世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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続 6章 災禍の中の希望

16-14. 狼の尻尾と鼻

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 ギルドから伝わる現場の情報によると、リネが入ったためか上級ダンジョンからあふれてくるモンスターがいつもより少ないため、二つ同時のあふれにしては、いまのところ被害が抑えられているそうだ。ただ、下層のモンスターが出てくるのはこれからなので、楽観視はできない。

 そんな中、ギルドの手伝いも、外出もできないので、僕は何もすることがない。こんなときだけど、シリウスのみんなとおしゃべりをしながら、ダラダラしている。そうやって気を紛らわしていないと、アルが心配になってしまうのだから、仕方がない。いまの話題は、ダンジョンでの珍しいドロップ品だ。

「ユウくんが一番珍しいと思ったのは?」
「うーん、なんだろう」

 ありとあらゆるドロップ品を拾ってきたけど、驚いたものとなると。

「モンスターのぬいぐるみかなあ」
「ぬいぐるみ?」
「そう。手触りはよかったけど、モンスターってだけで触りたくないし、誰も欲しくないよね」

 ぬいぐるみというのがそもそもダンジョンという場に合わないし、なによりモンスターをぬいぐるみにしてご褒美になると思った作り主の感性が信じられない。
 どこで出たのかは忘れたけど、あれはギルドの買い取り担当の人も驚いていた。使い道がないし、持っておくのも嫌だったので、無料でいいからと引き取ってもらった。素材はいいので解体すれば何かに使えるかもしれないと言っていたけど、どうなっただろうか。

「コーチェロくんたちは?」
「それはやっぱり、エリクサーだよ。ユウくんと最初に潜ったときの」
「そんなこともあったねえ」

 僕はあのときすでにエリクサーを見たことがあったので、けっこう出るんだなとしか思わなかったけど、周りの反応は覚えている。そしてシリウスは、あれ以来エリクサーを見たことがないそうだ。リネの作ったエリクサーを見せて驚かせたいけど、いくら暇だからって、やってはいけないことだと分かっている。

「ドガイの薬箱ダンジョンって、常にエリクサーが出るんだろう?」
「出るけど、Bランクだよ。それより上のランクが出たって話は聞かない」
「難易度高い?」
「モンスターは弱いよ。でも、とにかく広いし、セーフティーエリアがない」

 薬箱ダンジョンには軍が投入されていたけど、あそこの攻略は、カークトゥルス以上に面倒だろう。カークトゥルスは階層が多くモンスターが強いので大変だけど、セーフティーエリアがなく気を抜ける場所がないというのは、想像以上にしんどい。ブランの結界で安全だと分かっている僕でも、気が休まらなかった。だからこそ、モンスターの強さに関わらず、あそこは上級ダンジョンに指定されている。準備もなくうっかり入ると、ダンジョン内で遭難するだろう。

「あのダンジョンは、薬の材料がそろっていて、薬神の贈りものって司祭様が言っていたけど、そういうダンジョン行ったことある?」
「モクリークなら、野菜ダンジョンと果物ダンジョン。あそこは食べものに困らないようにという神からの贈りものだろう」
「じゃあ、ブロキオンは剣の神様の贈りものか」

 ブロキオンという単語に、僕の足元で寝っ転がっていたブランが頭をあげた。このあふれが終わるまでは行かないから。
 話に入ってこようとするブランと、頭を押さえて寝っ転がらせようとする僕で、ひそかな攻防が起きている。けれど、僕の抵抗むなしく、ブランが起き上がり、僕の足元にお座りした。

「行かないよ」
『(分かっておる)』

 起き上がったブランは、鼻をヒクヒクさせている。
 いつもならギルドがにぎわう夕方、それに比べれば静かだけど、階下からざわめきが少し聞こえている。

「なんだろ? 見てくる」
「スリナザル、今度は俺が行くよ。今日は何もしてないから」
「キリシュはここで、ユウくんを止める係」
「それは誰でもいいだろ?」
「いや、キリシュの尻尾をつかませたら、ユウくんは止まる」

 ちょっと待ってよ。なにそれ。口で言ってくれたら、ちゃんと止まるから。尻尾に触っていいなら、それはとっても嬉しいけれど。

「俺の尻尾は安全ベルトかよ」
「ユウくん、期待の目で見ても、普通のときはダメだからね。獣人の尻尾は触らない」
「分かってるよ」

 とてもデリケートな部分だから、家族以外には触らせないものだと知っている。
 仕方がないので代わりにブランの尻尾をにぎる。するっと手の中から抜けていくけど、その感触が気持ちい。
 逃げる尻尾をなんども捕まえて感触を楽しんでいると、偵察に行っていたスリナザルくんが、戻ってきた。

「タオガガに向かう冒険者たちの宿がないから、訓練場に泊まるらしい」
「街中の安宿も埋まってきているのか」

 他の街から避難してきたお金がある人は、教会が設けている避難所ではなく、街中の宿を取る。それで、冒険者が宿からあぶれてしまったのだ。

「で、その冒険者目当てに屋台が来てる」
『(行くぞ)』
「行きません」
「従魔が食べたいと言ってるのか?」
「気にしないで」

 さっきから鼻をひくひくさせているのは、ギルド前に来ている屋台の匂いに反応していたのか。まったく、食いしん坊め。食べものなら、アイテムボックスの中にたくさん入っているのだから、冒険者たちのご飯を奪わないでほしい。

「料理長さんが作ってくれた美味しいご飯があるでしょ」
『(それとこれとは別だ)』
「今度王都で。いまは食料が足りるか分からないんだから、我慢して」
『フン』

 鼻息で返事をすると、拗ねて伏せてしまったけど、僕は間違ったことは言っていない。ブランもギルドから出られない状況に飽きているのかもしれないけど、食べるものに困っているわけではないのだから配慮してほしい。屋台を見回るのが楽しいのは分かるが、そもそも神獣は食べる必要がないのだから。
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