世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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続 5章 カークトゥルス合宿

15-11. リネの失敗

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 転移陣で地上に戻ると、ギルド職員が駆け寄ってきた。

「お待ちしておりました!」
「あ、ああ」
「神獣様から預かったマジックバッグをお渡ししますね。昨日までのものはギルドにあります」

 どうやらリネの持ち帰るマジックバッグを預かる係だったようで、アルを見つけてホッとしている。これで重圧から解放されるという、晴れ晴れとした笑顔だ。

「ギルドでも違う意味で歓迎されそうだ」
「来年からは、教会から誰か派遣してもらうべきかもしれないな」

 そこまでしてカークトゥスル合宿を続ける必要があるのかと思っているのは、きっと僕だけだ。人目を気にせず思う存分暴れたいブラン、サネバ付近なら自由に遊ぶことが出来るリネ、強敵と戦いたいアルと獣道は、やめる気がない。そして大量のマジックバッグを買い取れるギルドもやめてほしくないのが本音だろう。教会は、ブランとリネの希望が最優先。ということで、僕が多数決で負けるのは確定している。

「ユウ、どうした?」
「お風呂に入りたい」
「もう少しの辛抱だ」

 やっぱりお風呂を持ち込むべきかな。湯船にお湯をためて収納しておけば、すぐに入ることができる。お湯はセーフティーエリアの外に捨てればいい。以前あふれが起きたときに裸で逃げるのかとアルには止められたけど、タペラの経験から、服を着る時間はあると分かった。毎日とは言わないから、せめて一週間に一度は入りたい。

 ギルドに入ると、周りの冒険者から「やっと戻ったか」という呟きが聞こえた。ギルドだけでなく、冒険者からも待ち望まれていたらしい。受付の職員から会議室の方向を指さされたので、そちらへ向かおうと歩きだしたところで、腕を怪我した人のいるパーティーが、別の受付の職員に報告している内容が耳に入った。

「カークトゥスル内で、神獣とぶつかってしまった」
「それは……。神獣様は何かおっしゃっていましたか?」
「ぶつかったことにも気づいていないと思う」

 リネとトラブルがあったようで、アルが立ち止まってその会話を注意深く聞いている。

「怪我はそのときの?」
「ああ、そうだ」
「ギルドは、神獣様とのトラブルについては関わりません」
「分かっている。いちおう報告しただけだ」

 カークトゥルス内を高速で移動していたリネがぶつかってしまったのだろう。カークトゥルスにいたということは、おそらくSランクだが、それでも避けられないほどのスピードで飛んでいたとなれば、小さな身体でもぶつかったときの衝撃は大きそうだ。腕を布で釣っているのから、もしかしたら骨折してしまったのだろうか。

「ポーション渡したほうがいいよね?」
「待て」
「だけど、リネとぶつかった怪我なら」
「確証がない。ここで渡せば、今後嘘をつく者が現れる」

 さすがに神獣に襲われたという嘘はバレたときが恐ろしいのでつかないだろうけど、巻き込まれて怪我をしたという嘘はありそうだ。実際に、リネの攻撃に巻き込まれたからと嘘を言ってアルにポーションを要求した冒険者が、過去に数人いたらしい。
 内緒話をしていたら、報告を終えた冒険者が振り返り、僕たちに気づいた。

「あー、もしかして、聞こえていたか?」
「まあ」
「悪い。まだ帰ってこないと思っていたから。進路にいた俺たちが悪かったんだ。気にしないでくれ」

 僕たちだけでなく、向こうも気まずそうにしているので、微妙な空気が流れている。これは本当にただ報告しただけで、大事にするつもりはなかったようだ。ますますポーションを渡したほうがいいと思ったところで気が付いた。カークトゥルスにいたならSランクのはずで、それならそもそも上級ポーションは持っていただろうし、帰ってきて買うこともできたはずだ。それでも治りきらないほどの怪我だったということか。そうなると、必要なのは教会の上級治癒魔法かもしれない。

「帰ってきた報告だろう?」
「ああ」
「ギルドが待ちかまえてるぞ。引き留めて悪かったな」

 再度気にしないでくれと言って、怪我をした冒険者たちは出口へと歩き始める。とても冷静でこちらを気遣う対応で、リネや僕たちを責めるような雰囲気は全くないので、気の毒になってしまう。神獣との事故など、自然災害だと思うしかないのだろうけど、後遺症が残らないで治ってほしい。
 言葉少なに冒険者を見送っているアルが心配になって、そっと手を握ると、「心配かけて悪い」と謝られた。アルが謝ることなんて、何もないのに。

 そんな少し居心地の悪い雰囲気は、入り口の開いた扉から飛び込んできた明るい声でがらりと変わった。

『いたいたー。やっと出てきた。生きてるよね?』
「ああ」
『じゃあオレは遊びに行くね!』
「待ってくれ」
『ん? 治してほしい怪我ある?』

 リネとアルのあいだでなされている契約は、アルがダンジョンに潜っているときの安全を守る、というものなので、アルが無事にダンジョンから出たことを一応確認しに来てくれたらしい。そして、アルに怪我がないと分かると、また遊びに行こうとしている。

「ダンジョン内で、人にぶつかったか?」
『うーん、人間は避けてるつもりだけど、モンスターと間違えちゃったかも?』
「リネ……」

 進路にいるのが人間だと避けるけど、モンスターだと気にせずつっこんでいるので、もしかしたら間違えたかもしれない、と悪びれずに答えた。ギルド内はリネとアルの会話に注目して静まり返っているので、みんなの耳に入る。誰かの「だよなあ」という小さなつぶやきが聞こえたが、僕もリネならありそうだと思ってしまったので、ギルド内に不思議な一体感と、怪我をした冒険者への同情が生まれ始めている。

『もしかして、人間を傷付けちゃった?』
「ちょっとな」
『じゃあ、治すね。それっ』
「リネ!」
『ってことで、オレは遊びに行ってくるよ。帰るときは呼んでね』

 それだけ言うと、用は済んだとばかりに、リネはギルドを飛び出していった。
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