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続 4章 この世界の一人として
14-17. 兄弟漫才
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合意内容の確認自体は、すぐに済んだ。今までどおり、僕たちが手に入れたマジックバッグの一割を国に売ることで変わりない。
ギルドマスターによると、最近では冒険者たちも少しずつ国に売るようになっているそうだ。ただ、貴族へは変わらず販売制限がかけられているので、お抱えの冒険者にカークトゥルスを攻略させる方法でしか手に入れられない。ギルドはマジックバッグに関する依頼は一切受け付けないので、ギルドを通した依頼はできない。その結果、貴族の冒険者の抱え込みが活発になっているらしい。
貴族お抱えの冒険者になれば、装備や活動資金の提供もあるので、冒険者にもメリットがあり、貴族側には自分の領であふれが起きたときに対応してもらえるというメリットもある。そういう利害関係が一致して手を組むのだが、冒険者は自由でいたいから冒険者になった人が多いので、貴族に雇われることを良しとする人は少ないらしい。
「多分気になっていると思うドガイの呪いの宝石だけど、実行犯のドガイの貴族はすでに死んでいて、裏で糸を引いているのはミンギじゃないかと思われている。ソントの線も消せないけど。ただ、証拠がないんだ」
「そうか」
「モクリーク王国の対応として、疑惑が晴れるまではミンギとソントへの輸出は止めている。マジックバッグを回せとうるさくてね。当分これで黙らせられるよ。ソントは、今それどころではないだろうし」
うーん、証拠が見つからないということは、その疑惑も永遠に晴れないと思うけど、どうするんだろう。
でも、ソントに何があったんだろうか、と首をひねっていたら、王子様がしまったというような顔をした。これは僕に知らされていない何かがあったな。
「アル、ソントで何があったの? 王女様に何かしたの?」
「俺じゃない」
ということは、ブランか。と思ったけど、正解はリネだった。
「ユウさん、グァリネ様がウルドの宿に行った際に、ソントの王宮に神罰を下されたそうです。ソントの中央教会より報告がありました」
「それは、どういう理由で?」
「ユウさん、大いなる意思を人が推し量ろうとすること自体が不遜なのですよ」
言い回しが難しいけど、つまり、理由は気にするなってことかな? だとしたら、ブランがお願いしたんだろうなあ。で、そう言えない大司教様が持って回った言い方をしていると。ソントに何があったのか気になるけど、王子様たちの前でこの話題はあまり突っ込まないほうがよさそうだ。
それから、オークション後の他の国からの反応などをいくつか教えてもらって、王子様の話は終わった。
「こちらからは以上だけど、氷花から国に要望は何かあるかな?」
「特にないな。ユウと俺のやりたいことを邪魔されなければ、それでいい」
「テイマー殿は最近、付与に力を入れているそうだね」
「はい」
返事をしたのに、会話が止まってしまった。どうやら続けて僕が話すのを期待されていたようで、少しの間があってから王子様が話をつないでくれたけど、王子様二人を前に世間話なんてできない。きっと僕に話を振らないわけにもいかなかったんだろうけど、これでお互い十分にノルマを果たしたことにしてほしい。
「アレックス、今年のカークトゥルスは神獣様もご一緒されるのか?」
「ああ。獣道も一緒だ」
「そうか。サネバの軍に、不届き者がいないか監視を強めるように言っておこう」
今年は初めてリネがカークトゥルス合宿に参加する。カークトゥルス目当てに移動してきた冒険者たちも、モクリーク滞在三年の条件をクリアして人が増えているらしいし、トラブルが起きるかもしれない。その場合はリネが力業で解決するだろうから、お互いのためにもできることなら未然に防いでほしい。
王子様のお兄さんは、戦う者同士の王子様とアルの話をにこにこして聞いていた。
アルが神獣の契約者となったとき、王様から歳が近い王子様たちがアルの相手をするようにと言われたそうだ。王様じゃなく王子様じゃ格が劣ると怒る人もいるらしいけど、僕たちはそういうのは求めていない。むしろ王様と会うのは気を遣うから避けたい。王様がそういうつもりで王子様たちに任せたのかどうかは分からないけど、王子様でよかったと思う。かといって、気軽に世間話はできないけど。
「私もカークトゥルスに行ってみたいなあ」
「兄上、貴方に何かあると国が混乱します。今はあふれが多発しているのですから、ダンジョンには近寄らないでください。それに、あそこは冒険者と軍以外は立ち入り禁止ですよ」
「私は一応、軍の次期最高責任者だよ」
「今は違いますよね。将軍として許可できません」
「王太子権限で将軍を罷免しようか?」
兄弟漫才が始まったけど、ここは権力者ジョークに笑う場面なんだろうか。小心者の僕には、愛想笑いしかできない。
ドガイのオークションから戻ってきて、教会の一員として仕事をすると決めて、実際に始めて、僕の足元も少し固まった気がする。
冒険者としての活動は縮小気味だけど、この後はリネが初めて参加するカークトゥルス合宿があり、その後にはとっても行きたくないブロキオン攻略も控えている。
自分にできること一つずつ、頑張っていこう。
ギルドマスターによると、最近では冒険者たちも少しずつ国に売るようになっているそうだ。ただ、貴族へは変わらず販売制限がかけられているので、お抱えの冒険者にカークトゥルスを攻略させる方法でしか手に入れられない。ギルドはマジックバッグに関する依頼は一切受け付けないので、ギルドを通した依頼はできない。その結果、貴族の冒険者の抱え込みが活発になっているらしい。
貴族お抱えの冒険者になれば、装備や活動資金の提供もあるので、冒険者にもメリットがあり、貴族側には自分の領であふれが起きたときに対応してもらえるというメリットもある。そういう利害関係が一致して手を組むのだが、冒険者は自由でいたいから冒険者になった人が多いので、貴族に雇われることを良しとする人は少ないらしい。
「多分気になっていると思うドガイの呪いの宝石だけど、実行犯のドガイの貴族はすでに死んでいて、裏で糸を引いているのはミンギじゃないかと思われている。ソントの線も消せないけど。ただ、証拠がないんだ」
「そうか」
「モクリーク王国の対応として、疑惑が晴れるまではミンギとソントへの輸出は止めている。マジックバッグを回せとうるさくてね。当分これで黙らせられるよ。ソントは、今それどころではないだろうし」
うーん、証拠が見つからないということは、その疑惑も永遠に晴れないと思うけど、どうするんだろう。
でも、ソントに何があったんだろうか、と首をひねっていたら、王子様がしまったというような顔をした。これは僕に知らされていない何かがあったな。
「アル、ソントで何があったの? 王女様に何かしたの?」
「俺じゃない」
ということは、ブランか。と思ったけど、正解はリネだった。
「ユウさん、グァリネ様がウルドの宿に行った際に、ソントの王宮に神罰を下されたそうです。ソントの中央教会より報告がありました」
「それは、どういう理由で?」
「ユウさん、大いなる意思を人が推し量ろうとすること自体が不遜なのですよ」
言い回しが難しいけど、つまり、理由は気にするなってことかな? だとしたら、ブランがお願いしたんだろうなあ。で、そう言えない大司教様が持って回った言い方をしていると。ソントに何があったのか気になるけど、王子様たちの前でこの話題はあまり突っ込まないほうがよさそうだ。
それから、オークション後の他の国からの反応などをいくつか教えてもらって、王子様の話は終わった。
「こちらからは以上だけど、氷花から国に要望は何かあるかな?」
「特にないな。ユウと俺のやりたいことを邪魔されなければ、それでいい」
「テイマー殿は最近、付与に力を入れているそうだね」
「はい」
返事をしたのに、会話が止まってしまった。どうやら続けて僕が話すのを期待されていたようで、少しの間があってから王子様が話をつないでくれたけど、王子様二人を前に世間話なんてできない。きっと僕に話を振らないわけにもいかなかったんだろうけど、これでお互い十分にノルマを果たしたことにしてほしい。
「アレックス、今年のカークトゥルスは神獣様もご一緒されるのか?」
「ああ。獣道も一緒だ」
「そうか。サネバの軍に、不届き者がいないか監視を強めるように言っておこう」
今年は初めてリネがカークトゥルス合宿に参加する。カークトゥルス目当てに移動してきた冒険者たちも、モクリーク滞在三年の条件をクリアして人が増えているらしいし、トラブルが起きるかもしれない。その場合はリネが力業で解決するだろうから、お互いのためにもできることなら未然に防いでほしい。
王子様のお兄さんは、戦う者同士の王子様とアルの話をにこにこして聞いていた。
アルが神獣の契約者となったとき、王様から歳が近い王子様たちがアルの相手をするようにと言われたそうだ。王様じゃなく王子様じゃ格が劣ると怒る人もいるらしいけど、僕たちはそういうのは求めていない。むしろ王様と会うのは気を遣うから避けたい。王様がそういうつもりで王子様たちに任せたのかどうかは分からないけど、王子様でよかったと思う。かといって、気軽に世間話はできないけど。
「私もカークトゥルスに行ってみたいなあ」
「兄上、貴方に何かあると国が混乱します。今はあふれが多発しているのですから、ダンジョンには近寄らないでください。それに、あそこは冒険者と軍以外は立ち入り禁止ですよ」
「私は一応、軍の次期最高責任者だよ」
「今は違いますよね。将軍として許可できません」
「王太子権限で将軍を罷免しようか?」
兄弟漫才が始まったけど、ここは権力者ジョークに笑う場面なんだろうか。小心者の僕には、愛想笑いしかできない。
ドガイのオークションから戻ってきて、教会の一員として仕事をすると決めて、実際に始めて、僕の足元も少し固まった気がする。
冒険者としての活動は縮小気味だけど、この後はリネが初めて参加するカークトゥルス合宿があり、その後にはとっても行きたくないブロキオン攻略も控えている。
自分にできること一つずつ、頑張っていこう。
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どうも、ソントとミンギはきな臭いままのようですね。
ユウくん達は関わってきて欲しくないので、内輪揉め程度にわちゃわちゃしていて欲しいものです。
それにしても、王子達の兄弟漫才は壁として見ているぶんには楽しいですし笑えもしますが、若干、無関係とも言えないユウくんからしてみたら、笑えないですよね😅
一応は、まだモクリークとは良好な関係でいたいですし(お互いに)
けれど、そこでも問題はやはり貴族なわけで。
貴族だと威張りふんぞり返らないで、むしろ下のために奮闘するくらいの気概を見せてほしいものですが、やっぱりモクリークの王族みたいな気持ちでいてくれるのは、極少数のようですね💧
つくづく教会があって良かったです💦
ユウくん、少しずつ今の自分が出来ることを探していますね。
確かにあふれで、ただでさえ怖い中、真っ暗だと恐怖心は倍増しそうですから、明かりがあると心強いかも。
取り残されても、比較的落ち着いて励まし合い助けを待てますね。
そしてクリーン。効果があるといいな。
ユウくんが自信を持って、この世界の一員になれるように、引き続き見守って行きたいと思います😊
四葩様
逃げ場もなく、ただ助けが来るか終わるのを待つしかないという状況に、ライトの魔石はわずかでも希望を持ち続ける灯りとなるかもしれません。
ユウは少しずつ、自分自身でできることをして、この世界で地に足をつけて生きていこうとしています。これからもユウの応援お願いします!
私欲で動く王族や貴族より、市民の方が氷花のありがたみを知っているんですね。それは守ってくれる人がいないから、助け合わないといけないからかもしれません。
けれど、お礼は嬉しいけれど、お金は払わせてください😅💦
あふれで一緒になった冒険者さん達も元気そうで良かったです。プチ同窓会のようで懐かしい気持ちになりました。
他の冒険者が鍛練を考えたのにユウくんは食料保存に思考がいったのは、やっぱり適材適所なんですね。
でも、そのおかげで、あふれの時に皆を鼓舞できたので、ユウくんも貴重な戦力だと思います。後方支援が主ですが。後方支援がいなければ、前線も持ちこたえられませんものね。ユウくんは自信を持っていいと思います。
空……空かぁ。飛ぶ魔物に対しては対策ないですものね。今のところはリネさんしか💧(;^_^A
でもリネさんは気ままなので、気分次第……。さすが神様ですよね、そういうところ(笑)
四葩様
あふれを生き延びた冒険者たちが、無事に帰ってきたのは氷花のおかげだと広めたので、ユラカヒでの氷花の評判はとても高いです。あふれ以降初の訪問なので、あちこちで「あのときはありがとう」とお礼を受けることになりました。でも、商品の代金はちゃんと払いたいですよね。
プチ同窓会、一緒にダンジョン攻略はできませんでしたが、久しぶりに会えて話に花が咲きました。
ユウが前線に出ても、周りが心配で戦闘どころじゃなくなりそうなので、後方支援で頑張ってもらいましょう。タペラでも、心配性であれこれ溜め込んだものが役立ちましたからね。
空からのモンスターの侵入には、ドーム状に街を覆うわけにもいかないので、今のところ人間には対策がありません。
リネさんは、どうでしょうねえ。喜び勇んでモンスターを打ち落として、結局街に被害が出る気も……。神様は細かいことは気にしないので!