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続 5章 カークトゥルス合宿
15-10. 合宿の目的
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リネは、別行動していたあいだの出来事をしゃべりながら、最近お気に入りのチーズクリームパイを食べると、「じゃあ、もう一周行ってくるね!」と宣言してセーフティーエリアを出ていった。
話にもほとんど反応せず、リネを力のない目で見送ったアルが、頭を抱えている。
「アル、大丈夫?」
「地上の混乱が見えるようだ」
「アレックス、帰ったらギルドと教会に報告してなんとかしてもらおう。俺たちが地上に帰るほうが、怪我したやつらが下層から上がっていくよりも早い、かもしれない」
普通なら下層一つ目のフロアボスから地上に戻るほうが早いけど、怪我が完全に治ったなら、そのままフロアボスに挑戦している可能性がある。そうなれば、僕たちが合宿を終えて最下層から地上に転移するほうが早い。
リネが騒動を起こすことに、契約者としてアルは責任を感じているのだろうけど、そもそも神獣に人間の都合を押しつけることが間違いだ。ちゃんと報告してくれるようになったのは、リネが僕たち人間社会に歩みやってくれている証拠なのだから、僕たち人間が合わせるべきなのだ。
「ここにはSランクが山ほどいるんだ。何かあっても上手く収めてくれるだろ」
「モクリークに三年以上いる奴らばかりだから、みんな心得ているはずだ」
「この国で、お前らとギルドを敵に回す度胸のある冒険者なんていないさ」
獣道が代わる代わるアルを慰めている横で、リネを連れてきたブランは無関心を貫いている。元はと言えば僕のためなので、アルにはなんだか申し訳ない。だからといって、僕に出来ることはない。きっと大丈夫、なんとかなる。そう信じることにしよう。
その日の夜ご飯は、美味しいものを食べて元気を出してほしいと思い、アルも好きなチーズフォンデュにした。ダンジョン内では他に楽しみがないので、これくらいしか出来ない。お肉をたくさん食べたブランのほうが喜んでいたような気もするけど、アルに笑顔が戻ったので良しとしよう。
ベッドに入ると、珍しくアルに抱きこまれた。いつもなら、ダンジョン内では隣に寝ているだけなのに。
「しばらくこうしていたい」
「いいよ。明日の朝は何食べたい?」
「フルーツや軽めのもので」
「アルの好きなものにしようよ」
「ユウが朝からしっかり食べているのを見るほうがいい」
こんなときまで僕の体調を気にかけてくれて嬉しい。いま僕に出来るのは、しっかり食べて、しっかり寝て、健康でいることだ。体調を崩せば、場合によっては合宿の切り上げもあり得るから、僕の一番の仕事は自分自身の健康管理だ。
「じゃあ、明日は休みにしようよ。それで、のんびり話でもしよう」
「そうだな。この先もまだ二十日以上あるから、一度休むか」
ショックを受けたまま、明日の戦闘に挑めば、怪我をするかもしれない。フロアボスの順番は獣道に譲って、のんびりしよう。
「ブランは一日好きにしていいよ。僕はここから出ないようにするから」
『ならば、暴れてくるか』
今回の合宿は、僕に付き合ってダンジョンには行かずに教会にいたブランの息抜きも兼ねている。だから、ブランの自由時間を作るつもりでいた。セーフティーエリアにいて、アルが側にいてくれるなら、ブランも安心して遊びに行けるだろう。去年までは、何かあったときのために、獣道のフロアボス戦にもブランに付き合ってもらっていたけど、魔剣を使えば危なげなく倒せるのだから、危険はないはずだ。
だけど、ダンジョンが壊れないように、暴れるのはほどほどにしてほしい。
「ブランも最下層まで行って、一周してくる?」
『必要ない。ここではな』
「……ブロキオンではやらないよ」
『あやつがやると思うが』
「アルが落ち込んじゃうから、余計なこと言わないでよ!」
これは、リネの単独攻略を阻止するために、僕も付き合ってブロキオンを何周もしないといけない流れだ。すごく嫌だけど、やるしかないんだろうなあ。
土下座してでも、ティグくんたちとシリウスの三人に付き合ってもらうしかない。マジックバッグと引き換えで頼み込めるかな? それとも、攻略中のすべての食事のほうがいいかな?
その後リネは、僕たちが三十日間下層二つ目のフロアボスに挑戦しているあいだに、カークトゥスルを九周した。
二周した後は、カークトゥスルではないダンジョンに行ったそうだが、カークトゥスルの最下層のボス戦が一番楽しかったようで、最後の七日間は毎日最下層のボスに挑戦していた。地上に戻るとすぐにカークトゥスルに入り、そのまま僕たちのところまで飛んでくる。そして、ご飯を食べたら、最下層へと向かっていく。きっと最速のラップタイムを記録しただろう。
ポーションを作ったり変えたりはしなかったと言っていたけれど、騒動を起こしていないかどうかは分からない。
僕たちの合宿は、リネにまつわること以外は変わったことはなく例年通りに進んだ。
最下層のボスは、獣道とアルの五人で危なげなく倒した。昨年はかなり時間がかかっていたのに、今回は半分くらいで倒しきった。
「最初のときの苦労が嘘のようだな」
「それだけ俺たちが腕を上げたと思いたいが、魔剣のおかげだな」
「魔剣での効率のよい戦い方が出来るようになったのが大きいな」
「来年は、魔剣なしでの最下層攻略を目指すか」
簡単に倒せるようになったから、そろそろカークトゥスル合宿は終わりかな、という僕の淡い期待は、儚く散った。やっぱり続くのか。これは、それぞれが単独で攻略できるようになるまで、終わらないのかもしれない。
もはや誰もドロップ品であるマジックバッグの性能を気にしていないので、宝箱が寂しそうに見える。
話にもほとんど反応せず、リネを力のない目で見送ったアルが、頭を抱えている。
「アル、大丈夫?」
「地上の混乱が見えるようだ」
「アレックス、帰ったらギルドと教会に報告してなんとかしてもらおう。俺たちが地上に帰るほうが、怪我したやつらが下層から上がっていくよりも早い、かもしれない」
普通なら下層一つ目のフロアボスから地上に戻るほうが早いけど、怪我が完全に治ったなら、そのままフロアボスに挑戦している可能性がある。そうなれば、僕たちが合宿を終えて最下層から地上に転移するほうが早い。
リネが騒動を起こすことに、契約者としてアルは責任を感じているのだろうけど、そもそも神獣に人間の都合を押しつけることが間違いだ。ちゃんと報告してくれるようになったのは、リネが僕たち人間社会に歩みやってくれている証拠なのだから、僕たち人間が合わせるべきなのだ。
「ここにはSランクが山ほどいるんだ。何かあっても上手く収めてくれるだろ」
「モクリークに三年以上いる奴らばかりだから、みんな心得ているはずだ」
「この国で、お前らとギルドを敵に回す度胸のある冒険者なんていないさ」
獣道が代わる代わるアルを慰めている横で、リネを連れてきたブランは無関心を貫いている。元はと言えば僕のためなので、アルにはなんだか申し訳ない。だからといって、僕に出来ることはない。きっと大丈夫、なんとかなる。そう信じることにしよう。
その日の夜ご飯は、美味しいものを食べて元気を出してほしいと思い、アルも好きなチーズフォンデュにした。ダンジョン内では他に楽しみがないので、これくらいしか出来ない。お肉をたくさん食べたブランのほうが喜んでいたような気もするけど、アルに笑顔が戻ったので良しとしよう。
ベッドに入ると、珍しくアルに抱きこまれた。いつもなら、ダンジョン内では隣に寝ているだけなのに。
「しばらくこうしていたい」
「いいよ。明日の朝は何食べたい?」
「フルーツや軽めのもので」
「アルの好きなものにしようよ」
「ユウが朝からしっかり食べているのを見るほうがいい」
こんなときまで僕の体調を気にかけてくれて嬉しい。いま僕に出来るのは、しっかり食べて、しっかり寝て、健康でいることだ。体調を崩せば、場合によっては合宿の切り上げもあり得るから、僕の一番の仕事は自分自身の健康管理だ。
「じゃあ、明日は休みにしようよ。それで、のんびり話でもしよう」
「そうだな。この先もまだ二十日以上あるから、一度休むか」
ショックを受けたまま、明日の戦闘に挑めば、怪我をするかもしれない。フロアボスの順番は獣道に譲って、のんびりしよう。
「ブランは一日好きにしていいよ。僕はここから出ないようにするから」
『ならば、暴れてくるか』
今回の合宿は、僕に付き合ってダンジョンには行かずに教会にいたブランの息抜きも兼ねている。だから、ブランの自由時間を作るつもりでいた。セーフティーエリアにいて、アルが側にいてくれるなら、ブランも安心して遊びに行けるだろう。去年までは、何かあったときのために、獣道のフロアボス戦にもブランに付き合ってもらっていたけど、魔剣を使えば危なげなく倒せるのだから、危険はないはずだ。
だけど、ダンジョンが壊れないように、暴れるのはほどほどにしてほしい。
「ブランも最下層まで行って、一周してくる?」
『必要ない。ここではな』
「……ブロキオンではやらないよ」
『あやつがやると思うが』
「アルが落ち込んじゃうから、余計なこと言わないでよ!」
これは、リネの単独攻略を阻止するために、僕も付き合ってブロキオンを何周もしないといけない流れだ。すごく嫌だけど、やるしかないんだろうなあ。
土下座してでも、ティグくんたちとシリウスの三人に付き合ってもらうしかない。マジックバッグと引き換えで頼み込めるかな? それとも、攻略中のすべての食事のほうがいいかな?
その後リネは、僕たちが三十日間下層二つ目のフロアボスに挑戦しているあいだに、カークトゥスルを九周した。
二周した後は、カークトゥスルではないダンジョンに行ったそうだが、カークトゥスルの最下層のボス戦が一番楽しかったようで、最後の七日間は毎日最下層のボスに挑戦していた。地上に戻るとすぐにカークトゥスルに入り、そのまま僕たちのところまで飛んでくる。そして、ご飯を食べたら、最下層へと向かっていく。きっと最速のラップタイムを記録しただろう。
ポーションを作ったり変えたりはしなかったと言っていたけれど、騒動を起こしていないかどうかは分からない。
僕たちの合宿は、リネにまつわること以外は変わったことはなく例年通りに進んだ。
最下層のボスは、獣道とアルの五人で危なげなく倒した。昨年はかなり時間がかかっていたのに、今回は半分くらいで倒しきった。
「最初のときの苦労が嘘のようだな」
「それだけ俺たちが腕を上げたと思いたいが、魔剣のおかげだな」
「魔剣での効率のよい戦い方が出来るようになったのが大きいな」
「来年は、魔剣なしでの最下層攻略を目指すか」
簡単に倒せるようになったから、そろそろカークトゥスル合宿は終わりかな、という僕の淡い期待は、儚く散った。やっぱり続くのか。これは、それぞれが単独で攻略できるようになるまで、終わらないのかもしれない。
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