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続 6章 災禍の中の希望
16-8. アルの評判
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司祭様は、僕がシリウスの家に入るのを見届けると、教会へ戻っていった。
明日は朝から教会へ行き、避難してくる人たちのための物資を渡す予定だ。今はどこを物資置き場にするか調整中らしい。ゾヤラの教会は大きいので、最初にちゃんと決めておかないと効率が悪くなる。
「カークトゥルスはどうだった?」
「リネが何周もして、最下層のマジックバッグを出口の近くにいた人にあげちゃったから、地上は大変だったみたい」
「それ噂で聞いたよ。もらった冒険者もギルドも困っただろうな。そのマジックバッグってどうなったんだ?」
「教会のものになったよ。リネへの献上品を運ぶために、いろんな国の教会が使うんだって」
リネから受け取った冒険者もギルドも所有権を放棄したので、アルが教会へと持ち帰った。オークションに出すと騒動になるので、教会が使うことにしたと聞いている。引き取り手が決まってホッとしたのか、アルが大司教様の前で小さくため息をついたのを覚えている。
「アル、なんで前線に行っちゃったのかな……」
「ユウくん……」
僕の護衛として残ることも出来たし、ギルドもそのつもりだった。けれどアルは自ら志願して前線に向かった。それが、Sランクとしての矜持だと分かっているけど、それでも、もしかしたら僕が王都へ避難する必要があるかもしれない状況で、僕の側を離れないでほしかった。アルが前線で戦っているのに、僕だけ避難するなんて、嫌だ。けれどもしそんな状況なったら、僕のわがままなど無視される。この国と教会はなんとしても僕を逃がすだろう。国はアイテムボックスのために、教会はブランのために。
「カークトゥルス目当ての、国外から来ている冒険者が増えたのが関係してるかも」
「どういうこと?」
「この国に生まれ育った人間は、あふれに対応するのは義務で、必要なことだと思ってる。だけど、国外から来た冒険者は違う。あふれの対応には参加したくないのに、マジックバッグのためには参加するしかない。そんな中、アルさんは強制依頼免除だから、文句を言うやつが出てもおかしくない」
「そんな……」
もともとアルが免除されているのは僕の護衛だったからだけど、いまはリネと契約しているからだ。リネに何かを強制することなど、本当に嫌がれば、多分ブランでもできない。
「この国の冒険者は、ユウくんたちが来てからのあれこれを知っているから、この国にいてくれるだけで、ありがたいと思ってる。でも、他の国から来たやつらは、そういう経緯を知らないし、知っていても関係ないから」
「本当に一部だけど、神獣の契約者だからって特別扱いが過ぎるって言う人間もいるよ。神獣様に治癒をしてもらえるのだから、最前線に行くべきだって」
リネの契約はダンジョンに潜っているときだけだ。あふれの対応にダンジョンの外であたっているとき、リネは助けてくれない。だけど、文句を言う人は、そんな細かいことまでは気にしない。
「やっぱりみんな、あふれの対応には行きたくないよね」
「まあねえ。命の危険もあるから。初めて参加したときは怖かったし、行かないで済むなら行きたくないよ。だけどさ、回りまわって自分たちのためなんだ」
「どういうこと?」
「終わったあとは、『うちの地元のときはよろしくな』って冒険者同士であいさつを交わすんだ。もしあふれが起きたときに地元にいなくても、その近くにいる冒険者が、俺たちの代わりに家族や友人を助けてくれる」
故郷を離れて冒険者をしていれば、家族と地元の危機に駆けつけられないこともある。そんなときに助けてくれるのが、そこにいる冒険者たちだ。
「お互い様だからこそ、信じられる」
「それに住民たちにもすごく感謝されるしね」
冒険者をしていて感謝されることは滅多にない。ダンジョンを攻略したって、どんなにいいドロップ品を手に入れたって、感謝はされない。
「ありがとうって言われると、やっぱり嬉しいよ」
「それは分かるよ」
「ユウくんはあちこちで感謝されてそう」
僕は教会にいることが多いから、感謝の言葉の大部分はブランに向けられている。僕はオマケだ。
「不安になるようなことを言っちゃったけど、アルさんは大丈夫。獣道もいるし、それに軍は神獣様の契約者に無茶をさせたりしないよ。王子がいるなら、なおさら」
「そうだね。アルは王子様と友だちだし、無理は言われないよね」
無理は言われないけど、アルが無理するんじゃないかという心配はある。だけど、帰ってくると約束してくれたんだから、信じよう。
「夕食、なにがいい? お肉? お魚?」
「なんでもいいよ。ユウくんが好きなもので」
「それだと決められない」
「じゃあ久しぶりに魚が食べたい」
不安を振り払うように、話題を変え、明るい声を努めて出す。
スリナザルくんの希望を聞いて、アイテムボックスから、魚料理をいくつか取り出し、机に並べる。
「どれがいい? これは塩味で、これは甘じょっぱい。こっちはさっぱり」
「今日は味が濃いものが食べたい」
「じゃあこの照り焼きにしよう」
お醤油じゃないから照り焼きではないのだろうけど、それっぽいものだ。僕にはこの世界の料理はよく分からないので、日本の料理に置き換えて呼んでいる。魚料理に合わせて、サラダとパン、それに飲み物も取り出して並べる。
「こんなときに贅沢だな」
「こんなときだからこそ、食べて力をつけなきゃ」
いざというときにお腹が空いて動けない、なんてことにならないように、まずはちゃんと食べよう。
そんなふうに思えるくらいには、僕もこの世界になじんでいる。
明日は朝から教会へ行き、避難してくる人たちのための物資を渡す予定だ。今はどこを物資置き場にするか調整中らしい。ゾヤラの教会は大きいので、最初にちゃんと決めておかないと効率が悪くなる。
「カークトゥルスはどうだった?」
「リネが何周もして、最下層のマジックバッグを出口の近くにいた人にあげちゃったから、地上は大変だったみたい」
「それ噂で聞いたよ。もらった冒険者もギルドも困っただろうな。そのマジックバッグってどうなったんだ?」
「教会のものになったよ。リネへの献上品を運ぶために、いろんな国の教会が使うんだって」
リネから受け取った冒険者もギルドも所有権を放棄したので、アルが教会へと持ち帰った。オークションに出すと騒動になるので、教会が使うことにしたと聞いている。引き取り手が決まってホッとしたのか、アルが大司教様の前で小さくため息をついたのを覚えている。
「アル、なんで前線に行っちゃったのかな……」
「ユウくん……」
僕の護衛として残ることも出来たし、ギルドもそのつもりだった。けれどアルは自ら志願して前線に向かった。それが、Sランクとしての矜持だと分かっているけど、それでも、もしかしたら僕が王都へ避難する必要があるかもしれない状況で、僕の側を離れないでほしかった。アルが前線で戦っているのに、僕だけ避難するなんて、嫌だ。けれどもしそんな状況なったら、僕のわがままなど無視される。この国と教会はなんとしても僕を逃がすだろう。国はアイテムボックスのために、教会はブランのために。
「カークトゥルス目当ての、国外から来ている冒険者が増えたのが関係してるかも」
「どういうこと?」
「この国に生まれ育った人間は、あふれに対応するのは義務で、必要なことだと思ってる。だけど、国外から来た冒険者は違う。あふれの対応には参加したくないのに、マジックバッグのためには参加するしかない。そんな中、アルさんは強制依頼免除だから、文句を言うやつが出てもおかしくない」
「そんな……」
もともとアルが免除されているのは僕の護衛だったからだけど、いまはリネと契約しているからだ。リネに何かを強制することなど、本当に嫌がれば、多分ブランでもできない。
「この国の冒険者は、ユウくんたちが来てからのあれこれを知っているから、この国にいてくれるだけで、ありがたいと思ってる。でも、他の国から来たやつらは、そういう経緯を知らないし、知っていても関係ないから」
「本当に一部だけど、神獣の契約者だからって特別扱いが過ぎるって言う人間もいるよ。神獣様に治癒をしてもらえるのだから、最前線に行くべきだって」
リネの契約はダンジョンに潜っているときだけだ。あふれの対応にダンジョンの外であたっているとき、リネは助けてくれない。だけど、文句を言う人は、そんな細かいことまでは気にしない。
「やっぱりみんな、あふれの対応には行きたくないよね」
「まあねえ。命の危険もあるから。初めて参加したときは怖かったし、行かないで済むなら行きたくないよ。だけどさ、回りまわって自分たちのためなんだ」
「どういうこと?」
「終わったあとは、『うちの地元のときはよろしくな』って冒険者同士であいさつを交わすんだ。もしあふれが起きたときに地元にいなくても、その近くにいる冒険者が、俺たちの代わりに家族や友人を助けてくれる」
故郷を離れて冒険者をしていれば、家族と地元の危機に駆けつけられないこともある。そんなときに助けてくれるのが、そこにいる冒険者たちだ。
「お互い様だからこそ、信じられる」
「それに住民たちにもすごく感謝されるしね」
冒険者をしていて感謝されることは滅多にない。ダンジョンを攻略したって、どんなにいいドロップ品を手に入れたって、感謝はされない。
「ありがとうって言われると、やっぱり嬉しいよ」
「それは分かるよ」
「ユウくんはあちこちで感謝されてそう」
僕は教会にいることが多いから、感謝の言葉の大部分はブランに向けられている。僕はオマケだ。
「不安になるようなことを言っちゃったけど、アルさんは大丈夫。獣道もいるし、それに軍は神獣様の契約者に無茶をさせたりしないよ。王子がいるなら、なおさら」
「そうだね。アルは王子様と友だちだし、無理は言われないよね」
無理は言われないけど、アルが無理するんじゃないかという心配はある。だけど、帰ってくると約束してくれたんだから、信じよう。
「夕食、なにがいい? お肉? お魚?」
「なんでもいいよ。ユウくんが好きなもので」
「それだと決められない」
「じゃあ久しぶりに魚が食べたい」
不安を振り払うように、話題を変え、明るい声を努めて出す。
スリナザルくんの希望を聞いて、アイテムボックスから、魚料理をいくつか取り出し、机に並べる。
「どれがいい? これは塩味で、これは甘じょっぱい。こっちはさっぱり」
「今日は味が濃いものが食べたい」
「じゃあこの照り焼きにしよう」
お醤油じゃないから照り焼きではないのだろうけど、それっぽいものだ。僕にはこの世界の料理はよく分からないので、日本の料理に置き換えて呼んでいる。魚料理に合わせて、サラダとパン、それに飲み物も取り出して並べる。
「こんなときに贅沢だな」
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