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続 6章 災禍の中の希望
16-13. 秘密の告白
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僕たちが使う部屋は、一番奥まったところにある小さな会議室だ。
いったん机と椅子を全部収納して、四人分のベッドを並べて配置を決めてから、元に戻す。日中用にソファを出して、机の上にお茶とお菓子を並べれば、くつろぎセットの完成だ。そんな僕を見て、シリウスのみんなが呆れている。
「そうだよな。ユウくんだもんな」
「なにが?」
「ダンジョン内でも快適さを追求するんだから、ここなら尚更だなって、納得しただけ」
一度上げた生活レベルは落とせない、と聞いたことがある。何もない無機質な会議室では、くつろげない。おそらくあふれが落ち着いて、アルが戻ってくるまでここで過ごすのだから、できる限り快適にしたい。
「ギルドにお菓子を差し入れにいきたいんだけど」
「ユウくん、差し入れするの好きだね」
「僕だけ食べるのは気がひけるというか」
こんなときに何も手伝えず、それなのにくつろいでいられるほど、僕の神経は太くない。罪悪感を少しでも減らすために、付き合ってほしい。
お菓子を作ってくれている料理長たちのお給料は僕たちが出しているけど、材料費はかかっていない。ブランとリネの口に入るものだから、すべて教会が用意してくれている最高級品だ。もっとも、僕のアイテムボックスに眠っていたドロップ品を寄付したので、食材の分は返せているはずだ。そう思わないと、食べるのに勇気と覚悟がいるから、そうであってほしい。
「なにがあってもユウくんがいる限り、この街の人間は生き残れるな」
「ここに避難した貴族の判断は正しかったってことだな」
「ソマロに保存食も用意しているって言ったらしいけど、こういうときを想定してたの?」
「違うよ。ダンジョン内で渡すためだよ」
あれはあふれたダンジョンに閉じ込められたタペラの教訓だ。結果的に、今回も対応できるから、備えておいて正解だった。
「これは聞いていいのか分からないけど」と前置きしてから、スリナザルくんが質問する。いままで黙って話を聞いていたけど、どうしても気になったのだろう。
「サネバの奇跡って、実際は何が起きたの?」
「スリナザル、やめろ」
「いいよ。リネがダンジョンを移動中にぶつかって怪我をした冒険者がいて。で、そのことをアルが質問したら、リネが怪我を治してくれたんだけど、ついでに街全体に治癒魔法をかけちゃった。けっこう広がってる?」
「冒険者には。教会とギルドが何もなかったと言ってるから、ダンジョンで秘密の話って感じになってる」
それなら、今回のあふれもリネが助けてくれるのではないかと、冒険者たちは期待しただろう。
「リネには人間を助けるつもりはないと思う。人間を傷つけるのはブランが止めてくれているからしないけど」
「サネバが特別なのか」
「あれは、モンスターと間違えちゃったから」
そんな理由だったのかと、シリウスのみんなはあきれているが、さすがに理由までは伝わっていないらしい。あのときギルドにいた冒険者も、広めないほうがいいと思ったのだろう。
ソファに座って落ち着くと、アルのことが心配になってくる。
「ブラン、アルは無事? 怪我してない?」
『(無事だ。心配するな。何かあれば知らせる)』
「お願いね。助けてね」
何かあったら助けに行ってほしい。となると、シリウスのみんなに、ブランのことを説明しておかなければならない。
「あのね、ブランのこと、なんとなく気づいていると思うけど」
「あーうん、なんとなく分かるから、それ以上言わなくていいよ」
詳しく話すことは、コーチェロくんに止められた。前にもソマロさんがいるときに言おうとして止められたけど、はっきりとは聞きたくないようだ。多分正解だろうなと思っているほうが、誰かに聞かれても自分たちも知らないと言い逃れできていいのかもしれない。
「アルが危険になったら、助けに行ってもらうから、突然いなくなるかも」
「そのときは、ギルドにはどう伝えるの? ごまかせばいい?」
「うん。ごまかしてくれるとうれしいです。お願いします」
肝心なことは聞かずに、ただ必要なことだけを確認してくれる。コーチェロくんのこういうところは、本当に頼りになる。
「獣道は知ってるの?」
「はっきり言ったことはないけど、多分最初から気づいてる」
ブランから、オモリで助けを求めたのは、彼らが気配に鋭い獣人だからだと聞いた。力の違いが分かるから、下手なことはしないと思ったそうだ。
実際、獣道はブランに対して、一歩引いた態度で接している。確信を持ったのは、リネが現れたときかもしれないけど、何かしら気づいていた。
「他に知っている人は?」
「教会関係者と、アルの幼なじみのカリラスさん。それから、今度一緒にブロキオンに潜るティガーは知ってる。あと、彼らとで会ったソントの宿のご主人が元冒険者のテイマーで、その人も」
「ティグリスのいるパーティーには、ソントで助けてもらったんだろう? うわさが広がってるよ」
「どんなうわさ?」
「ユウくんのソントからの脱出を助けたパーティーがゾヤラに来てるって」
「うん。僕がアイテムボックススキル持ちだってギルドがバラしちゃって、そのうわさが広がる前に街から出られるように、たくさん助けてもらったんだ。だから、とっても感謝してる」
どんなうわさかと心配したけど、僕たちの恩人だと、モクリークの冒険者には好意的に受け入れられているらしい。
「ティグリスが氷魔法を使う特殊個体だってうわさだけど」
「うん。あのときは何も返せなかったから、ブランがお礼に加護をあげたの」
その答えに、シリウスの三人が固まった。そういえば、加護は神様が与えるものだったっけ。気軽にバラしてしまったけど、ブランの能力については、あまり言わないほうがよさそうだ。聞かなかったことにしてほしい。
いったん机と椅子を全部収納して、四人分のベッドを並べて配置を決めてから、元に戻す。日中用にソファを出して、机の上にお茶とお菓子を並べれば、くつろぎセットの完成だ。そんな僕を見て、シリウスのみんなが呆れている。
「そうだよな。ユウくんだもんな」
「なにが?」
「ダンジョン内でも快適さを追求するんだから、ここなら尚更だなって、納得しただけ」
一度上げた生活レベルは落とせない、と聞いたことがある。何もない無機質な会議室では、くつろげない。おそらくあふれが落ち着いて、アルが戻ってくるまでここで過ごすのだから、できる限り快適にしたい。
「ギルドにお菓子を差し入れにいきたいんだけど」
「ユウくん、差し入れするの好きだね」
「僕だけ食べるのは気がひけるというか」
こんなときに何も手伝えず、それなのにくつろいでいられるほど、僕の神経は太くない。罪悪感を少しでも減らすために、付き合ってほしい。
お菓子を作ってくれている料理長たちのお給料は僕たちが出しているけど、材料費はかかっていない。ブランとリネの口に入るものだから、すべて教会が用意してくれている最高級品だ。もっとも、僕のアイテムボックスに眠っていたドロップ品を寄付したので、食材の分は返せているはずだ。そう思わないと、食べるのに勇気と覚悟がいるから、そうであってほしい。
「なにがあってもユウくんがいる限り、この街の人間は生き残れるな」
「ここに避難した貴族の判断は正しかったってことだな」
「ソマロに保存食も用意しているって言ったらしいけど、こういうときを想定してたの?」
「違うよ。ダンジョン内で渡すためだよ」
あれはあふれたダンジョンに閉じ込められたタペラの教訓だ。結果的に、今回も対応できるから、備えておいて正解だった。
「これは聞いていいのか分からないけど」と前置きしてから、スリナザルくんが質問する。いままで黙って話を聞いていたけど、どうしても気になったのだろう。
「サネバの奇跡って、実際は何が起きたの?」
「スリナザル、やめろ」
「いいよ。リネがダンジョンを移動中にぶつかって怪我をした冒険者がいて。で、そのことをアルが質問したら、リネが怪我を治してくれたんだけど、ついでに街全体に治癒魔法をかけちゃった。けっこう広がってる?」
「冒険者には。教会とギルドが何もなかったと言ってるから、ダンジョンで秘密の話って感じになってる」
それなら、今回のあふれもリネが助けてくれるのではないかと、冒険者たちは期待しただろう。
「リネには人間を助けるつもりはないと思う。人間を傷つけるのはブランが止めてくれているからしないけど」
「サネバが特別なのか」
「あれは、モンスターと間違えちゃったから」
そんな理由だったのかと、シリウスのみんなはあきれているが、さすがに理由までは伝わっていないらしい。あのときギルドにいた冒険者も、広めないほうがいいと思ったのだろう。
ソファに座って落ち着くと、アルのことが心配になってくる。
「ブラン、アルは無事? 怪我してない?」
『(無事だ。心配するな。何かあれば知らせる)』
「お願いね。助けてね」
何かあったら助けに行ってほしい。となると、シリウスのみんなに、ブランのことを説明しておかなければならない。
「あのね、ブランのこと、なんとなく気づいていると思うけど」
「あーうん、なんとなく分かるから、それ以上言わなくていいよ」
詳しく話すことは、コーチェロくんに止められた。前にもソマロさんがいるときに言おうとして止められたけど、はっきりとは聞きたくないようだ。多分正解だろうなと思っているほうが、誰かに聞かれても自分たちも知らないと言い逃れできていいのかもしれない。
「アルが危険になったら、助けに行ってもらうから、突然いなくなるかも」
「そのときは、ギルドにはどう伝えるの? ごまかせばいい?」
「うん。ごまかしてくれるとうれしいです。お願いします」
肝心なことは聞かずに、ただ必要なことだけを確認してくれる。コーチェロくんのこういうところは、本当に頼りになる。
「獣道は知ってるの?」
「はっきり言ったことはないけど、多分最初から気づいてる」
ブランから、オモリで助けを求めたのは、彼らが気配に鋭い獣人だからだと聞いた。力の違いが分かるから、下手なことはしないと思ったそうだ。
実際、獣道はブランに対して、一歩引いた態度で接している。確信を持ったのは、リネが現れたときかもしれないけど、何かしら気づいていた。
「他に知っている人は?」
「教会関係者と、アルの幼なじみのカリラスさん。それから、今度一緒にブロキオンに潜るティガーは知ってる。あと、彼らとで会ったソントの宿のご主人が元冒険者のテイマーで、その人も」
「ティグリスのいるパーティーには、ソントで助けてもらったんだろう? うわさが広がってるよ」
「どんなうわさ?」
「ユウくんのソントからの脱出を助けたパーティーがゾヤラに来てるって」
「うん。僕がアイテムボックススキル持ちだってギルドがバラしちゃって、そのうわさが広がる前に街から出られるように、たくさん助けてもらったんだ。だから、とっても感謝してる」
どんなうわさかと心配したけど、僕たちの恩人だと、モクリークの冒険者には好意的に受け入れられているらしい。
「ティグリスが氷魔法を使う特殊個体だってうわさだけど」
「うん。あのときは何も返せなかったから、ブランがお礼に加護をあげたの」
その答えに、シリウスの三人が固まった。そういえば、加護は神様が与えるものだったっけ。気軽にバラしてしまったけど、ブランの能力については、あまり言わないほうがよさそうだ。聞かなかったことにしてほしい。
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