやってやるからな」
「よかったら、このブラシ使ってください」
「いや、それ新品だろ?」
「ティグ君専用ですから」
このブラシをブランに使ったら怒りそうだから、持っていないなら使ってほしい。テイマーさんはブランを見て納得したのか、じゃあいくらで買ったか教えてくれ、と苦笑いしながら受け入れてくれた。ティグ君が喜んでくれるなら、僕もうれしい。
僕が背中をブラッシングするのと同時に、テイマーさんが首周りをわしゃわしゃすると、ティグ君はもっとやってくれというようにテイマーさんに頭を預けている。平和で至福の時間だ。ブランの尻尾がときどき僕の足に当たっているのは、気づかないふりだ。
そこに、リネがお散歩から帰ってきた。美味しい果物が見つからなかったから、お散歩にも飽きたそうだ。
『お、ティグリスいいじゃん。ユウ、オレもやって!』
『(お前はアルにやってもらえ!)』
「ブラン、怒らないでよ」
「リネ、ブラッシングするから来い」
『ちぇっ。アルで我慢するよ』
ブランは僕がリネに触るのを極端に嫌がる。ネコ科を嫌がるのなんて比じゃないくらいリネに対して厳しいのは、同じ神獣だからなのだろう。だけど、アルでも僕でも大して変わらないと思うんだけど、なんでリネは僕がいいんだろう。やっぱりブランに対抗する気持ちがあるのかな。
僕は、ブランが怒ったことで震えあがってしまったティグ君のブラッシングをテイマーさんに任せて、ブランをなだめるためにブラッシングをしている。ブランの怒りに、テントの中にいた冒険者たちが、何かあったのかと出てきているから、こんなところで喧嘩を始めないでほしい。
アルがマジックバッグから出したやわらかいブラシでリネの頭をなでると、リネは少し大きくなってから、羽を広げて地面に寝そべった。以前、小さいとやりにくいとアルが言ったので、ブラッシングのときはこうして少し大きくなるそうだ。
ひとまず神獣同士の喧嘩は避けられたから、ダンジョンが吹き飛ぶ危機は去ったようだ。
ダンジョンのセーフティーエリアで、それぞれの契約獣のご機嫌を取るという不思議な時間は、リネがブラッシングに飽きるまで続いた。
今回のダンジョン内の食事は、ティガーの分も含めて、教会で用意してもらったものを全て僕のアイテムボックスから提供している。
「今日の夕食は、ドガイのチーズを使ったバーガーです」
「旨そう」
「そういえば、ドガイのオークションってどうだったんだ?」
「近隣の王族が集まっていた。目玉の宝石のオークションは盛り上がって、ドガイ国王が落札していた」
アルが見学したオークションの説明をしているけど、さすがに呪いの宝石については言わなかった。
そういえばあの後どうなったんだろうか。必ず解決するとドガイの王様は言っていたけど、僕は今まですっかり忘れていたくらいだから、解決していても僕まで情報が来ていないのかもしれない。僕よりも大司教様たちのほうが怒っていたから、きっといいようにしてくれたんだろう。
ブロキオンの剣に関するオークションの話が盛り上がっている人間は無視して、ブランとリネはチーズバーガーに夢中だ。人間の味付けは苦手だというティグ君には味付けしていないお肉を用意したけど、目の前のお肉ではなく、ブランとリネが食べているチーズバーガーを見ている。神獣が美味しそうに食べているものに、興味をひかれたのかな。
「ティグ君、ティグ君もチーズバーガー、食べてみる?」
「……ギャウ」
「はい、どうぞ。口に合わなかったら、残りはブランが食べるから、遠慮せずに食べてみて」
テイマーさんの許可をもらってから、小さくちぎったバーガーをティグ君のお皿に置くと、しばらくクンクンした後、一口でぱくっと食べた。もぐもぐしているけど、あまり楽しんでいるようには見えない。気に入らなかったのかな。
「ティグ、どうだ?」
「……グルゥ」
『(味がキツイと言っている)』
「そっかあ。味のついていないお肉もたくさんあるから、食べてね」
それでもブランがバクバクと食べているチーズバーガーを羨ましそうに見ているから、きっとティグ君は神獣と一緒のものを食べたかったんだね。塩分の取りすぎはよくないから、ティグ君に合うものをしっかり食べてね。
夕食が終わってテントの中、ブランの許可をもらおうとお願いしているんだけど、なかなか首を縦に振ってくれない。
「ブラン、ティグ君のブラッシングしてもいい?」
『……』
「明日の夜はブランの食べたいもの出すから」
『……』
「今だけお願い」
『明日の昼は、チーズフォンデュだぞ』
「ブラン、ありがとう!」
『夜は肉だ』
「もちろん」
渋々だけど許可を出してくれた。ありがとう。ブランの許可は出たので、次はテイマーさんに許可をもらおう。
テントを出ると、テイマーさんは剣の手入れをしながら、アルや他の冒険者たちと話していた。ティグ君はテイマーさんのそばで寝転がっていたのに、ブランが近づいてきたことに気づいて起き上がっておすわりしている。
「ユウ、どうした?」
「あの、ティグ君のブラッシングをしてもいいですか?」
「えーっと、俺はいいけど、その」
「ブランの許可は取りました!」
僕の返答に、みんなが苦笑している。僕がティグ君をかまうとブランの機嫌が悪くなることには、気づいているのだ。そういうところを見せたくなくてテントに入ったけれど、バレバレだったらしい。
テイマーさんの許可ももらえたので、ブラッシングをしよう。予備として持っていた新品のブラシを出して、ティグ君に近づくと、ティグ君が緊張している。
「ブラン、そんなにじっと見たら、ティグ君がリラックスできないでしょ」
『(ふん)』
ブランは僕のそばで、ティグ君と僕に背を向けて伏せた。ささやかな抵抗を見せているのが、ちょっと可愛い。
ブランの背中にもたれかかるように座って、ティグ君にブラシを見せると、クンクンと匂いを嗅いでから、地面に伏せてくれた。背中にブラン、目の前にティグ君で、僕にとってはパラダイスだ。
ティグ君の背中をそっと撫でると、毛が短くてつるつるだ。優しくブラシを当てて動かすと、ブラシの通った後の毛が筋になっている。そんな少しの違いも新鮮だ。
「ティグ君、気持ちいいかな?」
「ギャウ」
「痛かったら言ってね」
「ギャウ」
ブランの手前、言いにくいかもしれないけど、ティグ君の嫌なことはしたくない。慎重に、敏感な部分には当たらないように、背中を丁寧にブラッシングしていく。
「ティグ、気持ちよさそうだな。今度俺もやってやるからな」
「よかったら、このブラシ使ってください」
「いや、それ新品だろ?」
「ティグ君専用ですから」
このブラシをブランに使ったら怒りそうだから、持っていないなら使ってほしい。テイマーさんはブランを見て納得したのか、じゃあいくらで買ったか教えてくれ、と苦笑いしながら受け入れてくれた。ティグ君が喜んでくれるなら、僕もうれしい。
僕が背中をブラッシングするのと同時に、テイマーさんが首周りをわしゃわしゃすると、ティグ君はもっとやってくれというようにテイマーさんに頭を預けている。平和で至福の時間だ。ブランの尻尾がときどき僕の足に当たっているのは、気づかないふりだ。
そこに、リネがお散歩から帰ってきた。美味しい果物が見つからなかったから、お散歩にも飽きたそうだ。
『お、ティグリスいいじゃん。ユウ、オレもやって!』
『(お前はアルにやってもらえ!)』
「ブラン、怒らないでよ」
「リネ、ブラッシングするから来い」
『ちぇっ。アルで我慢するよ』
ブランは僕がリネに触るのを極端に嫌がる。ネコ科を嫌がるのなんて比じゃないくらいリネに対して厳しいのは、同じ神獣だからなのだろう。だけど、アルでも僕でも大して変わらないと思うんだけど、なんでリネは僕がいいんだろう。やっぱりブランに対抗する気持ちがあるのかな。
僕は、ブランが怒ったことで震えあがってしまったティグ君のブラッシングをテイマーさんに任せて、ブランをなだめるためにブラッシングをしている。ブランの怒りに、テントの中にいた冒険者たちが、何かあったのかと出てきているから、こんなところで喧嘩を始めないでほしい。
アルがマジックバッグから出したやわらかいブラシでリネの頭をなでると、リネは少し大きくなってから、羽を広げて地面に寝そべった。以前、小さいとやりにくいとアルが言ったので、ブラッシングのときはこうして少し大きくなるそうだ。
ひとまず神獣同士の喧嘩は避けられたから、ダンジョンが吹き飛ぶ危機は去ったようだ。
ダンジョンのセーフティーエリアで、それぞれの契約獣のご機嫌を取るという不思議な時間は、リネがブラッシングに飽きるまで続いた。
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