世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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続 6章 災禍の中の希望

16-6. 見送り

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「ユウ、そんな顔をするな。帰ってくる。一人にしないと約束しただろう」
「うん」
「ほらユウ、笑って。それじゃあアレックスが出発できないよ」

 ちゃんと笑わないとと思うのに、上手く表情が作れない。
 なんとか口角をあげてアルの顔を見ると、とても優しいまなざしを向けてくれていた。チュッと額にキスをしてから、抱きしめられる。
 大丈夫。ダンジョンから出たエリクサーが一本あるし、獣道もいるし、魔剣も貸したのだから、きっと大丈夫。みんな無事に帰ってくる。

「ソマロ、キリシュがダンジョンから戻ってくるまで、ユウのそばについていてやってくれないか? キリシュはユウの護衛として、この街に残ることになっている」
「分かりました」

 小さく息を吐いたので、前線に行くことになるだろうキリシュくんを心配していたのだろう。
 忙しいソマロさんの邪魔をして悪いとは思うけれど、知り合いのいないここに残されるのは不安だから、アルのその気遣いが嬉しい。

「さあ、行こう」
「ああ。司祭様、ユウのことをお願いいたします」
「おまかせください」

 僕を抱きしめる腕をほどいて馬車に乗り込むアルに、手を伸ばしかけて、やめた。ここで引き留めたら、きっとアルは残ってくれる。だけどそれでは、前線に行くと言ったアルの決意を無駄にしてしまう。

「行ってらっしゃい」
「行ってくる」
「ユウ、ちゃんとアレックスと帰ってくるから、そしたらチーズ食べさせてくれよ」
「準備して待っています」

 そのときは僕のアイテムボックスの中のチーズを全部出すから、だからみんな無事に帰ってきてほしい。 
 僕はせいいっぱいの明るい声で、みんなを送り出した。
 
 馬車が見えなくなるまで見送ってから、司祭様とギルド職員、そしてソマロさんと一緒に、冒険者ギルドに戻る。行きと違って、司祭様が一緒なので相手がよけてくれて、自然と道ができる。騒然としていても、司祭様への敬意はみんな忘れないようだ。

 ギルドに戻ると、ギルド内は相変わらず慌ただしいものの、人はだいぶ減っていた。いつもと違うことが起きても、やることはいつもと同じ。冒険者たちは職員の指示に従っている。
 ただいつもと違うのは、所在なさげに隅のほうに立っている若い冒険者たちだ。避難民の誘導の手伝いをする予定なので、出番までは暇そうだ。

「テイマーさん、シリウスが戻るまで、会議室を使ってください」
「ありがとうございます。あの、司祭様とフェリア商会のソマロさんも一緒でいいですか?」
「かまいませんよ」

 会議室に入って扉を閉めると、たまらずブランに抱き着く。アルが襲われて怪我をした後、アルと別行動が多くなり、そばにいなくて不安で仕方ないときは、いつもブランに抱き着いていた。

「ブラン、お願い。アルに何かあったら助けて。こんなこと頼んじゃないけないのは分かっているけど、だけど、お願い」
『(心配するな。何かあれば、あやつを行かせる)』
「ありがとう……」

 ブランとリネが助けてくれる。そう思っても、不安はなくならない。そんな保証などまったくない普通の人たちは、どうやってこの不安と向き合っているのだろう。

「ユウさん、お茶を入れましたので、飲みましょう」
「ありがとうございます。ブランも何か飲む?」
『(いまはいらん)』

 司祭様がギルドの備品でお茶を入れてくれていた。こういうときは、一度心を落ち着けましょう、と優しい声で言われると、ガサガサにささくれ立っていた心が、すこしだけ穏やかになる気がする。
 ブランは、椅子に座った僕の膝の上にあごを乗せてくつろいでいる。ブランを撫でまわすのが僕の安定剤なのだと分かって、こうして撫でやすいようにしてくれるのだ。いつもありがとう、もふもふ。

 少し気持ちが落ち着くと、僕のために付き合わせてしまったソマロさんのことが気になる。きっと商会はいまごろてんやわんやのはずだ。

「ソマロさん、お忙しいのにごめんなさい」
「いえいえ、少しは休憩をもらいませんとね。それに、ここで待っていればキリシュの顔が見られますから、私のほうこそ感謝です」

 あふれの対応となれば、お互いの無事を心配しながらも、顔を見る間もなく仕事に忙殺されるか、前線に行くことになる。

「商会は、どんなことをするんですか? 近くの街へ住民たちの食料などを運ぶと言うのは聞いたことがあるんですが」
「そうですね。食料のほかに、避難してきた人たちのための生活用品なども運びますよ。ですが今回はこの街に多くの人が避難してくるでしょうから、むしろ王都側の街からこちらに運んでもらって受け取ることになります。その仕分けや、不足している物資の注文が、今後の仕事になるでしょう」

 いまごろ近くの街からゾヤラへ向かう隊商が組まれているはずなんだとか。護衛が少なく済むように、複数の商会で協力し合って進むらしい。

「もし食料が足りなくなったら言ってください。教会の物資とは別に、僕自身が買って貯めているものもありますので」
「こういうときのためですか?」
「タペラのあふれのときの教訓です」

 保存のきく食料でないと渡せないと学んだので、日持ちするものや保存食も買い込んでいる。あのとき活躍した毛布も買い足した。そんな僕を見て、アルが苦笑いしていたのも懐かしい。

「アル、怪我してないかな……」
『(まだモンスターのいるところまで進んでいない。心配しすぎだ)』

 さっき出発したばかりだから当然だけど、そんなにあきれたように言わないでよ、ブラン。
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