世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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続 6章 災禍の中の希望

16-7. 友だちのおうち訪問

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 心を落ち着けるためにも、ソマロさんたちと世間話をしながら、ブランのブラッシングを全身くまなく行う。一回終わっても手持ち無沙汰で、二回目、三回目とブランの毛が少し減るんじゃないかというくらいにブラシをかけ続け、夕方になるころ、キリシュくんたちが帰ってきた。

「ユウくん、あふれって。あれ、ソマロ?」
「キリシュ、おかえり」
「なんでここに?」
「前線への物資輸送に馬車を貸したときに、アレックスさんに頼まれた」

 走ってきたのか、息が上がっているキリシュくんが、ソマロさんを見つけて目を丸くしている。
 ソマロさんはそんなキリシュくんの表情に少し笑いながら、近づいて怪我がないかを確認してから、そっと抱きしめた。恋人って感じでいいなあ。

「ユウくん、アルさんは?」
「あふれの対応に行っちゃった」
「二つあふれたって、本当?」
「本当ですよ」

 シリウスのあとから部屋に入ってきたギルド職員さんが、僕の代わりにコーチェロくんの質問に答えてくれた。シリウスの役目の説明に来たそうだ。

「簡単に説明しますと、キリヌスとノールがあふれました。Dランクまで強制依頼の招集がかかっています。朗報なのは、演習中の軍が近くにいたことで、総大将は第二王子です。シリウスには、テイマーさんの護衛をお願いします」
「野営地まで物資の輸送の護衛ですか?」
「いいえ、物資の馬車はすでに出発しました。テイマーさんはこの街で待機です。街の中での護衛をお願いします」
「ユウくんは、あふれが終わるまで、ずっとここに?」
「はい。ですが状況によっては、王都方面への避難も考えています」

 コーチェロくんが、護衛としてすべきこと、僕の行動範囲などを確認してくれている。今なら街中なら出歩くのもかまわないけれど、避難民が増えてきたら安全のために控えるようにと言われた。できることなら、教会とギルド以外にはいてほしくないようだ。

「夜は私たちの家に泊まりますか? それとも教会?」
「教会としては、居場所がはっきりしていれば、どちらでもかまいませんよ」
「だったら、せっかくだからお家に泊めてもらってもいい?」

 三人で借りている家には部屋が一つ余っていて、そこは僕の部屋として空けてあると聞いている。鍵ももらったけれど、一度も泊まる機会がなかったので泊まりたい。それに教会は、避難民の対応で、僕の面倒どころではないはずだ。

「テイマーさんの安全のためには、教会のほうがいいのでは?」
「ブランがいるから大丈夫です」
「まあそうですが……。もし何かあったら、ギルドか教会に駆け込んでください」

 何かなんてないはずだ。もしあれば、この街が破壊される。そうならないように、お願いだから何も襲ってこないでほしい。

「キリヌスって、飛ぶモンスターがいるの?」
「多くないけどいる」
「しかも結構な速度で飛ぶ」
「この街まで来るかな……」
『(来たところで、なんとでもできる)』

 巻き添えで街が壊れないか心配しているのだけれど、そんなことを言うとブランが拗ねそうだから、黙っていよう。きっとブランなら、街に被害を出さずに、しかもこっそりと対処してくれるだろう。

 話はついたので、仕事に戻るソマロさんとともに、ギルドを出る。司祭様も僕がどこに泊まるのかを確認するために、一緒だ。

「キリシュは今日はそっちに泊まるんだよな」
「ソマロもよければ来いよ」
「帰れたらね」

 キリシュくんは僕の護衛なので、パーティーで借りている家に泊まる。ソマロさんと一緒に暮らしている家には帰れないので、ソマロさんも誘ったけれど、そもそも家に帰れるかどうかが怪しいそうだ。非常時なので、いつもとは違うものが違うように動くため、会計担当のソマロさんは大忙しらしい。
 多分そんな中、僕の持っている物資を運ぶからと、わざわざ門まで来てくれたのだろう。

「よかったらみなさんで夜食に食べてください。リネが気に入っていたクッキーです」
「それはありがたいけれど、神獣様のものをもらうわけにはいかないよ」
「最近のお気に入りは変わったので、問題ありません。お忙しい中付き合っていただいて、ありがとうございました」

 ちょっと前までお気に入りだったメレンゲクッキーだけど、いまはドライフルーツ入りクッキーがリネの中でのブームだ。在庫処分みたいで申し訳ないけど、リネのお気に入りクッキーには違いない。
 ソマロさんはクッキーの器を受け取ると、キリシュくんの額にキスをして、商会へと戻っていった。

「今日の夕食と明日の朝ご飯は、ユウくんのアイテムボックスから何かもらってもいい? 店には行かないほうがいいと思う」
「たくさんあるから、好きなものを選んで」
「教会から届けることもできますが、必要なさそうですね」

 四人なら一年分くらいの料理長さんお手製の食事がアイテムボックスに入っている。一年となるとブランの分が足りなくなりそうではあるけれど、それなら自分で美味しい魔物でも狩りにいってもらえばいい。いつもは屋台に行くぞと主張するブランも、今回ばかりは何も言わずに、シリウスの家まで僕の横を歩いてくれている。

 初めて訪れたシリウスの家は、街のはずれにある、小さくて少し古い一軒家だった。

「このあたりは冒険者が多いから、いつもはうるさいんだが、さすがに今日は静かだな」
「狭いし、ぼろいけど、ようこそ俺たちの家へ」
「狭くないよ。僕が想像していたアルと住む家は、これくらいの大きさの庭付きだったんだけど、なんでかカザナラのお屋敷になっちゃったんだよ」
「風呂はないからな」
「こんなときくらい我慢できるって」

 僕たちの気の置けない会話に、司祭様が笑っている。「仲が良くて安心しました」と言われたから、きっとアルを見送ったあとの態度で心配をかけてしまったのだ。
 シリウスのみんながいてくれるから、笑っていられる。友だちってありがたいな、と実感するのは何度目だろう。

「みんな、ありがとう」
「ユウくん、どうしたの?」
「そう思っただけ。お部屋を見せて」

 なんだか気恥ずかしくて、僕は鍵を開けるコーチェロくんを急かした。
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