世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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続 5章 カークトゥルス合宿

15-1. ユラカヒ組の最下層攻略

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 僕が十五歳でこの剣と魔法の世界に迷い込んでから、十年以上が過ぎた。辛いことも大変なこともあったし、帰りたい気持ちはいまでもあるけれど、神獣であるブランに守られ、恋人のアルに心を支えられ、僕はこの世界で生きている。

 別行動でダンジョンに潜るアルを心配する僕のためにブランが、鳥の神獣であるリネを連れてきてくれてから、初めての冬。恒例のカークトゥルス合宿の季節だ。恒例だけど、今回はリネが初めて参加する。
 僕はティガーのみんなとの合同攻略以来のダンジョンだ。

 リネと一緒に攻略するようになって、何よりの利点は、王都からサネバまで一日で移動できることだ。
 ブランもやろうと思えばできたけれど、シルバーウルフに擬態しているため、翌日にいきなりサネバに現れるなんてことはできなかった。どういう移動手段を取ったのか、怪しまれてしまうからだ。けれどリネに乗ってならば、いきなり現れても不思議ではない。獣道には先に移動しておいてもらって、僕たちだけ、攻略開始予定の二日前にサネバへと移動した。

「ユウ、疲れていないか?」
「平気だよ。リネの飛行にも慣れたから」
「そうか。あさって出発でいいか?」
「うん」

 それまでは、いつものお風呂付きの宿に泊まって、のんびりする。二泊すれば、移動の疲れも抜けるだろう。
 アルは、僕を部屋に置いて、リネと一緒にギルドへと向かった。ギルドに頼まれた荷物を渡すのと、獣道からの伝言を確認するためだ。獣道はこの宿に泊まっているかと思ったけれど、いなかったのだ。去年より街が混んでいる気がするので、空いていなかったのかもしれない。

「人が増えているね」
『ダンジョン内も、いつもより多いな』
「そっかあ。去年みたいなトラブルがないといいんだけど」

 去年は、獣人をよく思っていないミンギの冒険者にからまれた。あれは、いまでも腹が立つので、思い出すのはやめよう。
 ソファでブランのブラッシングをしながら待っていると、アルが戻ってきた。

「早かったね。ギルドは混んでなかった?」
「人が多くなっても、今は混む時間じゃないからな。獣道は魔石拾いに行っていて、今日帰ってくるらしい」

 獣道は、宿が取れなかったので、僕たちが到着する予定の今日と明日は、この宿の予約をして、ダンジョンに行ったそうだ。

「ブランが、ダンジョンの中はいつもより混んでるって」
「ああ。ギルドにも注意するように言われた」
「リネは?」
「カークトゥルス以外のダンジョンを見に行った。明日の夜には帰ってくる」

 アルがリネを連れてギルドに行ったのは、顔見せのためだ。僕たちは下層二つ目のフロアボスで一か月の合宿を予定しているけれど、そのあいだずっとリネが付き合ってくれるとは思えない。今回はブランも一緒だから、合宿のあいだはリネは自由に行きたいことろへ行くことになっている。トラブル防止のため、そのことをギルドに伝えて、姿も見せておいたのだ。

「クルーロたちは、無事に最下層を攻略したそうだ」
「よかったー!」

 昨年、この春に最下層を攻略する予定していたけれど、秋に延びたと聞いていた。獣道からいろいろとアドバイスを受けたクルーロさんとミランさんのSランクパーティーは、安全のために助っ人をお願いすることにして、攻略を遅らせた。助っ人に入ったのは、あのあふれで一緒に戦ったAランクパーティーで、彼らがSランクに昇格するのを待っていた。

「三グループ合同って珍しいね」
「あふれの経験があるから、上手くいったのだろうと、ギルドも言っていた。最下層のマジックバッグは、ユラカヒの教会に寄付するそうだ」

 グループが増えるほど、ドロップ品の分配で揉める。ましてやカークトゥルスの最下層のドロップ品はマジックバッグ一つで、だれもが欲しいものだ。だから、揉めないように、最初から寄付すると決めていたらしい。
 クルーロさんたちは、次にあふれが起きたときのために、ユラカヒや周辺のギルドにマジックバッグを提供したくて、占有権が欲しいと言っていた。それは、あふれのときに僕が貸したマジックバッグがなければ、生きて帰ることはできなかったと感じたからだ。マジックバッグがあったとしても、帰れたかどうかは分からない。けれど、なければそもそも中層にいたクルーロさんたちが上層のミランさんのところまでたどり着くことはできなかった。

「このあいだユラカヒで一緒にダンジョン攻略をしたときに聞いたが、あの経験で人生観が変わったそうだ」
「それくらい強烈な体験ではあったよね……」
「ああ。自分たちは生かされたのだから、恩返しをしていこうと思ったらしい」

 魔石祭りが始まった年に、予定を変更して参加していたけれど、それも恩返しだったのだろう。あふれに巻き込まれたあの経験を、運が悪かったと嘆くでもなく恨むでもなく、感謝に変えるなんて尊敬する。
 自分たちのパーティーのために欲しいという思いも、マジックバッグを売って儲けたいという思いも、もちろんあるだろう。けれどそれ以上に、自分たちが助けられたように、だれかを助けたいという思いがあるのだ。

「すごいね」
「ユウを見習いたいと言っていたぞ」
「え、僕?」
「あのとき、マジックバッグよりも、人の命のほうが大切だと言っただろう。あんなに高価なものを持ち逃げされて、それでも命のほうが大切だと言い切ったユウに、目を覚まされたそうだ」

 違う。命は何よりも尊いものだと言われて育った僕の価値観を、変えられないだけだ。命の順位を下げてしまえば、自分自身がいずれ良心の呵責に苛まれると分かっていただけだ。それがこの世界の標準ではないことは分かっていても、変えられないのだ。

「ユウの優しさが広がっている。ユウはそのことをもっと誇っていい」
「そんなんじゃないよ」

 立派な志があったわけでもないので、誇ることはできない。
 だけど、この二百年周期を助け合って乗り切ろうと努力している人がいることを知れて、嬉しい。

「もうユラカヒに帰っちゃった?」
「いま下層二つ目を占有中だから、入れ違いになるだろう」
「そっかあ」

 会って直接お祝いを言いたかったけど、今回はあきらめよう。きっとまたどこかで会える。そのときに、たくさんお祝いを言おう。
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