世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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続 6章 災禍の中の希望

16-12. ギルドへ移動

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 コーチェロくんたちは、ギルドの職員さんと一緒に帰ってきた。そして、教会も含めた話し合いの結果、僕はギルドで寝泊まりすることになった。教会に貴族が集まっていることをギルドも心配していて、ギルドのほうが対処が簡単だろうという判断らしい。
 ギルド職員さんが、その理由を説明してくれる。

「教会内では、一般の人を巻き込むかもしれませんからね」
「巻き込むって」
「非常事態ですから、少々の武力行使は見逃しますよ」

 本来ギルド内での戦闘は禁止されているが、貴族が強引な手段に出たら、反撃しても構わないということらしい。そうなると、ギルドのほうが向いている。周りにいるのは職員か冒険者。荒事には慣れている。
 人の命がかかる状況には僕の判断が甘くなることは、みんなに知れ渡っているから、貴族がどんな手を使ってくるか分からない。そんなつもりでなく善意から手伝っている人たちには悪いけど、いまは疑ってかかるくらいがちょうどいい。

 一晩泊めてもらった司教様の部屋の原状回復をしてから、人目を避けてギルドへと移動すると、昼前のギルド内は閑散としていた。

「昨日この街に到着した冒険者たちは、もう出発しましたから、夕方まではこんな感じです」

 いまこのギルドにいるのは、王都方面からあふれの対応に行く途中の冒険者たちと、この街のDランクたちだ。
 いつもとまったく違うギルドの受付前を通り、ギルドマスターの部屋に案内されると、少し疲れた表情をしたギルドマスターに出迎えられた。

「寝るのは会議室を使ってくれ」
「ありがとうございます」
「それで、神獣様がダンジョンに入られたそうだが、どうしてだ?」
「それは僕にも……」

 一番知りたいのはそのことだろうけど、僕にも分からない。たまたま目についたとか、面白そうだからとか、そんな理由だと思うけど。

「あふれを静めてくれたりは」
「その可能性は低いような……」
「やっぱりそうだよな。サネバの奇跡があったから、もしかしたらと期待したんだが」

 結果的にそうなるかもしれないけど、リネにそんなつもりはないだろう。サネバの奇跡とは、サネバの街全体に治癒魔法をかけたことだろうけど、あれだって人間を助けるためにしたことではない。リネの気まぐれが人間にとっていい方向に作用するかどうかは、状況次第だ。

「なにか僕に手伝えることはありますか?」
「ないな。大人しくしててくれ」

 ばっさりと気持ちいいくらいに手伝いを断られた。むしろ邪魔だと言わんばかりに。

「もしかして、僕はこの街にいないほうがいいですか?」
「いや、物資の追加があるだろうから、まだこの街にいてほしい」

 むしろこの街にいると邪魔になっているのではないかと思ったけど、必要とされていた。いままでは要請を受けて、後方支援の街に出向くことしかなかったから、最初から僕がいるのは想定外で、戸惑っているのは僕だけではないのだろう。

「神獣様の件が広がって、周りの領の応援部隊がたくさん来そうなんだ」
「リネがダンジョンに入ったからですか?」
「ああ。神獣様と王子が対応に当たっているのに、応援を出さないわけにいかないだろう」

 なるほど。すべてが終わったあとの、政治的な話か。王子様が対応に当たっているだけでなく、リネがダンジョンに入っているのだ。それなのに援軍を出さなかったのだから今後のあふれでは助けない、と言われてしまえば、反論できない。リネの目的が自分の楽しみのためだろうと、関係ない。リネが関わっている、そのことが重要なのだ。

「それに、テイマーがここにいるから、兵の派遣だけで、自分のところの物資は持ち出さなくてもいいと考える領も多いだろう」

 急いでいたために、食料等は用意できなかったと言い訳ができる。そうすれば、恩は売ったうえで、自分の領の備蓄には影響がない。

「ユウくんは、貴族の権力争いに巻き込まれているのですね。もし、ここに貴族が来た場合、私たちはどうすればいいですか?」
「部屋の中には入れずに、ギルドの職員に任せてくれ」

 コーチェロくんが冷静に状況を分析し、僕の警護について確認してくれている。貴族はギルドに寄りつかないので、強引に会いにくる可能性は低いだろうけど、念のためだ。

「もし武力行使されたら?」
「反撃して構わん。ただ、ギルドは壊さないでくれると嬉しい」

 最初はコーチェロくんに返事をしていたけど、最後は僕の腕の中の子犬ブランを見ながらの言葉だった。どうやらギルドには、かつてアルを襲撃した者たちの屋敷を壊したのがブランだと、バレているらしい。

「ところで、従魔はその大きさのままなのか?」
「目立たないように、移動中はバッグに入ってもらっていたので」
「ここでは、周りの牽制のために、いつもの大きさのほうがいいと思うが」
「だって。ブラン、戻って」

 僕の呼びかけに、ブランは腕から飛び降りると、着地するときにはいつものシルバーウルフの大きさに戻っていた。その変化に、ギルドマスターが目を見張っている。そういえば、ギルドで大きさを変えるのは、初めてか。最近周りにいるのはブランの正体を知る人ばかりだったので、うっかりしてしまった。

「あの、できればこのことは……」
「分かっている。冒険者ギルドはその従魔の正体を詮索しない」

「だから敵対しないでほしい」と続いた言葉には、切実な思いが込められている気がする。これは本当にブランの正体がバレている可能性が高い。何か言ったほうがいいのかと思うも、何を言えばいいのか分からず、口を開いては閉じる僕を見て、ギルドマスターが苦笑している。

「冒険者は、勝てない戦いには挑まない」
「はあ」
「まあとにかく、しばらくここで大人しくしていてくれ。明日には野営地に物資を運んだ者たちが戻るだろうから、追加を頼む」
「分かりました」

 いま僕とブランに出来ることは、何もしないことだ。ただでさえ混乱している状況に、余計な騒動を呼ばないよう、ギルドにこもっていよう。
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